011_黒幕
「止まれ!!何用だ?ここはボリス男爵の邸宅だぞ!」
ボリス邸の衛兵に止められる。
得体の知れない人物と、大男程もあるゴーレムが二体も並んでれば止められるのは当たり前だ。
「失礼、俺は冒険者をやっているアインと申します。街の治安に携わる事、出来ればボリス男爵にお目通り願いたい」
「街の治安だと?アポがなければ会えないという事は平民でも知ってる事だぞ」
「ええ、それは了承した上での不躾なお願いでございます。この件は帝国が絡んでおります」
「何?帝国だと!?」
さすがの衛兵も帝国と聞けば、動かざるを得ない。
どうすべきかと衛兵は他の衛兵に相談している。
「しかし、その話が本当かどうか…」
「失礼、アイン様でよろしかったでしょうか?」
「はい、アインで合っております」
やってきたのは執事風な男だ。
早々に帝国という名前を出しておいたのは正解だった。
「執事長!?」
「この件は、旦那様が直に耳に入れたいとのこと。私へと引き継いでくれますね?」
衛兵達は執事長へと敬礼すると自分の持ち場へと戻っていく。
よし、これでこの街の闇は全て明るみに出る。
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数日前、タージュを捕らえた時の事だ。
こいつは帝国の間者でありながら、何故足がつくかもしれない人身売買をやっていたのか。
まぁ、話を聞けばこいつ自身が下衆の部類だ。
好んでやっていたとこはある。
だが任務を帯びてる人間がそれをやるのか。
答えはタージュ自身が答えてくれた。
売った奴隷の大半は帝国へ送っていた。
ここ、ウッドベア王国では奴隷制こそ禁止されていないが奴隷の扱いはかなり厳密だ。
奴隷自身も奴隷を売買する人間も身元は確認され、記録される。
国として奴隷制は廃止出来ないものの、それをしっかりと管理している。
だが、それでも抜け道はある。
好色の金持ちや貴族に直接売る方法や、あとは外国へ連れて行く事だ。
『風の手』はそのどちらもやっていた。
自分達で好色の金持ちの伝手を持ち、帝国へ連れて行く奴隷達はタージュがある商人を介して帝国へと連れて行かれていった。
ミニゴーレムのおかげで、偶然にもその商人を見つける事が出来、そいつの情報集めているとある事に気付いた。
国をまたがる行商人は身元チェックはもちろん積荷のチェックが入る。
帝国への国境が近いウィレームの街ではその辺は徹底している。
だが、そいつだけはほぼパスで街を出入り出来る。
その商人は冒険者ギルドの連絡員だった。
連絡員の正体は冒険者はもちろん、ギルドの職員さえも知らない。
知るのはギルド長もしくは副ギルド長だ。
明らかに違法な奴隷を引き連れているギルドの連絡員。
ここウィレームの街の冒険者ギルドのトップが見逃すはずはない。
だが、それを暗黙していたら?
ウィレームの冒険者ギルドのギルド長は老齢の為、ほぼ動けていない。
つまり副ギルド長こそが全てを把握して黙殺していた。
おそらくそいつも帝国の間者の一人の可能性が高い。
俺はエメに見張るようお願いしていた。
何かあれば、すぐに連絡を寄越すよう伝えてある
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「確かに筋は通ってある。実行犯も捕まえ、証人もいる。あとはその黒幕か…」
俺は無事にボリス男爵へとお目通りが敵うと、『風の手』の件や例の黒幕について説明していた。
ボリス男爵は一代で貴族へ成り上がった元軍人だ。
軍人として規律に、貴族への立ち回りのうまさが評価されその地位を得た。
こういう背景があるからこそ、ギルドではなく街を統治している男爵に判断を任せようと思ったのだ。
「ええ、副ギルド長ですよ」
「しかし、その男だけが今の所証拠がない。それに例の商人に扮した連絡員もギルドの連絡員だからこそ我々が捕らえれば厄介な事になる」
「でしょうね。だがあっちから動けば別かと?」
「確証があるのか?」
「手は打ちました。これに釣られれば黒幕である可能性は高いでしょう」
新人の失踪や商人の殺害など本来はギルドとして放置してはいけない問題だ。
イリスを使ったのだ。
彼女のダンを想っていたとはいえ、それを受付嬢である彼女は現場判断で潰していたのである。
当然、彼女も沙汰は逃げられないだろう。
だから、俺は身内に理解してもらえるよう話したほうがいいとあえて時間を与えたのだ。
事の真相を街の長である男爵が知る以上、彼女自身の言及は免れないが気持ちの問題だ。
こうなった時の女性は何が何でも味方を作りたがる。
ある事ない事言って、自分を嵌めたダン、ひいては『風の手』をこき下ろすだろう。
噂が回るのは早い。
そして噂は副ギルド長も耳にするだろう。
その時、もし彼が街から出ようとすれば自身が黒幕だと伝えてる事になる。
「そんな事を仕込んだのかお主は!?」
「ええ。彼が黒幕なら必ず捕まえますよ、必ず」
副ギルド長が帝国の間者ならば、俺はそれを許す訳はない。
目の前の『風の手』も自身の手で裁きたかったが、俺の大事な物を奪っていった帝国への憎しみの方が深い。
そう…捕まえてやる、必ず!!
