第2話 差し伸べられた手
───クレインヒル町。
崖の上に築かれたその町は、
グランドール大陸でも有数の交易都市として知られていた。
石造りの立派な建物が並び、
大通りには色鮮やかな露店が立ち並ぶ。
商人達の威勢の良い声。
荷車の音。
楽しげに笑う人々。
町は活気に満ち溢れていた。
行き交う住民達は皆、上質な服や装飾品を身に纏い、
まるで“豊かさ”そのものを見せつけるようだった。
だが――
⚔「……」
その光景を、
ヴァルカはただ静かに見上げていた。
2人の服は泥と血で汚れ、
靴も擦り切れていた。
フェルム村から続く険しい崖道を、
ほとんど休まず登り続けてきたのだ。
体力は、もう限界に近い。
☀「はぁ……はぁ……」
エリシアの呼吸は浅い。
熱も上がっているのか、
小さな身体は微かに震えていた。
⚔(早く……休ませないと……)
ヴァルカは唇を強く噛む。
けれど。
町へ入った瞬間、
周囲の視線が一斉に2人へ向けられた。
「なんだあの子達……」
「汚っ……」
「近寄るなよ」
ひそひそと交わされる声。
好奇の視線。
嫌悪の視線。
見て見ぬふりをする視線。
誰も、助けようとはしなかった。
☀「お兄ちゃん……」
エリシアが不安そうに、
ヴァルカの服をきゅっと掴む。
⚔「大丈夫だ」
ヴァルカは優しくそう答える。
本当は、自分自身も不安で押し潰されそうだった。
けれど今は兄として立ち止まるわけにはいかない。
⚔「少し休める場所を探そう」
☀「……うん」
小さく頷くエリシア。
ヴァルカは再び歩き出した。
賑やかな町の中を。
まるで、自分達だけが別の世界にいるみたいだった。
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少し歩き、人通りの少ない路地を見つけたヴァルカは、
そっとエリシアを座らせた。
☀「ケホッ……ケホッ……」
苦しそうに咳き込むエリシア。
無理を押して崖道を登ってきたせいで、
幼い身体はもう限界に近かった。
⚔(どうする……)
ヴァルカは唇を噛み締める。
水もない。
食べ物もない。
眠れる場所すらない。
⚔(考えてる場合じゃない……
とにかく誰かに助けを……!)
ヴァルカは再び通りへ飛び出した。
⚔「お願いします!!」
道行く人々へ、必死に声を張り上げる。
⚔「村が……
魔物の襲撃に遭ったんです!!」
しかし。
町人「うわっ……近寄るなよ!汚れるだろ!」
⚔「っ……妹がいるんです!」
町人「やだ……何あの子」
町人「早く行きましょ。空気が淀むわ」
冷たい視線。
突き刺さる言葉。
けれど、ヴァルカは諦めなかった。
今度は店先へ駆け寄る。
⚔「お願いします!!」
⚔「なんでもします!働かせてください!!」
店主「店先に立つな!!」
店主「客足が遠のいちまうだろ!」
怒鳴られ、突き飛ばされる。
中には石を投げつけてくる者までいた。
それでも――
ヴァルカは頭を下げ続けた。
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――数日後。
⚔「……っ……」
ヴァルカは、
もう立ち上がることすらできなくなっていた。
空腹。疲労。傷。
限界を超えた身体は、
とうに悲鳴を上げている。
その隣では。
☀「……ヒュー……ヒュー……」
エリシアが苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。
熱に浮かされ、小さな身体が微かに震えている。
⚔「……エリ……シア……」
ヴァルカは、
震える手を伸ばす。
けれど。
指先は、届かない。
視界が霞む。
意識がゆっくり闇へ沈んでいく。
⚔(ごめん……母さん……)
