雷鳴が映しだす顔は……
リディアはヴァレンティの屋敷を去った。一方で残されたアリアは……
※三人称です。
雷の余韻が屋敷を震わせていた。
しばらくして、白百合の香炉が倒れ、灰が絨毯に散った。
「……ッ!奥様!奥様!」
ミツキがいち早く異変を察知してアリアの元へと駆け込む。そこで見た光景にミツキは息を呑んだ。
ーーアリアは椅子にもたれかかるように崩れ落ちていた。
彼女の指先は冷たく、唇はかすかに青ざめていた。
「だっ、誰か!医師を呼んで!早くっ!」
(奥様!!……しっかりして……)
叫び声に応じて、侍徒たちが慌ただしく駆け寄る。
雨脚が次第に強まり、窓硝子を叩く音が室内のざわめきをかき消し、紅茶の香りだけが不気味なほど甘く残っていた。
その混乱の只中に、ひとりの若い徒僕が紛れていた。
髪は濡れ、肩に雨粒を散らしている。
急に雨脚が強くなったこととアリアが倒れた事で皆混乱し、誰もその顔をしっかりとは見なかった。
ただ一人、ミツキを除いてはーー
男は静かに膝をつき、アリアの頬を愛しそうに撫でたあと、体を抱き起こした。
「ーーッ!無礼者!!奥様に触れるなど……」
ミツキが叫ぼうとしたその瞬間、雷鳴が再び轟き、窓の外が白く閃いた。
光が男の横顔を一瞬照らし出す。
「ーーランス……さま……?」
ミツキはカリスが生まれる前からずっとこの屋敷に仕えている身。当然ながらカリスと交流の深い貴族の名前と顔は覚えている。もちろんランスも例外ではない。
「だめだ……このままじや、ここにいればアリアは汚されてしまう……俺が助けなきゃ……俺が……」
「……ランス様……何を」
ランスはうわごとのように同じ言葉を繰り返した。
『ここにいては、アリアが汚される』
それが言い訳なのか、懺悔なのか、もはや自分でも分からないような声音。
ミツキが近づこうとするよりも早く、ランスはアリアを抱え上げた。
ランスもおかしくなってるんだろうな。
これからアリア、カリス、リディア、ランスの四人はどうなっていくのでしょうか!?
最後まで読んで頂きありがとうございました。




