第四部 二章 馬車の移動は優雅に
View リラ
「え?あの三人で更に友好関係を気づくために集まった方がいいって?」
「はい、陛下はそのようにお考えの様です」
うーん、王様がそう言えばその方がいいんだろうけれど、それなら、直接言えばいいのになんで、わざわざ、エリックを通じて言うんだろう。
「うん、分かった、そのような手紙を書くから紙とペンを用意して、あとは場所と日時せっかく招くんだし、高価な茶葉の紅茶とか茶菓子を用意した方がいいよね、それも手配してもらえる?」
「畏まりました」
それから、しばらくどのような文を送るか迷い、もし、リエラのゲーム内での性格ならどのような言い方や誘い方があっているか頭をフルに稼働して文を書いた。
「手紙はこちらから直に届けておきます」
「あー、でも紋章はこっちで書くよ、焼き増しとかするの少し不安が残るし」
「分かりました。では見本をお持ちしますね」
王家の紋章は一回見ただけで完全にコピーすることは出来ない。というよりできる方が記憶力が尋常ではないのだろう。
一目見ただけでは王家の紋章と分かるがそれを記す、つまり書く側である方からすれば、とんでもない時間ロスなのだ。
「…」
何回か見本と書いた紋章を照らし合わせる。
「はぁ…出来た…何気に4回やり直す羽目になった」
2ミリくらいなら軽い誤差なんだけどその位置に新しい線とかそういうのが加わると王家の紋章だということが分かっても、歪な所が一つでもあると王家にとってそれは大恥でもあるのだ。
(なんでこんな事が恥の対象になるのかが分からない。)
取りあえず、完コピした紋章を入れ、伝書鳩に持たせる。
この世界の伝書鳩は魔力を実体化させてそれぞれの家の受け取り口に入り込み、霧散していくので結果的に紙だけが残る。
そうして、手紙を送った数日後、美奈さんからの返事の意ともうひとつ。
「馬車の手配はあっちが持つの?」
こっちからの誘いだし、全額こっちが持つつもりだったけれど、もう手配しているみたいだし、ここは、お言葉に甘えてもらうのがいいんだろうな。
やっぱり、令嬢だと、心が清らかというか、優しさに満ち溢れた行動というか…でも、アイシャちゃんはどうかと思うけれど、まぁ、そこはご愛嬌という事で一応、場所と日程も皆さんの予定があえば、それ程、全員の家から遠く離れていない。
そうだ、仮にも今の自分は一国の姫、別邸が幾つかあってもおかしくはないと思う。後でエリックにでも聞いてみようかな?
View 美奈
ふむ、場所はあっちが所有している別邸ね。住所も書かれているけれど、実際はどんなところなんだろう?
「お父様、パソコンを借りていーい?」
「ん?ぼくのパソコンでお勉強かい?」
「ううん、これに書いてある場所をみたいの」
美奈の父親、徹は手紙を見て少し、目を見開くと指さした場所以外の文面を見て、少し考えるような、顔をする。
「…うん、ここなら、特に教えても問題はないか。ちょっと待っててね」
徹は椅子を立ち上がり、パソコン机の椅子に座り電源をつけて、カタカタと操作を始める。
しばらくすると、ちょいちょいと手招きをする。それにつられるように近づくと膝の上に乗るように促されてちょこんと座ると画面に指をさしながら説明をする。
「ここが、美奈ちゃんが言っていた調べたい場所だ。庶民地に設置してあるこの国の中でも珍しい位置にある割と大きい豪邸だ。ただ、利用する機会があまりないため、内装は少し殺風景というか、ガランとして、掃除も行き届いていないイメージがある。後は、近くに川が流れているくらいだね。釣りのスポットとしてはマイナーな場所らしいけれど…っと話がそれたね。ゴメンゴメン、とはいえ、分かる情報としてはこれくらいかな?」
