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第十七部 肆章 4人の配属者


 冒険者ギルドの2階の一室にギルドマスターのアリアとサマエルがホワイトボードの両脇に立っている。その前には4人の冒険者が並んでいた。


 それぞれ服装も顔つきもバラバラ、この冒険者たちはこの時期に起こる異国から配属される冒険者たちだ。本来なら20人程の冒険者が来るのだが、この日は初日ということで滞在手続きが早めに終わった4人が早速今日からシャリア王国の冒険者として任務に当たってもらう。


 アリアはパンパンと手を鳴らしてホワイトボードの前に立つ。


 「ようこそ未来ある冒険者の皆様、私がこの冒険者ギルドのギルドマスターのアリア・オーガスタ・キャロル、名前ぐらいは聞いたことがある人もいると思うけれども今後ともよろしく。

 さて、君たちは全員冒険者ランクはアイアン以上だと聞いている。既に知っているかもしれないが冒険者はストーンまでは納品任務が主な仕事だ。しかし、アイアン以上になると獣退治や魔物を相手する討伐任務も入ってくる」


 討伐任務という言葉を聞くと顔を強張らせたり手に汗握りフルフルと振るわせたりする冒険者たち。


 「安心して、流石に最初からドラゴンとかに戦わせる訳じゃない。ただ、君たちの履歴を見るにそれほどの討伐経験がない。今この場に来ていない人を見ても特別目立った功績が無いのも事実……でもそれは誰もが通る道、地道に着実に任務を安全にこなしていればいつの間にか強くなって大きな戦績を残していく、私もそうだったからね。さて、そこで早速君たちに任務だ」


 アリアはそう言うとサマエルに目配せをして前に立つように促す。サマエルは少しだけお辞儀をしてアリアの横に立つ。


 「ようこそ、後輩たちシャリア王国冒険者ギルドへようこそ、歓迎する。俺の名前はサマエル・オクタ つい最近にプラチナに昇格したランクで言えばお前らの先輩だ。そして今回の依頼者兼同行者ということになる。よろしくな」


 「サマエルには予め君たちのステータスや功績を見て討伐可能な魔物をいくつかチョイスしてもらったの」


 アリアはホワイトボードに貼られたモンスターの写真をチラリと見るがすぐに冒険者たちに向き直る。


 「そして俺が今回の討伐対象に選んだ奴は…こいつだ」


 サマエルはホワイトボードの一か所を指す。そこに張られたモンスターは―


 「火山亀、知っている?知らないだろうね。生息地域も元居た地域と離れているし、うちのギルドではまぁまぁメジャーな魔物かな」


 アリアはそう言いながら冒険者たちに一枚の紙を渡す。そこには火山亀の詳細が載っていた。


 「一応それを見ながら解説していくぞ。火山亀は甲羅が火山になっている魔物だ動きはとろいが一番の脅威はその火山だ。武器だろうが防具だろうが簡単に溶ける、迂闊に近づいて大やけどする事もある。だが、それ以外はなんてことはない、これはまた後で説明するが、今回の任務はこいつがドロップする火山亀の舌の納品だ」


 サマエルは自分の舌をペロッと少しだけ見せて説明を続ける。


 「火山亀は自身の火山に対して完全に耐性を持ってはいないんだよ。だからジメジメしている洞窟や鍾乳洞に生息する。火山の噴火や熱で身を守る一方でその熱を逃がすために舌を冷たい壁や地面に突き刺して熱を逃がしている。そこを倒すと状態のいい舌が手に入る。状態がよければ上乗せ金額も多いし、マニアがいれば更に額が倍増するぞ。ただ、今回は初心者ばかりだから状態の良し悪しは問わない」


 「はいはい、任務の説明はそこらへんで後は現地で実践演習に取っておきなさい、サマエル。私は用事があるから自室に戻るからここで分かれるけど、うちのギルドには色んな冒険者用の部屋があるからそれを案内してあげて」


