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第十五部 二章 飛行機内にて


 搭乗してからほどなくして、飛行機はゆっくりと動き始めて滑走路へと向かっているのが分かる。放送で前世でも聞いた台詞に懐かしさを思い出しながら窓を眺める。


 グングンと速度を上げて俺たちを乗せた飛行機は離陸した。


 (飛行機何て乗るのは何年ぶりだろう。高校時代に海外旅行に行った後だから…2年ぶりか?そう考えると言うほど久しぶりとは言わないのかな)


 窓を見ると離陸した飛行機に向かって手を振っている人が何人か見える。恐らく他の乗客の友人か親族の方だろう。


 この世界の飛行機は外観こそ元の世界と変わらないが内装に若干の違いがみられる。


 まずは区画の一つ一つに最大6人まで入れる小部屋が備わっている。機内の中では電子機器の使用は機内モードにしなければならないが、小部屋ではその配慮は不要だ。その小部屋は割と込み合うので予約表に名前と使用人数を書いて使用者が退出すると区画放送で次の客が呼ばれる。


 最大利用時間は10分で防音も完璧なので主に音楽を聴きながらパソコンやスマホをいじったりゲームをしたりする人が大半だ。部屋を使用している間は飲み物の配りがない為、自動販売機も設置されている。(品揃えはほぼ同じ)


 そして、今俺とシーラはそこの小部屋でチェスをしながら、少しの時間つぶしをしている。


 「ほかの乗客に気づかれないように資料を読むのは難しいですし、使者しか読めないものってなんなんでしょうね。陛下、お父様にはこれの内容は分かっているのですか?」


 「すべて、というわけではないけれど把握しているんじゃない?資料の中には陛下が直筆したものもあるんだし、デジタル化が進んでいるならそれでやった方がいいと思うけどね…わざわざアナログな方法をして不備がある可能性を無くすためにも利用できる便利な技術があるなら活用しないてはないでしょう」


 「それはそうですね。ですがすべてがすべてデジタルだと手抜きと思われるのでそれを嫌がった…とかでしょうか。躊躇いなく直筆を入れたのか否か重要なのかそれだと思いますけど…はい、チェックメイトです」


 「ううっ」


 「ポーンを捨てすぎです。ビショップやルークを動かすのは悪くない策ですが、クイーンを渋っていてはジリ貧ですよ。だから躊躇いはあるかないかで印象も変わるんです」


 「でもクイーンを動かしたら動かしたですぐ取れる配置だったじゃん。リラちゃん」


 「どの様なことにも想定して動かすことで精神的にも追い詰める。勝負事ではそれも重要だと学んだので」


 「…私は正々堂々と勝負するのがどうも嫌いで…想定外しか起きない職だからかな、呪いとかもどんな呪いか考えずにとりあえずかかってから解呪すればいいやの精神でやっているから、それで数えてはいないけど1000個以上の呪いを一斉に身体に受けたことがある」


 「えっと…なんて言えばいいのか分からないんですが簡潔に言うと行き当たりばったりな後先考えずに実行するからボードゲームとかは下手だということでしょうか?」


 「うん、おじいちゃんとのオセロや将棋、麻雀、トランプでも勝てたことが無いくらい」


 なんでボードゲームが死ぬほど下手くそなのに持ち物検査の時に旅行バッグ丸々一個分のボードゲームが入っていたんだろう。


 (そもそも麻雀って3~4人でやるものだし、トランプってそんな頭を使うやつより運ゲーが多いイメージ…いや、そんなにトランプのゲーム知らないけど…これがデジタル時代に生まれた者の無知感か)


 「って待って下さい。凄い自然な流れで言ってので聞き流してしまいましたが1000個以上の呪いって何ですか!?」


 「話していると利用時間過ぎちゃうから手短に言うと知人が蔵の掃除をしていたら古い本が出てきたから、それをめくったら体調不良を起こしたその結果、原因を調べているうちにその手の詳しい人を頼ることになったそれでおじいちゃんが選ばれたんだけど、その時他の仕事で大変だったみたいで仕事の山に埋もれてたんだよね。

 私がそんな時についその本を読んじゃってね。その本どういうわけか表紙だけでなく中身のページではなくて一文字一文字に呪いが掛かっていてね。視覚に入れるだけで呪いが読者に降りかかる、その結果、速読しようとパラ見したのが災いして呪いが一斉に襲いかかってきたんだよね」


 「手短に言ったのに長文お疲れ様です。それで、それを解呪したんですか…でも生死に関わるほどの事を簡単に話してよかったんですか」


 「いや、後から分かったんだけど、あれを作った人は呪いの収集癖があって真似っ子で本に呪いを付与したから命にかかわる物は一つもなかったのただ…………筋肉痛と高熱と激しいだるさに肌荒れ、夜更かしと割りばしが上手く割れなかったり、カップ麵の切れ込みが無い種類しか買えないのがキツかった」


 (なんで、最初はワクチンの副作用っぽくて中盤は生活リズムに難ありとしか思えない、最後に至っては程度低いけど割と困るキッチン事情になっているんだろう…なんか心配して損したな)


