112話
翌朝追憶の広間にお松さんを回収しに行くと、ソファーの上で眠っているのを発見した。
ねこさんたち曰く昨夜は遅くまで話が盛り上がったそうで、江戸時代の庶民の生活なんかも聞けて楽しかったそうだ。
恋愛話の後にそんなことが……それはちょっと聞きたかったな。まぁまた機会はあるか。
無理にお松さんを起こす必要も無いので、食堂で朝食をとり食後にコーヒーで一服する。
「昨日は凄く楽しかったんですよ。良い旦那さんを探してあげてくださいね?」
「まぁ図鑑埋めのついでにはなりますが、ぼちぼち頑張ります」
幽霊の旦那さんか。思ったのだが、お松さんは強い未練があるので成仏できず、この世に残っている。ということは、相手が見つかったら成仏してしまうのだろうか?
お松さんは愛さえあればと言っていたし、好みの相手であれば幽霊でも人間でも良いのかな。とりあえず昨日掲示板に書き込んでおいたけど、自分的に幽霊はモンスターより珍しい。
日本中をまわってきて会ったのはお松さんが初めてだしな。モンスターならそこら辺をうろついている。簡単に見つけることはできないだろう。
心霊スポットとかに行けばもしかしたらいるのかもしれないが、怖いし相手が良い幽霊かもわからないのでためらわれる。知らないうちに通ったりしているかもしれないが、知っていて行くのと知らずに通りかかるのでは大分違うからな。霊感とかなくて良かった。
しばらくコーヒーを飲みながらチャボさんと雑談を交わし食堂を出ると、お松さんが起きてねこさんたちと話していた。
「お松さん、おはようございます。昨夜は楽しめたようですね」
「あ、お兄さんおはようございます! 久しぶりに歳の近い娘たちと話せて凄く楽しかったです。お兄さんに憑いてきて正解でした。ありがとうございます」
「それは良かった」
「それにこの人形に乗り移っていると眠れるんですよ? 数百年ぶりに眠りました。凄くことですよこれは」
さぞかし霊験あらたかな人形なのでは? とお松さんは恐縮そうにしているが、それモンスターがぼろぼろ落とすんです。気にしなくて良いと伝え、これからの予定について説明する。
「と、まぁこんな感じで日本を旅していこうかと考えてます。移動中はどうしますか? よっぽどのことがない限り外に出てても大丈夫だと思いますが、なんならここでねこさんたちと過ごしていても良いですよ?」
「ここも楽しいけど、生きているうちに見られなかった日本を見てみたいです。もうわたしの知る日本ではないかもしれませんけど、それでも楽しそうです」
「わかりました。それじゃあ行きますか」
今度はきちんと断ってからお松さんを収納し、追憶の広間を出る。お城に戻ってからお松さんを取り出すと、今度は正気を保っていた。しかし収納の中のことは記憶にないらしい。
まぁ良いかとお城を出てゼロに乗り飛び立った。案の定最初はゼロに驚いたお松さんだったが、今はゼロの上に乗る自分の膝の間に収まるシュナイダーの上にまたがって空からの眺めを楽しんでいる。
「お兄さんは龍神様に乗られているとは、実は神様だったのですか?」
「いや、元サラリーマンです」
ゲーム的な知識があれば理解も早いと思うのだが、相手は江戸時代の人だ。しばらくカルチャーギャップに悩まされるだろう。
まずはということで、お松さんの地元の避難所を訪ねてみた。まとめ役の人にお松さんを紹介する。
「おお、あなたが佐藤さん。お噂はかねがね聞いております。掲示板も見させてもらっています。あいにくと珍しいモンスターの情報はないのですが……そして、そちらが……」
是非地元の人間としてお松さんを拝ませてほしいとの話になり、避難所の人たちが集まりお松さんへお供えをして拝み始める。
地元では結構有名な話らしく、お松さんを憐れに思った人たちがかなり集まった。皆思い思いに善意の祈りを捧げている。
その後物資の提供を行い、避難所を後にした。しばらく黙っていたお松さんが口を開く。
「危うく成仏しかけました。皆の暖かい祈りが気持ちよかったです」
気持ちよく成仏できるならそれも悪くないのでは? という言葉を飲み込んで移動を開始した。