 「おうよ」


 アリアは後ろ手に手を振って部屋を出る。それを見送った後にサマエルは持って来た紙束を手際よく回収すると先導して歩き出す。たまに後ろを確認してついて行きているか確認する。


 「まずは一階の受付、エントランスホールだな、使用用途としてはここでパーティー募集や待ち合わせ場所、そして受付に行って注文すれば軽食くらいは出してくれる。もちろん酒もな、任務達成の打ち上げにも使われるから一番使うのがここだ」


 サマエルはスタスタと歩いて他の冒険者の邪魔にならない位置をキープしている。

 

 「右奥にあるのがお手洗いで右側が男性、左側が女性だ。二階にも大体同じ位置にあるな吹き抜けだから位置は大体わかるだろう。二階を案内する時は省くな」


 他の冒険者は一見して何もないようにしているが、プラチナの冒険者がアイアンの冒険者を連れているのが気になっているのかチラチラと様子を見て通り過ぎたあと訝しげに見たりしている。


 「ここは休憩所だな。エントランスは騒がしいからとかうるさいのが苦手な奴はここで過ごしている。大声はここでは厳禁だ、自販機もあるが、エントランスで飲み物を買うやつが大半だ。まぁ、時間がない奴はここで買うやつも少なくない」


 休憩所にはソファに寝転んでいる人もいるが、特に誰も文句は言わないし同じソファが2台空いている。


 「後は任務の打ち合わせをするための空き部屋だな。使用許可は冒険者になくてギルドの関係者の事務所か受付に使用許可を貰って使えるな。まぁ、わざわざ使う機会なんてないし、使うとしても依頼者の人に詳しい内容を聞くくらいしかないから説明する点も注意点もない」


 サマエルはそういうが部屋は多く設置しており、目算でも15部屋以上は超えている。


 「次は二階だな。二階の方が部屋は小さいが重要なところがある。ここだ」


 サマエルが扉を開くとそこにはパソコンが多く設置されていた。


 「丁度端っこのパソコンが空いているな、見ていろ」


 サマエルがパソコンのアプリを開くと先程の火山亀の事を調べる。すると先程の資料と同じ文章の他に攻撃手段をクリックすると記載されるし弱点なども調べることが出来る。


 「このように討伐任務をする奴らは予め討伐対象の情報をじっくり調べて任務に赴く事になる焦って失敗したり大けがをしたりしたら本末転倒だからな、しっかりと準備して任務に向かうのが基本だ」


 冒険者が受ける任務は期限というものが基本的に設定されているそれは依頼者が決めるものだが対応が遅れたり期限切れになってしまうと、その依頼は破棄されて依頼者からの不満を買ってしまう。しかし、それを無くすために期限切れになる三日前にギルド所属の職員の対応班がその依頼をこなす、つまり冒険者が受けられる依頼は期限三日以上前の依頼のみとされている。


 「それでここは仮眠室だ、あまり大声出すなよ。ここは特に使うのに許可は要らないが、たまに問題行動起こして使用禁止にされることがあるから気を付けろよ。一回だけ俺も使用禁止にされてな…ここを使うやつは同日に1時間か2時間開けて依頼を持っている、つまり複数の依頼を受けている奴らの休憩所って事だ。ベッドのカーテンの横に電子ライトがあるだろう?赤が使用中で青が使用可だ」


 現在は使用しているのは一人だけで部屋の印象は列車にあるボックス席のような印象を受ける。


 「図書室だ。さっきのパソコンとは違いシャリア王国の歴史や地理について書かれている。パソコンやスマホでも知れるが紙媒体の方が年単位での変化がみられるから予期せぬ事態に対応できるからって理由で図書室が設立されたらしい」


 サマエルは最後にと言って歩き出したのは窓際の近くにある扉そこを開けるとそこはベランダのようになってはいるがそこには何人かが飲み物片手にしたり柵に手を置いたりしているが目線は全員同じところを見ているようだった。