画面にある建物は4階建ての旅館のような外装をしている。内装の写真もあったが、画面で見ているためか、徹が言ったような掃除がされていないという印象は分からなかった。
「お父様、住所も覚えたい」
「ああ、何か書くものでも…いや、印刷した方がいいか。ちょっと待ってて、それと美奈ちゃん」
「ん?なあに?」
「一回だけ、「パパ」って呼んでもらっていい?」
「えっ?」
「いや、特に理由はないんだけど、この前、仕事帰りに一組の親子を見かけてね。娘が父親の事をパパって呼んでいてね。少しばかり興味があって、一回でいいから言ってみてくれないか?」
(うーん、パパって言った事って記憶的には覚えていないんだよな、物心ついたころには父ちゃんでいつの間にか父さんって言っていたし、「パパ」なんて漫画やアニメでしか、言っているのを見たことない。でも、一回だけなら試しに言ってみようかな)
「パ、パパ…?」
「……っ」
「こ、これでいい?」
「あぁ、ありがとう、中々いい響きだ。だけど美奈ちゃんにはやっぱり、お父様って呼ばれた方がいいな」
「それなら、今までどうりお父様のことはお父様って呼ぶことにするね」
「ああ、それでいい。っと印刷が終わったようだ」
そういうと徹は椅子に座ったまま、パソコンの隣にあるコピー機から印刷した紙を四つ折りにして手渡してくる。
「はい、これさっきのコピーね。一応、電話番号や住所の詳細なども載せておいたから」
「ありがとう、お父様」
「あっ、ちょっと待って」
部屋を出ていこうとしたら、徹から制止の言葉が来る。
「小耳に挟んだんだけど、最近、妙な夢を見たんだって?」
「えっ?う、うん。そうだけど…なんで?」
「…いや、もし、怖い夢をみたら何時でも来ていいからね。ぼくとお母様の寝室の合鍵渡しておくから」
そういうと鍵を投げてきたと思ったら、鍵は自分の目の前で急激にスピードを落とし、手のひらにポトリと落ちる。
「それと、その手紙、姫様からの手紙だったんだろう?奇跡的な機会かもしれないから、今のうちに仲良くなったらいいかもね。将来いい職に就けるかも、ってまだ進路は早かったか、ははは」
わざとらしく笑う徹に若干の複雑な気持ちがわきつつも印刷してもらった紙を抱えつつ自分の部屋に持っていく。
数日後、当日
「では、行ってきます」
「お嬢様、くれぐれもお気を付けて」
「うん、サリアちゃんもお掃除頑張ってね」
「っ……はいっ」
なんで永遠の別れみたいに泣いているんだろう。まぁ、同伴者は無しでって書かれていたから仕方ないけどさ、あえて言うなら馬車の御者が同伴者的なポジションだろう。まぁ、雇い主は徹だけどね。
窓から笑顔で手を振って馬車が動き出す。
(ここから近いのはアイシャの所か、先ずはアイシャとレイラを迎えに行って、それから、別邸に向かう、取りあえず、待っていてくれたらいいんだけど…)
View Change アイシャ
「やばいやばいやばい!!どこ!?俺のバックどこ!?」
「お嬢!こっちの用意できました!」
「待って!まだ、バックが見当たらないんだけど!」
「お嬢!バック既に肩にかけているじゃないですかっ!!」
「あっホントだ」
昨日準備をしなかったとはいえ、寝坊するなんて、運悪い。幸いまだ、送り迎えの馬車は来ていないみたいだけど、時間を見るにいつ来てもおかしくないこの状況、もはや一刻の猶予もないこの状況、財布よし、鍵よし、スマホよし最低限の持ち物は準備済み。
後は、身嗜みを整えるだけ、せめて髪だけでもセットして既に歯磨きは済ませている。
顔を洗って、よし、何とか準備出来た!
