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067_新生ソフィア軍

仕事が積み重なり、更新が遅れております。。。

なるべく時間を見つけては更新していこうと思っています。


いつもお読み下さり、ありがとうございます。

「これはこれは、ソフィア殿下。こんな所まで良くぞおいで下さいました」

「茶番はいい」

「何をおっしゃいますか。ここアスタリカを任されてる領主としてましては、栄えある皇帝陛下のご息女が来られたのですから持て成さなくては」

「結構だ」

「ははは、そうは仰っても我々の方で宴の準備もございます。もちろん殿下には兵とは別にお食事を用意致しますよ。何せあのクーデターより半年。さぞや沈痛な思いでしたでしょう。微力ながら殿下の御心を癒して差し上げられたらと…」

「くどいぞ、ダートン伯爵。私が参ったのはあのうろちょろしてる領兵を下がらせろ。ここにグレイが逃げ込んだのは知っている。功を挙げて父に取りなしたいんだろうが無駄だ。我らの任務を邪魔するなら、貴様の私兵と言えど反逆者共々殺すまでだ」

「こ、これはたまげた事をおっしゃいますな。ええ、もちろん殿下の申す通り兵は下がらせましょう。ですが、私らとて陛下に取り入るつもりではやってません。偵察のつもりでやっていたまで」

「ならば、その調査結果を貰おうか」

「いかがなものでしょうか。こちらもそれなりの損害と苦労を致しました。それを殿下の任務があるとはいえ、横取りするような真似は」

「ふん、ならば構わない。好きにするといい」

「そ、それは…!せめて、何かお手伝いでも!」

「用は済んだ。私は行くぞ」

「お、お待ちを!!」

「言い忘れていた」

「はい、何でしょうか?」

「良からぬ事を企むなよ?私が謀として受け取れば容赦なく斬り捨てよう」



ソフィアはグレイを討つべくこのアスタリカの街を抜けようとしていた。

「殿下、話は済んだのですか?」

「あの狸め。野心が見え透いたがな、釘を刺しておいた」

「そうでございますか。ところであの男を徴用したのは真ですか?」

「ああ…。あの男は優秀だ。私の軍にいる誰よりもな」

「そこまで…ですか?」

「殿下、お待ちを!」


部下に静止され、騎馬を止めた。

すると目の前には小さな子供が飛び出していた。


「こ、こら、何をしているの!す、すみません、殿下!!」

「貴様の子か?」

「はい!申し訳ありません!」


小さな子供を庇うように母は抱き抱えるとソフィアへと平謝りをする。

その様子をソフィアは興味なさそうに見つめていた。

そして抜剣するとその母娘へと向ける。


「お、お願いです!ご勘弁を!!」

「なら、早くそこをどけ。私の剣は軽いぞ」


母娘は慌てて道を開ける。

ソフィアは何事もなかったかのように歩を進めた。

それを見ていた街の人達は囁く。


「あれが『姫将軍』なのか…?」

「前に見た事があるがあんな雰囲気じゃなかったような。それにあんな忌み嫌われそうな漆黒の鎧なんて…」

「噂は本当なのか?仲間を皆殺しにされて、人が変わったようになったって言うのは…?」


昔のソフィアなら街の人の声一つでも上がれば耳を貸したはずなのに、一切興味がないように気にしない。

ソフィアが考えてるのはただ一つ。

半年前、帝都を地獄に陥れたグレイを殺す事のみ。






「殿下、申し上げます。こちらに向かい、兵が向かって来ております!」


帝都での作戦を失敗したグレイは敗残兵とレジスタンス達を纏め上げ、アスタリカへと逃げ込んでいた。

まだ兵力は残ってはいるが、帝都を落とす程には至らなかった。


「ちっ、また領兵共か?なら適当にあしらっておけ!」

「ち、違います!数は20,000!獅子と翼が描かれた旗を掲げております!」

「20,000か…。お遊びはおしまいって事だな。それと獅子に翼か。ふっ、ソフィアだな!翼はかつての聖エルス公国の紋様だ。くくく、わざわざそれを選ぶとはソフィアらしい。よし、俺らも打って出るぞ!気を引き締めろ!この戦で俺らの今後の生死が決まる!」


