負け犬にカンパイ
カロンはグラスをランスに無理矢理押し付け、カロンもアリアに対する思いを吐露するのだった。
「なぜなんだ、俺とあいつの何が違う……?」
カロンは短く息を吐いた。
(なんだ、ランスは本当にただアリアが好きだっただけなのね)
「いいことじゃない。あなたはアリアから本当の愛を学んだ。それだけで充分だと思うわよ。大半の貴族の男が女を見下して、人妻だろうが何だろうが気に入った女を手籠にしている中で、あなたは踏みとどまった。それって素敵な事だと思うわ」
そう言ってカロンは棚の酒を取りに行った。
ランスはその様子をポカンと見ている。
「何間抜けな顔をしてるのよ。ほらあなたも」
カロンはランスに無理矢理グラスを押し付ける。
「あなたは貴族の中で人としては上よ。その部分は誇っていい。それからーー」
カロンは一口酒をあおる。
「それからお兄様と比べるのはおよしなさい。お兄様には誰も敵わないのだから。領主会議のご老人にも。あの完璧冷徹超人の心を動かす事ができるのはただ一人」
「……アリアだけ……か?」
「そうそう、わかってるじゃない」
ふふふ、とカロンが悪戯っぽく笑う。
ランスもつられて、口端をあげてしまう。
「……私もアリアを最初はヴァレンティ家の一員とは認めていなかったのだけど……不思議ね。あの子を見ていると何だか危なかしくて、庇護欲っていうのを掻き立てられてね」
そこで思い出したのか、カロンが急に自嘲めいた笑いを吹き出した。
「気付いたらあの子の笑顔が見たくて食事管理しちゃってる。おかしいでしょ!私は本来人に尽くすのが大嫌いなのに!」
カロンはグラスにゆらめく液体を見ながら、誰に言うでもなく呟いた。
「あの子には、人の心を動かす何かがあるのよ……不思議な子ね」
ランスは面食らった。カロンほどの豪快な女性が、アリアのために食事を用意している?
そのランスの表情に、カロンは困ったように微笑んで眉根を下げる。
「私たち二人とも、アリアには敵わないって事ね」
カロンがグラスを挙げた。ランスも空のグラスに慌てて酒を注いだ。
「負け犬にカンパイ」
ランスは目を見開いた。
負け犬……そうか、初めから俺は……
ランスはくくっと笑った。しかしその笑いは、苦しみからやっと解放された者の清々しいものだった。
重苦しく淀んでいた空気が、ふっと晴れたように感じられた。
ランスはグラスをカロンに向かって掲げる。
「……ああ、負け犬にカンパイ」
「負け犬にカンパイ」←二人に言わせたかった言葉ですありがとうございます!!負け犬だっていいじゃない。上を見たらキリがないのだから。
このコンビいいですね。お互いに完璧じゃないのを認め合っているところが最高です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