「お嬢!馬車がお見えになりました!」
「今行くー!」
外に出ると美奈がスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をしてくる。
「おはようございます。アイシャ様、お迎えに参りました」
「これはこれは美奈様ごきげんよう、お迎え感謝致します」
軽く挨拶した後、二人で馬車に乗り、美奈含め二人を乗せた馬車は再び動き出す。窓からはジェシカとランクが小さく手を振っている。
「?」
「アイシャさん?どうかなさいました?」
「え?あぁ、いえ、多分、鳥でしょう」
その場にはいなくとも二階の執務室からガルドが手を振っていたが、それにアイシャが気づくことはなかった。
ガラガラと舗装された道を馬車が走る。
「美奈さんちょっと聞いていいですか」
「はい、どうぞ。それと、美奈さんって堅苦しい呼び方はいいですよ。楽な呼び方でどうぞ」
「楽な呼び方…最初から呼び捨てはちょっとなれなさそうだから、美奈ちゃん、でいいで…いい?」
「うん、お父様もそう呼んでいるから、それで聞きたいこととは?」
「わざわざ、馬車を使わなくとも自動車とかを使った方がいいんじゃ?馬車よりも速いし、すぐに着くことも出来るでしょう」
「確かに、それも考えましたが、レイラさんが住んでいる場所は入り組んでいる住宅街、この国には車が通れる道は地下高速道路と一部の自動車天国通り、身近なところだと多少の小回りと乗用車より一回り小さい馬車の方がよろしいかと、今回の馬車も比較的小さい物を選んだんですよ」
「へぇー」
5歳なのに結構マナーや判断力に優れている。やはり貴族は最低限のマナーがないと現実ではやっていけないのかな。それにしてもこの判断力は異常だとは思う。
一体どの様な思考をしているのか興味があるな。
「私からも質問していい?」
「ほえ?あぁ、うんいいよ」
「アイシャちゃんって前と全く雰囲気違うよね?前はグイグイ引っ張っていくような感じって言うか活発さがアイデンティティみたいなそんな感じの」
「あぁ、その件ね。あれは、無理矢理テンション上げないといけないくらいの場だった。それだけ…いや、だからこそかな、たかがその場されどその場という事。
慣れないタキシードを着て、普段なら立ち入れない城に入って他の人たちの輪に入って話すなんて正直、緊張しないほうが無理って話し。だから無理にでもテンション上げてそれを押し殺すような勢いで話さないとギクシャクして何も話せなかったと思う」
「なるほど、道理で、うん、あの時の疑問が今晴れました。大方、見方は当たっていたようですね」
「えっ」
「随分と緊張しているようには見えませんでしたが少々焦っているようにも見えたので何か理由があるのかと思って」
それを分かってて質問したっていうのか、少々食えない人でもあるな。煮ても焼いても食えなさそうだ。
「…美奈ちゃん、君も楽に話していいんだよ?こっちが気楽にして、そっちが堅苦しい言葉なんて」
「んー、そういうならそうさせてもらうけど、なんかそういう所がまだ気を使ってる感じがあるなぁ」
「これくらいは当たり前だよ。人も人を選ぶのに打算無しに行動する人なんて少ないでしょう?」
「…アイシャ、それ殿方が口説くときに使いそうな言葉だよ」
クスッと笑う美奈に少し顔を赤らめてしまう。本当に食えない人だ。
「男の人…ね、美奈ちゃんは結婚したい人とかいるの?」
「このスピード結婚社会、親が婚約者を決めるのはあるんだけど、家の方針じゃ、少し違ってね。お家柄があるからそこを踏まえての婚約者選びが必要なんだって」
「自由に婚約者を選ぶのがそっちの家の方針ってわけ?」
「そうともいう…んだけど、お父様とお母様はお互いの家で友好関係を結んでそこから恋人と呼ぶ関係になったらしいよ。計画的に結婚させられてような感じがするでしょう?まぁ、実際そうだったんだろうけど」
「そう、あっ、そろそろじゃない?レイラちゃんの家」
View Change レイラ
心臓がバクバクなっているのが分かる。今日は姫様のお誘いの件の当日、だけど、千燐美奈さんとアイシャ・ハーンさんを乗せた馬車に同乗してしまう。
そのことを考えるとあの時の事を思い出して、胸がドキドキして、また顔が熱く…変だよかっこかわいいのは主人公だけだと思っていたのに、こんな気持ちになるなんて…
いつ来るか分からないから、予定時刻より1時間前から、待っているけど、貴族の馬車に平民である自分が同乗っていいのかな?昨日から一睡もせずに身嗜みを数十回見直したりくまをおしろいで隠してみたけど、不自然じゃないよね。
ああ、鏡を見に行きたいけれど、その間に来たら、申し訳ないし…あっ、この音、もしかして、間違いない来た!
