第肆話 嘘つきキツネ
教室に戻るとクラスのみんなの注目を一身に浴びたが、無視して席についた。
途端、メッセージアプリに伊勢さんから連絡があった。
―どうなりましたか?―
―なんかおかしい。だから放課後に、もう一度会うことにして一旦解散したよ―
そう報告した。
―そうですか―
―放課後は空いてる?―
―ごめんなさい。例の柊組の佐藤さんに、未来さんと一緒に会う約束があります―
―そうなんだ。面倒掛けるけど、そちらはよろしく―
―はい。でもタイミング悪いですね―
―まったくもって。でも案外こんなもんだよ―
―ごめんなさい―
―謝る必要なんてないよ。一人で対応できると思うから大丈夫、任せて!―
―分かりました。無理しないでくださいね―
―りょーかい!―
『うーん。ホント、タイミング悪いな。でもアチラも早めに対応しておかないと、また繰り返しかねないから重要だ』
俺が難しい顔をしているもんだから、みんな近づいてこなかった。
徹の場合は、空気を読んでくれてのことだ。
でも伊勢さんも、雀咲さんに違和感を抱いていたのは分かった。
次の授業後に、徹がやってきた。
「ちょっと移動して話しよっか」
俺は頷いてついていく。
一階の階段下のちょっとした空間にいきつく。
「で? 雀咲さんで相手は合っているのか?」
「いや、違う」
「でも、あんな可愛い子が名乗り出てくれるなんて、ちょっと羨ましいな」
「ほー、椿さんに告げ口してみようか?」
「なっ!」
「嘘うそ! そんなことしないよ。でも、何で嘘をつくんかな?」
「理由聞いたんだろ?」
「あぁ、見た目が抽象的にしか伝わっていないから私だったと言っても誰も分からない。でもって俺のことが好きだったから、デートの話を聞いて名乗り出たと言っていた」
「いいじゃん! でも、なんか浮かない顔してるよな」
「そうなんだ。雀咲さんってさ、あんな吊り目の子だったけ? どちらかというと垂れ目に近いよな?」
「正義、大丈夫か? いつもと変わらぬ垂れ目だったぞ」
「なっ! また冗談を……」
「いや、ホントだって。冷やかしてない」
「マジで?」
「俺を信じないのか?」
その目は真剣だった。
「悪かった。そっか、変わらなかったか……俺には吊り目に見えたんだ」
「ちょっと疲れてるんじゃないのか?」
「いや、心当たりがあるから大丈夫。これで確信が持てた。サンキュ」
「俺には訳が分からん。ここんとこ秘密が多いな」
「信頼は揺るがないんだけど、説明が難しいんだ。夏休みに時間があるときに説明する」
『信頼しているのは本当だが突拍子もない話だしな。話すならじっくり説明する時間が欲しい』
などと考えていると、徹はあっさり引き下がってくれた。毎度ながら感謝だ。
「ならそれまで追求しない。ちゃんと理由があるのはわかった」
「徹、ごめんな」
「いいってことよ。長い付き合いだしなー。あ!」
「どうした?」
今後は、俺が徹に質問した。
「前に桜組の知り合いからさ、雀咲さんから告白されたけど実は嘘だったって話を聞いたことあるわ」
「ほー」
「でも、嬉しくってフワフワ浮かれてたって話、人に滅多に言えないしとも言っていた」
「なるほど。今回も冷やかして遊んでるのかもな」
「一年のとき、そんな子じゃなかったよな? なんかあったのかな?」
「貴重なことを思い出してくれて助かった! じゃ、教室に戻るか」
教室に戻ると、すぐにチャイムが鳴って次の授業が始まった。
*
放課後になった。
メッセージアプリに新着。伊勢さんだ。
―ごめんなさい。でも、佐藤さんの方は任せてください。そちらは無理しないでくださいね―
―努力するよ。伊勢さん、佐藤の対応よろしく!―
とだけやり取りして、俺は三階の空き教室に向かった。
まだ、雀咲さんは来ていなかった。
『さて、どうする? 狭間に行けば引きずりだせるか? 相手は動物霊っぽいな。地獄霊じゃないのか?』
などなど考えていると、雀咲さんが嬉しそうにやってきた。
彼女は教室に入るなり扉を閉め、中から鍵を掛ける。
「まーさーきく~~~ん。お待たせ!」
