表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/67

013_復学

再会ですの!

「おお、アイン!まさか生きて会えるとは…!あの後、必死に探したのじゃが死んだという噂が」

「あー、そういう事になっていたのか。良かった、俺に会えた事でびっくりして死なれたらこっちも寝起きが悪いな」

「にしても、アイン。雰囲気が変わったの?前はもっと純真な感じだったのじゃが。冒険者をやってると素行が悪くなるのかの?」

「そういう事にしてくれ」


今日、俺がやってきたのは魔導学校だ。

ボリス男爵の図らいで復学の許可を出してもらった。

わざわざ戻る必要があるのかと思うとこだが、理由がある。

交換留学だ。

俺はハノンの街にいた時、帝国の情報収集は欠かさなかった。

聞いた話では、帝国が王国と交換留学をやりたいという話だ。

帝国による再三の王国への侵攻と奇襲。

これは本意ではないと。

それを見せるために、交換留学を行い分かってもらおうという事なのだ。

だが普通であればそんな話を王国は断る。

それで帝国が出した条件が、継承権1位である皇帝の第1皇子を王国へ留学させるというのだ。

事実、これは帝国からの人質だ。

そして帝国は王国に対して王族や名家の者を出せとは言わなかった。

これは時間稼ぎになると条件を飲んだのである。

ウッドベア王国では各学校より、騎士学校から3名、魔法学校から3名、魔導学校から2名を選抜する。

俺は何としてもその選抜に選ばれ、帝国の内部で色々と情報を探りたい。


思い入れはないが、久しぶりの母校の廊下を歩き教室を目指す。

進級しているはずなのだが、俺の実力を買われたのと懐かしい級友にも再開したいだろうという男爵の好意により昔のクラスのままだ。


「嫌な事思い出すか、エメ?」

「いえ、あの時のマスターは何があっても笑っていらっしゃいました。私にとってはいい思い出です」

「そうか…」

「ですが、今の、目的を見つけ邁進するマスターも好きです。何があろうとも、マスターの側にいます」

「ありがとう」


クラスの扉を開ける。


「誰だ、あいつ?クラス間違えたのか?」

「結構なイケメンよ!」

「どっかで見たような」


はぁ、相変わらずの能天気ぶりだ。

というか、先生が来るまではここで待たなくちゃならないのか。


「あ、あなた、もしかしてアインですの!?」

「アインだって!?あの何してもヘラヘラしてたあいつか!?」

「アインって、死んだんじゃ…」


俺がアインだと一番に叫び、近づいてきたのはかなりの美少女だ。

いや、こいつはまさか。


「ロザミアか?」

「やっぱり、アインですわ!!」


ロザミアは俺へと抱きついてくる。


「お、おい。確かにアインだけど、いきなり抱きつくって」

「あなた!本当にどこにいらしたの!?お父様に頼んで調べましたのよ!ですが、あなたは死んだと!」


ロザミアは俺の胸の中で泣きじゃくりながら、喚く。


「いや、俺はこうして生きてる…っていうか流石にこの雰囲気はいい気まずい離れないか?」

「ご、ごめんなさい、わたくしとした事がごめんなさい」


ロザミアだけが唯一、このクラスで友達と呼べた存在だ。

嫌な事が多かったが、懐かしくさせた。


「お前、本当にアインなのか!?何ていうか全然違うじゃないか!つか、その後ろの美少女は誰だよ!」

「ったく、何度もアインだって言ってるだろ。それと、エメ。自己紹介してやれ」

「お久しぶりです、皆さん。私はマスターのゴーレム、エメです」

「なっ、この美少女がエメ!?エメって、あのガラクタ人形だったゴーレムだろ!!」

「ガラクタとは失礼ですね。あれでもマスターが精一杯作ってくださったボディです。侮蔑として仰ってるなら、それ相応の覚悟をなさって下さい」


クラスの中がざわつく。

そりゃそうだろうな。

ある程度こうなる事は想像していた。


「おい…って名前覚えてないけど。エメを怒らせるなよ?こいつは俺より強く、Sランク冒険者を相手に十分戦えたんだ。殺されるぞ?」


名前のわからんクラスメイトの顔が青くなる。


「Sランクって、伝説級の冒険者だろ?嘘だよな?」

「アインって、、、最近冒険者で噂になってるって聞いたけどあいつだったのか?何でも帝国のスパイを見つけ出したとか」

「まさか、Sランク冒険者のギルド長と本気で戦ったって聞いたぞ」


ざわざわとどよめきが大きくなっていく。


「はい、皆さん。静かにして下さい。授業の前に懐かしい…って、あなたは。まさか、アインさんですか?」


またもや懐かしい顔だ。

自分の保身だけは必死に守る古狸の先生だ。


「そうだ」

「お、驚きました。ずいぶん雰囲気が変わりましたね。それに背も大きくなっていたので気付きませんでした」

「いいから、先生。本題に入らせてくれ」

「本題?その後ろの方は?」

「エメだ。俺のゴーレム。昔、制作物は持ってきていいと言っていただろ?」

「は、はぁ、そうでしたね。それで本題とは?」

「特待生制度。それをさせてくれ」


特待生制度。

優秀な人材を育てる為に、より自由な環境で勉学に励んでもらう制度だ。

それに選ばれれば、授業に出なくて済み、課題をこなせば単位がもらえる。

また学校の空き部屋を自分だけの工房として使う事が可能になる。


「アインさん、あなたがいない間に何があったか分かりませんが訳の分からない事を言わないで下さい。こうしてクラスメイトは足並みを揃えてがんばってるのです。ロザミアさんみたく、優秀な場合を除き皆と同じく規律の中で成長する事もこの学校の本文です」

「あー、そういうのはいいから。ちなみに学長の許可ももらってる。あと、ボリス男爵からも推薦は受けてるんだ」

「なっ、学長。それに男爵ですって?あなた、いない間に悪知恵でも身につけたのですか?男爵の名前まで出して、それが嘘なら最悪退学もありえますよ!」


無難に、問題なく事を進める。

それがこいつのやり方。

はみ出し者がいれば、あしらい邪険にする。


「マスターは嘘を言ってません。それに生徒を信じず疑ってかかるのはどうかと、僭越ながら苦言を呈します」

「な、なんですか、あなたは!!ゴーレムなどと、言って奴隷でも調教してそう見せてるだけなのでしょう!」

「奴隷とはひどい。差別発言じゃないんですかね、先生。ちなみに俺は嘘を言っていない。あー、それと、昔先生の出した課題を提出したら受け取ってもらえず代わりに掃除しろって言われたのを学長に話したっけ。あの温厚なじいさんが珍しく顔を真っ赤にしてたな。今なら記憶違いで言い直せるかも」