丁度、良いタイミングでエメから連絡が来る。
俺は思わず、口角が上がっていただろう。
「どうやら動いたようです」
「ここにいて分かるのか?」
「ええ、一種の念話みたいなものです。見張りをしている者となら意思疎通が取れます」
副ギルド長がギルドを出た。
向かっているのは街の外。
帝国へと通じる入り口だ。
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「どこへ行くんだ、副ギルド長?」
「おやおや、どちら様でしょうか?冒険者の方ですかね、こっち方面のクエストは発行していないはずですが」
エメの連絡を受け、急いでボリス邸を出た俺は副ギルド長に追いつく。
追い詰められている自覚がないのか、副ギルド長はずれたメガネを直しながらこちらへと振り向く。
「冒険者…ですか?やはりここ最近の動きはあなたが原因ですかね?」
「やはりな。お前がウィレームの街で暗躍していた黒幕という事か」
「ふふふ、どうやって調べたのか分かりませんが見事なものです。名前を聞いても?」
「アインだ」
「そう…、そうでしたか、あなたがアインですか。ハノンの街では活躍だったとか?ククク、しかしその諜報能力は見事です。どうです、私の側についてくれれば重用致しますよ?」
「バカか!何で俺が帝国へと組みしなくちゃいけないんだ!?」
「おやおや振られましたか」
「…貴様、あの時の事を知っているのなら話せ」
「あの時?」
「2年前のウィレームの街の襲撃だ!」
「ああ、あれですが。実は私も困っていましてね。残念ながら、あれは帝国のどの部隊も関知していないのです」
タージュの言っていた通りだ。
あれは帝国ではなかった…のか。
「ククク、しかしここにいるのがあなたで良かった。徒党で来られていたら、口封じも面倒ですからね」
「余程、余裕があるみたいだな」
「ええ、あなた一人を殺すのは造作もないという事ですよ」
気付くと副ギルド長は、俺のすぐ目の前で拳を構えていた。
「なにっ、早い!?」
剣を構えようとするが間に合わない。
何とか腕で防御をするが、奴の拳で防いだ左腕の骨が折れる。
「ぐあぁぁぁ」
「おや、私とした事が」
奴は俺に見せつけるように手袋を外す。
その両手は毒々しい色へと変色していた。
その仕草の隙に俺は折れた腕を回復させる。
ゴーレムでのスキル付与した魔法は詠唱がいらない。
正確には付与されたゴーレムで詠唱を行っているので俺が詠唱を唱えなくて済む。
見せかけの無詠唱だ。
「どうやらあなたは回復職としての素養がおありのようだ。それも無詠唱とは」
「さて、どうかな?」
「申し遅れました。私は『毒喰』のルギウスと言います。私のスキルからこのような二つ名を賜っております。得意な事は殺人。それも一対一での」
奴に[鑑定]を発動する。
【ステータス】
名前:ルギウス
年齢:36歳
職業:暗殺者
Lv:48
HP:934/934
MP:368/368
力:356
体力:289
早さ:687
魔力:212
運:87
【装備】
道着
アサシンブーツ
【スキル】
『毒喰スキル』
[格闘術スキル 7][隠蔽スキル][隠密スキル][回避スキル][気配スキル][韋駄天スキル]
強いな…。
俺の方が弱ステータスだが、正面での打ち合いではこちらの方が分が悪すぎる。
いくつか持っていないスキルがある。
[見切り]で収集しよう。
しかし、『毒喰』か。
名前の通り、毒に関連するのだろうが。
固有スキルである以上、[見切り]では収集出来ない。
「『毒喰』か…。厄介そうだ」
