プロローグ3:私と私の旅の始まり:二日目
朝。
私は朝っぱらからなんだかとんでもない目にあっていた。
「・・・。すまない、聞きそびれたようだ、もう一度頼む。」
「仕方あるまい、この私がもう一度言うのだ聞き逃すでないぞ。」
そして、私は今度こそはっきりとこの言葉を聞いてしまった。
「この紋章の事を騎士団に報告されたくなかったら私を雇え。」
昨日、宿屋の主人へ宿代を渡すときに懐から落ちたのであろう紋章がきらびやかに輝きながら男の手に収まっていた。
・・・それ、脅迫では、ないのか・・・?
「・・・了承しよう。」
というか、それ以外になんと言えと?
賢い選択だ、そう言った男の顔は実に満足そうでとてつもなく殴りたい衝動に駆られたがなんとか押し留まった。
男の手から紋章を奪い取り懐にしまう。不満そうだが知った事ではない。
出来ればこのままバックレたいのだが、騎士がそんな事をしたと知れば世間体が以下略だし契約もすませてしまった。
腹をくくるしかなさそうだ。
「それで?騎士と言えども女子が一人何処へ行こうというのだ。」
明朝、日が昇ってすぐ宿屋を出た私達は今山道を歩いていた。空は私の重いとは裏腹に清々しい程の青空だ、実に腹立たしい。
朝早くの出発に文句の一つでもあるかと思えば異議もなく了承した男に少し好感度が上がった、が、その後男が発言した「私が仕えてやるのだ、我が侭の一つでも聞いてやっても良い」という理由に好感度は地に落ちた。
「リーシの町に向かい、そこにいるとある人物に言伝を伝える。それが私が王からの命だ。」
「・・・一週間で?」
「そうだ。・・・そんな目でこっちを見るな。」
こいつ・・・見限られてんだな・・・、という視線を向けて来た。
仕様が無いだろ!命じられれば嫌とは言えないのが騎士なのだから!
「・・・まぁよい。貴様が騎士団をクビになろうと関係ない。契約は済ませたし報酬さえ貰えれば異論は無い。」
「報酬を渡す前に私の首が飛ばないだろうか・・・。」
「飛んだ場合は勝手に家捜しでもさせるか。」
「自分でやるつもりは無いのがお前らしい・・・。」
嫌でもコイツの性格を熟知してしまった。
今は一応私に仕えているという立場なので特に不満を言う様子は無いがそれも何時まで持つのだろうか。
まぁ言伝を伝える人物について聞いてこないという事は機密事項等についてぐらいの常識はあるという事だろうか。どうにしろ不安だ。
・・・そう言えば・・・。
「アイゼル。良く私が女だとわかったな。」
そう、コイツは私が女だと一目で見抜いた。
自慢じゃないが私はこの性格と喋り方で良く男と間違えられる。なんせ騎士団でも男と偽って試験を受け受かった程だ。
勿論騎士団側は私が騎士になるのを認めようとしなかったが騎士になる実力もあり、なおかつもう皆に発表した後だった為私を騎士団に入れるしか無かったのだが・・・。
「私の事をなめているのか?貴殿はどうみても女子だろう。」
「・・・どのへんが?」
「胸は実に貧そうだが「やかましい。」・・・私の言葉を遮った事は今は水に流してやる・・・。」
小物が。貧そうなのではない、少し成長が遅いだけだ。
「動作が女子だ。間違える事が無い程な。」
「・・・そうなのか。」
それは知らなかった。他の者から見てもそうなのだろうか。
・・・そうではないだろう。この男が気付いたのは洞察力が優れているからだ。
自分を世界の中心だの良くわからん事を言う奴だが使えん男ではないらしい。
掘り出し物、という程特もないが・・・まぁ。
「使えん事もないだろう。」
「?何か失礼な事を考えておらんだろうな。」
いくらでも愚痴は出るのだ。それぐらい許せ。