ガラガラと音がして馬車の扉が開くとそこには美奈さんとアイシャさんが降りてきて挨拶をしようとする。その前に気を付けをして上半身を90度倒し、彼女らより先に挨拶をする。
「おはようございます、美奈様、アイシャ様、わざわざご足労いただきありがとうございます!」
「え、えっと…あはは、随分と社交辞令がしっかりなされているようで、ねぇ?美奈ちゃん」
「ご足労っていうのは、どっちかというとあっちに着いてから言われる言葉だけど、まぁまぁ、乗って乗って!では、しばらくお借りして行きますね」
「「レイラ、いってらっしゃい」」
「おねぇちゃん早く帰ってきてね、明日「魔境どうでしょう」の特番の放送日だから!」
「う、うん」
美奈に促されるままに馬車に乗り込む。
「……っはぁ、はぁ」
やばい、馬車の中から甘い、いい香りがする。香水かな?お花と甘い蜜のような包み込むような。
「レイラさん?」
「はっはひぃ!!」
「どうかしましたか?お顔が少し、赤いような…」
「だ、大丈夫です。こちらにいらっしゃる前に少し軽い運動をしていて…」
「そうでしたか、それで、どうですか?」
「へっ?何がですか?」
「何がって…先程、畏まらないで、気楽に接して欲しいって言ってそのお返事をお聞きしていたのですが」
何それ、聞いてなかった。だけど、この香り、お二人から?
「い、いえ、恩人でもあるお二方に気楽なんて、恐れ多くて出来ません!」
「じゃあ、恩人である僕たちからその恩を返すために気楽に接しなさい」
「っ!…」
「恩返しのつもりでね…ダメ?」
「~っ!…もうっ、そんなのズルいよ」
あぁ、この二人見た目だけじゃなくて、心もかっこかわいいなぁ、あれ?だけど、この感じ、どこかで…そうだ、ストアドシリーズをプレイしてそのかっこかわいさを真似しようとして、主人公と同じ口調で話した時と似ているような。
「ん?どうしたの?」
いや、考え過ぎか。
「いえ、違いま…あっ」
今まで眠っていなかったので睡魔が一気に襲ってきた。その目はくらくらして、視界がだんだんぼやけてくる。
「少し、寝る?まだ、目的地までは距離があるから、いいよ。そうだ、私の膝枕を使って」
その言葉を最後まで聞くことが出来ず、自分の意識はブラックアウトしていく。
View Change 美奈
レイラはコテンと頭を膝に乗せてスヤスヤと眠りにつく。
「ふふっ可愛い寝顔」
「あまり、起こさないようにしないとね。それにしても、美奈ちゃんってとても優しいよね。妹でもいるの?」
「ううん、ただ、こういう子には少しでも優しく接するのが当たり前でしょう?」
「おおっ、かっこいいこと言うね~」
「当たり前のことでしょう、それに、見て、こんなに安らかな寝顔見られたと思ったら、何かいいことありそうじゃない?」
「…ふっ、何それ、でも、そういうのは必要かもね。さて、まだ距離があるとはいえ気持ちよく眠っているお嬢さんがいる。静かに紅茶でも飲みながら到着を待つとしましょうか」
「そうだね」
次回9月末予定




