第十五部 三章 誤植だらけの報告会
眠りについてからしばらくすると機内アナウンスからの声で目が覚める。どうやらあと10分程度で目的地の上空に近づくようだ。
隣を見るとシーラも眠っていたのか、薄く目を開けこすりながら腕を伸ばす。
(長時間同じ体制を保つのって結構辛いんだよな…)
シーラにつられてこちらも腕を伸ばす。機内の他の乗客は同じように腕を伸ばしたり、パソコンを畳んだり、本を変わらず読んでいたりする人がいつでも降りる準備をしているようだ。
そして、程なくして飛行機は着陸態勢に入る。シートベルトをしっかりと締めて衝撃に備える。窓から外を見ると空港が近くに見えて、徐々に高度が下がっていく。
ガクンッと一瞬の浮遊感を感じた後に静かに地面に着地しながら滑走路を走る。徐々に速度は落ちていきアナウンスで無事に到着した事を告げられると同時に扉が開いてそれぞれの準備をしていた乗客はスムーズに飛行機を降りる。
俺たちは、予め懐に持っていたパスポートに手を当てて何時でも取り出せるようにしておく。
荷物を受け取り税関検査を終わらせる。パスポートの確認もあっさりと終わらせながらも安心というよりかは周りの人達に俺の興味は引かれていた。
(タイ、ロシア、インド…見た目から想像したけれど外国人が多く乗っていたのか)
これから飛行機に乗ろうとしている人、お見送りをするために屋上へ行く人それぞれが十人十色多国籍で構成された組織みたいにその新鮮さはほとんど城に籠っていた俺にとっては全てが新しく珍しい光景だった。
案内掲示板は機能しているのか機能していないのか妙に入り組んでいるところもあれば、同じ場所に出てしまうようなルートがいくつもあれば直進していれば目的地に着くことが出来るところもある。端的に行ってしまえば目的地一つで迷子にも頭空っぽにして歩いても目的地に着ける極端な国だ。
それでも流石多くの国の中心を担っている国と言われるだけあって、道路や道はよく整備されており、馬車が見当たらなくその代わりにタクシーや乗用車が多く行き交っている。
これから自分達が行くのはこの国の中心部に一番近いホテル。空港から位置は見えるがそのホテルはこの国では一番大きなホテル、恐らくシャリア城の全てのエリア5個分の大きさだろう。
掲示板の近くのパンフレットを手にするとそのホテルの事も大々的に載っている。しかし、外装も内装も高級ホテルであるにも関わらず他のホテルと値段に大差はなかった、充実した割には安いと言えるだろう。
それでもそのホテルは高級ホテルには違いないので宿泊費は一万~数十万になる。今回の滞在期間は3泊4日なので決して安くはない。とは言え既に予約は済ませているしお金は支払い済みなのでそこまで気にする程ではない。
近くのバス停でそのホテル行きに乗ってバスに揺られる事数十分大きなカーブに身体が揺らされると同時に終点に着く。
バスを降りるとそこには大きな壁と錯覚してしまうほどのドでかい正面玄関、その光景には文字通り開いた口が塞がらない。これ程の衝撃は前世でも経験したことが無いだろう。
あっけにとられながらもグイグイとシーラが背中を押してホテル内に入るように促す。
そのホテルは60階建てスイートルームは無くどこも同じ間取りで自分達の部屋は17階それでも国を見渡せるほどの高さで夜景は綺麗なんだろうなと思う。
到着した時には既に日が昇りつつある。部屋に荷物を置くと、到着した旨をメッセージで送信する。
するとほどなくして返信が来てそれには現在出席希望の使者の数と未到着者の人数が残り十数組いるため会議の日程は明日となっているため、長旅の疲れを癒してくださいというものだった。
今回の大会議は普段の日程よりやや早いものだった。何でも南西大陸の国々が普段よりもやや早めの大会議を申請してたった三日ほどの為、承認しただとか。
「リラちゃん、いえリラ姫少し私は用事があるので少しの間出かけてまいります。早めに済むとは思いますが帰ってくるまで一人でこの部屋にいてください。弁当などは冷蔵庫に入れておいたのでお腹がすいたらチンして食べてくださいね」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
部屋に取り残されて一人ぼっち、普段はリエラと遊ぶのが日常的だが、今日は違う事で時間を潰すことになりそうだ。
それがこれ、大会議の資料、向こうで発行した冊子のコピーもあるらしいがそれはざっくりとし過ぎて詳細がほとんど書かれていなかった。
資料に目を通して情勢状況や経済、予算の変動などに目を通す。
「ふむ……」
資料は纏められてはいるが、それぞれの大陸のずさんな纏め方をそのままコピーしたものがある。
(これじゃ、不備だらけになって全部一から計算し直した方が速いくらいだ。予算案をケチっているのがまるわかり…ちゃんとチェックしているのか財務大臣…!)
