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赤い侯爵と白い花嫁  作者: 杉野みそら
第十四章 リディアとランス

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その姿はまるで悪魔

毒は音もなく罪を落とす。アリアが目を離した隙にリディアはついにアリアのカップに毒を落とすのだった。





 リディアはドレスの袖口から小瓶を取り出した。

 細い指先で栓を抜くと、ほとんど無色透明の液が小さく光を弾いた。リディアは躊躇わなかった。素早く小瓶の液体をアリアのカップの紅茶に垂らした。


 その毒はもはや音もなく、罪が堕ちていく。リディアの最後の理性と同じように……


(さようなら、人間だった頃のリディア)


 これでいいのよ……アリア。あなたは少し眠って、夢を見ていればいい。苦しまないわ。


 ただの眠り。私のための、静かな幕間(まくあい)……


 アリアがお菓子を持ってきた。


 リディアは手際よく小瓶を袖の中に戻し、にこりと微笑んだ。


「リディア様のために急いで取り寄せたの。お気に召してくださるといいのだけど……」


 リディアは何事もなかったように立ち上がって礼をした。


「いいえ、今日はただ謝りたくて来たのよ。ねぇそれより私が入れた紅茶、飲んでくださらない?きっともっと美味しいと思うわ」


「あ、ええ。リディア様……」


(さようなら、(けが)れのないアリア……大丈夫よ。あなたはただ眠るだけ。そしてーー)


 アリアはリディアの言葉通りに紅茶に口を付けた。

 それを見たリディアの口端が無意識のうちに弧を描く。


「では、雨が降って来たのでこれで私は失礼するわね。今日は突然来たのにお招きありがとう」


「い、いいえリディア様……こちらこそお話出来て楽しかったです……」


 どうしたのかしら私。リディア様が急にぼやけて見える……


「さようなら、アリア」


 その時リディアの背後で雷が空を裂いた。

 

 窓の外の光が、リディアの背を白く縁取る。


 リディアの顔だけが闇に沈み、まるで光がそこだけを拒んだかのようだった。


「リディア様……あなた……」


 薄れゆく意識の中で、アリアの透明な瞳はハッキリと見たことだろう。

 闇の中に、リディアの美しい微笑みだけがうっすらと浮かんでいる様を。


 その微笑みはまるで、悪魔ーー


(そしてあなたはただただ自分の無力さに嘆く。あの頃と何も変わらない自分自身(アリア)に……)


 パリンッ……


 アリアのカップの割れる音が雷鳴の音に掻き消えたーー


アリアは何で飲んでしまうかね。

どこまでも素直で純粋だからです。


リディアが落雷を背に立つシーンは私のお気に入りです。まさに悪人の演出!


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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