軽音楽部(2/2)
そして軽音楽部の部室では、「believer」のメンバーたちがカバーする曲を決めていた。
メンバーは、ボーカルの尾形律子、ギターの中野由香里、ベースの大野恵美子、キーボードの伊藤貴子、ドラムの佐藤智美。全員A組だ。
このバンドは普段から割とよく一緒にいる。放課後も、休日も一緒に遊びに行ったりするほどだ。また、ピアノ経験者も半数ぐらいいるので、作曲も出来る。
「洋楽にする? 前回は邦楽だったからさ。うーん……ビートルズとか……どう?」律子が躊躇しながら提案する。
「りっちゃん、それってさー……マエさん意識してるでしょ」由香里がすかさず突っ込む。
律子は前田先生のことが好きなのだ。しかも結構本気で。軽音楽部に入ったのも、生徒会に立候補したのも、全部前田先生が関わっているからだ。ちなみにドラムの智美は西原先生が好きだ。
この学校には、先生に恋をしている生徒が少なからずいる。それぞれに推しの先生がいるものだ。女子校あるあるかもしれないが。
「マエさんがビートルズ好きだって聞いたら、りっちゃんすぐCD買いに行ったよね。だいぶ買ったんじゃない?」「あの曲良いんじゃない? In my lifeだっけ? そんな曲あったよね?」恵美子と貴子が次々に話し出した。このバンドメンバーだけは前田先生を「マエちゃん」ではなくて「マエさん」と呼ぶ。前田先生に対するリスペクトのつもりなのだろうか。
「りっちゃんはさ、おすすめの曲ありますか? ってマエさんに聞きに行ったんだよね。それで、このアルバムがいいよって言われたのは買ってたよね」「あー、それでCD聴いたらまた感想を言いに行くっていう作戦だ。やるねーりっちゃん。話すきっかけ作っちゃうんだ」由香里の説明を聞いて、同じく先生に恋する智美が参考にする。
「もう! 今そんな話してるんじゃないんだけど! じゃあビートルズでいいね! スコアブック買いに行くよ!」珍しくキレ気味に、そして半ば強引に律子はバンドをまとめた。
「オリジナル曲なんだけどさー、私この前の古文の時間に軽く詩を書いたからさ。家で曲つけてみるよ」本屋に向かう途中で貴子が言った。
「嘘でしょ? マツ先生の古文の時? そんな余裕あった?」あんなにみんな大騒ぎしている中で、よく他のことを考えられたなと恵美子は驚いて言った。
「別に私はマツ先生に興味ないし。でもみんなの様子を見て書いたんだ。めっちゃ青春キラキラソングになるよ」
『believer』
ノートの片隅 イニシャルが光ってる
校庭で走ってるアナタのように
今週の占い 文句なしの吉日
信じてるわけじゃないけど
勇気を出して デートに誘う
ドキドキのモーメント
初めてだよ こんな気持ち
アナタに恋してしまったの
貸してたノートの片隅に
YESの文字がピンクで光ってる
初めてだよ こんな気持ち
いつも一緒にいたいよ
まぶた閉じれば アナタの笑顔が浮かぶ
キラキラのスクールライフ
毎日がハッピーデイズ
「うわー、タカコ……やっちゃったね……アイドルにでも歌わせるつもり? 参ったよ、これは……このキラキラを古文の授業で?」
後日貴子が完成させた曲を聴いて、恵美子がドン引きしていた。
「うん、何かあの時間はこんな感じだった。うちは女子校だし校庭も無いから全部妄想だけどさ。私の恋愛のイメージってこんな感じかな」
こんなキラキラの曲を歌うのは恥ずかしいと、律子に拒否されたので、この曲を作った貴子自身がボーカルを取ることになった。
でも、これをきっかけに、自分も好きな人を思って曲を作ろうと、律子と智美は思った。




