148話
「くそっ、前より強く……」
蒼炎姫は仰向けに倒れてそう呟くと黒い霧になって消えていった。今回は最初から弱点がわかっていたし、二度目だったのでそれほど苦戦せずに倒せた。
しかし蒼炎姫の最後の言葉が気になる。「前より」ということは以前戦った時の記憶があるってことだ。それに最初にこの部屋に入った時もこちらのことを覚えているようだったし……モンスターはどいつも同一個体なんだろうか?
それとも、蒼炎姫や乙姫のような喋るモンスターだけが特別なのかな。
「それにこの部屋もなんだか妙に生活感があるよな」
これまでのボス部屋は石造りのダンジョンだったが、八階層のボス部屋は和風というか床は板張りになっていて、絨毯がしかれておりその上には戦闘の余波でめちゃくちゃに散らばった蒼炎姫の財宝が散らばっている。
角には畳まれた布団が置かれており、他にも化粧台や小物入れ的な物まであった。そして部屋の出口の扉は、障子の中に無理やり西洋風の両開きの扉がくっついている。
「これって蒼炎姫の部屋ってことなのかな……でも、なんでそんな所に追憶のダンジョンが繋がってるんだ?」
これまでと違う仕様に戸惑い気になるものの、蒼炎姫も驚いていたことからあまり詳しく事情を知っているとも思えない。それに話を聞く前に倒してしまった。
「ま、いっか。また今度来てみよう」
今回は蒼炎のスクロールが落ちなかったのでシュナイダー用にまた来るかもしれない。蒼炎をまとって戦うシュナイダー……結構かっこいいんじゃないか?
「どう?」
シュナイダーに問いかけると、現状戦闘ではあまり困っていないのでそんなに必要に感じないという。
シュナイダーは自分と違ってスキルコンプとかも目指していないしなぁ。無理にとは言わない。言わないが、炎をまとって戦うのってカッコよくない? わからないか。そうか。
散らばった財宝を回収し、次に進むことにする。財宝の一部は魔法や蒼炎姫自体の蒼炎のせいで、溶けたり壊れているものもある。
それでも床や壁などといった建物自体には影響が出ていなかった。ダンジョンは壊れないという仕様は働いているらしい。まぁ、何はともあれ今は死の谷の攻略だ。九階層に行こう。
「うわ、なんだこれ」
階段を登り九階層に到着すると、そこには氷の世界が広がっていた。これまでの石造りのダンジョンから打って変わり、氷の洞窟のようなダンジョンになっている。光源もないのに淡く青色に光り、なんとも幻想的な光景だった。お松さんが見たら喜びそうだな。
しかし、追憶のダンジョンはどうなっているんだ。なんで急に石造りから氷の洞窟に?
「モンスターに合わせてるとか? それとも……」
さっきの蒼炎姫の部屋といいこの氷の洞窟といい、自分のスキルのことなのによくわからんことだらけだ。ねこさんは何か知っているだろうか? 病毒耐性スキルを手に入れたら戻って聞いてみよう。
氷の洞窟をポイズンラットを求めて探索していく。洞窟の造りはこれまでの石造りのダンジョンと違って道が曲がりくねっていたり、大部屋は氷海エリアとでも言えばいいだろうか。水に氷解が浮かんでいて非常に不安定な足場になっていた。
氷海エリアには上空にフロストイーグル、氷の上にはビッグホワイト下には海獣ナルワールと、外の世界と同じような配置がされている。
しかし、水を収納してしまえばナルワールもそれほど苦戦する敵ではない。カミナリウオと違って陸上でも大きな胸ビレを使って動けるようだが、その動きは鈍くカモなことには変わりなかった。
行き止まりなんかもマッピングしつつ攻略を進めていくと、青く幻想的な洞窟に似合わない紫色の霧が立ち込める部屋についた。
シュナイダーが、匂い的にあのカラフルな煙ほどヤバくないというので部屋に突っ込む。解毒の魔法もあるし多少は大丈夫だろう。
部屋に入ると何処からともなく大量のネズミたちが襲いかかってきた。これがポイズンラットだろう。体毛が紫色で如何にも毒持ちですといった感じだ。大きさはシュナイダーの倍くらいありかなり大きなネズミだ。
といってもモンスターなので普通のネズミと比較しても仕方がないか。一匹一匹の強さは大したことないが、なんにせよ数が多い。倒したそばから湧いてきているのかキリがない。
もはやシュナイダーはネズミに埋もれて見えなくなっており、ゼロも全身にたかられて紫色の小山になっている。
「だー! キリがない! ゼロ、シュナイダー一回一掃するから、そしたら謎空間に戻って! アイテムは回収したし帰ろう」
ぢゅーぢゅーとネズミのうるさい鳴き声の中、了解の返事がかえってくる。
最大まで黒龍剣に魔力を込めてぶっ放し、なんとかネズミエリアから脱出した。ネズミたちは霧の外までは追ってこないようだ。
一撃一撃は大したことがないが、岩石鎧がなければ今頃食い尽くされて骨になっているのではないかという勢いだった。
マップはまだ埋まっていないが、目的の物は手に入れたし追憶の広間に戻ろう。





