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第十七部 二章 義賊

 4月23日


 View 美奈


 硬い床の感覚で目が覚める、ゆらゆらと揺れる感覚はまるで水の中にいるようだ。おぼろげな記憶を辿ってみてもこんな硬い材質で寝た記憶はない。


 (ここは…)


 目を覚まして目を擦ろうとした時両手に違和感がした。普段なら手を合わせて枕の高低差をしっかりととって眠るはずだった。しかし、腕が後ろに回してありそれだけでなく縛られている感覚で一瞬で目が覚めた。


 感覚の通り腕は後ろで縛られている、場所はどうやら牢屋で太い木材で柵が作られている。


 (なんだよ…これ、アイシャのいえ…じゃないよな、確かあの後せっかくだからってアイシャの夕飯に誘われて部屋に戻って寝具に包まって寝たはず…という事はまさか)


 そこまで考えると柵の向こうから足跡がする、どうやらそれは2人分の足音だ。自分の牢屋の前まで来たら自分が起きているのを確認して薄気味悪い笑顔を浮かべている。


 「お、起きてるな」


 「なら丁度いいな、悪いねえお嬢ちゃん色々と見させてもらったよ」


 片方は腰にカトラスを持っていつでも抜けるように武装している、もう片方は武器は持っていないようだがガタイがよく筋肉質な男だ。話の内容から二人の間にそれほど上下関係は無いようだが危険な事に変わりない。


 「ああ、気付いているか知らないけど魔法は使えないからね。縛っているそれ魔力を封じることが出来るって言ってたから。君の国に魔力が強い子がいるって噂を聞いてさ。誰もがそうじゃないと思っても用心しとけってお頭が言ってたから」


 「おい、必要ない事ベラベラ喋んな、こんなガキに理解できるわけないだろ」


 「悪い悪い、少し怖がらせたくてよ」


 腕以外は拘束されていないがその拘束技術は大したもんだ。指の動かせる範囲に結び目が届かないようにしている、それにポケットに入れておいた財布やスマホの重みを感じない衣服以外の持ち物は盗られたかもしくは捨てられたか。


 「しかし、こいつ結構な金持っていたな」


 「ああ、これだけあれば少しは贅沢して生活できるな。どこかで女囲ってサービスさせてもらえるんじゃね?」


 下品な笑い声をあげながら見下している間も今は自分の状況を考察する。恐らく相手はシャリア王国の人間ではない。この筋肉ダルマはさっき「君の国」と言っていたのが証拠だ。だとしたら人攫いの集団それも常習犯だろう。この結び方は一回や二回で簡単にできるものじゃない、明らかに手慣れている。


 「おじさんたちだぁれ?どうしてこんなわるいことするの?わたしおうちにかえりたいよぉ」


 一応これで頭が悪い奴なら更につけあがってベラベラ目的やら今後の俺の扱いについて話すだろう。


 「ごめんねぇ、君はもう自分のおうちには帰れないんだよ。でも大丈夫おじさんたちはね?君のおうちからお金をいーっぱい貰ったら君を欲しがっているおっさんにあげるんだ、そしたらおじさんたちはもーっとお金を貰えるから君はそのおっさんのもとで暮らしていくんだよ」


 (あー、これは屑確定だな。身代金だけじゃなくそれを受け取っても返すつもりなくて奴隷商人に高値で売りつける。それだけじゃないな、クスリで頭狂わせて抵抗無くすか、痛めつけて無理矢理大人しくさせるか、取りあえず人身売買に手を染めている屑野郎共の集団って覚えればいいか)


 「これだけ持っているガキの所だ。数千万は貰えるぜ」


 「ガキ一人に数百、当たりがいればもしかしたら億は下らないんじゃね?」


 「そしたら遠くへ飛んでセレブ生活だな」


 (さて、他に目立つようなものは悪趣味な服につけているメダルみたいな留め具くらいかな、遠くてよく見えないが同じ服だというのはわかる。後は場所だが、この乗り心地と揺れ具合は船だろうなぁ、自慢するみたいだがシャリア王国の治安はとてもいい。犯罪者とかそう言うものならやった時点でマークをつけられて即行豚箱行きだ。それが起きてないとどこかの政治関係者との癒着を通している。それとこの国で一番ガードが緩いのは港だ、丁度シーズン的に船での来国が多くなる時期だ)