 「さて、なんだかんだ話していたら後1分で使用時間終わるね。飲み物買って出ようか、欲しい飲み物ある?」


 「じゃあ安眠効果のあるものを…ラベンダーティーあります?」


 「……なんでか分からないけどあるね。私は体質なのかカフェインを取るのが一番の安眠効果が得られるからそれを買おうかな」


 この世界の飛行機はゲームだと受け入れられるのに現実だと何百もの小宇宙を見なくてはいけないと改めてこの世界の住民のメンタルに敬意を表したい。


 ラベンダーティーを一気飲みはしたけれど効果はすぐに出るものではない。人それぞれに効果時間に差異があるがそれは本当に小さな誤差、どれだけ遅くても30分で効果が出始める。


 (それまで第二十三術式総集書を読むことにした)


 本を取り出すとシーラさんが少し興味ありげに覗き込む。


 「リラちゃん読書?その本…どこかで見たような…えっと…少し見せてくれる」


 「はい、どうぞ」


 シーラさんが本を受け取って中身を確認すると顔がすぐに青ざめてその手からポロリと本が地面に落ちる。そのままガクガクと膝を震わせる。


 (何かおかしな文面でもあったかな?)


 第二十三術式総集書は何回か読んだがそのような文面は無かった。シーラさんが見たと思われるページを捲ってみるが特に危険そうな物は見当たらない。


 その様子を見てシーラさんが驚愕の顔をして見ていた。


 「…リラちゃん?あなたはこれを読んで平然としていられるの…?」


 「はい、中々興味深い事も書いてあるのでついつい時間も忘れてつらつらと」


 「ふざけている…これは呪いの古書と同じタイプの本…でも、どうして?私はあれからだいぶたったとは言え中身を読むまで気づかないなんて…」


 「え?これってそんなにヤバいものだったんですか?」


 「私が読んだものよりも数倍はヤバいシロモノよ…これ何ページまで読んだの?」


 「全部です。今回で53週目です」


 「数えてる…というかそんなに…!?これ自動で呪いが再付与されるから何回も呪いを跳ね除けているわけでしょ…」


 「…推測出来ることはいくつかありますが、聞きます?」


 「興味深い…聞かせてもらえる?」


 恐らく第二十三術式総集書は著者が呪いの古書と同じというのはシーラさんも同じ結論に至っているだろう。ではなぜその手の本に気付かなかったのかは表紙に原因がある。


 「その本には一文字一文字に呪いがあるなら表紙の文字にも呪いが掛けられていても何の不思議もないでしょう?認識阻害呪いが掛けられていたのでは?実際、中身を見るまで分からなかったわけですし」


 「…言われてみれば、でもそれほどまで落ちぶれたわけでもないのにこんな古典的な罠に」


 「どん底に落ちぶれる呪いも付与されていたのでしょうね。恐ろしい」


 「本当に恐れている人はそんな吞気に恐ろしいとは言わないと思うけどね」


 「取りあえず続けますね」


 今たどり着いていて尚且つ一番可能性が高い仮説を簡潔にまとめる。実は第二十三術式総集書は最初読めるようなものではなかった。医学生の時からラテン語やシュメール語などの古代文字を除いて他国言語は挨拶程度ではあるものの読み書きは昔から親から教わったドイツ語と英語含めて困らない程度には出来ていた。


 それでも読めない文字、つまり地球上には存在しない文字が第二十三術式総集書には記されていた。いつ、だれが、どこで、なんのために、これを書いたのかという疑問は現実という非日常体験として考えるが、一番の疑問がなぜそれがシャリア王国にあったのかということだ。


 そこで一番考えたくない事が頭を過ぎる。


 「…エリック」


 この本を持って来たのはエリックだ。しかし、あの時はこの世界がゲームの中の世界だと仮定していたからスルーしていたが、その速度で本を持って来た。適当に持って来たにしては呪いの文字が使われている本を渡すだろうか、軽い呪いばかりだとしてもおかしいし、百歩譲って難しい文字が使われているならともかく、呪いが付与されている本を渡すなんて有り得ない。


 「それでふと思ったんですがこれのタイトルが「第二十三術式総集書」ということはその前のやつもあるのでしょう?第一~第二十二も存在している普通なら第一を渡して興味を示したら続品の物を差し出すのになぜそれらをすっ飛ばして第二十三術式総集書を差し出したのか」


 そしてついさっき53回も読み直している理由が今まで言ってきた疑問が深まってくる。


 2週目の時、最初は読めなかった文字が読めるようになっていた。視覚では意味不明の文字の羅列が脳で理解できたように読めた。それでもごくわずかだったし、分厚い本だったから何かの思い違いかと思っていたが10週してからその思い違いは気のせいではなかったと思った。


 「おそらくエリックは兆…いえ、景単位の呪いを患ってその呪いも大半は解呪しているでしょう」


 「うそっ!?解呪にはそれなりの手間が掛かる…!万能の解呪魔法の「エクセキューション」だって使える家系も絶滅したって…」


 「それも含めておかしいのです。もしエリックが第一から読んで解読したのなら第二十三を差し出したのも合点がいきますし…でも、これってそんなに重要なものを書いているでしょうか?」