心の中で愚痴をこぼしつつ、間違いをシャーペンで修正しているうちに食事の時間もすっぽかしているうちに時間がずるずると流れていた。いつの間にかシーラさんが戻っていたが帰って来た時に無意識でおかえりなさいと言っていたらしい。
資料を一通り読み終わると肩がゴキゴキとなり、立ち上がってストレッチで体をほぐす。
(まさか、こっちの国にも間違いがあるとは…いや、少し分かっていたよ、こんなに多くの国が間違っている時点でこっちにも間違いあるなって思っていたよ。そもそも全部あっている国が一桁なのが一番問題大アリなんだよ)
資料の人員配置を見てみたらこの資料を作る部署が年々減少傾向にある。元々あまり人気ある部署出ないというのもあるが、派遣申請を出しているにも関わらず目すら向けられていない。
(これは明日の大会議が荒れに荒れて苦情の嵐が飛び交うと考えたら楽しみで仕方ないな…)
フラフラと頭を悩ませている状況で、考えをリセットする為に部屋に備え付けてあるお風呂に入り、疲れを癒す。身体中には結構こりが溜まっていたようで普段よりもより一層、湯が身に染みて身体中が温まる。
「はぁ~」
姫様にあるまじき気の抜けた声をあげながら、明日の事を考える。
(お母様の代理として来ているけれど子供が使者としての仕事をしに来ているなんて舐められるに決まっているよな…逆の立場から言わせてもらえればすぐに帰れって言いたいほどだし…でも、初手でヤって置いたら多少目を向けられるよな、少し脳内で台本でも作っておくか)
お風呂から上がるとシーラの姿がどこにもない事に気が付いて部屋を見渡すとベッドの上に僅かに膨らみがあり近づいてみるとシーラがすやすやと静かな寝息を立てながら眠っている。
「こうやって見ると可愛いんだけどな…なんで物騒な仕事なんてやっているんだろうな」
素の喋り方で呟きながらもパジャマに着替えてベッドに入る。
「おやすみ、明日はもっと大変になるからお手伝いよろしくね」
まぶたを閉じるとすぐに眠気がなだれ込んですぐに寝付くことが出来る。
それからどれくらいの時間がたったのだろう。目覚ましの音とガラスの窓から差し込んでくる朝日によって目を覚ますこととなる。
エレベーターで一階に降りると食堂の方に他の旅行客が多く集まっている。全員が小さなお皿にトングを持っている。
どうやらケーキバイキングならぬパンバイキングをしているらしい。レパートリーはとても多いらしくお皿に乗っているパンはどれも違う。
空いてから行こうと思ったが、次から次へと一人去って三人増えるような状況の為、仕方なく人ごみに突っ込む結果となってしまった。
朝から軽い一波乱を終わらせるとすぐにシーラに手を引かれる。大会議の時間にはまだ時間があるが余裕を持ってホテルを出る。
大会議の場所を確認しながら歩くが徒歩で10分程度で着く。既に何人かの使者は着席しており、扉が開いた音に反応してチラリとこちらを視るがすぐに手元の資料に目を落とす…が扉の方を二度見する。
(そうなるよ…使者が来たと思えばそれが齢5歳児なんてね…)
一先ず自身の席について他の参加者達の到着を待つ、その間隣の席の人から一枚の紙を渡された。どうやらそれは参加者名簿のようで出席希望の名前がずらりと並んでいる。
名前の横の枠にはチェックマークか射線が引いてある。それに自分の名前の記入欄にチェックマークを入れて返そうとすると、反対側の席を指をさしていた。
それと同時に椅子を引く音が聞こえて反射的に顔を向けた。同じく使者の人が席に着く。その人に同じく紙を手渡す。
同じように自分の姿を見て困惑と驚きの表情を浮かべながらその紙を受け取る。大会議の参加者はチラチラと気づかないように見ているつもりなのだろうが、ショットガンのように一斉の視線を浴びせられるのに気づかないとでも思っているのか?
