18話 大将とラーメンを考える5
朝帰りしてからひと眠りして時刻は昼。
親方さんのレシピを持ち出す訳にはいかないので、スマホで撮影して持ち帰って来た。
「どのページにもそれらしい事は書いてない……。でも、奥さんが日本人だったなら、何かそこにヒントがあるか」
起きてからもずっと考えているが、寝起きである事もあって全然頭が働かない。
そうこうしていると、スマホから軽快なBGMが流れ出す。
表示されている名前は――後輩の村上だ。
「はい、小田中です」
『もしもし? あっ小田中さん。お休みの所、申し訳ないっす』
電話の内容は業務についての簡単な質問だった。
『実は仕事で小田中さんの住んでる所の、駅の近場に居るんですよ。昼まだでしたら、ご一緒しません? この間のお礼に奢りますよ』
「……わかった。じゃあ駅前のコンビニで」
『了解です』
こうして部屋で考えていても仕方が無い――気晴らしにもなるだろう。
◇◆◇◆◇
「この辺りってどんな飯屋があるんです? やっぱ路地裏とかにあるんですか?」
「さて……」
この辺りはチェーン店の牛丼屋やカレー屋、喫茶店などは多いが、飯を食べるとなると――。
と、思案している所に、村上が道路の向こうを指差す。
「アレなんかいいんじゃないですか! 凄い行列できてるし」
「アレは……」
そこは先週オープンしたばかりの、ラーメン屋だった。
ビルの1階に入っていて、真新しい暖簾が風にたなびいている。
「並んでるって事は、多分美味しいですよ。あそこにしましょう」
「じゃあ、まぁ並ぶか」
朝方までラーメンの試作を食べていたので出来れば避けたかったが、まぁいいか。
道路まで漂ってくる匂いからして、豚骨ラーメンのようだ。
「へぇー、豚骨かー。そういえば小田中さんって九州出身でしたよね? やっぱ向こうは豚骨ばっかなんです?」
「博多とかはそうだけど、俺が住んでたのはもっと山奥だからな。豚骨以外にも色々あったぞ」
そんな雑談をしていると、割と早めに行列が消えていく。
「あんま待たなくて良かったですね」
「そうだな」
店に入ってすぐ右に券売機があるようだ。
俺は中華そば頼む。村上も中華そばと――。
「寿司なんて珍しいっすねぇ。これも買っちゃおっと」
「寿司?」
確かに券売機の右下に、“はや寿司”と書かれた見慣れない名前の寿司が書いてある。
「らっしゃい。そば2つと、はや寿司ね。ここから取って下さい」
「目の前に置いてあるんだ」
券売機の目の前の席が空いていたので、そこへ2人座る。
店内はカウンター席10席と、テーブル席が2つ程度の狭い店だ。
カウンターには先ほどの寿司が、並べて置かれている。買えばここからすぐに取っていいそうだ。
「先に食べて見るか……おお、これって押し寿司なんっすね」
他人が食べているのを見ると、凄く気になる。
俺がすぐに後ろの券売機で再び購入。それを店主へと渡す。
「あいよっ。兄さんもそこから取ってね」
「分かりました」
四角く竹の葉で包まれていて、それを開くと――酢で締めたサバの刺身が乗った酢飯が出てきた。
2口で食べられる程度の大きさだ。
「ふむ。さっぱりとしていて、サバの風味が、美味いな」
「これ美味しいっすね。オレ、酢締めってちょっと苦手だったけど、これはそんなに匂いキツくないです」
「はいっ。中華そば、2つね」
目の前に丼が置かれる。
チャーシュー、メンマ、ネギが乗るオーソドックスな中華そばだ。
しかし若干の近いがある。カマボコが2枚乗ってあり、またスープも――。
「豚骨ラーメンじゃないっすね。匂いは完全に豚骨なのに」
濁りのある豚骨ベースの醤油ラーメンだ。
「いや、これは豚骨だ。見た目は鳥ガラのラーメンにもよく似ているけど」
「へぇー。豚骨って言えば白いのしか知らなかったなぁ」
「作り方が違うんだ。これは鳥ガラと同じように、ある程度で煮込むのを止めてる。博多みたいな豚骨ラーメンとかだと、確か骨が砕けるくらい煮込んで……」
「小田中さん?」
自分でそこまで言い掛けて、ふと閃く。
「なるほど。そうか……よし、いただきます」
「何がです?」
割り箸を割り、早速ラーメンを頂く。
トロみのある豚骨と鳥が合わさったスープが、空腹だった腹に流れ込んでくる。
「ずずっ――」
細めの麺を勢いよくすする。
スープと麺がよく絡む。コッテリ感はあるが、それでいて食べやすい味だ。
チャーシューもスープに使用した味気の無いようなものではなく、ちゃんと一から仕込んである。
トロっとした口当たりに、思わず頬も緩んでしまう。
「――嗚呼、美味い」
「美味いけど、これって結局なにラーメンなんです?」
「……和歌山ラーメンだな」
「へぇ……小田中さん、物知りっすね」
村上は感心したように呟く。
しかし、俺はそれに構っている暇は無い。
「詳しくはスマホで調べてくれ……ちょっと用事思い出したから、すぐ帰る。じゃあ、また会社で」
「え? あ、はい。お疲れ様でした」
既にスープまで完食した俺は、足早に店を出る。
大将の新しいラーメンの為のヒント、そして売り上げ勝負に勝つ為に――まずはホームセンターに向かうのであった。




