019_ダンジョン・強敵
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3階層目は以下にも墓地という雰囲気だった。
地下墓所と呼べばいいのだろうか。
見た目通りに敵のほとんどはアンデッド系のモンスターで、強さも2階層と比べると確実に強くなってきていた。
それでも、俺とエメはここまで来れたんだ。
最後まで行ってやると気合を入れて進む。
「見えた!」
「ボス部屋ですかね?」
エメが疑問に思うのもしょうがない。
2階層目までの扉と比べ、さらに大きく豪華になっている。
「つまり、ここが最後の部屋って事か?」
「そう思うのが妥当でしょうか」
この先は今までよりも更に強い敵が出てくる。
意を決して扉に手をかける。
「行こう!」
「イエス、マスター」
エメも気合が入ってるようだ。
俺は力を込め、扉を開く。
扉の奥は今までの広間と全く様子が違っていた。
空間と呼べる程の大きさだ。
奥へと進むとあるものが大量の墓標が地面に刺さっているのに気付く。
墓標の近くには朽ちかけている剣や兜、盾などが散乱している。
まるでここで戦場があったかのような雰囲気だ。
そして一番奥には扉の代わりに、この戦場に似つかわしくない玉座が。
玉座の上には冠を被った遺体が座っていた。
「カカカ、良く来た冒険者よ!」
「モンスターが話しかけたのか!?」
遺体は立ち上がり、俺らへ向けて話しかけた。
見た目からこいつもアンデッドなのは間違いないが、言葉を話せるモンスターには初めて出会った。
「カカカ、今ではこのようにアンデッドに奴してるが、昔の余もお主達と同じ人間であった。言葉くらい話せるのは道理よ」
「ま、まぁ確かに」
気さくに話しかけてくるが、その間もこいつから放たれる威圧感は堪ったもんじゃない。
慎重に歩を進め、[鑑定]の射程内に入ると発動させる。
【ステータス】
リッチキング
年齢:598歳
ランク:S
Lv:60
HP:1831/1831
MP:1378/1378
力:1254
体力:1023
早さ:985
魔力:1121
運:31
【スキル】
『我が栄光の軍』『不滅』『尊大』[剣術スキル 8][闇魔法スキル 8][怪力乱神スキル][天魔スキル]
リッチキング…!?
やはり想像はしていたが、こいつはSランクモンスター。
しかも固有スキルを3つも持っている。
まだ収集していないスキルもある。
「カカカ、[鑑定]か。懐かしいのぅ」
「[鑑定]に気づいたのか」
「カカ、便利なスキルではあるが、余が気付かない訳がなかろう。これ以上は言葉は不要よ。さぁ、来い冒険者よ!」
俺は距離を保ちつつ、手に持つ剣から火魔法を発動させる。
俺の動きを見て、エメは魔法が着弾する前に駈け出し、リッチキングへと迫る。
アイテムボックスから予備の片手剣を出し、反対の手に装備させ、二刀流という形を取る。
ただこれは接近戦で戦うというのではなく、あくまでも両手からそれぞれ魔法を交互に放つ為だ。
「話されるとは驚きでしたが、もう一度ただの骨に戻ってください」
既にエメは武器を魔力強化済みの状態で攻撃を仕掛ける。
どうやらエメも本気のようだ。
「カカカ、見かけによらずやんちゃのようだ!」
リッチキングは手に持った大剣で何なく、エメの棍を受け止める。
「そんな!」
「カカ、何そんなに驚く事か?魔力強化は熟練者同士での戦いで必須。その程度での認識では底が知れるというものよ」
「くっ」
深追いせずに、エメは一旦距離を取る。
「アースクエイク!」
土魔法を放ちリッチキングに続けて攻撃を仕掛けるが、こいつは魔力壁で何なく凌いでしまう。
隙を与えず、一気に仕留めようと思っていたが、未だにマトモな一撃は与えられていない。
「カカ、今度はこっちから行こうか」
リッチキングは踏み込むと凄まじい勢いでエメへと接近すると、大剣を振るう。
「クッ・・・!」
「カカカ、防御の方はぜんぜん甘いの」
何とか防げたものの、攻撃の勢いが強すぎて小高くせり上がった地面へと叩きつけられてしまった。
「エメ!」
「だ、大丈夫です、マスター」
「カカカ、久しぶりの戦いに余も高揚しておるわ!」
続けてリッチキングはエメに近づき何度も攻撃を浴びせる。
最初こそギリギリで何とか躱したエメだが、徐々に慣れ始め、次第に反撃が出せるようになっていた。
「カカカ、小娘やりおるの!」
「いえ、ご教授ありがとうございます」
「カカカ、昔の戦場を思い出すぞ!」
リッチキングとエメの攻撃は拮抗している。
俺は割って入る様に、[空歩]で上空からリッチキングを捉える。
「喰らえ!!」
槍[雷魔法]でリッチキング目掛けて投げつける。
躱されてしまうが、既に魔法は発動済みだ。
槍目掛けて雷が降ってくる。
「ヌゥゥゥゥッッッ!!」
リッチキングは慌てて魔力壁を展開し雷を防ぐ。
だが、俺はお構いなしに続けて両手に持った二振りの剣からそれぞれ魔法をぶつける。
「こいつならどうだ!!」
片方から[風魔法]のサイクロン。
もう片方からは[火魔法]のフレイムウェーブ。
炎の波は竜巻によって、巻き上げられ竜巻は赤みを帯びてくる。
「炎の竜巻か、よもや魔法を合成するとはなっ!!」
「言ってろ、そのまま沈め!」
まだ喋る元気があるのかと感心するが、すぐに炎の竜巻に飲まれ声も届かなくなった。
「これで少しは大人しくなれば、良いんだけどな」
「どうでしょう。油断は出来ません」
炎の竜巻の勢いが徐々に弱まっていく。
俺は武器を構え直し、ちらりとエメの様子を見た瞬間、声が上がった。
「マスター!」
気付けばリッチキングは炎を纏ったまま、俺のすぐ目の前で大剣を振るおうとしていた。
「なっ、バカな!!」
攻撃が当たる!
