お礼は言わない
アリアと差し違えようとしていたリディアはアリアの思わぬ行動に怯み、バルコニーへと飛び出してしまう。
ドォォン!!
腹の底を揺らす雷鳴が、夜空を裂いた。
白い閃光がバルコニーを照らし、リディアの影を床に長く落とす。
「……ねぇアリア、私が欲しかったものは何だったのかしら」
リディアの白い顔が、雷鳴の光にくっきりと浮かぶ。
「リディア様……」
その一瞬の光で、アリアはリディアの涙が揺れるのを見た。
強がりで塗り固めたはずの表情の隙間から、溢れた気持ちが露わになる。
「……まだ諦めないわ。アリア、あなたが生きている限り。あなたが生きている事が、私を強くさせるのだから」
「まっ……」
ーーその一瞬、リディアは確かに笑い、アリアを見た。
(お礼は言わないわ。アリア……あなたのせいで心が揺れたなんて、私は絶対ーー)
リディアの金の髪がふわりと浮き、重力に引かれて沈む。
その線だけが、空白の世界に描かれる。
「ダメーーーーッ!!」
世界から音が消えた。
風の唸りも、雷の轟きも、遠くの喧騒も、アリアの叫びも、カリスの駆け寄る足音さえもーー何もかもがすっと引いていく。
そこにはただ色のない静寂だけが広がっていた。
「リディア様ーーーー!!」
まだ少しだけ続きます。
リディア……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




