18話 大将とラーメンを考える6
一方その頃――ガンドル陣営の油そば屋本店。
内装もまた日本の割烹料理屋のような雰囲気を出した店は、常連客にも評判だった。
白装束の店員達。
皆、オーガやオーク、獅子獣人といった、とにかくマッチョな見た目の種族が揃っていた。
「てめぇら! お客様がご来店されたら!」
『いらっしゃいませ!』
「お帰りになられたら!」
『またのご来店をお待ちしております!』
「迷惑客の対応は!」
『ゴミ箱に詰めろ!』
「よーし。今日も朝礼始めるぞ」
城下町、下町に合わせて既に8店舗ある油そばの店。
油そばは、何より優れたコストパフォーマンス。麺さえ茹でられたら、ラーメン屋ほど調理のスペースはいらない。
さらにチャーシューなどの具材、基本となるタレは全て本店で作られ、店員によって各支店に配送されるセントラルキッチン式なので、例えば調理スペースの狭いバーの居抜き物件でも営業ができる。
そうやって隙間物件を狙い、さらに男性客が多く見込めるような場所へ開店していった。
これらは全てガンドルの知恵――では無い。
「よーお疲れ様。元気にしてる?」
扉を開けて入って来たのは、かなり小柄な女性だった。
茶色い天然パーマの入った髪、パッチリとした瞳の幼い顔立ち。
紺色のジャンバーと、白いパンツルックなズボンだが――背丈のせいで子供服にも見えてしまう。
ガンドル達は威圧感しかない大男達で、その中に入るとそれだけで見えなくなってしまいそうだ。
『モナカ姐さん、お疲れ様っす!』
「これはモナカの姐御。最近顔見せなかったけど、どうしてたんですかい」
いつも誰にでも高圧的なガンドルだったが、彼女の前では腰を屈めて対応する。
適当な椅子に座ると、足を組むモナカ。
「いやー。転属になるからって引継ぎの書類作らんといけんわ、その間も業務をこなさないといけないし……なんとか目途は付いたから、こうして合間に様子を見に来たのよ」
「な、なるほど」
「なんか町の方で配ってたけど、りおらんがふぇす? ってのに出るんだってね」
「へい! 姐御にご相談しようとも思ったんですが、全然いらっしゃらないので……ウチで出る事を決めた訳です」
「いいんじゃない? 面白そうだし……なんか女を取り合ってどっかとバトルするんだって?」
「……そこに書いてある通り、ガルドっていうオレの元弟弟子がいるんですが……そいつに奪われた女を取り返す! そしてオレの方が正しかったと、バルドの奴に――」
「――ふーん。身体は大きいのに、ケツの穴はみみっちいのね」
「みみっ――」
「まぁいいわ。そういう事なら、色々手伝ってあげる。勝負なんだから、絶対勝ちなさいよ」
「そ、それはもちろん!」
「よーし。じゃ、今日はそこの彼ッピを借りようかなー♪」
「え、あ、ボクです?」
「お名前はー?」
「アランと言います……」
モナカが指差したのは、獅子獣人。
立派なタテガミと、割烹着からは分厚い胸板、ムキムキの腕が飛び出している。
ちなみに彼は15歳――最近入ったばかりの若手の店員だった。
「……お前は今日、彼女に着いて、彼女の要望通りにするんだ。いいな」
「はい……」
「さーて。ちょっと今日はアクセサリーショップ見て回ろうかなー」
ウキウキしながら地図を開く彼女を尻目に、男衆は深いため息を吐くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
店を出てから、地図と道をにらめっこしながらモナカは呟く。
「さーて、この先を曲がるんだっけな」
「姐さん。アクセサリーショップとかある通りはそっちじゃねーっすよ」
アランは彼女が向かおうしている方向とは、別の方向を指差す。
「――このバカっ! アクセサリーショップなんて後でいいんだよ」
予想外の言葉に、アランは驚く。
「えぇ!? じゃあどこに行くんですかい」
「決まってるだろ。ガンドルのライバルって言う奴の、敵情視察だよ」
「えぇ!?」
「アタシと新人君なら顔も割れてないだろうし、丁度いいだろ」
「な、なんでボクが新人って分かったんです? 確かにボク、まだ入って3日ですよ」
「タテガミの長い奴はヒモで縛っとけって言うの全然徹底できてねーし、爪も長いままだし……まだ日が浅いなーって」
その言葉に「あっ」って自身のタテガミを触る。
「す、すいません……」
「いいんだよ。これから頑張って覚えりゃ。それより、一応カップルのフリしてた方が怪しくないしさ――行こうぜ彼ピッピ♪」
「ぴっぴ?」
「あと人前で姐さんも禁止ね。ちゃんとアタシのこと、モナカちゃんって呼んでね☆」
「モ、モナカちゃん」
「はーい♪」
モナカと獅子獣人のアランは腕を組み、市場へと続く道を歩いていく。
果たして、フェスの行方はどうなるのだろうか――。
続く。