 幸い、現時点では俺が実力者という事はバレていないようだし精霊も呼び出せる。このまま強引に出てもいいが、相手の具体的な数も船の動かし方もよく分からない以上迂闊に動けないのが現状、最悪受け渡しの際に逃げることになるな、でもそうしたら他の子供が助けられない。こんなヒロインになりたくないに決まってるカッコよくも可愛くもないから。


 ~同刻 アイシャの家 応接室~


 View アイシャ


 「「「殺す殺す殺す殺す、はらわたをぶちまけて生きたまま内臓を焼いて発狂しても許さず荒治療で永久的に地獄を巡らせてやるぁぁぁ!!」」」


 普段、とても物腰が柔らかそうな美奈の父親と祖父と曾祖父が 鬼も逃げ出すような顔でまるで打ち合わせしたような声を息継ぎ含めて完全に一致した。その他の千麟家の叔父一家も口々に美奈の心配を言っている、中には涙を浮かべて祈っている人もいる。


 「お宅のお子様を預かったばかりにこんな事態…誠に申し訳ありません」


 謝罪をパパと代わり替わりしながらするが、怒りの矛先は預かった自分たちではなくまだ顔も知らない犯人に対して向けている。男性陣は怒りの声をハモらせているが、美奈の母は少し息を荒げているがあくまで冷静を保って状況を確認しようとしている。


 そしてランクは高速でタイピングをしてパソコンを見ていると数分もしないうちに「キタ!」と言って画面を見せる。


 そこには犯人らしい者の顔や誘拐時の防犯カメラの映像だけでなく街中の監視カメラだけでなくタクシーのドライブレコーダー映像からルート計算から移動手段、現在地の予測までほぼ完璧に仕上げてしまった。


 その事に興奮気味に見る千麟家の方たちだったが、何かに気付いたのか美奈の母親がキョトンとした顔をして何かに安心したような顔をする。


 「なぁんだ、心配して損した…というよりも心配するのは相手側だったかも」


 そう言って一言、電話のためにと部屋を出る、すると他の数人はまさかと思ってその場所、海域の名前を見て少し顔を青ざめる。


 「おい…おいおいおい、ここってまさか…!」


 「そ、そんな……うそ…だろ…」


 「へぇ…これはひどい、人生最悪の運の悪さだな」


 美奈の母方の実家と父と祖父は何かを察したのか、安心したようなどこか苦い顔をして美奈の母が出ていった扉を見ると同時に電話から帰ってきた。


 「うん、これでOK後はゆっくりと向かおうか、でもこっちとしてもタダで済ます気なんて全くないから少し急ごうか」


 途中で声のトーンを急激に落として冷ややかなそれでいて鋭い殺意を詰め込んだ声を発する。それに突き動かされるように反射的に動いてしまう。


 ~海賊船 アンシンアブル グルーグ2号~


 View 美奈


 「さて、そろそろこいつの家のやつに電話するか」


 武装している方の男が柱にある固定電話に手を取る。


 「大体、二~三日中には用意できるんじゃないか?」


 「お頭も援軍が来るのにそれほど時間はかからないってよ。このまま国を乗っ取ることもできるんじゃないかってな」


 「所詮は烏合の衆って事だったわけだ。俺たちグルーグ海賊団の卑劣さを知らずに間抜けな国なこったよ」


 馬鹿笑いに耳を防ぎたくても防げない事に耳障りだと思うとそれに紛れて何か他の音が紛れているような気がした。だがすぐにそれが空耳ではない事が分かる。


 空気の膜の中で何かが破裂したような音が船内に響き渡る。電話を持っていた男は壁に手をつこうとしたが予期せぬ振動でその場に転倒、受話器はコードを不規則に揺らしてぶら下がっている。


