002_魔導学校
「本当に大丈夫かのぉ?」
「心配しすぎだよ、爺ちゃん。問題ないって」
爺ちゃんは心配そうに僕の頭を撫でる。
大きな瘤が出来た頭を。
「学校に友達だっているんだから」
「本当かい?」
「う、うん。だから爺ちゃんは気にしなくていいよ!」
爺ちゃんは一人っ子である僕のことをいつも心配する。
とはいえ、血は繋がっていない。
僕は戦災孤児なのだ。
その昔、住んでいた村が帝国に焼き払われ、僕だけが生き残った。
偶然にも爺ちゃんが拾って、今まで大事に育ててもらった。
それに学校にまで入れてもらった。
僕としてはこれ以上、爺ちゃんに心配かけたくない。
「エメも、アインの事を頼むよ」
僕の背後からブリキで出来た塊が動く。
腕らしきものをあげて、合図を送る。
彼女?は僕が初めて作ったゴーレムだ。
僕には何の取り柄もない。
だけどゴーレム錬成士としての取り柄だけはあった。
そして爺ちゃんは偶然にもこの世界に置いて、数少ないゴーレム錬成士の一人だ。
僕は爺ちゃんからゴーレム錬成について学び、こうして魔導学校へと入門する事が出来た。
この世界は魔法技術が発達している。
家の灯から、水回り、街や街道の外灯にいたるまで。
モンスター達を排除する、剣士や戦士などの前衛職に、魔法職・回復職。
それらも人気だが、魔道具を生成する魔導技師も人気だ。
しかし、ゴーレム錬成士はほとんどいない。
僕が知ってるだけでも僕と爺ちゃんだけ。
MPを使って、簡単な命令しか聞けないゴーレムより、便利で簡単な魔道具を生み出してくれる魔導技師の方がこの世界の住人にとってはありがたいのだ。
聞けば、国によってはゴーレム錬成は禁忌としている所もあるそうだ。
しゅうきょうじょうのりゆうという奴らしい。
それはさておき、ゴーレム錬成士は不遇な扱いだ。
せっかく入門出来た魔導学校での僕の扱いもご察しの通り。
入門したその日から、バカにされ、今では回りは隠す事なくいじめを行っている。
「じゃあ、行ってくるよ!おいで、エメ」
「うむ、気をつけてのぉ」
毎朝、こういうやり取りの後、学校へと急ぐ。
エメは僕について学校へとついていく。
あくまでも、エメは僕が錬成したゴーレム。
つまり魔道具の一種という事で、学校へ入ることを許可されている。
「よぉ、今日も人形遊びか?」
「おいおい、人形だって?こんなのただのガラクタじゃねぇか」
「ハハハ、確かに!お前の後をただついてくるだけじゃあ、魔道具なんて呼べねぇよな!」
いつもの風景。
いつもの光景。
「お、おはよう」
「あぁん?声が小せぇな。こんなくだらないものしか作れない奴はちゃんと挨拶出来ねぇのかよ?」
彼らは僕のクラスメイト。
特に僕へと率先して声をかけてくれる。
この街でも有数の魔道具を扱う商会の息子達で、学校で魔道具の知識を学び、商会の扱う魔道具を生成させようとしている。
「じゅ、授業が始まるから先を急ぐね」
「あ?逃げんのかよ!」
僕は逃げるようにクラスルームへと向かう。
途中、後ろから石を投げられたが、エメが身を挺して庇ってくれた。
「ありがとう、エメ」
僕の友人へお礼へ述べる。
「さて、皆さん揃いましたね」
周りを見渡せば、先ほど僕に声をかけていた彼らも無事に席へと座っていた。
「では、今日は先日に課題を出した、共同での魔道具作成の成果を見せてもらいます」
「じゃあ、まずは私達ですね。作ったのはこれです!」
女子チームが生成したのはアイロンだ。
魔道具としてのアイロンは、普通に普及している。
「ただのアイロンに見えますね。何か特殊な魔法が?」
「ええ。見てて下さい」
取り出したのはしわしわで泥がついたエプロンだ。
それをアイロンをかけて延ばしていく。
「おお、これは」
「はい、これはクリーンアイロン。アイロンと同じ機能はもちろん、クリーンの魔法も付けているので汚れも取れます」
「素晴らしい!」
「「「おおー」」」
クラスから驚きの声があがる。
「じゃあ、次は貴方達ですね」
次に呼ばれたのは、朝に僕へと絡んできて彼らだ。
「俺らが作ったのはこのマジックボックスだ」
「ふむぅ、これにはどんな効果が?」
「これは見た目より、収納出来るのはもちろん。温度調節も付けている。食料の保存はもちろん、加熱機能で調理する事も可能だ」
「なんと!これはすごい!住人の生活レベルが向上しますね!」
「「「おおおお~!!」」」
クラスから先程のアイロンよりも大きな声が上がる。
続いて他のみんなからも新しい魔道具が披露されていく。
「それではわたくしの番ですわね!」
「えっと、共同ですので、後ろの彼女達もですよね?それではお願いします」
彼女の名前はロザミア。
とある貴族のお嬢様だ。
何でも貴族に相応しい嗜みとして、剣術はもちろん、魔法学校も卒業し、最後に魔導学校へと入門した。
いわばエリートっていうやつだ。
「そ、そうですわね。わたくし達の魔道具はこちらよ」
取り出したのは杖だ。
「これは…。何とも危険な」
「何だよ、これ、ただの杖か?」