 「見ろ、あの人がこのギルドの一番の強さを誇っている実力者、ゲンブ・オーガスタ・キャロル。名前くらいは聞いたことがあるだろう、今は新人…と言ってもお前らよりは討伐経験も余程差があるやつだが、そいつの稽古をしているな。ほら、軽くいなしているのに剣が弾き飛ばされた。あれが究極の境地にいる超人というんだろうな」


 そう言ったサマエルの横顔は渋い顔に思い出を馳せている爽やかな顔をしている。まるで何かを懐かしむように、その顔はほんの数秒だった。


 「他は特に説明するもんじゃねぇな、ギルドの職員の事務室や報告書や始末書を書いている奴らがヒィヒィ言っている所へ行くわけにもいかねぇし」


 そこまで言うとサマエルは何かを思い出すかのように「あっ」と小さく言って何か言おうとするが少しだけ考えて頭を掻いている。


 「一応ここら辺の店も教えとくか…」


 サマエルは一階の受付で軽食を一通り注文すると適当なテーブルに新人達を座るように促して話し始める。


 「少しギルドの外にある店も案内したいんだが、長くなりすぎるしここで話すぞ」


 そこまで言うとテーブルにハンバーガーやポテト、スナック菓子の盛り合わせが次々と運ばれてくる、それをつまみながらサマエルは話し出した。


 「当たり前だがギルドがここにある以上、近くには冒険者向けの店が多い。装備品やポーションを取り扱っている店は錬金術師が経営している。だけど、簡易的なものだから疲労に効くものやかすり傷程度の回復薬だからストーンランクまでの冒険者がよく利用するな」


 ストーンランクまでの冒険者は納品任務が主でウッドランクとの納品任務の違いは重量が違う。うっかり落としてしまうと足に直撃して腫れてしまう事もしばしば、その為に力が少し増す装備品を取り扱う店は冒険者初心者御用達と言える。


 「もし、回復薬なら何でもという専門店がある。薬剤師や元医師が的確な物を紹介してくれるから手間はかかるがそっちの方がいいだろう。俺もアイアンに上がりたての頃は店舗を転々と回ったからな、それぞれ店舗が近いからそれほど苦じゃないぞ」


 テーブルの真ん中にはギルドを中心とした拡大地図があってそれにペンで印をつけながら説明を続ける。


 「後は武器の製造や強化する鍛冶屋が二番目に近いな、中でもオススメはダンカン工房だ、質も価格もお手頃価格だ。武器の購入ならそこに行くと良いだろう。ただ、小さい工房だから刃こぼれや修理が出来るスペースがないらしい。でも、他の工房なら値段はそこまで変わらないから強化や修理なら他の工房でやってもらえ、お金に余裕があるならついでにそこでのオススメ武器の購入も検討してみたらどうだ?」


 ダンカン工房はギルドから徒歩20秒もかからない所にある。新人達は来る途中に通り過ぎたが、休みなのか鉄を打つ音が全く聞こえなかったのに10人ほどの人数が工房に入っていくのを見た。


 「後はそれぞれのジョブにあった店があるな、東方面に近距離タイプの西方面に遠距離タイプ、少し遠いが両方に中距離タイプの店がそれぞれある。もし訓練がしたいならうちの自慢の指南役に頼むか、店の地下にある訓練場でやってみたらどうだ?店ならお試しで武器の使い心地も試せるからオススメだぞ」


 一通り話し終えたのか、新人達もテーブルにあったスナック菓子は底をつき始めた、それでもお構いなしにパクパク食べて空になった食器を下げると「そろそろいくぞ」と言って先導する。


 向かった場所は正面玄関ではなく一階のさらに下、地下へと続く階段を降りていく。


 「案内の最後って言うんならここだ」


 地下にあったのは煉瓦と木材で補強しただけのような暗い部屋、その真ん中には光を放つ何かの紋様が描かれている。


 それは円状の中に文字と思われるものが沿うように描かれて魔法陣を何重にも重ねてあるような複雑な形状をしていた、しかしそれは、この部屋を照らすように青白い光を絶えず放っている。


