ランスの劣等感
ランス視点の独白です。
「……黙れ……お前の声に驚いてアリアは逃げたんだ。もしアリアに何かあったらその時は……お前の命は無いと思え」
街でたまたま出会ったカリスのセリフと、アリアの事を思い出していた夜のこと。
窓の外は、冷たい雨が降っていた。
王都の石畳を叩く雨音が、まるで遠くで笑う誰かの声のように聞こえる。
「……まただ。あいつは出席していないのに、何故あいつばかりが褒められるんだ」
机の上には、今日の議会報告書。そこには"ヴァレンティ侯爵閣下の英断により"の文字がいくつも並んでいた。
まるでこの国は、あいつのためだけに存在しているようだ。
どれだけ努力しても、俺の名が並ぶことはない。
(同じ侯爵家の出なのに、どうしてこうも違う?)
ーー俺の母は平民の出だ。侯爵家の主人に仕えた侍女で、俺は庶子として生まれた。
幸い父は、母のことをそれなりに愛してくれてはいたようだが。俺にも上の子と同じように愛情を注いでくれたと思う。
だがこのどうしようもない出自が行く先々で俺の邪魔をした。
それでも俺は、貴族らしく生きようとした。
剣術も学問も、誰よりも努力した。
……だが、周りは決して俺を"本物”とは見なさなかった。
俺がどんなに努力しても、庶子であるという事実がどこに行ってもついて回る。
ーーそしていつしか俺は貴族であること、貴族の誇りなどがどうでも良くなっていた。
夜ごと馬鹿騒ぎに興じ、馬鹿な女を誘ってはその場限りの薄っぺらな愛を嘯くようになっていた。
貴族の社会にもいろいろあるんですね。
ランスくんも闇を抱えていそうです!
最後まで読んで頂きありがとうございました。