それからしばらくして参加者全員がそろった。この国の代表者と思われる人は名簿をと出席者を見比べてから手をパンパンと二回たたいてから手元のマイクに向かって話し始める。
『えー、予定より少々早めですが出席者の皆様がそろったようなので定例報告会議を始めます。この度この報告会議のホスト及び司会を任されましたピエールと申します』
ピエールと名乗った男は全員の注目を浴びても顔色変えずに動揺もせず、少々言葉に詰まりながらも朗々と話を進める。
『では、まずはそれぞれの経済の方面から話を進めていきます。では先ずは私の方から時計回りで行きましょう。皆様お手元の資料をご覧ください』
参加者全員が資料を捲りながら、言葉に耳を傾ける。資料にはそれぞれの予算の使い道破綻しないような工夫を交えながら詳細を教えている。
『という風に進めております。何かご意見がありましたら挙手をしてください』
ピエールは一通り話し終えて辺りを見渡す。辺りは頷いたり、資料とピエールを交互に見たりしている。
(さて、ここらで一つやっておくか)
スッと手を上げるとその場の全員…シーラ以外の全員がざわつく、中には「お手洗いにでも行きたくなったか?」と言う陰口も聞こえてくる。
『で、ではそちらの方ご意見をどうぞ』
『ご意見というほどではありませんが、誤植がいくつかあります。計算間違いですね。あげるとすれば7行目の技術開発部の予算が合いません。桁の数字も間違いがあります。名前で上げるのは皆様も混乱するかもしれないので、何行の何の記述が間違っているのかを言います。先ほどの7行から…』
そう言って昨日の間違い探しで見つけた誤植を指摘する。
当然ながら、詳細の説明でも省いたところを指摘したら反論はしてくる。
『……ということで、開発予算がどうしても必要になるために―』
『他の予算を幾分かそれに分け与えたとしても実現するには余りにも現実味ではないです。未来の文明に思いをはせるのは構いませんが、夢物語になってしまう事が殆どです。私の国でもその様な事が日常のようにあります。確かに完成すれば魅力的な事に変わりありませんが、それに失敗すれば今までの努力がすべて無駄になってしまう…失敗する可能性、考えたくもない気持ちは理解できますがそれを見越してこそ新たな可能性を考えられる…少し熱くなって、話がそれてしまいました。戻しましょう』
反論には意見と半分以上の無関係な話しで遮る。相手が期待している答えだけだとそこから反論の芽が育つ、それを摘む為に無関係の話題で思考を逸らす。
その後も自分の国含めて経済だけでなく技術考案など諸々に指摘する。
『訂正します』
『経済破綻になりかねません』
『実在できる可能性は限りなく低いです』
ほどんどがダメ出しのようになってしまったが、正論であるがためにそれを無視できない事としてみんなが注目してくる。それは最初とは打って変わり、期待か憎々しいという目で見てくる。
一巡した後、また手をあげる。今度はどの様な意見だろうとまた注目を集める。
『たった今までのようにこの資料は間違いが多すぎます。使者としての立場上、皆様にはこのような場合に即座に対応してもらわなければ困るのです。それで資料で部署の人員配置を拝見させてもらったのですが、必要最低限の人員を一人も増やしていないのが半分以上、経済の話しのところでも間違いが多すぎるのも財務部の落ち度、確認するのが一人いるのといないのとでは大きく違うのですよ。それが増えればなお良いのに、それが何一つ変わらないなんてそれは進化するどころか退化の道を辿るだけです。人員の増加及び派遣を申請します』
『分かりました。コスト含め許容範囲内でなら許可しましょう。具体的な増加人数と予算の使い方を教えてくださいませんでしょうか』
『幸い、従業員数が偏っている部署がいくつかあります。もしその中で賢い者がいたら適度な学力テストを行わせてそれが問題ないなら部署移動、もし賢さに偏りがあるようならそれに合った部署に配属するのはどうでしょう』
それに続けて、ある提案をする。それは…
『分類によって役職を変える…ですか?』
『はい、これは元々軍人に例えられていましたが、他にも通ずるところがややあるかと思います。少し長くなりますが説明しますね』
話したのはドイツの軍人である「ハンス・フォン・ゼークト」の格言の人間は4種類に分別できると言うものだ。
かいつまんで説明すると『有能な働き者』は与えられた仕事を真面目に直向に遂行するが下についていく者は息が詰まる。『有能な働き者』の短所は他人を自分と同レベルとしてみてしまう。
一方、『有能な怠け者』は与えられた任務を適度に適切に最適解をはじき出す。上に立つ者としてはとてもいい。
このように4種類の人間は何をするに適しているかを表している『有能な働き者』は参謀役に『有能な怠け者』は前線指揮官に『無能な怠け者』は総司令官、下級兵士、連絡将校に向いている、しかし…
『では、『無能な働き者は』どの様な役職がよろしいのでしょうか?』
『あー、いやぁ…その、ですねぇ…』
『無能な働き者』に対する評価は辛辣で処刑するしかないと言うものだ。無能だから間違いに気付かないし働き者だからさらに間違いを起こす。先程指摘した訂正箇所が多い物は正に『無能な働き者』がやりました。と言わんばかりの酷さだった。
『…ということは、『無能な働き者』は首にした方が良い…ということでしょうか?』
『いえ、過去の資料を読み返してみると最初こそ間違いが少ないのは確認済みです。しかし、人員の低下や長期休暇の短縮化によってそれが悪化しているのを考えるとそれらをすべて見直すべきだと思います。主にこれらの問題が抱えているのが北西大陸の「カルミリナ」周辺の国は今にでも変えた方が方がよろしいかと』
『ふむ…少しよろしいですか?資料の間違いは全てリラ様は把握しているのでしょうか?』
『見落としがあるかは何度も確認しました。恐らく間違いや見落としは無いでしょう。もし手書きで構わないというのであればコピーをお渡しします』
そう言うと訂正箇所を直したコピーを手渡した後に翌日、この訂正資料をもとに再度報告会議を開くということで本日の報告会は閉廷した。
次回10月中旬予定




