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第三十部 三章 愚かな真実

 その人影のシルエットはゆっくりとこちらに近づいて、その姿が認識できたときにその表情を見てたじろいでしまう。


 その顔には生きているとは思えない程の無の表情、無機質と言うのだろうか、ただそこにいるというだけで不気味さを覚える、まるで市松人形のような女性が3人。


 「あんたらは…まさか「ガーディアン」か?」


 アイシャの言葉で気付く。「ガーディアン」とは「ゴーレム」の改良型と言える機械のようなものだ。どちらも核と言える魔石を埋め込み命令を刷り込む事によりその命令を忠実にこなす。


 しかし、ゴーレムはあまり複雑な命令を理解できない。「○○を運べ」「○○を守れ」などという単純なものは理解できるが「○○したまま○○をしろ」などと一度に2つ以上の事を命令したり、複雑な動きである踊りなどを命令するとその命令を理解できずにその場でフリーズしたり、最悪の場合暴走して自壊する。


 ガーディアンの場合はゴーレムに埋め込む魔石を複数部位に分けて命令信号を理解できるように改良したものだ。中でも特に便利なのがその学習能力を持つ事、命令をするとその作業の効率化や簡略化をはじき出して術者に提案する。つまり、人間と同じような学習機能が備えられているという訳だ。


 もちろんゴーレムの方は魔石の節約になるし、逆にガーディアンは貴重な魔石の消費量が高い。利点や欠点を考えると一長一短だ。


 「はい、我らは「ガーディアン」この迷宮を作りし我が主の名によりこの階層の守護者」


 三人のうちの中央に立つ、おそらくリーダー格のガーディアンがそう名乗る。それに反射的に自分達を名乗ると、それを理解していないのか彼女らから話すことは無かった。それを見てアイシャが質問を投げかける。


 「あんたらがあのミノタウロスゾンビを生み出したのか?ガーディアンでありながら随分とすごい事をやるものだな」


 「いいえ、奴は我らが作り出したものではありません。奴は数か月前突如として現れました」


 「…その話し、詳しく教えてくれ。…あぁ、みんなは休んでていいぞ、美奈は回復魔法を使えたよな。それをかけてくれ」


 「うん、でも話は私も聞きたいから、耳だけは傾けておくよ」


 そう言ってみんなに回復魔法をかけている間にもガーディアンはその詳細を教えてくれる。


 「我らはこの迷宮の心臓とも言えるこの階層の守護を命じられました。これより上の階層は、魔素により意図的に自然発生させた魔物がはびこっています。それは全て我らの主が行った事による現象。しかし、奴は我らや我が主とは関係なく現れた。突如としてこの階層に出現しました。我らは奴と戦いましたが、奴は強大で主の従者である我らでは精々傷を作るだけに留まりました」


 そこでさっきのミノタウロスゾンビの体にあった傷を思い出す。確かにその話なら血痕もなく死体もないのに納得する。今の場所を見ると自分達が戦った痕跡以外にも別の戦いでついた痕跡がいくつかちりばめられている。


 「ふむ…つまり、あんたらが姿を現したのは偶然と手負いの状態とはいえ、障害を排除した僕たちのお礼のためという訳か」


 「おっしゃる通りでございます。そのお礼をしたく馳せ参じました。どうぞこちらへ」


 そう言ってガーディアンは自分達が出てきた壁に向かい歩き出す。


 「どうしましょう…?」


 「もし、戦闘になったらレイラ戦う力は残ってないよ…」


 「アイシャ、どうする?」


 「…利害関係がまだ決まってない以上、無視して下手に敵に回す事になったらそれこそまずいと思う。だけど、全員行くのもまずい気がするな…俺が一人でも行くが…」


 「いえ、それなら私が行きます。美奈さんとレイラさんはここで待ってて下さい。何かあったら大声で教えます」


 そう言ってアイシャとリラはガーディアンのあとを追ってその壁に向かう。ガーディアンはその壁に向かい歩を進めるとその壁は水面に波打つ波紋のように揺らめき、ガーディアンはその先に飲み込まれる。


 「おぉ…消えた…?」


 「というより…通ったんだろうね。とりあえず、万が一のために少しでも魔力を回復させないと…」


 そう言って腰に刺していたポーションを一気飲みする。


 View change アイシャ


 ガーディアンの後をついて壁の中に入るとその先は小さな部屋に行きついた。しかし、その部屋はいくつかの本棚があり、その表紙はほどんどが手記で机の上には研究ノートや開けっ放しの本がそのまま残っている。


 「ここは我らが主の研究部屋、普段は立ち入りを禁じているが、この度の礼としてこの部屋の閲覧を許可します。しかし、本や書物を持ち出すのは禁止させていただきます」


 「…どれも専門的な知識がないと読み解けないものばかりですね」


 「これは内容を写すのもダメなのかい?」


 「禁止させていただいたのは持ち出しのみ、滅茶苦茶に荒らしさえしなければ許可します」


 写すのは問題ない、がこれらを写真に収めたり、文字を全部タブレットに写すのは時間が掛かる。戦いですっかり忘れていたが、俺達は実戦の授業でこの迷宮に入ったんだ。プライベートならまだしも、流石に長居するのはよくない。