 太古の禁術や厄災を起こす魔法なら悪用しないように呪いを施すのも理解できる。でも書かれている内容は単純であって何かの論文めいている。


 全てを言うと長くなるので詳細は省くが簡単に言うと「○○の魔法を使う事で○○も可能となる。つまり○○を△△とする事で○○も可能というわけだ」などの記述が記されていて、縦読み横読み斜め読みする事で何かがあるなんてこともない。この論文に解読不能の文字だけでなく呪いまで付与した理由はなんだ?著者は何を…隠したかったのか。


 「認識阻害でたまたまっていう線もあるけれど、どうしても気になってしまって…それで私が呪いに掛からない理由は、仕組みの理解だと思います」


 「仕組み?どういう事なの?」


 「呪いって一言に言うなら簡単ですが、かけ方、種類、効果と細かい分類に分けるとキリがありませんよね。しかし、逆に言えばそれらを全て理解していれば呪いにかかっても即座に対処できるという話になりませんか?」


 「じ、じゃあなに?リラちゃんはこれに付与されている呪いの対処について熟知しているって事!?」


 「あー…はい」


 まぁ、この返答は噓ではないが多少の脚色、噓と真実の混入と言った方がいいだろう。理解しているのはかけ方と種類、効果については余りにも多くて理解するには少なくとも5年間の睡眠と食事の時間も惜しんで呪いについて書かれている本を読みこまなければならない。


 なぜ呪いに掛からないというものも、かけ方を知っていたからと言うべきだ。一文字一文字を読む事で呪いがかかるなら、ただ見るだけなら呪いは掛からない結果を脳内で自覚しなければいい。


 とは言え最初は呪いに掛かりかけた。かかる直前に氷魔法で頭を冷やして結果を「読んだ」ではなくて「見た」に強引に変換した


 解読するのも頭を冷やしたおかげで出来たような物だけど、これは完全に副産物というものだろう。最初はほぼ読めなかったものも今では、解読不能なところも10個程度になった。今までのペースならあと、2回読めば完全に読めるようになるだろう。


 それと、もう一つ…亜種魔法の高みにも行ける可能性がある。


 今回の使者としての仕事が終わったらエリックに新しい本をねだってみようそれで術式総集書以外の本なら認識阻害の呪いで偶然と片付けられるが、なぜそのような本が国にあったのか、このような危険なものがあったら処分すればいいだけなのにという疑問が残る。

 もし、術式総集書の続き、第二十四術式総集書が出てきたら、エリックに何か目的があってそれを意図的に渡しているとほぼ確定できる。それを問い詰める事は簡単…だが、もし敵対関係になってしまったら…どう考えても勝てない。


 流石に姫を殺害してしまったら足がついてしまうし、偽物を用意してもバレるのは時間の問題だ。


 前者でも後者でも疑問は残る。そういうのを処理出来るような人を用意するにしても、その人が所属しているところも…は…あく…し………て……………


 (あぁ、丁度いいのがいるじゃないか、血がつながっていて立場上現時点では逆らえない人材が真横に…)


 「んんっ?」


 しまった…少し考え過ぎた。最近はマシになったと思ったけど、キリキリと痛む頭、まるで小学生の時うっかりコンパスの針を自分に刺した痛み…もし手じゃなくて頭に刺さっていたらこんな痛みなのかもしれない。


 久しぶりに飛行機に乗ったから感動でアドレナリンも働いていると思ったけど、それも活動限界に達しちゃったかな。すぐに睡魔が来た。


 これは抗うよりも従った方が楽…かな…そう言えば、なんで…あれ見て、亜種魔法が…強くなるって…思…って…………


 「すぅ…すぅ…」


 「こうして、寝ている顔を見るとやっぱり子どもなんだと思うなぁ…どんなに大人びていてもあんなことを言ったり出来るのは大人でも難しいのよ、一体どういう事を考えてこんなことを言えたのかしらね。少し…あなたの境遇が気になってきちゃった」


 そう言ってシーラは席を立つと化粧室に向かう。しっかりと鍵をかけたのを確認して、デバイスを立ち上げると通話モードにしてどこかへかけている。


 「こちらシーラ、経過報告、現在第一極中帝都絶対管理国へ移動中、リラ姫も使者としての仕事で同行中、今はお疲れでお休み中です。それと…あの…呪いの本について少し相談が…」


 ついさっきリラから聞いた仮説をかいつまんで話す。


 「…なるほど、分かりました。その辺りは任せます。任務の話しに戻りますが、少々2部隊ほどお借りしたいのですが…万が一の為に……えぇ、準備は大切でしょう。それに、後始末は気づかれる前に先手を打たないと……それに、あれほど先手を打たれちゃこっちとしても辛抱たまらないわけで、腹の虫が収まらないわけですわ…はい、ありがとうございます。では、次は任務完了報告になると思います」


 通話を切ると少し口角を上げる。


 「さて、これから楽しくなるよ…って弁当販売!?すいませーん!弁当お願いしま…あっ、す、すみません。弁当2つ…えっ?赤と黒?一つずつお願いします」

次回9月末予定

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