track_6 Sunday morning
去年の夏頃だったかな。夏休みに入ったか、入る前だったか定かじゃないんだけど。蒸し暑い日だった。
とにかくうちのJKたちは浮かれてて、すでに日焼けしてる。
俺たち教師は会社員みたいなもんだから、お盆以外は夏休み関係なく出勤していた。
講習や学園祭の準備、部活で学校に来るJKも少なくない。だけど、夜になると私服に着替えて遊びに行く奴らもいるわけで。
そんなJKたちを取り締まる為に、巡回することもあった。
その日はたまたま学校の巡回の当番ではなかったので、マージナルマンのメンバーと久しぶりにプライベートで飲んだ。みんな帰った後、飲み足りなかったので俺だけ一人で歩いていた。
ふとゲーセンの方に目を向けると、女性が一人、数人の男性に声をかけられていて困っている様子だった。
こんな時間に一人でいるということは、それ目的なんだろうなと最初は素通りしたけど、なんとなく見覚えのある顔だったので戻り、連れ出した。彼氏のフリをしてね。スムーズに連れ出せたと思う。
もう時間も遅いし、帰るように促したが、彼女は帰りたくないと言い出した。面倒なことに巻き込まれたくないと思い、近くのファストフード店に入りコーヒーを飲みながら話を聞くことにした。
というのも、彼女は俺のことを知っていたからだ。
「長澤先生ですよね……」
「ん? まさか君、うちのJKか?」
「……はい。一応A組の西原先生のクラスにいるんですが……成績も悪いし、存在感もなくて……すみません」
話によると、彼女はA組の西嶋美弥。勉強がそれほど得意ではないのか、英語も数学も3類なので俺は会ったことは無かった。
昔からいじめられっ子だと本人は言っていた。特に男子にいじめられてきたので、あえて女子校を選んで入ったそうだが、クラスにも溶け込めず、女子高生のノリにもついて行けないという。
自分がやることなすこと全て裏目に出てしまうことに嫌気がさして、どうせなら一人で渋谷の街に出てボロボロになってやろうと家を出た。
でも実際男性グループに声をかけられると、怖気付いて何もできない自分が本当に嫌になった。
ということらしい。
「今日は送ってやるから。帰りなさい。家はどこなの?」
「家には帰りたくありません。帰ったって、誰もいないし。私の居場所なんてないんです」
「そんなわけないだろ。君はまだJKなんだ。何があったかは知らないが、一時の気の迷いで変な行動を起こすな。もっと自分を大事にしろ」
「嫌です。今日は漫喫かカラオケで泊まります。それもダメなら先生の家に泊めてください」
「な……何でだよ。……でも今日はもう遅いし……ちょっと遠いけど、俺ん家来るか? 事情は後で聞くから」
そんな流れで仕方なく、西嶋を家に連れて帰ることになった。
とにかく相手はJKなので、ちゃんと休める寝床を作ってやって、俺は別室で寝ることにした。
〜〜〜
翌朝、西嶋をどうするかあれこれ考えていたところ、西嶋の方から話をし始めた。
西嶋の家族が家にいないのは本当だった。両親とも経営者で日本や海外のあちこちを飛び回っているらしい。兄弟も海外留学中。家族全員が揃うことは滅多にないらしい。
特に何にも興味を持たずに生きてきた西嶋だけが、なんとなく選んだ学校に入って、なんとなく毎日を過ごしているという。
「なんか、みんなキラキラしてますよね……家でも学校でも、周りが眩しくて見るのも怖いです」
A組は担任筆頭にパワフルなJKが多いから、余計に怖くなっているらしい。
「別にみんなに合わせる必要ないと思うけど? 全員が同じだったら人間味がなくなるじゃん。勉強が得意な人も苦手な人も、運動が得意な人も苦手な人もいていい。お互いを補っていける関係性を作っていけばいいんだ」
「私なんか人をフォロー出来るような力無いし……」
「西嶋……は、仲の良い友達はいるのか?」
「いるわけないじゃないですか。クラスでもいつも一人ですよ」
そうかなぁ……そんな孤立してる生徒いたか? にしやんのクラスに……。