 「さっきから我が主の話しはしているけれど、その主はいないみたいだね。今はどこにいるかは分からないの?」


 「極まれに帰ってきます…ですが、例えその時にいらっしゃってもお話しをするのは難しいかと思います。我が主はあまり人と関わりを持ちたがらないので、連絡する際も我らを通して伝言や手紙を通すことが主です」


 「…分かった。それじゃもう一つ聞くけれど、ここに以前、私たち以外にもここに来た人はいる?」


 「数年ほど前になりますが、一組の夫婦が来たことがあります。オーガスタ・キャロルと名乗っておりました」


 「…!そうかあの2人が、彼女らとは関りがあってね。どんなやり取りをしたんだ?」


 「取り引きをしました。この階層の事を秘密にして上の階層の魔物が溢れないようにする代わりに、この部屋の制限を軽くするというものです。今まではこの部屋に入ろうとするものは排除してきましたが、彼らは我らを壊さずにここを守護し続ける事を許容したため、我らに与えられた任務を今も果たせています」


 「なるほど…いや、待てよ…だとすると、この魔晶石は君たちの体内にある魔石のチャージに使うものなのか?」


 「それも、取り引きの1つです。しかし、それは差し上げます。それもこの度のお礼としてお受け取り下さい」


 「…そうか、そう言うならありがたく受け取っておくよ。さっきの2人も同じものを持っているんだけど、それも持って行っていいの?」


 「はい、あなた達の苦労に見合った報酬として差し上げます」


 「ありがとう、私達もこの部屋の事は隠せるけど、この階層は難しいかな、でも、ミノタウロスゾンビ以外に君たちの存在は言わないでおくね」


 「感謝します」


 「それじゃ、今回は帰るよ。リラ、行くよ!」


 ガーディアンとの会話をよそに本を読んでいたリラに声をかけて美奈たちの下に帰る。美奈たちにはあの部屋の事やそれを内緒にすることを話して上の階層に向かう。どうやらこの階層に来るにはあの落とし穴にわざと落ちる必要があるらしくて、その為の安全クッションもあったようだが、ミノタウロスゾンビに壊され、今まで生成された魔晶石もあいつに食われていたのだという。


 ミノタウロスゾンビがいた場所には素材だけが残されていた。角や舌、鱗に鉤爪、一応説明するために持っていくことにした。


 上の階層には魔法陣が書かれてそれはこの迷宮からの脱出に使うものだと理解してその上に乗って起動する。

 

 眩しい光に目を閉じて数秒した後に気づいたら外の風景と太陽の光が自分達を出迎えるように視界に入る。


 それ以外にも、何人かの冒険者が集まり、2人の先生は今にも泣き出しそうな顔でこっちに向かって走り出してきた。


 「あぁ、よかった…!無事だったか、君達に何かああったらと考えると心配で……いや、違うな。すまない、今までこのような事が起きたことがないからと、こんなことを引き起こしたのはこちらの落ち度だ」


 「謝らないでください。確かに色々ありましたが、この通り無事なので心配なさらないでください」


 「でも、その服…怪我を負ったのだろう?確か美奈さんは回復を使えたはず…それに随分長い時間いたはずだが…一体何があった?」


 「その事については僕が話します。ですが、他の三人は疲れているので先に学生寮まで移動しましょう。詳しい話はそこのロビーで話します」


 今は正直なところ歩くのも体力を多く消費しているのを感じて寮に着いたら気が抜けてその場で倒れそうなのを耐えながら、落ちた後の事をガーディアンの部分は伏せつつ説明する。


 最初はその事を信じられないという反応だったが素材を回収していた事がその証拠となり信じてもらえた。しかし、その素材は学生が持つには危険だと冒険者ギルドで詳しく調べる事になった。説明が終わるころには疲労がピークに達して部屋に入った後は着替えもしないでベッドの上で舟をこぐ。



 ~ 冒険者ギルド ~


 その日の深夜、冒険者ギルドの中は静まり返っている。冒険者の中には依頼に時間がかかるため、夜遅くまで帰ってくるのも珍しくないが、この日はその冒険者もいない。


 しかし、そんな時に仮眠室の扉がゆっくりと開く。そこから出てきたのは、今日ヴェルスター学園の特待生のお付きとして同行した冒険者のうちの一人だ。


 冒険者はギルドの中を迷いなき足取りでギルドマスターの扉をノックする。中から「入って」と声がかかるとその扉を開く。すると、そこにはギルドマスターのアリアだけでなく冒険者の指南役のゲンブも居た。冒険者が口を開くよりも先にアリアが先に口を開く。


 「ゴメンね。あまりこの話を広めたくなくてね、それであまり人もいなくてじっくりと詳細を聞くにはこの時間しか無くて…早速、本題に入らせてもらうわ」


 アリアが机の下から取り出したのは美奈たちが持ち帰ったミノタウロスゾンビの一部、それをガラスケースに入れた状態で机の上に置く。


 「解析してみたのだけど、間違いなくミノタウロスの角であることは間違いないのだけど、普段ミノタウロスの角はこんな折れ方はしないの、普段は根元からぽっきりと折れる。というのも根本以外はとても硬くてね。先端を欠けさせるのも難しいはず、それなのに今回持ってきたのはその硬質部分が折れてそれを持って帰ってきた」