 「これは転送陣と言えば分かるな、座標を指定してこの陣の上に乗れば遠いところにも一瞬で行ける。欠点があるとすれば一方的だから往復するような時に不便と言うべきか、あとひとつ欠点があるとすれば行ける場所には限界距離があって、改良に改良を重ねて何とかこの国全域に行けるようになったから外国などには行けなかったりな、俺がまだお前らのランクの時に犯罪を犯した冒険者がこれで逃亡を図った際、無茶な座標にしたせいで暴発した結果、海のど真ん中に放り出されて亡くなったケースがあるから、ちゃんと座標は正確にしろよ。最悪、土中や空中、大気圏外に行っても責任追えないからな」


 ニコニコわざとらしく言うサマエルの言葉は本当の様で犯罪者が逃亡を図った際に海に放り出されたというのはそれを聞いた3人の冒険者の腕には鳥肌が立っていた、残りの1人は「あらあら、ウフフ」というように笑顔のまま頬に手を当てる。


 サマエルは陣の台座に設置してあるパネルを操作するとギリギリとゼンマイを回したような音と共に陣の一部が回転したり形を変える。


 一通り操作し終えたのかサマエルは4人に陣の上に乗るように促すと4人はなるべく中央に集まるように陣の上に乗る。


 「そんなに詰めなくても大丈夫だぞ、この転送陣は色んな陣を組み合わせてはいるが改良されて一つの陣として完成されているから乗ってさえいれば大丈夫だ、しかし、あまり上下に及びすぎると転送が不安定になるからそこも注意点だな」


 それを聞いて少し安心したのか4人は少し間を取る、それを確認するとサマエルは床の一部に魔力を流し込む。すると転送陣の光が増して客観的に見ると4人の身体が光に包まれていくように見える。


 4人の視界は段々と白く染まっていき互いの上半身を辛うじて視認できる程になった。


 完全に視界が真っ白になってから数秒後、全員が目を開けるとそこは見渡す限り森に囲まれた森林の中、そして背後には大きな洞窟があり、洞窟前にはギルドの職員が何人か立っている。


 「おや、サマエルさん、珍しいですねここに来るなんて…そちらの方々は配属された者ですね。ギルドマスターから話は聞いていますよ、それにしてもサマエルさんに教育を任せるなんてな…珍しい事もある物だ」


 「それは侮辱か?」


 「いえいえいえ、まさかそんな滅相もない。ただ、新人教育も経験のないソロ冒険者のサマエルさんに任せるなんて少し意外だなって」


 そこまで言うと世間話をし過ぎたと気付いたのか4人の向き直り咳ばらいをして改めて話しかける。


 「ようこそ、ここは湖鏡の洞窟です。我々はここの見張り兼キャンプ地の設置を任されております。もし怪我をしたり食糧が無くなったりしたらいつでもお声がけください」


 そう言うと職員は懐から小さなバスケットを取り出すと中から小さなパンを人数分取り出して配っていく。


 「今日は特別に無料にしておきます。ギルドマスターにはどうぞ内密に、ではお気を付けて」


 職員はそこまで言うと手を振って洞窟に入っていく冒険者達を見送ってくれる。職員が見えなくなるとサマエルが口を開く。


 「あいつは元々冒険者でな、誰とでも対等に話していたんだが自分の実力に頭打ちを感じて転職したんだよ、俺と張り合いが度々あったから転職してからあまり顔を合わせていなかったが、元気そうで良かった」


 そこまで言うと、急に眼つきが変わり鋭くなる。止まるように腕を横にして視線を辿ると洞窟の突き当りに明らかに人間ではない足が見える、まだ半分も見えないが尻尾にその足は亀のようなものだった。


 「さて…レクチャー開始だ」

次回2月末予定

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