先生は顔を真っ青にすると自習を皆に言い渡し、教室を出て行く。


「お、お待たせしました、アインさん」

「ほほほ、どれ、久しぶりにワシも見学しようかのう」


またもや教室にどよめきが走る。


「すまんのう、みんな。ちぃーっとばかし静かにしてもらえるかの?では頼んだぞ、ダーヌ先生。ワシは見てるだけじゃから」

「は、はい。そ、それではアインさん。試験を行います。何でもいいです、魔導具であれば見せて下さい」

「ああ、任せてくれ」


俺は用意していた魔石と素材を取り出す。


「"emeth"」


錬成陣からゴーレムの姿が現す。

昔、ここで課題を出された時に作った手の平サイズのミニゴーレムだ。

今ではもっと小さいミニゴーレムを作れるがこいつには色々と性能を強化している。


「こ、これは昔にあなたが作ったゴーレム…」

「先生、こいつに魔力を与えてやって下さい。いつもなら俺が与えるんですがここは先生がやってもらった方がいい」

「魔力ですか?試験ですから、魔導具としての性能を試します」


先生はミニゴーレムに魔力を送る。


「マスターを承認。マスターの情報を登録しました」

「ゴーレムが喋った!?」


まぁ、俺の横にも喋る少女のゴーレムがいますが。


「まぁ、それだけじゃないさ。ステータス開示」

「サブマスターの認証を確認。マスターのステータスを開示します。


名前、ダーヌ・シトロン。

区別、平民。

年齢、43歳。

職業、魔導技師。

Lv.、18。

HP、153/153。

MP、89/89。

力」

「ちょっ、やめなさい!!」

「マスターの命令を確認。ステータスの開示を中断します」

「まぁ、他にも大した事はないが…」


俺はミニゴーレムに銀貨1枚を預ける。


「そいつを保管だ」

「了解」

「ミニゴーレム、残高は?」

「サブマスターの命令を確認。残高は銀貨1枚です」

「ほっほー、こいつはおもしろい!喋るだけでなく、金庫にもなるのか」

「ア、アインさん、ホントですか!?金庫?いやしかし、もしや…アイテムボックスにも」

「まぁ、金以外にも預けられるがそっちの性能に特化させているから、余り物は預けられないな」

「そ、そんな馬鹿なこんな魔導具が…。いや、ゴーレムが…」


先生はミニゴーレムに衝撃を受けて、口が半開きのままジロジロとミニゴーレムの観察を続ける。


「ほっほっほ、どうかなダーヌ先生?」

「は、はい…。アインさんは問題なく優秀な生徒かと。わ、私でもこのクラスの魔導具の生成は」

「つまりは合格でよろしいかな?」

「は、はい…」


先生は複雑な表情で俺に合格を言い渡した。

これで学校に縛られず、好きに活動できる。

あとは交換留学の選抜になれるよう、適度に魔導具を提出すれば良い。


「あ、そうだ、先生。そいつは上げるよ。ただ色々と性能が良いから無くさないように。そいつとあんたが離れすぎると爆発するよう設定してある」

「ば、爆発ですか?」

「技術の秘匿の為だよ。この街の範囲ならまず爆発ひ起こさないから安心してくれ」

「な、なるほど、盗人に取られて、他所の街へ持ち出せば爆発するって事ですかね」

「そういう事だ。爆発すると中の金も無くなるから気をつけて」



----------------------------------



交換留学の選抜まであと半年。

俺は割り当てられた空き部屋を急ピッチで自分の工房へと改造していた。

ほとんどの作業はゴーレムに命じてやらせている。

ジジイの工房を使っても良かったのだが、良くも悪くも思い出がありすぎてそこを使うのはためらった。


「マスター、客がいらっしゃいました?」

「客?一体、誰だ?」

「わたくしですわ!」


ずんずんと奥へやってきたのはロザミアだ。

こういう強引さは昔と変わらないな。


「ロザミアか、何か用か?あれ、というか授業は?」

「わたくしも貴方と同じ、特待生ですのよ」