脳裏に浮かぶ、
優しかった母の笑顔。
⚔(約束……守れなかった……)
その時だった。
「――おや?」
聞き慣れない男の声。
「おやおや……どうしたんだい、君たち」
ゆっくりと、誰かが近付いてくる足音。
そして。
「大丈夫かい?」
薄れゆく意識の中。
ヴァルカは、
ぼやけた視界の先に立つ人影を見た。
⚔(これが……最後のチャンスかもしれない……)
ヴァルカは、必死に閉じかけた瞼を開いた。
そして。
声のする方へ、震える手を伸ばす。
⚔「……お願い……します……」
掠れた声。
⚔「妹を……助けて……」
その瞬間。
伸ばした手を、
大きな手が優しく包み込んだ。
「……孤児か」
低く、穏やかな声。
「もう大丈夫だ」
「安心しなさい」
その言葉を聞いた瞬間。
張り詰めていたものがふっと切れた。
ヴァルカは、
全てを聞き終えるより早く、
そのまま意識を手放した。
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次に目を覚ました時。
ヴァルカ達は、
ふかふかの大きなベッドへ寝かされていた。
柔らかなシーツ。
暖かな毛布。
鼻をくすぐる、優しい香り。
ほんの数日前まで、
冷たい路地裏で震えていたとは思えないほど、
そこは穏やかな空間だった。
⚔「……ここは……?」
ぼんやりと目を開けたヴァルカは、
はっと身体を起こした。
⚔「エリシアっ!?」
慌てて辺りを見回す。
すると。
隣の大きなベッドでは、
エリシアが静かな寝息を立てていた。
☀「すぅ……すぅ……」
⚔「……は……」
ヴァルカの身体から、一気に力が抜ける。
⚔「よかった……」
胸を撫で下ろしながらその場へへたり込んだ。
エリシアが生きている。
それだけで、涙が出そうになるほど嬉しかった。
そしてふと、
ヴァルカは部屋を見渡す。
⚔(……すごいな……)
そこは、今まで見たこともないほど豪華な部屋だった。
大きな窓。
陽の光を反射する、美しい装飾。
透き通るガラスの花瓶には、
色とりどりの花が飾られている。
柔らかなベッドも、
暖かな空気も。
まるで――
夢の中にいるみたいだった。
呆然としていると。
ガチャ――
大きな扉が開いた。
「……あら!」
顔を覗かせたのは、
使用人と思われる女性だった。
「お目覚めになったのですね!
少々お待ちください!」
女性はぱっと表情を明るくすると、扉を閉め、
慌ただしくどこかへ去っていく。
そしてほどなくして。
再び扉が開いた。
今度は、恰幅の良い男を連れて。
男はヴァルカの姿を見ると、
にっこりと穏やかに微笑んだ。
「やあやあ!良かった!」
「すっかり顔色も良くなったようだ」
⚔「あ……あの、僕たち……」
突然現れた大人に、
ヴァルカは戸惑いながら口を開く。
すると男は、
「ああ、失礼」と小さく笑った。
「自己紹介がまだだったね」
男は胸へ手を当て、
どこか芝居がかった丁寧な仕草で名乗る。
ロレント「私はこの屋敷の主人で、商いをしているロレントだ」
ロレント「君の名前を、聞いてもいいかな?」
⚔「……ヴァルカ、です」
ヴァルカは少し緊張しながら答える。
そして、隣で眠る妹へ視線を向けた。
⚔「妹は……エリシア」
その名前を聞いた瞬間。
ロレントはさらに目を細めて笑った。
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――それからの日々はまるで夢のようだった。
温かい食事。
柔らかなベッド。
綺麗な服。
その全てをロレントが用意してくれた。
もう、寒さに震えることもない。
空腹で眠れない夜もない。
ヴァルカとエリシアは、
少しずつ穏やかな生活を取り戻していった。