 「この異常な部分があるのはゾンビの特徴だ。人間や動物のゾンビでも、硬かったり無くてはは動けない重要な部分が損傷していたりしても動ける。角が生えた動物のゾンビは俺達でも見たのは両手で数えられるほどしか見ていない」


 「そこでこれをさらに注目してみたら、この折れた部分が腐敗していたという事、つまり、あの子たちが戦ったというのはミノタウロスゾンビで間違いないのだろうね。彼女たちが着ていた服の写真も大型の魔物、それこそミノタウロスの鉤爪や叩きつけられる時に抉られた地面の痕跡にそっくりなの」


 「ギルドマスター、ミノタウロスゾンビはなぜ、あのような訓練場のような迷宮に現れたのでしょうか?」


 その言葉にアリアは少し、考えると目でゲンブに合図を送り、それを受けると本棚から一冊のファイルを手渡すとパラパラとめくり、1つのページで止まる。


 「これは今までのゾンビの発生の原因のまとめ、見たら分かると思うんだけど、それは魔素が埋まった死体に作用して魔物として蘇ったり、上げていればキリがない。だけどね、強力な魔物のゾンビなんて魔素程度の半端な力じゃ発生しない時は間違いなく、こいつが絡んでいるに違いないの」


 アリアがファイルに挟まっている写真を取り出して、冒険者に見せる。それに写っていたのはローブを目深に被った細身の人間、性別も分からないがそれはやせ細り、ほぼ肉と皮で繋がれた体、そしてその手には髑髏がついている杖を携えていた。


 「ネクロマンサー、死霊術を使う者ならどんな奴でも破片さえあればゾンビに出来る。それで報告を受けて何人かゴールドエンブレムを持ったパーティーを送ったんだけど、見当たらなかったらしい。一応その可能性は考慮していたけどね。その理由として、あそこは毎日、色んな冒険者がいるから、そんな怪しいやつがいれば一発で分かるでしょう?それが無いとなると…まぁ、殺されたんじゃない?自分が創り出したミノタウロスゾンビに」


 「呪術師も自分が作った呪いに殺された事だって珍しくない。蘇らせたはいいが、上手く制御できなくてそのまま…そして、制御する者がいなくなって暴走…と見るのが自然かな」


 淡々と仮説を立てるが、その真実は永久に分からないだろう。当事者が死んでいるのならその動機さえも闇の中だ。


 「あの、魔晶石についてはどのように考えられますか?」


 「あぁ、あれ?実はあれはね。誰もが取れないと思うでしょう?でも君たちがやったあれは正攻法なのよね。まさか、10も行かない年齢の子供がそれに気付くなんて、冒険者としての面目丸つぶれじゃない。まぁ、高ランクのエンブレムを持つ人はあのダンジョンの魔晶石は取れないのが当たり前って思ってそのまま、潜らないで別の迷宮でレベル上げに勤しんじゃうから、まだほとんどの人が勘違いしているんじゃないかしら?」


 「今回の目的は魔晶石の入手は噓で迷宮のトラップや魔物との実戦が本来の目的。穴に落ちてもミノタウロスゾンビがいた最下層まで落ちることは無く、1つ下の階層に行くだけ。ただ見えない床を通り抜けた先の魔晶石がある場所にある落とし穴にハマってしまうと…」


 「最下層に行ってしまうと…なぜ、そのような事をダンジョンの説明に書いてないんですか?もし、他の冒険者がそんな目に遭えば…」


 「だって、前に一緒に最下層に行ってみたけど、アンティークな壺や高価な芸術品以外、何もなかったもの」


 「え?でも、そんなものはなかっ……あっ」


 「そう、全部持ち帰って売った。私たちがね、今回は不幸な事態が起きたけど、これからは少し、対応を考えなくちゃね。あぁ、一応言って置くけれど、魔晶石に目が暗んで自分だけでも儲かろうとしちゃダメよ?それで最下層に落とされて足がぐしゃぐしゃになって回復魔法でも元通りにならない事例も何回かみたから、あの子たちは運がよかったから助かった。それだけ」


 「はいはい、これで今回の事は終わり、君も何も知らないままというのはもやもやしたままだろう。知らなくてはならないことなんてないが、一応、という事でこんな時間までギルドで仮眠してもらったんだし、他の人にはやんわりと教えてくれて構わない…いや、魔晶石の事については伏せてくれ。流石に訓練が金策目的になったら叶わん、破ったら永久に冒険者エンブレムを剝奪するから、知った冒険者も同罪にね。そうしたらそいつにどんな目に遭わされても責任取れないし」


 「は、はい…」


 「それじゃあ、家に帰ってゆっくりしなさい。今回の報酬についてはまた後日に振り込ませてもらうよ。現金がいいなら直接取りに来てね」


 冒険者はそのまま冒険者ギルドを後にする。

次回4月中旬予定

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