戦いが行われたのはアスタリカ近くの平原だった。

グレイが帝都を抜け、纏め上げられた兵の数は15,000。

それにレジスタンスの残党も加えれば2,000程はプラスになるだろう。

数の差では不利だったが、それでもグレイの自信が揺らがないのは[獣化]を使える魔獣兵に、ソフィア以上の戦の経験からである。


「いいか、お前ら!所詮はひよっこの集団だ!戦で童貞も捨てきれぬ者達に俺らが負けるか!?」


グレイ陣営は意気揚々と演説をする。

野蛮とも思える内容だが、血の気の多い元第3軍の兵には人気であった。


「そうだ!負ける訳がねぇ!!ここで勝つ!勝って生きるのは俺達だ!!」

「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」




どちらから共なく互いの騎馬隊が進み始めると、両陣営は衝突した。

最初の騎馬隊、歩兵隊の戦いは五分。

互いに獅子の紋様を冠しあった軍はその数を減らそうと奮戦し合っていた。


「まぁ、最初はこんなもんだろう」


グレイ陣営は歩兵隊のほとんどにレジスタンス達を組み込んでいた。

中には戦いに秀でた者もいるが、多くはただの民。

相手とぶつけ合うにはちょうど良かった。


「魔獣兵共を出せ!!」


しばらく様子を見て、膠着状態に入った所でグレイは切り札を切る。

魔獣兵はその能力もさる事ながら、人が魔物には変化するという恐怖で相手の士気を下げられるのも分かっていた。

戦に不慣れなソフィアだ、短期決戦に持ち込み早々にこちらが有利だと分かれば尻尾を巻いて逃げ出すと読んでいた。


「うわぁぁぁ、ば、化物が!」

「何だこいつらは!?」

「ま、魔獣兵だ!」


当然の如く、魔獣兵を見たソフィアの兵達は騒ぎ出す。


「ちっ、あれ如きで騒ぎ上げるとは。行くぞ、私も出る。続け!!」

「「「はっ!!」」」


ソフィアは動き出す。

漆黒の鎧をはためかせ、騎馬を操り戦線へと繰り出した。

グレイはこの行動を読んでいると分かっていたが、ソフィアも馬鹿ではない。

このまま放置すれば、恐怖で兵達が瓦解してしまうのを防ぐ為である。


「我らが何の軍か忘れたか!!反逆者共を一掃する為の使命があるのだぞ!恐怖に打ち勝て!私も共に戦おう!勝利は我らのものだ!!」

「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」


ソフィアの声に、兵達は士気を取り戻す。

恐れるものかと兵達は口々にし、目の前の魔獣兵に挑んでいく。


「こいつら、いきなり!?」

「目に物を見せてやるよ!」

「押し返してやる!俺達の方が強者だって分からせてやる!」


勢いを取り戻したソフィアの兵達と魔獣兵は再度ぶつかる。


「よぅ、ソフィア!だいぶ雰囲気が変わったな!?」

「兄上…いやグレイか。大人しく投降しろ!」

「くくく、馬鹿か?少しは兵法を知ったようだが、見ろよ?個人個人の兵の強さでは俺の方が上だ。数を揃えたみたいだが、そんなんでやられるほど俺は落ちぶれちゃいねぇよ!」

