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天の衣に竜の煌めき  作者: 陽向未来
第弐章 おぞましき者たち
23/31

第漆話 決着

「イタタっ!」

 俺は左太ももをさする。


「昨日、噛みねじった怪我が一日で治るものかい! 馬鹿な子」

 白女狐は、更に笑いだす。


「こんなのは怪我に入らないぜ」

「威勢がいいわね。嫌いじゃないわ。殺すなら、とーても好きよ!」


 茶狐が左から、白女狐が右から同時に突進してくる。

 かぎ爪で、痛めつけようって訳だ。

 俺は、もう気配を読んで間合いを掴んでいる。

 しかし、俺の怪我が治っているとは考えもしないから隙だらけだ。

 二匹の攻撃射程に入ると同時に、少し後方へ移動し避ける。


『!!』

「なっ!」

 狐、いや畜生地獄霊たちは驚きの表情を浮かべた。


「隙あり!」

 俺は茶狐の胴に向かって天翔を振り落とした。

 だが、素早い動きで避けようとする。

『いける!』

 胴の真ん中で真っ二つという訳にはいかなかったが、後ろ脚と尻尾は切断した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 その場で横たわって、のたうち回っている。

 

 白女狐は、さっと後方へ移動していった。

「何故、動ける!?」

「だから、怪我に入らないと言っただろう? ちゃんと人の言うことを聞いていれば斬られずに済んだのにな」


「なんて奴!」

 白女狐は俺を憎らしく睨む。


「うおぉぉぉぉ!」

 茶狐は雄だったようだ。

『女性にも男性霊が憑依するのか……』

 のたうち回っていると、茶狐の姿が変化していく。

 顔は、人間の顔。といってもキツネ目だが……そして、身体は狐のまま。

 なんと異様で(おぞ)ましい姿なんだ。


『これが、本当の姿なのか! 気持ち悪い』

 俺の注意が茶狐の向いていた隙をついて、白女狐のカマイタチ攻撃が飛んできた。

 天翔で、ギリギリ弾く。


「当たらないわ! 悔しいぃぃぃ!」

 白女狐が、イライラしているのが分かる。


「いいのかい? 俺じゃなくて仲間に当たるかも知れないのにさ」

「仲間? あぁ、そいつね。別に仲間でもなんでもないわ。私が別用のときに、あの娘に憑りついていただけよ」


『地獄霊は利己的な奴ばかりだから、自分以外はどうでもいいのか! なら、まずは茶狐を倒しておくか』

「天翔、参る!」

 雄の茶狐の頭に、思いっ切り天翔を振り下ろした。


「ぐぉぉ……」

 断末魔を上げ、茶狐は動きを止めた。

『やったか?』

 すると、茶狐の遺体は黒い塵となり四散し消えていった。


「これで、サシだな!」

 白女狐に、向かって挑発してみた。


「いい気になるんじゃないわ。私は、もう地獄に来て百五十年は居るのよ。そんな十年足らずの若造と一緒にしないで」

 すると白女狐の身体が、三倍ほど大きくなった。


「後悔させてあげる!」

 突進速度が段違いに上がっている。

 なんとか、かぎ爪を天翔で受け止めるが俺は身体ごと吹っ飛ばされた。


『なんて力だ。伊達に身体が大きくなった訳じゃないのか。しかもスピードも上がってる。これが奴の本気なのか』


「うふふふふふ。もう遅いわよ。私を完全に怒らせたことを後悔して死んでいくといいわ」

 もう勝った気でいるらしい。


「まだまだぁ!」

 俺は立ち上がり、天翔を白女狐に向ける。


「無駄よ!」

 また突進してくるが、今後はあの力を計算にいて、攻撃を受け止めるのではなく、受け流すことにした。


”キンッ!”

