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第三部 三章 お茶会の閉幕

 View リラ

 なんとか、間に合ってよかった、急いだほうだけれど、その時には美奈とアイシャが対峙していたことには驚いたけれど、まさか、時間稼ぎとはいえ、その機転が功を奏したなんて、正直信じられない。


 それから、今の状況で一番驚いているのが、あの二人組の現在進行形で行われている事。


 「このっ!このっ!!よくもうちの女神をっ!!」


 「お嬢の手を煩わせるなんてなんとも下衆なっ」


 「あなたのせいでお嬢様が苦手な魔法を使う羽目にっ!」


 「あと一歩のところでうちの子が被害にあったかもしれなかったんだぞっ!」


 保護者が二人を囲んで殴る蹴るなどのはたから見れば集団で弱い者いじめをしているようにしか見えない。


 ちなみに最初はレイラの父親ゲンブが一方的に殴り、気絶したらモーニングコールという名の腹パンをして膝をつくと一言。


 「誰が座っていいといった?」


 ドスの効いた静かな怒りの後、その後に何気に言った自分の一言が保護者全員の集団リンチがあの二人に降りかかる事になった。


 「もし、他の人が一人でいたり、私たちが心配して様子を見に来なかったら、なすすべなく攫われていたでしょうね」


 その言葉が保護者の皆様の逆鱗に触れたようで、このような状況になってしまったらしい。


 View Change レイラ

 「あ、あの、わ、わた、し…」


 自分の感情とは無関係に涙がポロポロと出てくる、確かに、腕を強く掴まれて、痛くて怖かったけれど、安心感で心が満たされると、申し訳なさが大きくて、その場にペタンと女の子座りをしてしまい、美奈とアイシャに心配させてしまう事に更に涙をこぼす。


 「レイラさん、どうぞ」


 美奈がゆっくりと微笑みながら凛とした雰囲気を漂わせて手を差し出す。


 その姿を見て、心の中に慣れ親しんだ、自分が最も憧れる言葉が浮かんできた。


 「片方じゃ、不安だろう、もう片方も、ほら」


 アイシャも手を差し伸べてくる。だけど、まだ、アイシャに対する恐怖が心のどこかであるのか、アイシャに手を伸ばそうとした時、びくりと手が震えて、手を引っ込めてしまう。


 すると、アイシャはもっと近づき、無理矢理手を取りながら耳元で


 「つれない態度取られると、追いかけまわしたくならない?」


 と、囁く。


 二人の手をキュッと握られて、おずおずと立ち上がりながら、心の中であの言葉を発し、感情を噴出させた。


 (か、か、かっこかわいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっ!!!!何々、なんなのこれ、会った時はこんなこと感じなかったのに、うそ、うそっ今、高ぶっているの、間違いない、これ、かっこかわいいに憧れた時のあの気持ち、でも、おかしい、今までは主人公のかっこかわいさを見ていたはずなのに、この二人に対するこの感情、これは…これが、恋心)


 トロンとした顔で二人を見つめてしまう。


 View Change アイシャ

 まだ涙を流している、まぁ、あんな体験、運が相当悪くなければ、怒らないだろうからな、普段なら、ハンカチを渡すけど、せっかくだから、特別サービスだ。


 ポケットからスッとハンカチを取り出して、レイラの両頬に伝う涙を拭き、残った涙を拭きとるように手で頬を撫でる。


 「…うん、うん!」


 レイラは小さくうなずいた後、トンッと軽く俺と美奈の胸元に顔を当てる。


 その顔に涙はもうなく、年相応の笑顔が、そこにはあった。


 その後、誘拐犯の二人は口を割らなかったが、落ち着きを取り戻したレイラの証言で、探知魔法の範囲で城外の小さな森に他の誘拐犯と被害者の子供がある可能性を言った後、保護者含める兵士達が、その森に突撃して、無傷で帰ってきたのは言うまでもない。


 今回の事は他言口外を極力しない(直接かかわった4人の家族は除く)事を条件に大人しく、お茶会を続けることになった。


 しかし、同じことが起きる可能性があるので、お手洗いや、少し席を外す際は待機している兵士に声をかけて同行することになった。


 そして、その日の太陽が沈み始め空を赤く染め上げた時。


 View リラ

 「皆様、この度はパーティーにお越しいただいて誠にありがとうございます。大したおもてなしが出来なかったことを深くお詫びしますが、どうぞ、同じ学園に学ぶ人間として、これからも皆様と良き関係を築いていく事を心から願っております」