 それに驚いた二人は急いで壁伝いしながらなんとか立ち上がり上の階へ行く。


 「おいなんだよこの揺れ!」


 「知るかよ!取りあえずお頭のところへ行くぞすぐに浮上するようにお願いしねぇとっ!!」


 縛られている俺はというと牢屋の中でゴロゴロと転がって絵面が間抜けな感じで何とか身体を打ち付けないように壁や床に当たる直前に足で蹴って何とか軽傷ですんでいる。


 それからしばらくして何かが水中から飛びあがった音がザバァッと大きな音を立てたそれがこの船だということが直感的に理解できた。


 次に風を切るような音の後に爆発音が鳴り響く、既にこの船が襲撃を受けた事には気付いたが、それよりもこの襲撃に巻き込まれて自分の運命がどうなるのかが不安で目をギュッと瞑って何度も何度も紐を引きちぎって耳を塞ぎたいと思った。


 それから、船が何かに衝突した音が鳴ると大人数の怒声や悲鳴が聞こえて何回も死ぬと思った。階段からは大急ぎで駆け下りてくる人とそれを追うような足音がバタバタと聞こえて、自分の檻が開けられる。そこには血走った目で睨んでくるサバイバルナイフを持った男性、先程の二人とは違う男性だった。


 男はすぐに手を引っ張ろうと紐に手を伸ばそうとした時、男の背後に赤黒い液体が噴水のように噴き出した。


 男は振り返ろうとしたが、そのまま横を向いた状態で前のめりにうつぶせで倒れ、未だに吹き出している血が顔から服までピシャリと降りかかる。


 突然の展開で頭が真っ白になってその場でカタカタと震える、目の前には倒れた男に男を刺した日本刀を持った女性。放心状態でその場を見ていると他の男が走ってきたそいつは牢屋に一瞬牢屋に眼をやったがそのまま走り去ろうしたが、見えなくなった時には目にもとまらぬ速さで女性が刀を横に振った、するとすぐ近くでドサリと倒れる音がした。そうなっている間も怒声や悲鳴が止むことは無かった。


 「お前らはそっちから回れ!一人も逃がすな!」


 「そこの鍵は?」


 「殲滅を最優先としろ!人質を取る暇もなく殺せ!」


 怒声がハッキリと聞こえる時には悲鳴ではなく怒りの感情を感じつつも焦りの声で指示を飛ばしている複数人の男女の声が船の中に響く。


 そのまま放心状態の俺を見て女性は何も言わなかったが数歩下がり、壁を背にした。それから程なくして他の人が階段から降りてくる。降りてきた人を見て女性は親指で自分を指した。


 親指で自分を指した女性は降りてきた人と入れ替わるように上の階に戻った。降りてきた人は歳はおじいちゃんと同じくらいの年齢に見えるがそれでも美化されているようでしわもなく、目元も少しキリッとしている女性だった。


 その人は俺を見ると一瞬ギョッとした目を向けるがそれが外傷ではない事にすぐに気付くと屈んで話しかけてくる。


 「大丈夫?安心して、お母さんに頼まれてきた。怖かったね」


 表情こそ柔らかかったがその声はどこか棘があるように思えてそれでも心が安らぐまなざしから目が離せない。


 「あなたは海軍の人なの?」


 放心状態で声が出せなかったのに自分の口はなぜかそういう事を自然に出していた、彼女は懐からナイフを取り出して荒縄を手首を傷つけないようにプチンと切ると立ち上がらせる。


 「助かったことの感謝よりアタシが何者か?そんな事どうでもいいじゃない。聞かなくちゃいけないのはどうしてアタシがこんな事をしたのかじゃない?それも聞かれるから最初にアタシの話を最後まで聞いてね、言っておくけどただアタシは感謝されたいわけでもあなたが誘拐されたから助けたのでもない、頼まれはしたけどね」


