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003_喪失

「うわー、これは大惨事だね」


倉庫の中はまさに散乱し放題だった。

僕のクラスはもちろん他のクラスでも同じ課題があったから道具の取り合いが起きてこうなったのは必然だ。


「早く終わらせて、爺ちゃんのところへと帰ろう」


エメはギチギチいいながらブリキの頭を縦に振ってくれた。

道具を一つ一つ丁寧に拾って、空いてるスペースへと並べる。

そしてどこに道具をしまうべきか、見てエメに運んでもらう。


「手伝いは必要でして?」

「わっ、ロザミアさん?」

「全く何であなたがこんな事しなくてはならないの?」

「それはさっき話した通りだよ。みんなに迷惑を掛けない。それが一番だよ」

「あなたは、ゴーレムがどんな物か知らなくて!?世界広しと言えどゴーレムを錬成出来るのはごく僅か。わたくしにも出来ないのよ!それに先程のミニゴーレム。人程のサイズもあるゴーレムをあんなに小さくするというのは、常識外れですわ!!」

「ごめんね、空気が読めなくて課題とは違うものを作っちゃって…」

「違いますわ!あの技術がどれだけすごいかと言っているのよ!もしあなたが大量のゴーレムを作れるようになれば軍団を形成する事も、先程のミニゴーレムを使って潜入・諜報する事も可能なのよ!」

