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赤い侯爵と白い花嫁  作者: 杉野みそら
第十四章 リディアとランス

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赤い悪魔は、誰……

ついにランスの手に落ちたアリア。ミツキの懸命な呼びかけは虚しく雷鳴に呑み込まれていく。


※ランス視点です。

「は……軽いな……」


 この腕の中で、アリアの呼吸が微かに震えている。

 それが生きている証だと思うと、胸の奥が何故か痛んだ。


「ランス様!奥様をどこへ連れて行く気ですか!?」


 ミツキの叫びが響く。

 しかし廊下はすでに混乱していた。

 外では馬車の車輪が滑り、侍徒たちが傘を取りに走り回る。

 

 雷鳴、怒号、雨音。


 それらが渦を巻いて、現実をかき消してゆく。


(誰か……誰か!このままでは奥様が……!!)


 ランスは足早に、だが静かにその渦を抜けた。

 まるで嵐がランスのために道を空けたかのように。

 門番も、誰一人として気づかない。

 男の肩に掛けられた黒いマントが雨を吸い、滴を落とした。


「……ん……」


 少し濡れてしまったのだろう。アリアの小さな吐息が漏れた。銀白色の髪がそこに触れ、白い花弁のように張りついた。


「大丈夫だよ、あの"赤い悪魔"はもう来ないから。俺はアリアを解放するためにやって来たんだ……」


 "赤い悪魔"とは誰のことだったのか……

 カリス?それともーー


 その時のランスはもう正気を失っていた。侯爵でもなんでもない、ただの欲と毒に堕ちた哀れな男がそこにいた。


 ランスは誰にともなく『もう大丈夫だ』と何度も何度も呟く。

 その声は、祈りのようでもあり、懺悔のようでもあった。


 遠くで、鐘が鳴った。


 嵐に溶けるようなその音の中、二度とランスは振り返らなかった。


 *


「……アリア……」


 ランスは馬車までの道のりで一つの名前を呼ぶ。

 その声はことさら柔らかく、優しく、今までどんな女にもかけたこともないほどの愛情に溢れていた。


 止まらない雷鳴に映し出されたランスの顔はまるで、宝物をやっと手にした少年のように輝いていた。


 雨は止まない。


 そしてその夜、ヴァレンティ侯爵邸からひとりの奥方が姿を消した。


赤い悪魔とは誰の事だったんでしょうね。カリス?それとも……  


雷鳴と怒号で現実が掻き消えてゆく描写ですが、私のお気に入りの一文です。一度でも流れ出した時間は残酷にも過ぎていくんですね。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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