ご機嫌だ。
「いや、構わないよ」
「なんかつれないなー」
口をぷっくりさせている。
普通なら可愛い子が、こんなことしたら愛らしいのだが……
「雀咲さんさ、本当に俺のことが好きなの?」
「やだなー。そんな恥ずかしいこと、何度も言わせないでよー。あ! もう一度、聞きたかったのかな?」
愛くるしいことを言っているが、俺の目にはあの吊り目と白い尻尾が視えていた。
尻尾を左右に、ふりふりさせている。
「そっか、ありがとう。雀咲さんみたいに可愛い子に好いてもらって光栄だよ」
「え? ホント! やった~~~」
めちゃくちゃ喜んでいる。見た目はね……
「雀咲さん、ちょっとココに座ってくれるかなー」
俺の正面に配置した椅子に誘導する。
彼女は素直に、そこに座る。
表面上は、ニコニコしている。
「ちょっと変わったことしても良い?」
「え? エッチなことはダメだよ~」
「い、いや、違うってば」
「ほんとー? でも、ならいいや。何するの?」
俺はその質問には答えず、立ち上がり精神統一した後、心の中で『高天ヶ原の神々よ。ご加護を!』と念じた。
次に、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行!」
気をのせて九字を発っし、最後に両手で柏を打つ。
目の前には、ぽかーんとした雀咲さんが見える。
すぐに周りの空気の流れが止まり三次元と四次元の狭間に移行した。
*
「さて、白い尻尾の君はなにかな?」
そう問いかけると、雀咲さんの後頭部から白いキツネが現れた。
「なるほど、キツネね。その吊り目、今思うとキツネそっくりだ」
人の言葉が解るか分からんが、そう言ってみた。
だが、そのキツネから女性の声で返事が返ってきた。
「ほー、能力者だったのね。私のこと、気づいていたの?」
『な! このキツネ、言葉をしゃべってるぞ』
俺が驚いているのを見て、
「能力者のクセに、驚いているの? 笑っちゃうわ!!」
小ばかにした言い方で挑発してきた。
だが俺だって精神修行はしてきたのだ。面食らったが冷静さを取り戻した。
「いや、意外だったから驚いただけさ。で? なんで雀咲さんに憑りついているんだ?」
「そんなこと、決まっているじゃない」
態度が大柄だ。いちいち俺を馬鹿にしてくる。
だが、怒ったら相手の思うつぼなのも理解している。
「教えてくれると助かるな」
冷静に質問を投げかけた。
「この子、私ととーっても相性がいいのよ。一緒にいるとエネルギーも流れ込んでくるから、お気に入りなの」
「どんな相性がいいのかな? 俺は馬鹿だから教えてくれないかな」
「いいわよー。この子ね、嘘をイッパイつくのよ。それで人が混乱するのを楽しんでる。それが私には堪らない! 同じこと考えてるんですもの。私だったら、こうするのにって思うと、この子そう行動してくれるのよ。ねぇ? いい子でしょ?」
「なるほど、なるほど」
「お馬鹿な貴方でも理解できたかしら? 私って説明するの上手なのね!」
高笑いをし始めた。
「ご機嫌ですね」
「そうね。なかなか、こうして会話する機会もないし、気分が良いわ」
前足を舐めながら、俺を伺っている。
「とても日本語、上手だね」
「おほほほー、褒めてくれて、ありがとう。嬉しいわ」
そう言いつつ尻尾が逆立ってきた。
今度は、キツネから質問があった。
「で? 貴方は何者? こんな狭間に来れるなんて。しかも、私をこの子から引きずり出したわ。そのクセ、話せたことに驚いていた」
「俺? 俺は、まぁ正義の味方かな?」
その言葉を聞くと、怒りだした。
「貴方、私を舐めているの? ちゃんと答えなさい! その身なり、普通じゃないわ」
「怒りっぽいなー、単なる駆け出しの特殊能力者だよ」
「そう、なら早めに蹴散らしてこりごりさせてあげなくちゃね」
その言葉を言い終えるやいなや、白女狐は俺に素早く突進してきた。
だが、さっと避けることに成功した。
「駆け出しのクセに、避けるなんてやるじゃない!」
「お褒めの言葉、ありがとう」
そう言いつつ、俺は天翔を抜いた。