そう思った瞬間だった。
エメが身を呈して庇う。
「ぬぅっ、浅いか!」
「エメ!」
エメから鈍い音が聞こえる。
「だ、大丈夫、背中を斬られましたが行動には支障がございません」
攻撃を食らい、立ち上がれずにいる。
俺はエメの体に触れて、魔力で状態を調べあげる。
背中に出来た傷跡はひどいが、確かに致命傷には至っていない。
エメの核となる魔石とフレームに直結している魔力の接続は切れていなかった。
だが、再度ここから攻撃を喰らえば、核へのダメージは防げない。
そうなれば最悪エメは本当に死んでしまう。
「カカカ、驚いたぞ、小僧。よもやあんな隠し玉を持っているとはな。あのまま耐え続ければ、こちらがやられていたわ!」
「貴様っ…!!」
「カカカ、よく見ればその娘、人間ではないな。にしても、小僧は娘が大事と見える。だが、安心せい。二人とも、ここで始末してやる」
また接近戦かと警戒したが、リッチキングは大剣を地面に突き刺した。
すると、それに呼応するように地面から次々とアンデッド達が召喚される。
スケルトンナイトにエルダーリッチ。
いずれもBランク、Aランクのモンスターだ。
「カカカ、こやつらは我が覇道を共に歩んだ友たちよ。正真正銘、ワシも全霊を持ってして、相手してくれる」
「マスター、私は大丈夫ですから、戦闘の続行を」
俺はエメを抱えたまま、距離を取る。
「マスター?」
「すまない、エメ。お前の言う通り、最初から本気でやってればよかった。こうなったのは、俺のせいだ。安心しろ必ず直してやる」
「カカカ、お主まだ何か持っているのか?早くせねば、我が軍勢がお主らを屠るぞ」
「ああ、見せてやるよ!」
俺の本気。
俺にしか出来ない戦い方。
ゴーレム錬成士の俺の戦い方だ。
「ぬ、召喚魔法陣か?お主、召喚士だったのか?」
俺は構わず作業に意識を向ける。
「なんだその数は!?」
無数の魔法陣が発動すると、そこから俺が今まで制作しストックしてあるゴーレム達が姿を現わす。
その数はゆうに200以上を越える。
俺が持てる全ての力、つまり俺の持っているゴーレム全てをこいつにぶつける事だ。
どんなモンスターや人間と言えど、集団相手には勝てる訳はない。
戦う才能に恵まれなかった俺が、冒険者としての危機を何度も救った戦い方。
「ゴーレムなのか!?まさか、お主ゴーレム錬成士だったか!よもや、かの伝説に触れられようとは!」
「伝説?そんなのはどうでもいい、こうなったら俺も本気だ。確実にお前を倒す」
全てのゴーレムに魔力を接続させる。
「魔力の供給を確認。接続完了。認証…確認が取れました。マスター・アインを承認。駆動確認…問題なし」
全てのゴーレムに魔力が行き渡る。
ごっそりとMPが持っていかれるが、関係ない。
「起動!!」
ガタッ
ゴーレム達は一斉に立ち上がる。
「行け、奴らを蹂躙しろ!!」
「マスターの命令を承認。敵を殲滅を開始」
ゴーレム達は俺の命令を受け取ると、綺麗に列を揃えいざ敵を屠らんと行軍を開始する。
数体のアンデッドがゴーレム達を突破しようと突っ込んでくるが、ゴーレムの一機が手に持つ盾で防ぐと、すぐに数騎で取り囲み駆逐する。
「ぬぅ、ゴーレム共が戦を理解して動いておるのか!?」
ゴーレム達の勢いは止まらない。
次々とアンデッド達を屠っていく。
「ならば!来い、我が僕よ!」
リッチキングが次に呼び出したのはアンデッドドラゴンだった。
「カカカ、此奴は余が生きておった時に調伏したドラゴンよ!余がアンデッドになっても喜んでついて来た優秀な僕よ!」
「ガァァァァオオオオオオ!!」
アンデッドドラゴンのけたたましい咆哮が木霊する。
だが、ゴーレムの軍勢を操る俺に敵うわけはない。
「やれ」
そう命令したのは特別なゴーレムの一体。
ギガントゴーレムと命名したそれは、通常の人形ゴーレムに比べ遥かに大きな巨体を持っている。
高さだけでも5メートルは越える。
「そのようなゴーレムもおるのか!?ぬぅ、負ける訳には行かんぞ。やるのだ、ドラゴンよ!」