クラスの男の子が杖に触れようとする。
「いけません!!これはかなり秀逸な魔道具です」
「え?」
「さすがですわ、先生」
「これはかなり高レベルな攻撃魔法と防御魔法が込められてますね?」
「えぇ。あくまでも防犯グッズです。わたくし達のような可憐な女性が身を守れるように作成しましたわ。これは攻撃魔法【ライトニングスパーク】防御魔法【マジックウォール】を施してあります。また魔力が無い方でも使えるように魔石を埋め込んでありますわ」
「え、魔石?」
「それに【ライトニングスパーク】って中級魔法だろ?」
ロザミアが出した杖にクラスメイトは驚きというより、どよめきになってしまっている。
「ふむ、素材や魔法レベルはともかく。かなり高ランクの魔道具ですね」
「ふふふ、どうでしたか、アイン!」
「え、僕?」
ロザミアは僕を指さし、声高らかに宣言する。
彼女は貴族という立場でありながら、クラスメイトはもちろん、こんな僕にも普通に接してくれる。
何でも彼女が言うには、他の全ては会得できたけどゴーレムだけは覚えられなかったかららしい。
彼女がゴーレムを錬成出来ないのには理由がある。
”スキル”だ。
僕にはゴーレム錬成スキルを持っている。
適正がなければそのスキルは芽吹く事はない。
僕自身の話で言えば、魔道具生成スキルは芽生えなかった。
それでもこの学校へと入門出来たのは、校長と爺ちゃんが知り合いだったおかげだ。
「えっと、ロザミアさんの魔道具はすごいよ」
「ちょっとおやめなさい。わたくしの事はロザミアで構いませんわ、クラスメイトなんですから。それに貴方のゴーレムに比べたら…!!」
何だか、一人で話しして、一人で憤ってるようだ。
「それでは、最後ですね。アインくんは…、一人でしたね」
「は、はい…!」
共同での課題だったけど、僕と組んでくれる人はいなかった。
仕方なく、爺ちゃんに相談しながら課題に取り組んだ。
僕は布袋から小さい魔石と金属の破片を取り出す。
「これは?」
「えぇっと、ちょっと待って下さい」
僕は魔石に魔力を通す。
そして僕がイメージするものを魔力を通して魔石へと書き込んでいく。
イメージを通し終えると、最後に魔石へと文字を刻印する。
「『emeth』!」
刻印が完了すると、魔石が光る。
発行が終わるとそこには、手の平サイズのゴーレムがいた。
「ふむ。これはゴーレムですか?それも小さいサイズの」
「はい!小さいゴーレムです。爺ちゃんが言ってました、こんな小さいサイズのゴーレムの錬成はすごいって!」
「小さいゴーレム…」
「ぷっ」
「アハハハ!!!」
「まじかよ、こいつ!!ゴーレムだと思ったけど、今度は小さいゴーレムかよ!!」
「なんの役に立つんだ、これ!!」
クラスの誰かが笑い始めると、それに合わせてみんなが笑う。
さすがの僕でもこれは分かる。
笑ってくれてるんじゃない。
僕が、こいつが笑われてるんだ。
ただ一人笑ってない人がいた。
ロザミアだ。
ロザミアのお付きは笑っているが、彼女ただ一人だけは笑っていない。
むしろ口を半開きにし、僕が作ったミニゴーレムを興味深そうに見ている。
「す、すいません、私まで」
先生が笑いをこらえながら、僕へと話す。
「共同での魔道具作成ですが、これはちょっと難しいですね。及第点を上げたいところなのですが、そうすると他のみんなは納得行かないでしょう。
「では、こうしましょうか。皆さんは魔導具作成で疲れています。あなたの課題は評価外。皆さんの代わりに魔導具の倉庫整理を終えたら及第点としましょう」
「ちょっ、あんまりですわ!先生はこのゴーレムが何なのか分かりませんの!?」
「ロザミアさん、落ち着いて下さい。もしかすると、このゴーレムは素晴らしいのかも知れません。ですが、ここは魔導具を扱う学校。仮にもゴーレムなんかで評価してしまうと学校の評判が悪くされてしまいます。それに学長より、彼の事は頼むと私に言われております。これは私なりの気遣いですよ?」
「アインはそれでよろしいの!?」
ロザミアさんは僕のために怒ってくれた。
確かに先生の僕に対する扱いが正当かは置いといても、僕のために動いてくれたロザミアさんには感謝の言葉しか出ない。
「ありがとう、ロザミア…さん。でも、いいんだ。ゴーレムしか作れない僕が学校に居られるのは先生のおかげだし、みんなもそれで納得してもらえるなら嬉しい限りだよ」
「そんな…あなたはそれで良いというの!?」
「うん、平気だよ。それにみんなの為に何か出来るのは良いことだよ」
僕は精一杯の思いをロザミアさんに伝える。
どうやら彼女もそれで納得してくれたみたいだ。
「ぷっ、あはは、もうダメ!!」
「あはは、本当にアイン様々だぜ!悪いけど頼むわ!」
「それでは頼みますよ、アイン。あと皆さんは笑いすぎです」
先程の魔導具や準備のための道具たちがクラス内に散らばっている。
「さて、がんばるかな」
僕の横にいたエメが動く。
「エメも手伝ってくれるの?ありがとう」
僕とエメは手分けしてそれぞれ荷物を持つと倉庫へと向かう。




