何も覚えていない
ランスの屋敷から救出後、アリアはカリスの部屋で眠っていた。だがその様子は少しおかしくて……
※アリア視点です。
(ん……)
暖炉の火かしら?ぱちぱちと優しい音が聞こえる……
……あたたかい。
まぶたの裏に、かすかな橙色の光が揺れていた。
薄く目を開けると、見慣れない天井の模様がぼんやりとかすんでゆく。
柔らかくていい匂いのする、大きな寝台?
微かに香るのは、深く落ち着く黒茶の香りーーカリス様の匂い?
ということは、ここはカリス様の部屋……?
私、なぜカリス様の部屋に……確かカリス様は、領主会議で……私は。
ーー私は、何をしていたのかしら?記憶がないわ……
カリス様を見送ったまでは覚えているのに。
(もしかして、カリス様を見送ったのは、あれは夢?)
ゆっくりと首を動かすと、寝台のすぐ横に置かれた肘掛け椅子に、カリス様が座っていた。
片を机に預けたまま、静かに目を閉じている。
濡れた黒髪が頬にかかっていて、いつもの威厳ある姿よりどこか儚いと感じた。
(やはり、カリス様がいる。という事は……カリス様は領主会議を欠席されたのかしら?)
声を出そうとするのに、喉が張り付いたように声が出せない。なぜ……?
なぜカリス様がいるのに、私の心はこんなに不安で渦巻いているの……?
恐怖を感じた後のような、わけのわからない感覚は、何??
(どうして私はここに、カリス様のベッドの上で寝ているの……?)
ゾクッ……
覚えもないのに誰かに抱えられた感覚と、冷たい風の感触を感じ、暖炉で満たされているはずなのに寒気を感じた。
ーーどうして?
ーーなぜ?
胸がひゅ、と震える。私に、何があったの??
(カリス様……起きて……)
私に何があったか説明してください。
アリアはリディアに嵌められた事も、ランスに攫われた事も、どうやら覚えていないみたいです。何という薄幸ムーブ……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