 成功し、白女狐のかぎ爪が逸れていく。

 すかさず、天翔を横払いするが白女狐も後方へ跳躍して逃れる。

 そうしたことを十回ほど繰り返す。


 今後は、強力になったカマイタチを連発してくる。

 これも、受け流すことに専念した。

 弾こうとするとカマイタチ自体が大きいため、先が俺に当たるからだ。


「キィーーーーーー! なんてこと!」

 今後はカマイタチ攻撃後、追いかけるように突進してきた。

 カマイタチはなんとか受け流せたが、特攻には対処できず後方へ吹っ飛ばされた。

 胸には、かぎ爪の痕がビッシリとついていた。


『痛ってぇぇぇ!』

 だが幸いにも、見た目よりも傷は深くなかった。

 立ち上がり、再び天翔を向ける。


「くそぉ! 浅かったのね」

「幸いにもね」

『しかし、あの連続攻撃は危ないな……』


 その直後、右側から伊勢さんの声が聞こえてきた。

「斬撃の舞!」

 伊勢さんは右手の扇子を横払いすると、綺麗な紫の光の線が白女狐に向かっていく。

 今度は白女狐が意表を突かれ、尻尾を切断された。


「なんです? もう一人いるの!?」

 白女狐は、伊勢さんの方を見ると驚きの声を上げた。

 白女狐の顔が、女性の顔に変わる。


「これは不利ね。悔しいけど、逃げるが勝ちだわ」

 素早く後方へ跳躍する。


「金縛りの舞!」

 伊勢さんが神楽を舞う。


 白女狐は、着地と同時に光る蔦に捕まり全身を縛り付けられた。

「なんですって! 不味いわ」


 俺は、伊勢さんの舞に合わせ突進を開始していた。

 目の前には、光の蔦で動けなくなっている白女狐。

 その目は恐怖に怯えていた。


「これに懲りて、もう人に憑依するなよ。自らの今までの行為を振り返って、心の底から反省するんだ。そうすれば地獄から出られる」

「そんなこと聞いたことないわよ。地獄に堕ちたら、もう二度と戻れないの! でも、あんな苦しい地獄に戻りたくない。だから幾らでも憑依して逃げるわ」


「だから、地獄の脱出方法を教えてあげているんだよ。心からの反省。これが唯一、地獄から天界に戻れる手段だ。覚えておくといい」

「嘘で私を騙そうなんて百年早いわ」


 一向に信じる気はないようだ。

「いいから、試してみなよ……では! 成敗いたす。天翔、参る!!」

 俺飛び上がり、思いっ切り白女狐に振り下ろした。


「きぃぃぃぃーーーーーーーーーーーっ!」

 断末魔を上げ倒れる白女狐。

 そして、先の茶狐のように黒い塵となって四散していった。


 伊勢さんの方を向いて、お礼を言った。

「ふぅ……、ありがとう」


「いえ、”出来るだけ様子見していて”と言われていましたので我慢していましたが、出しゃばりましたか?」

「いや、助かったよ。ありがとう」


「それなら、良かったです」

「さて、現世に戻ろうか」


「はい」

 その返事と聞いて、俺は大きく柏を打った。


***


 伊勢さんは、そそくさと教室から出ていった。

 また、雀咲(すずさき)さんが視ている可能性があったから、そう願いしていた。

 そのため出来るだけ参戦させたくなかったのだが、あのタイミングはベストだった。

 せめて、雀咲さんに正体を見られないようにしたかった。


 予想通り、雀咲さんは視ていたようだ。

「熱田くん……何? 何が起こったの?」


「説明するのは難しいんだけど、雀咲さんが視たことは事実だよ」

「ど、どうして……」


「それより、どうしてまた白女狐に憑りつかれたの? 昨日、行いを反省してねっと伝えたよね?」

「反省っていっても、家で怖くて震えてた。寝ていたら夢の中で、あの白女狐が出てきて私を脅してきた。嘘つきの朱里(あかり)のことなど誰も信じないわ。なら、嘘をつき続けるのよ! 私に従いないさい! って。夢の中で気を失って気づいたら、また熱田くんが、狐と戦っていた」


「そうだったのか……」

「ねぇ? もう狐は倒したんだから、私は大丈夫よね?」

 涙目になって聞いてきた。


「いや、地獄に戻しただけだから、また嘘つきの雲の糸を辿って地獄から蘇ってくる。死なないんだよ」

「い、いや。いやよ! 怖い……」

 手で身体を抱きブルブル震えている。


「でも、かなりのダメージは与えたから、直ぐには戻ってこれないと思う」

「ほ、ほんと?」


「多分ね。だから、その間に雀咲さんは反省しなくてはならない。また狐に憑かれたくないでしょ?」

「どうやって? どうすればいいの?」


「まずは、今まで嘘をついて迷惑を掛けた人に直接謝ろう」

「そんなこと……できないわ……きっと殴られる……」


『う~~~ん。仕方ないな』

 俺は右手で髪をかきながら、

「俺が一緒に、謝りにいってあげるよ。あとデートの相手は雀咲さんだったことにする」

 そう伝えてあげた。

「ほんと!」


 嬉しそうに両手を握ってきた。

「今回だけだよ。まったく……二度目はないからね」

「うん!」

 その笑顔は、本物の笑顔だった。

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