「まぁ、そうでしょうね。自身で受けた毒を治癒し、自身の中で保有するというものです。毒と言っても色々種類があるのですよ、単純に毒素を与えるものや、麻痺毒、致死毒。あー、そうそう幻覚を見せる毒なんかもありますね」
「ご説明どうも」
「私の戦い方はどうしても格闘戦に頼らざるを得ませんからねぇ。話さない所で戦い方が変わる訳じゃありませんから」
俺はアイテムボックス型ゴーレムから腕輪を取り出し、装備する。
[毒耐性スキル]が付与された腕輪だ。
もちろんこれもゴーレムだが。
「ふふふ、準備はいいですかね?」
「ああ、長々とご説明どうも。こっちも準備が終わってるよ」
片手剣ゴーレムの魔法の詠唱が完了している。
「ストームブレード!!」
「魔法使いでしたか!?」
風の刃がルギウスへと遅いかかる。
しかし、間一髪のところで避けられてしまう。
「すいません、私は速さが取り柄ですからっ!」
言い終わると、俺への距離を詰めてくる。
次の魔法の詠唱に入るが、間に合わない。
「喰らえっ!!」
「くっ!」
こっちもすんでのところで盾を取り出し防ぐ。
「器用な方ですね、あなたは!?」
背後に回り込まれるが、それも防ぐ。
「あるもの全てを使って、倒すしかないからな!残念な事に俺は戦いの才能が振られなかったんだ!」
何とか反撃の一手を見出し、剣を振る。
「くっ」
奴が躱したのを見て、俺は次の魔法を発動させる。
「フレイムウェーブ!!」
炎の波がルギウスを飲み込む。
だが、奴は炎の波に飲み込まれる瞬間に飛び上がり、炎を躱す。
「ちっ、これも避けるか!」
「見誤りましたね、魔道具使い?でしたか。びっくりさせるならこっちも見せましょう!」
上空へと飛び上がったルギウスは俺へと距離が離れているが、拳を振る。
放たれた拳からは毒々しい魔力が飛ばされる。
「毒の魔力弾!?」
奴の攻撃に驚かされるが、何なく盾で防ぐ。
地面へと着地した奴はまたしても接敵してくる。
「中々、楽しめましたよ、アイン君!!」
「それはこっちの台詞だ!!」
奴の拳を盾で防ぐ。
バリンッ
盾が破壊される。
「バカな!!?ミスリルを含んでるんだぞ!」
「先ほど投げたのは腐食毒という特殊な毒でしてね、金属をダメにさせるんですよ」
「クソッ!!」
俺は奴の拳を片手剣で防ぐ。
「ぐっ」
拳を魔力強化してるのであろう、剣ではダメだった。
そして盾を失った俺は防ぐ術がない。
「ぐああああぁぁぁ」
攻撃を防いだ手は俺、毒々しい色に変色している。
「君にあげた毒ですが、麻痺毒です。口は喋れますよ?そこも奪っちゃうと悲鳴が聞こえませんからね、ククク」
奴はやっと俺が殺せると喜んでいるのだろう。
それも長年あいつが収集した毒を駆使して、自分が楽しめるように俺を殺すのだろう。
「残念だが…終わりだな」
「えぇ、そうですよ」
「違うよ、お前のだよ?やっぱり俺は弱いな…」
「何を言ってるのですか、頭が変にでもなりましたか?」
「違う。最初から俺らが追いついた時点でお前は負けていたんだ。だって俺はあいつに勝った事ないし。あいつが負けたとこを見たことない」
「まさか…!!」
「頼んだよ、エメ」
ルギウスの背後には少女が立っていた。
その少女は表情を一切、動かさずその敵だけを見ていた。
「了解しました、マスター」
しばらくは毎日更新を目指す予定です。
仕事やプライベートが立て込んだ場合は追って、更新をするつもりです。
日々、ご愛読してくれる方が増えているのが何よりの楽しみです。
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