「ぐ、軍団!?そんな物騒な事に僕のゴーレムは使いたくないよ」

「ふぅ、、、本当にあなたは自分の価値を分かっていらっしゃらないようね。すみません、わたくしも熱くなってしまいましたわ。手伝いは…」

「ありがとう、ロザミア。もうすぐ終わるから手伝いは大丈夫だよ」


僕の代わりに僕の事を考えてくれるロザミアさんが嬉しくて笑顔で答えていた。

見るとロザミアはぼーっとこちらを見ていた。


「呼び捨て…。いえ!それではまた明日ですわね。バイバイ、アイン!」

何かまずったかなと思ったけど、ロザミアは笑顔で手を振ってくれた。


「気を取り直そうか」

あとちょっとで終わるから、がんばろう。

エメが倉庫の奥に道具を持っていく。

もうこっちへ来てもいいはずなのに、まだ来ない。

様子を見に行くとエメの高さでは届かない所だったようだ。


「エメ、悪いけど肩を借りるよ」

僕はエメの上に乗り、道具を棚の上に置く。


バタンッ


「え?」


突然、倉庫内が暗くなる。

倉庫の窓格子より僅かに入る日差しである程度の明かりは保たれていた。


「風でも吹いて、扉がしまっちゃったのかな?」

扉を開けようと押すが動かない。

強めに押しても扉が開く気配はなかった。


「くくく、あはははは!!ばーか」

「暗くて泣いちゃったかな、アインくん!?」

彼らだ…。

扉には鍵をかけられ、閉じ込められてしまった。

しばらく扉を押したり、鍵が開かないか試したがダメだった。

むしろ僕が足掻けば足掻く程、外から笑い声が聞こえる。

せめて彼らがいなくなってから何とかしよう。


「はぁ、災難だったね、エメ。こう言う事もあるけど、仕方ないよ」


エメはブリキの腕を伸ばすと僕の頬に優しく触れる。


「あれ?泣いてた?ごめんね、心配かけちゃったね」


エメは僕が初めて作ったゴーレム。

他のゴーレムと違って自分で考えて自分で動いてるように思う。

爺ちゃんも何故かは分からなかったらしい。

エメと同じゴーレムが作れないか何度も試したが、エメ以外は全てダメだった。


「ん?外が騒がしくない?それに日が落ちてるはずなんだけど、さっきから明かりがあるね?」


先程より大分経ち外にいる彼らはいなくなっていた。

また扉を開けようと奮闘するが開かない。

エメが僕のポケットをぽんぽんと叩く。


「ん、ポケット?あ、そうか!」


僕はポケットからミニゴーレムを取り出す。

ミニゴーレムに魔力を込める。

パスを繋いで、魔力操作を出来るようにする。


「エメ、悪いけどもう一度肩を借りるよ」


エメの肩に乗り窓格子からミニゴーレムを外に出す。


「さてと」


先程繋いだパスから、ミニゴーレムを操作して扉の前に行かせる。

そせて扉の鍵を開ける。


「これでやっと出られるね。爺ちゃんに何て言おうか」

エメに話しかけながら、扉を開ける。


「え?」


「どういう事!?街が燃えてる!!」


僕は大慌てで状況を確認する。

近くで誰かと誰かが戦っている。


「ちっ、邪魔すんじゃねぇよ!!」

「くそがああ!お前らただで済むと思うなよ!!」

一人は冒険者風な男だ。

そしてもう一人は…。


「あ、、、あれは帝国」

僕ははっきりと覚えている。

昔、住んでいた村が蹂躙された事を。

その時も同じく、赤い旗に獅子の紋章。

帝国のものだ。


「そ…そうだ、爺ちゃん!!」


僕は全速力で家に戻る。


「爺ちゃん、爺ちゃん!」


頼む、無事でいて。

もう誰かが死ぬなんて嫌だよ。

大事な人がいなくなるなんて嫌だよ。


爺ちゃんの家は街の外れにある。

街の中心部から離れ、ひっそりと立っている家だ。

途中、帝国兵の死体がいくつか有った。

きっと冒険者か兵士がやっつけてくれたんだろう。

爺ちゃんは無事だ。

僕は早く爺ちゃんに会いたくて、足がもつれそうになるのを我慢して走った。


「ただいま、爺ちゃん!」


僕は扉を開け、爺ちゃんに聞こえるように大声で喋る。


「ねぇ、爺ちゃん、どこ?」


もう日は落ちていて、家の中にはあるはずの灯がない。

代わりに燃える街からの明かりが家の中に入ってくる。

もう一歩、もう一歩とゆっくりと家の中へと入っていく。

血の匂い。

僕は知っている。

昔にみんなが死んだ時に嗅いだことのある匂い。


「ねぇ、爺ちゃん、無事なんでしょ?遅くなったのはごめんね。授業の片付けをやってたんだ」


また一歩と踏み出していく。


「爺ちゃん、友達がいるって言ったでしょ?あれは嘘じゃないよ。女の子なんだ、ロザミアさんって言ってね。いつも僕の事を心配してくれるんだ」


さらに一歩。


「ね、だから心配しなくてもいいんだ。僕は平気だから…。平気だから爺ちゃんと幸せに暮らしたいだけなんだ」


そして最後の一歩を踏み出した時、何かを踏んだ。

とっくに気付いていたのに、僕は気付かない振りをしていた。

踏んだのは肉の感触。

それは人の腕。


「あああ・・・爺ちゃん」


倒れていた。

爺ちゃんは地面にうつ伏せに鳴って。

背中からは血でべっとりだ。

時間が経っているせいか、赤黒くなっている。


「爺ちゃん…」


僕は爺ちゃんの手に触れる。


「うわああああああああああああああああああ」



-------------------------------------------



赤く燃えるウィレームの街が一望できる小高い丘。

そこで、するどい狼のような目つきでをした男が眼下に広がる街並みを見下ろしている。


「報告します。対象の殺害を完了。外見の特徴、また工房には破棄されたゴーレム数機確認。ゼペットだと思われます」

「そうか、良くやった。それで殺害した部隊は?」

「はっ、皆殺しにしました」

「上出来だ。では作戦は完了だな。さっさと撤退するぞ」

「残りの部隊はどうしましょう?」

「放っておけ。どうせ、街にいる兵や冒険者に皆殺しにされるだろう」

「了解です」


するどい目つきの男と報告をした男はこの場を後にする。

混乱するウィレームなどに目もくれずに、街から離れていく。


「ん、これは不要だな」

男は何かを思い出すと、自身の背に背負ったマント引きちぎり、地面へと捨てた。

そのマントには雄々しい獅子の紋章が書かれていた。

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