「そういう事か」

「それでアイン。い、今はお忙しいかしら?」


ゴーレム達の進捗状況を確認する。

まぁ、順調にいっているな。

今は昼過ぎだから、夕方までには工房は完成だろう。

それまではやる事ないし。


「いや、大丈夫だ」

「で、でしたら、わたくしに付き合って頂けませんかしら?」

「あー、いいぞ。どこへ行く?」

「そうですわね…。街へ出ましょう」




俺はロザミアに連れられ、街をゆっくりと散策する。

まぁだった2年では街並みは大きく変化していない。

だが、2年前の俺は学校と家の往復しかしてこなかったので、こうして街を堂々と歩くのは新鮮だ。

ロザミアは自分の好きな店に連れてってくれたり、露店を物色や美味しそうな物があればそれを買って食べ歩きをした。

って、これはもしかして…と思ったところで、街の中心である噴水へと辿り着く。

ちょうど夕方にさしかかり、往来は帰路に着こうと街から喧騒を失わせていく。


「これってもしかして、ただ俺と出かけたかったって事か?」

「ま、まぁ、そうですわね。こうしてアインと久しぶりの再会を楽しみたかったのですわ」


うーん、俺の記憶だと二人で出かける仲だったかと少し疑問に思うが、確かに唯一の友達と再会出来た事は嬉しい。


「本当にあなたが生きていて良かったですわ…。あの時は思わず取り乱してごめんなさい」


そう、伏目がちに髪を掻き上げる仕草に少しドキッとしてしまう。


「いやこっちこそだ。…その、昔の俺にとって友達だと言えたのはロザミアくらいだったし」

「本当ですの?」

「ああ、嘘じゃない。当時、俺を見ていてくれたのはロザミアとジジイくらいだったな」

「ゼペットさんですわね。あれから、何がございましたの?その…2年前と比べるとだいぶ変わったというか、男らしくなったというか」

「色々あった俺は隣街で冒険者として何とか食っていたよ。まぁ、うまいことゴーレムで戦う術を身につけられたし」

「噂は本当でしたのね、アインが冒険者をやっていたというのは…」

「その噂というのは知らないが、本当の事だぞ」


ロザミアなりに俺の事をずっと気にかけてたんだな。

何かを吹っ切るようにロザミアは大声を張り上げる。


「そ、そのアイン!わたくしに出来る事がありましたら、何でも言ってくださいませ!貴方はわたくしの友人、かつて救えなかった分も合わせてわたくしが今のアインを手伝いますわ!!」

「…いや、その気持ちだけで十分だ。俺には色々やるなくちゃならない事がある」

「それをお手伝い致します!」


何かの冗談かと思ったがそうでもなさそうだ。

気持ちはありがたいが、俺の復讐は俺のものだ。

俺の想いを理解しあえない相手に手伝って欲しくはない。


「ロザミア、俺はお前にまた会えた事に感謝している。だけど、俺が目指してる物はお前が想像し得ない昏く、深い道の果てにある物だと思ってる。全うに生きているお前に、その道へと突っ込ませたくはない」

「その道というのは分かりませんが、わたくしがあなたの為に役に立ちたいのです!」

「なら、はっきり言おう。ロザリア、君の手伝いなどは不要だ。俺は自分の道を進む、誰かと共に歩む事なんて考えていない」


唯一の友達。

そう思ったから、心苦しくてもあえてキツイ言い方をした。


「………ゃですわ」

「え?」

「いやですわ!!わたくしはアインをもう二度と失いたくありません!そんなことで諦めると思わないでくださいませ!」

「そうじゃない、そういう事じゃないんだ!」

「今日は帰らせていただきますわ。また明日、学校でお会いしましょう」


そう言ったロザミアはスタスタと帰っていく。

ここで追えば、余計な期待を持たせてしまう。

何故、そこまで俺にこだわるんだ。


それが理解できない俺は、完成した工房でぼーっと考える事しか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