↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ収納スキルの正体は【データベース】でした  作者: どみさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/94

売上の半分が一人に依存している

 朝、セレナが出勤してきた。外の冷気を纏っていて、すれ違うと石畳の湿った匂いがした。


 俺は徹夜明けの目で、報告書を差し出した。


 「衛兵隊向けの月次報告。品目別の納品数量、品質評価の分布、前月との比較。全部入ってる」


 セレナが受け取った。ページをめくる。


 「……いつ作ったの」


 「昨夜」


 「百二十件の集計を一晩で?」


 「高速演算スキルが——」


 「はいはい」


 セレナは追及しなかった。ただ、報告書の中身をじっくり読んでいる。


 「これ、よくできてるわね。品目別だけじゃなくて、品質等級ごとの割合も出してある。ヴォルフは喜ぶわよ」


 「ついでに、もう一つ作った」


 俺は別の紙を出した。


 「アルク商会の月次分析だ。顧客別の売上比率、品目ごとの利益率、仕入先別のコスト比較」


 セレナが紙を取り上げた。目が資料を走る速度が上がった。


 「売上の47%が東方辺境伯。次が衛兵隊で15%。偏ってるわね」


 「ああ。辺境伯との契約が飛んだら、売上が半減する」


 「リスクね。顧客の分散が必要だわ」


 「それだけじゃない。品目を見てくれ」


 俺は分析結果を指で追った。赤傷草は売上比率39%、利益率22%、前月比プラス15。銀苔が21%、利益率18。月光花が18%で利益率25。青葉草は13%だが利益率は30と高い。白粉花は9%で利益率35。


 「月光花の前月比が32%増。突出してるわ」


 「南方の戦線拡大だ。月光花は解毒に使う。南方は毒を持つ魔物が多い。前線が南に伸びれば、月光花の需要が跳ね上がる」


 セレナが顔を上げた。


 「これ、先月の時点で分かっていたら」


 「もっと早く在庫を積めた。だから、今月からは毎月この分析を出す。数字の傾きを見れば、来月の需要が読める」


 傾き。


 個々の取引を追っていても、傾きは見えない。まとめて、比較して、初めて分かる。


 先月と今月の差。今月と来月の差。その差の差。


 「レイン、これを見たら一つ気になることがあるの」


 「何だ」


 「赤傷草の利益率が22%。悪くないけど、月光花の25%、青葉草の30%に比べると低い。売上は最大なのに」


 「仕入れが高いからだ。赤傷草は需要が大きい分、仕入れの競争が激しい」


 「ドルク商会と仕入先がぶつかっているから?」


 「ああ。ドルク商会が赤傷草の仕入れ価格を吊り上げている。うちが量を確保しようとすれば、高値を飲むしかない」


 セレナが机を指で叩いた。


 「主力品目の利益率が一番低いのは危険よ。ドルク商会がさらに仕入れ値を上げてきたら」


 「利益が潰れる」


 数字は嘘をつかない。赤傷草に依存しすぎている。量は出るが、利益構造が脆い。


 「対策は二つだ。一つは、仕入先の拡充。赤傷草を安く仕入れるルートを増やす」


 「もう一つは」


 「高利益率品目の比率を上げる。青葉草、白粉花。希少品は競争が少ない分、利益率が高い。ここを伸ばす」


 セレナが頷いた。


 「月光花も伸びているわね。南方の需要が続く限り」


 「続くだろう。戦線が縮小する気配はない」



  ◇



 その午後。ヴォルフに報告書を提出した。


 ヴォルフは一枚目で手を止めた。


 「……品質等級ごとの分布まで出しているのか」


 「はい。効能A評価が92%、B評価が8%。B評価は補助品目の一部です」


 「大手の商会でも、ここまで細かい報告書は見たことがない」


 「集計する仕組みがありますので」


 嘘ではない。ある。俺の頭の中に。


 ヴォルフが二枚目、三枚目と読み進める。


 「レイン殿。この報告書の形式、来月以降も続けてもらえますか」


 「もちろんです」


 「それと——」


 ヴォルフが声を低くした。


 「南方の戦線拡大で、衛兵隊の医療物資の需要も増える見込みです。来月から、発注量を2割増やしたい」


 「対応できます」


 「助かる。他の商会は、急な増産に対応できないところが多くてな」


 ヴォルフの言葉の裏を読む。


 他の商会。つまりドルク商会だ。


 南方に物資を流すのに手一杯で、王都の需要に対応しきれていない。ガストが南方の行商人を囲い込んだのは、南方の需要を取るためだったが、その分、王都の供給力が落ちている。


 データベースに意識を向ける。品目ごとに月別の流通量をまとめられないか。


 市場全体のデータは持っていない。だが、断片は集められる。


 ギルドの公開記録。問屋の出荷情報。行商人の動向。


 俺が持っている断片を集計すれば、市場全体の傾きが推測できる。


 ドルク商会が南方に注力している間に、王都の市場を取る。


 「ヴォルフ殿。もし他の部隊でも物資の調達に困っているところがあれば、ご紹介いただけますか」


 ヴォルフは俺を見た。


 「……南門警備隊は既に問い合わせが来ているだろう。他には、北門の詰所が困っていると聞いた」


 「ありがとうございます」


 情報が、また一つ繋がった。


 事務所に戻る道で、俺は空を見上げた。


 数字が見せてくれる景色は、いつも冷たい。感情も人情もない。


 だが、その冷たさが好きだ。


 数字は裏切らない。傾きは嘘をつかない。


 この傾きの先に、ドルク商会を超える道がある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。