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Marginal Man  作者: 志藤天音
39/105

ホームステイ〜由香里編〜(6/8)

〜〜〜


 「休みの日には、家に友達を連れてきてもいいのよ」


 日本では私の親は転勤が多いからマンション暮らし。小さい頃から引っ越しを何度かしているので、転校は無かったけど友達が家に来るなんていうことは滅多に無かった。

 

 だからこのクラウディアの言葉が凄く新鮮で、凄く嬉しかった。すぐバンドメンバーに声をかけた。

 「じゃあさ、日本食作ろうよ」

 貴子が提案してくれたので、肉じゃがとお好み焼きを作ることになった。

 私はホームステイ中にファミリーに振る舞おうと、日本からお好み焼き粉とソースや鰹節などを持って来ていた。他のメンバーは日本食といったら肉じゃがでしょうと言って、このおかしな組み合わせになったのだ。

 

 必要な食材を買ってから向かうねと言われていたが、約束の時間を過ぎても来ない。まあ、もともと時間にルーズな奴らだから仕方ないけど。

 しかもファミリーも全員出かけてしまって、独りぼっちで留守番しているという謎の事態。

 心細いのもあり、外へ出て様子を見に行った。そしたら、ワイワイガヤガヤ知ってる声が聞こえてきた。なぜかメンバーとファミリーが一緒に帰ってきた。何この状況。


 公園を通って歩いていたら、そこで遊んでいたファミリーに声をかけられて、ちょっと一緒に遊んでいたという。

 ずるいんですけど。私一人で留守番してたのに。


 子どもたちと遊ぶ担当と、料理を作る担当に分かれる。恵美子と私は子どもと遊んでいた。闘いごっこは世界共通だった。家の中で走り回ってゼーゼーしちゃってた。


 「ちょっと緊急事態。醤油忘れた」

 おい。そんな大事なものを忘れるとは、さすが貴子。買ってこようかと思ったけど、クラウディアがお隣さんから借りてくると言ってくれた。昭和の日本みたいな話じゃないの。しかもお隣さん、醤油あるの? ここはイギリスだよ?

 奇跡的に醤油を手に入れた私たち。しかし今度は酒が無いと言い出す。調味料忘れがち。日本の家庭にお邪魔してると思っていたのか。

 「酒は無くてもなんとかなるのでは?」

 「そうだよ、諦めよう」

 「あの、ジャパニーズサケはありますか?」貴子がマイケルに聞く。あるわけないだろう。

 「サケはない。ブランデーじゃ駄目かな」

 「アルコールだから大丈夫かな。入れてみる?」勢いでブランデーを使わせてもらう。

 こうしてドタバタな感じで肉じゃがは完成。お好み焼きはスムーズに出来た。


 「美味しい美味しい!」

 ファミリー全員喜んで食べてくれた。


 その日の夕食にも、残った肉じゃがを食べた。なんとご飯を炊いてくれて、カレーのようにご飯にかけて出てきた。凄く美味しかった。

 マイケルもクラウディアも興味があるのか、肉じゃがとお好み焼きのことを聞いてきた。

 「ニクジャガ? どういう意味?」

 「ニクは肉、ジャガはポテトです」

 「オコノミヤキの上に乗せたのは何?」

 「カツオブシと言って、魚の……」説明出来なかったので、用意していた本をマイケルに読ませた。ちょうど日本の食材を英語で説明している本があったのだ。

 クラウディアは耳が良く、日本語を聞き取れる。ちょっと言った日本語を拾っては「どういう意味?」と聞いてくる。


 お互いに興味のあることを質問し合っては答えるという会話が増えた。英語の勉強にもなり、だいぶ英語が話せるようになったと思う。

 今までは頭の中で日本語に変換して理解してたのに、聞いただけで何を言っているか理解出来るようになっていたから。英語脳になってきたっていうことかな。


 「クラウディアさん、凄い美人だったね。女優さんみたい」「ジョージめっちゃ可愛い」「ホント由香里うらやましい」

 翌日、遊びに来たメンバーが、私のファミリーの話をしていた。自分のところのファミリーとは全然違ってうらやましがっていた。

 「昨日の肉じゃが凄く美味しかったよ。しかもさあ、ご飯炊いてくれたんだよ。マジ最高だった」

 「へえ! ご飯?」

 いきなりにしやんが入ってきた。なんか凄い疲れた顔してるのに、テンションは高めだし。

 「にしやん、寝不足?」

 「ああ、うん……ちょっとね……」

 先生って何かと忙しいんだね……。

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