そしてしばらくするとヴァルカは、
恩返しをしたいという思いから、
屋敷の使用人として働き始める。
掃除。
荷運び。
庭の手入れ。
幼いながらもヴァルカは必死に働いた。
そんな兄の姿を見ていたエリシアも、
少しずつ手伝うようになる。
⚔「よし……あとはこの荷物を運べば……」
☀「お兄ちゃん!私も手伝う!」
そう言ってエリシアは、
ヴァルカが抱えていた荷物を半分持ち上げた。
けれど。
☀「ふ、ぬぬぬ……っ!」
想像以上に重かったのか、
小さな身体がぐらりと揺れる。
⚔「お、おい!無理するなって!」
慌ててヴァルカが支える。
しかしエリシアは、
ぷくっと頬を膨らませた。
☀「だ、大丈夫!できるもん!」
⚔「……ったく」
呆れたようにそう言いながらも。
ヴァルカの口元には、
自然と笑みが浮かんでいた。
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そんな穏やかな日々が続き――
5年の月日が流れた。
ヴァルカは17歳、
エリシアは12歳になっていた。
屋敷での仕事にもすっかり慣れ、
兄妹は使用人達からも可愛がられていた。
そして最近、ヴァルカには新たな変化があった。
剣術への興味を持ち始めたのだ。
⚔「……はぁっ!」
木剣を振るう音が静かな夜の庭へ響く。
汗を流しながら、何度も、何度も剣を振るうヴァルカ。
その脳裏をよぎるのは――
燃え盛るフェルム村。
母の眼差し。
そして
“強くなりなさい”
あの日の言葉。
⚔(強く……ならないと……!)
仕事を終えた後も、
ヴァルカは毎晩一人で鍛錬を続けていた。
そんな彼を。
少し離れたベンチでエリシアが静かに見つめている。
膝の上には、何冊もの本。
☀「いっぱい本を読んで……
たくさん知識をつけて……」
ページをめくりながら、
エリシアが小さく呟く。
☀「私がお兄ちゃんを支えてあげなきゃ!」
⚔(……聞こえてるって)
ヴァルカは思わず吹き出しそうになる。
けれど、そんな言葉が嬉しくて。
自然と口元が緩んでしまう。
エリシアの前では――
ヴァルカは心から笑うことができた。
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ある日の晩のことだった。
☀「んー……」
眠たそうに目を擦るエリシアへ、
ヴァルカは小さく笑う。
⚔「ほら、もう寝る時間だぞ」
☀「はーい……」
ベッドへ潜り込むエリシア。
そんな妹の額へ、
ヴァルカはいつものようにそっと口づけを落とした。
⚔「おやすみ」
☀「おやすみ、お兄ちゃん」
エリシアは無邪気な笑顔でそう返す。
その笑顔を見てヴァルカも優しく目を細めた。
静かに部屋を後にし、
2つ隣にある自分の部屋へ戻る。
⚔「ふぁ……」
小さく欠伸を漏らしながら、
ヴァルカはふかふかのベッドへ身体を沈めた。
柔らかな毛布。
暖かな部屋。
窓の外では、静かな夜風が木々を揺らしている。
⚔「……明日も、晴れるといいな」
そのまま瞼を閉じ、安らかな眠りに落ちていった。
――数時間後、深夜。
ガタンッ……ガタッ……
⚔「……?」
聞き慣れない物音に、
ヴァルカはゆっくり目を開けた。
ぼんやりとした意識のまま身体を起こす。
⚔「……なんだ?」
目を擦りながら、耳を澄ませる。
すると――
ドタタッ……
「……っ!!」
「……め……!」
微かに誰かの声が聞こえた。
⚔「……?」
ヴァルカの眉が寄る。
こんな時間に、
屋敷の廊下が騒がしいことなど今まで無かった。
嫌な胸騒ぎがした。
ヴァルカは机の上のろうそくへ火を灯し、
静かに部屋を出る。
廊下へ出ると、冷たい夜気が肌を撫でた。
ガタンッ――!!