「戯れ言を!私は貴様達を殲滅する為に来たのだ!」

「はははっ、所詮は天ちゃんのソフィアだ。少しばかり気が強くなった所で、俺には勝てねぇよ!!」

「待て、どこへ行く!!」

「俺が相手するまでもねぇ!!」


大将同士のぶつかり合いになるかと思ったが、グレイは引き下がる。

グレイとて、大将であるソフィアを討ち取ればこの戦いが一気に終わるのは分かっていた。

だが純粋に相手する必要がないと思ったのだ。

そんなソフィアの前にある男が立ち塞がる。


「久しぶりだゼ、お姫様!」

「貴様、ノースボアで会ったレジスタンス!」

「覚えていてくれて、光栄だゼ!いいか、俺はライノス。ここでお姫様を討ち取る者だゼ!!」


ライノスの豪腕を受けて、ソフィアは騎馬から引き摺り下ろされる。

だがすかさず態勢を立て直すと、剣を構えた。


「随分と落ち着いてるんだゼ!確かに前とは雰囲気が違うな…!」

「そうか?確かに私は考えを改め直したが…、それだけじゃないな。私はこの戦、勝つと信じているからだ」

「がはは!!少しはマシになったかと思ったが、頭は相変わらず脳天気だゼ!!」

「ふふふ」

「何が可笑しいんだゼ?」

「いや、どこまでも余裕ぶっているなと。この戦は勝つ。私一人じゃない。彼がいるからな?」

「彼だと?」


いきなり兵たちに大きな悲鳴が広がる。

それはライノスの後方に控える方向からだった。

その悲鳴はどんどん感染するかのように、広がっていく。

ライノスからでは何が起きているか分からない。

だが、何者かがグレイの兵達に動揺を与えているのだ。





「ちっ、一体何が起きている!?」

「分かりません!?」

「何者かによる奇襲です!」

「奇襲だと!ソフィア達ではないのか!?まさか、ソフィア達は囮だったのか!?」


突如としてグレイ達の背後から奇襲が入った。

ここまでグレイ達の戦線に動揺を与えたのは、その奇襲の効果だけではない。

その彼らが異様だったのだ。

皆一概に黒い甲冑を身に纏っているのだ。

ただ一人がその風貌なら気にも留めないだろうが、その数3,000。

それが急に現れ、奇襲となれば兵の心には動揺が走ってしまう。

しかもそれだけではない、グレイの切り札たる魔獣兵をいとも容易く撃破していくのだ。

これを見ても自分達が優勢だなんて思えなくなる。


「くそが!一体何者だ!?魔獣兵共、俺に続け!!」


これを見過ごす訳には行かない。

個人の戦いならまだしも、大きな戦となると違う。

大将首ももちろんだが、兵の士気、それに戦況の流れを掴む事は大事なのだ。

ソフィアに一気に流れる戦の流れ。

これを止めないとまずい。

そう思い、大将であるグレイが自ら飛び込む。


「ちっ、何だこいつら!!強い…!」


黒い兵達は卓越した技術でグレイ達を追い込む。

だがグレイはそれでも引くことはしなかった。

ここで撤退すれば、しばらくはソフィアの方へと戦の流れは舞い込む。

反逆者たる自分達では兵の補充も出来なければ、物資も調達する事が難しい。

つまりはここで引く事は、負けを意味する。


「ちっ、こいつらを率いてる奴がいるはずだ!捜せ!捜して殺すのだ!!」


そう叫び、自らもこの部隊の隊長を探し始める。

この混乱した戦場の中では目星の相手を見つけるのは運に近い。

だがグレイは感謝する。

自らの幸運に。


「見つけたぞ!!!」


グレイは相手を見つけると、騎馬から飛び上がり空中で[獣化]を発動させ、この部隊の隊長へ爪を振り下ろした。


ガキンッ


渾身の一撃。

そのはずだった。

だがその男は容易く受け止める。

手には黒い大剣で。


「グレイ…、見つけたぞ」

「ちっ、こんな隠し玉を持っているとはソフィアめ!!」


男は漆黒の全身甲冑を装備している。

素顔は見る事は出来ず、兜の隙間から伺える瞳だけは闘志の炎が色濃く映っていた。


「貴様を倒せば、また戦の流れはこちらへ傾く!!」

「この私が殺られるだと?寝言は寝て言うんだな!」


再び剛爪と剛剣がぶつかる。





「まさか俺達が押されてるのか!?」

「言っただろう、この戦いは私が勝つと」


ライノスは周りを見渡す。

彼もまた長年、戦いの中に身を置いていた者。

今の状況がどうなるかという判断はつく。

だが彼は必死に帝国へと争い続けた戦士。

戦で負けとなったとしても最後まで戦い続けるべきだと心に誓う。


「だが、ここで退く訳には行かねぇゼ!!せめて最後に皇族の首一つは手に入れてやる!!」


彼は自身の持つスキルを最大限に使い、ありったけの力でソフィアを粉砕しようとする。


「分からなかったか?勝つというのは戦でも、お前にもという意味だ」


ライノスの一撃はソフィアに受け止められてしまう。


「何!?前は簡単にやられてた筈なのに!?」

「私も遊んでいた訳じゃない。この半年、軍を編成するだけでなく私自身も修練を重ねた」

「これは、魔力強化なのか!?武人としての頂の一つと言われる技をお前が手にしたというんだゼ!?」