 彼女は身振り手振りで傍から見るとただただ格好つけているように見えるがそれは格好つけているのではなく素でこの様な人だと理解する。


 「アタシが今こうやっているのは、我が物顔で何をやるのもだらしなく、自分が世界で一番偉いと思い込んで好き勝手している奴らが気に食わないからそういうやつをアタシが一番楽しいと思うやり方で懲らしめたんだよ。あなたのお母さんのお願いはただのついでさ」


 そう言うとパチンと指を鳴らすと顔や服に付いた血液がまるで時間が巻き戻るように宙をゆっくりと漂って壁の隙間に滲んでいくように吸い込まれる、今まで血があったなんて言っても信じられない程の現象だった。


 彼女はついてこいの合図を送って先に歩く、それについて行き階段を上がって扉を開けると甲板に出た。そこには彼女が乗っている船が隣接していた。


 他にも縄で縛りあげている海賊たち、俺と同じく誘拐された子供達に彼女の仲間が治療セットから絆創膏や消毒液氷を包んだ布などで子供達の手当てをしている。


 こっちに気付くと手が空いている人の2人が駆け寄ってきて「大丈夫?」や「痛いところない?」と言ってきて船の揺れで打ち付けた身体の一部に手が触れて顔をしかめると女性と代わり服をめくる。


 「少し腫れている、こっちにも保冷剤入りタオルをおねがーい」


 そうして処置していると遠くからモーター音が聞こえてきてそっちに目を向けると数台のクルーザーが向かってきている。


 「安心してて待っていてって言ったのにな」


 そう言って彼女は近くの縄梯子を垂らしてクルーザーに向かって上がってこいのジェスチャーをする。


 クルーザーに乗ってたのはお父様とお母様の他にアイシャやおじいちゃん、叔父の子供とサリアちゃんとメイド長以外のメイドを除く全員が乗っていた。


 自分に気付くと全員が駆け寄って抱きしめようとするが、治療中だと残りの手が空いている船員が全員でディフェンスしている。


 それを一喝して彼女が蘭に言った。


 「来てくれなくてもいいのに、でも来たって事は多分こいつらの援軍に遭遇しなかった?」


 「援軍ってあの有象無象の事?地獄の海に浸かっているよ、簡単に殺しちゃ腹の虫が収まらないもの」


 それを聞いたら小さく「そう、感謝する」とだけ言って再び向かってくる人たちをなだめながら後処理をすると言って、船の中に戻る。


 その後も色々と大変だった。国に戻ったら崩壊した家の修復が完了したと驚きの速さで終わったことや誘拐犯がロストレガリアを使っていたこと、その海賊がカルミリナの王族との癒着があったことが調査で判明してその事でカルミリナに乗り込んだら、既に王族は事故や殺人で残っているのは現国王のみ、しかしそれも原因不明の病で生死のはざまを彷徨っていると数日間の間新しい証拠が次から次へと出てくる。


 その中の一つにあのお茶会での出来事もカルミリナが一枚かんでいてマハトマを行っていたのもカルミリナだったらしい。海賊は拷問にかけられてカルミリナも後継ぎや不正疑惑などでてんやわんやでシャリア王国が標的にされていた事も分かり、しばらく街には右往左往するマスコミやフリージャーナリストがあふれかえっていた事で更に国は大混乱。


 城の兵士だけでなく冒険者ギルドや貴族の使用人ありとあらゆる人材を使って鎮めようとするがそれ以上の混乱を防ぐので精いっぱいだと言う。ニュースでもこの事しか言わず、時間が経ってほとぼりが冷めるのを待つしかない状況らしい。


 しかし、俺が驚いたのが助けてくれたのがなんと父方のおばあちゃんだった。家にはメイドとお母様以外の女性を見ていなかったが、義賊として活動していた。


 最初はお母様と仲良く話していたから母方かと思ったがどうやら昔、おばあちゃんの方が母方の家族にお世話になったらしくてその伝手で仲良くなったらしい。


 今までイベントが起きすぎて心が全く休まない。だから今は部屋で半日以上休むことを勧められたのだが…部屋の外にメイドが最低20人待機してタダでさえ過保護だったのが悪化して逆に身体は休めても精神的に全く休めない日が続いた。

次回1月末予定

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