「……や!!」
「……てっ!!」
声が、徐々に近付いてくる。
そして。
その声が聞こえてくる方向に気付いた瞬間、
ヴァルカの表情が凍り付いた。
⚔「……エリシア?」
ヴァルカは、急ぎ足でエリシアの部屋へ向かった。
すると。
少しだけ開いた扉の隙間から、
部屋の灯りが漏れている。
⚔「……?」
その時。
足元に見覚えのある本が落ちていることに気付いた。
エリシアが寝る前によく読んでいた童話の本。
嫌な汗が、背中を伝う。
⚔「……エリシア?」
ヴァルカは、
震える手でゆっくり扉を押し開けた。
目に飛び込んできたのは――
ロレント「……おや?」
ロレントの姿。
そして
ベッドへ押し倒され、
涙を流しているエリシアだった。
☀「っ……やだ……お兄ちゃん……!」
⚔「……っ!!」
ヴァルカの思考が真っ白になる。
⚔「そんな……!なんで……っ!」
信じられなかった。
信じたくなかった。
命を救ってくれた恩人。
優しかった人。
あの日、手を差し伸べてくれた人。
そのロレントが。
今、エリシアを傷付けている。
ロレント「……おやおや」
ロレントが、ゆっくり振り返る。
ロレント「起きてしまったか」
⚔「……っ」
頭の中が、真っ白になる。
なんで。
どうして。
そんなはずない。
やめろ。
やめてくれ。
違う。
そんな人じゃ――
次々と感情が溢れ出し、
思考がぐちゃぐちゃに掻き乱される。
そして。
⚔「エリシアから離れろ!!」
ヴァルカは、叫ぶように怒鳴り、
反射的にロレントへ飛びかかった。
その瞬間。
ロレント「――おい」
低く、冷たい声が響く。
「はっ」
直後。
扉の近くで待機していた従者達が、
一斉にヴァルカを取り押さえた。
⚔「ぐっ……!!」
腕を捻り上げられ、床へ押さえ付けられる。
⚔「離せ!!離せぇっ!!」
必死にもがくヴァルカ。
けれど。
17歳の少年1人と、鍛え上げられた大人の男2人。
どう足掻いても敵うはずがなかった。
ロレント「追い出せ」
感情の無い声。
その命令と同時に、
ヴァルカの身体が無理やり引きずられる。
⚔「くそっ!!離せ!!」
必死にもがく。
⚔「やめろ!!エリシアっ!!」
☀「おにっ……ちゃっ……!」
エリシアが泣きながら必死に手を伸ばす。
けれど。
その距離はどんどん離れていく。
そして――
扉が閉まる瞬間。
ヴァルカの目に焼き付いたのは
涙で目を腫らし、必死に自分を呼ぶエリシアの姿。
そして。
その隣で無表情にこちらを見下ろすロレントの冷たい瞳だった。
ロレント「……せいぜい」
ロレント「己の無力さを悔やむといい」
⚔「っ……!!」
――パタン。
無情にも扉が閉まる。
その音は。
ヴァルカから、
“全て”を奪う音のようだった。
そしてそのまま、
ヴァルカは屋敷の外まで引きずられ――
乱暴に地面へ投げ捨てられた。
従者「悪ぃなぁ」
ヴァルカを見下ろしながら、
男が肩を竦める。
従者「こっちも仕事なんでな。恨むなよ」
ドゴッ――!!
⚔「ぐっ……!!」
重い蹴りがヴァルカの腹へ叩き込まれる。
肺の空気が一気に押し出され、身体がくの字に折れ曲がった。
だが。
痛みに呻く間もなく、もう一人の従者が拳を振り抜く。
ガッ――!!