アンデッドドラゴンが突進をしてくるが、ギガンとゴーレムを両手で受け止め進行を止める。
「ギャルルルルルゥゥゥゥゥゥゥ…!」
押さえつけられ身動きの取れないアンデッドドラゴンは口を大きく開け、至近距離でブレスを放つ。
両手が塞がってしまったギガントゴーレムはもろにブレスを喰らってしまう。
「カカカ、例えゴーレムと言えどこの距離でのブレスは効くであろう!な、何!?」
ギガントゴーレムは魔力壁を展開しブレスの進行を防いでいた。
ブレスが終わるとギガントゴーレムは拳でアンデッドドラゴンを殴りつける。
「ギャオオオオゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
アンデッドドラゴンも必死に抵抗するが、ギガントゴーレムの髄力により沈められてしまう。
「お、おのれ!!」
リッチキングも負けじと更にアンデッドを追加するが、地面から出現する間にゴーレム隊によって倒されてしまう。
「小癪な!ならば、ワシが自ら!」
リッチキングがゴーレムの集団へと斬りかかる。
「ヌゥッ!」
黒い甲冑を来た騎士の集団がリッチキングを止める。
「クッ、こいつらもゴーレムかっ!!」
人型ゴーレムの発展型として制作したゴーレムだ。
騎士型ゴーレムは数体でリッチキングの猛攻を防ぐ。
「だが、この程度ではワシを倒すまでは行かないぞ!!」
「では私の出番ですね」
騎士型ゴーレムの隙間をぬって、エメがリッチキングへと奇襲を仕掛ける。
「グオオオオオッッ!時間稼ぎであったか!」
もちろんあいつがアンデッドを召喚し続けてた間に、俺はエメの背中の傷を直していた。
「舐めるな、人間!!ぬぅ!何!?」
リッチキングの反撃を騎士型ゴーレムが受け止める。
「どこへ行ったぁぁっ!?」
「ここですよ!」
再度、背後から奇襲をしかける。
「グオオ!!お、おのれぇ!!」
例え強敵と言えど、集団を相手にしていては状況をひっくり帰すのは難しい。
防御はゴーレムが。
攻撃はエメが。
この連携によって、俺らはハノンの街でも強敵を相手に戦い続けた。
「ワ、ワシが、こんな所で!」
「終わりですよ」
「舐めるなぁ!!」
リッチキングは最後の反撃と言わんばかりにエメの奇襲を受け止める。
それを見逃すまいと騎士型ゴーレムが攻撃をしかけるが、こちらも防ぐ。
「ワシは!王であるぞ!再び我は、我が国は再起を図るのだぁぁ!!」
「やらせねぇよ!!」
俺は真上から剣を振り下ろす。
必死の思いでエメ達の攻撃を防ぎきったリッチキングは俺の攻撃に反応出来なかった。
攻撃が当たると同時に[火魔法]を発動する。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
リッチキングは俺の攻撃によって、頭から胴体まで切り裂かれ炎に包まれた。
アンデッドになったとしても王の意地なのか、倒れまいと剣を支えにしゃがみ込む。
「み、見事だ、冒険者」
「終わったんだよな…」
「カカ…、左様。もうワシは立ち上がれぬ…」
「そうか…。あんた、今まで戦った敵の中で一番強かったよ」
「ワシより、…強い奴など、まだまだおるわ…」
リッチキングは炎によって、徐々に朽ち始めていく。
「…名を、聞かせてくれ」
「アインだ」
「エメと申します」
「…アイン。…エメ。さらばだ」
そう言い残すとリッチキングは自身の装備していた大剣と王冠、魔石を残すと消え去った。
見ると墓標の立ち並ぶこの空間が徐々に歪み始め、それが収まると2階層目までと似たような大広間へと変えた。
広間の中心に報酬が溢れ、奥には魔法陣と見たことのない大きな魔石のようなものが祀られている。
おそらく、あれがダンジョン核だろう。
俺は報酬を確認し、自らのアイテムボックスへとしまう。
最後最後でかなりの接戦を強いられたが、得られた報酬はでかい。
リッチキング、奴のSランク魔石に大量のAランク以下の魔石。
その他にも魔導具や古代の金貨に宝石など。
来てよかったと、ボリス男爵達に心の中で感謝をすると。
ダンジョン核に手をつけずに、俺は魔法陣の上に乗った。