「軍を率いる者として強さは必要だ。以前の私は弱かった。身も心もな。全てを失って初めて気づかされた!何かを守るのも手に入れるのも力が必要だと!!」

「うおおおぉぉぉ、うわぁぁ!!」


ソフィアはライノスを押し返す。

力自慢のライノスに、わざと力押しで押し返したのだ。


「これで終わりじゃない」


ソフィアは身に纏う魔力を強めると、目にも留まらぬ速さでライノスを追い詰める。


「くそ、力だけじゃなく速さも!お、俺がやられるのか!?」

「そうだ、お前は死ぬ。今、この場で!」

「ふざけるな!!帝国の犬が!!俺はただ自由を手に入れたかっただけだ!」

「犬か…。ならば貴様ら反逆者共は犬畜生以下だ。例え切り刻み餌としても、犬も食わんぞ?」

「ちくしょぉぉおおが!!」


ソフィアは思い出す。

家族であり師でもあったアーノルドの事を。

そして越える彼の技術を。

迷いの消えたソフィアは強かった。

大切な者を失い手に入れた力。

その想いにライノスは倒れた。





「てめぇを殺す前に聞いておく。名は何だ?」

「名か…。名は捨てたよ。今はクロガネと呼ばれている」

「クロガネ?渾名か。名を捨てたか…。訳ありだな。お前の実力、あの兵団の強さ。素晴らしいな。どうだ、今からでも俺につかないか?」

「くくく、おもしろい事を言う。私が敗戦の将につくとでも?」

「敗戦の将か。そりゃ、違いねぇ。だが、泣きを見るのはてめぇだ!」

グレイは[獣化]によって得た身体能力を活かし、力、技、速さでクロガネを圧倒しようとする。

だがグレイのその動きにクロガネはついていく。


「俺の動きについてくるだと!?やはり只者じゃないな!」

「慌てるな。まだまだこんなものじゃないだろう?」

「ちっ、その余裕いつまで持つかな!?」


グレイが仕掛ける。

持てる速度を十分に出し、クロガネへと迫る。

それにクロガネは武器を構えた。


「残像か」

「はっ、こっちだ!!」


殺気による幻。

それに気を取られた隙に横へ回ったグレイは爪を振り下ろした。


ガキんッ


「何だ、こりゃ!?」


グレイの攻撃を防いだのは鎖だった。

クロガネは鎖を鞭のようにしならせると、そのままグレイを弾き飛ばす。


「今のが本気か、グレイ?」

「クソが、見せてやるよ!!」


グレイはさらに力を爆発させる。

その力は臨界に達するとグレイの能力をさらに上げた。


「魔力強化か。そこまでの使い手だったなんてな」

「はははっ、俺をここまで本気にさせたのは初めてだ!もう手加減はなしだ。本気で殺しに行くぜ」


体に纏った魔力だけでも戦場を震撼させている。

周りの兵達も否応なくグレイとクロガネの戦いに目を惹きつけられてしまっていた。

その中でさらに一際大きい衝撃波が発生する。

グレイの無慈悲な一撃が放たれたのだ。

だが。


「馬鹿な!!これを受け止めるなんて人間業じゃねぇ!!」

「ならば私を人間と思うな!」

「くっ、何だその魔力は…!!紅い…魔力。魔力強化か!!」

「貴様の期待に応えて俺も少し本気を出す事にした」


クロガネは一気に魔力を解き放つと、血のような紅が戦場へ拡がった。


「まさかここまでの化物とは…!」

「魔獣に化物呼ばわりとはな。だが、それも一興。化物による魔獣退治と行こうか」


本気と言ったがほんの遊びのようにしか見えなかった。

圧倒的と思われたグレイの本気ですら、霞むほどだ。

まさに一方的と言える攻撃の数々。


「さっきまでの威勢はどうしたのだ、皇子よ」

「くそ!くそ!攻撃が重い…!その上、斬撃が見えねぇ!!」

「次は後ろだ」

「ぐわぁぁぁ!!」


グレイは背後から襲ってきた鎖をまともに喰らってしまう。


「がはぁっ…。はぁはぁ、強ぇ。こんな強い奴はセルビアナくらいしか思いつかないが…。ふっ、ソフィアめ。いい駒を手に入れたな」

「何だもう終わりか?」


グレイはダメージを負い、膝をつき戦意が失われつつあった。

剣を置いたクロガネはグレイに近づくと素手で首を掴み持ち上げる。


「ぐ……かはっ!」


ギチギチと首を掴んだ腕に力が入っていく。


「戦好きな皇子もこうなってしまえば只の弱者だ。思えば半年前、俺は再び大事な者を失ったよ。おかげで思い出した。憎しみを。そして分かったんだ。憎しみの果てに何があるかを」

「がはっ、げほっ!!」


生存本能からだろうグレイは足をバタバタと動かしもがく。


「憎しみは憎しみを産み、そして憎悪となる。その先にあるのは業だ。一度、業を背負えばもう逃げられない。業が憎しみを呼び続けるのだ」

「ゲホッ!ぐ…ぐぇぇぇ」

「気を失ったか。まぁ、これでいい」


クロガネはグレイを手放すと戦場に響き渡るように叫ぶ。


「敵将グレイ皇子を捉えた!!我らの勝利だ!!」


アスタリカの平原に大きな歓声が広がる。

逆賊となった皇子グレイの野望は潰えたのである。

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