⚔「……ぁがっ……!」
鈍い音と共にヴァルカの身体が地面へ転がった。
口の中へ、鉄の味が広がる。
それでも。
⚔「……エリ……シア……」
ヴァルカは震える腕で地面を掴む。
休む間もなくヴァルカへ暴力が降り注ぐ。
蹴られ。
殴られ。
何度地面へ叩き付けられたか、
もう分からない。
⚔「っ……ぁ……」
抵抗する力すら徐々に失われていく。
――やがて。
その場には、
血だらけで倒れ込むヴァルカだけが残されていた。
従者達は、
もう動かないと判断したのか、
吐き捨てるように去っていく。
静寂。
冷たい夜風だけが、頬を撫でた。
⚔「……」
もう指一本動かせない。
痛みで身体が軋む。
けれどそれ以上に。
胸の奥が壊れそうだった。
⚔「……なんで……」
ぽつりと零れた声。
涙で、視界が滲む。
どうして。
どうしてロレントが。
どうしてエリシアが。
….守れなかった。
──その後も
ヴァルカは、
何度も屋敷へ入ろうとした。
身体が動くようになるたびに。
何度追い返されても。
諦めることだけはできなかった。
⚔「入れろ!!」
屋敷の門を掴み、ヴァルカが叫ぶ。
⚔「エリシアに会わせろ!!」
けれど。
どんどん増える警備。
厳重になった見張り。
そして固く閉ざされた扉。
警備「……しつこいな」
警備の男が苛立たしげに吐き捨てる。
警備「下がれ!!」
ドゴッ――!!
⚔「ぐっ……!!」
蹴り飛ばされ、
ヴァルカの身体が地面へ転がる。
土埃が舞う。
けれど。
⚔「……っ!」
ヴァルカは、
歯を食いしばりながら再び立ち上がった。
何度も。
何度も。
何度も。
そして。
その度に、
ヴァルカの胸の奥へ積み重なっていく。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
情けない。
守れなかった。
何一つ。
⚔(……もっと)
ヴァルカの拳が震える。
⚔(もっと……強くならないと……)
脳裏に焼き付いて離れない。
泣いていたエリシア。
閉ざされた扉。
ロレントの冷たい瞳。
⚔(力がいる)
⚔(圧倒的な……力が……!!)
その時だった。
☀「……おに……ちゃん……」
⚔「……っ!」
ヴァルカは、はっと顔を上げる。
視線の先。
正門から続く鉄格子の向こう。
屋敷の二階にある小さな窓。
そこにエリシアの姿が見えた。
⚔「エリシアっ!!」
ヴァルカが駆け寄る。
けれど。
窓越しに見えたエリシアの姿。
真っ赤に腫れた目。
涙で濡れた頬、乱れた髪。
そして今にも壊れてしまいそうなほど、弱々しい姿。
☀「うっ……おに……」
声を出すことすら、苦しそうだった。
⚔「……っ」
ヴァルカの胸がぐしゃりと潰れそうになる。
⚔「ごめん……」
震える声。
⚔「本当に……ごめん……!」
鉄格子を掴む手に力が入る。
⚔「絶対に……助けに来る!!」
涙を滲ませながらヴァルカは叫んだ。
⚔「だから……!」
⚔「少しだけ……待ってろ!!」
☀「……うん……」
エリシアが、小さく頷く。
☀「……うんっ……!」
泣きながら。
必死に笑おうとしながら。
そして。
エリシアの姿は、
ゆっくりと窓の奥へ消えていった。
⚔「……」
ヴァルカは、何も言えなかった。
ただ。
血が滲むほど強く、
拳を握り締める。
悔しかった。
情けなかった。
守ると誓ったのに。
何一つ届かなかった。
⚔(……絶対に)
ヴァルカの瞳に、
静かな炎が灯る。
⚔(助ける……!)
ボロボロになった身体を引きずりながら。
ヴァルカは、
ゆっくりと立ち上がった。
そして。
人々の喧騒が溢れる、
クレインヒルの街へ歩き出す。
力を手に入れるために。
──大切な妹を、
取り戻すために。