 お辞儀をすると、ご令嬢の皆様はスカートの裾を軽く持ち上げ、お辞儀をする。


 (…アイシャさんのお辞儀は高級レストランのウェイターがやるようなお辞儀だけど、スカートでもない限り、ああいう事しかできないんだろうな)


 そんなことを、思いながら正門までお見送りしながら、笑顔を振りまき、お辞儀をする。


 そして、最後の一組を見送った後、操り人形の糸が切れたようにだらんと腕を下げ、その場にへたり込む所をエリックに支えられて、そのまま、おぶられて、自室まで、送られた。


 「お疲れさまでした。姫様」


 「づ、づがれだぁ~」


 正直、マジで疲れた、威厳を保つ事に気を使い礼儀を尽くすことにも気を使い、おかげで気力は無くなり、アクシデントの対処にも体力を使って既に疲労困憊になっていた。


 「この度は流石にお疲れでしょうが、ご夕飯はお取りになってください。一食でも食べないと体に障ります」


 「…うん、でもここで、食べる。もう、食堂まで行くのもおぶられるのも、もう疲れる」


 「畏まりました、では簡易の折り畳みテーブルをお持ちしますのでしばらくお待ちください」


 その数分後、疲れからか食欲があまりなかったので、パンやサンドイッチを口に運ぶと服をくいっと引かれる。それに振り返るとリエラがニコニコと笑顔で口を開けている。


 「はい、あーん」


 「あーん、んっ美味しっ」


 「今日はありがとうね。リエラ」


 あの時、レイラが誘拐犯に捕まっている時、いち早く知らせる為にリエラとテレパシーで同伴者を呼びに行く際、リエラに自分と瓜二つの姿を取るように聞いてみたところ、ほんの少しの間だけなら、できるらしく、その姿で緊急事態を知らせ、案内している途中でさり気なく入れ替わり、速く事態を知らせることができた。


 「でも、もう少し遅かったら、三人とも連れていかれちゃったかも、ごめんなしゃい」


 「いいのいいの、結果的に助かったんだし♪ご褒美を上げたいけど、今日はおねぇちゃん疲れちゃった、だから、明日ね」


 「ううん、疲れが取れたらでいいの、だから…一日いっぱいあそぼ?」


 ああ、もう、リエラは可愛いなぁ、そんな言い方されたら、断るなんてできないじゃないか。


 「うん、約束」


 View Change エリック

 「以上が、今日のパーティーで起こった出来事です」


 陛下も王妃様も驚きを隠せないようで、顔に手を当て、ううむ、と唸っているようだが、少し頭を振って、考えを振り払うようにする。


 「しかし、あの三人とても気になるな」


 「ええ、わたくしめも全く同じ意見です」


 普通ならば、魔法の才が目覚めるのは6歳から8歳が一般的だと言われている。それに、気孔は特殊な武術、類稀な技能であるが故に使いこなすのが、難しい。


 それらを用いて大人の手を借りずに、使いこなして、今ではその出来事は一般の目に触れてしまうと、大騒ぎになる。


 そのことを恐れてか、必要以上の口外はしないように厳しく言っておいたが、噂程度に広がる事は陛下も知っているだろう。


 その為にただの噂話は一過性のブームになるため、早めの対応を取らざるを得ない。


 「そこで、だ。エリック、一つリラと協力してやっておきたいことがある。これは君にしか出来ないことだ。やってくれるかい?」


 「ええ、もとよりこのエリック、生きている内は陛下のお役に立つ事を約束いたします」


 View Change レイラ

 お茶会から帰ってきた後、家族にものすっごく心配されて、総合病院の検査をフルコースで受けることになり、それが終わって家に着くころには日付が変わるほんの少し前の事だった。


 「やっぱり、寮の生活なんて俺は反対だ。今回のように汚らわしい下衆にこれ以上のトラウマを刻み込まれるような事態は避けなければならない!」


 ゲンブが大声で近所に聞こえるぐらいの大声が一帯に響き渡る。


 「落ち着いて、子供達が起きてしまうわ、それに、よく考えてみてごらんなさい、ここは、学校に徒歩で行くにせよ、贅沢に馬車で行くにせよ入り組んだ街中の一軒家、陛下からの手紙ではレイラのヴェルスター学園入学許可証もある。それに、今日のお茶会で、レイラの記念すべきお友達、あの子たちをこういう形で接触させるのはどう?」


 …寝る前にトイレを済ませてから寝ようと思ったけど、タイミング悪い時に来ちゃったなぁ、怪しい取引きしている場に居合わせた気分だよ。


 ViewChange アイシャ

 「っていう事があったの」


 家族には今日起こった誘拐犯の話しを話した。


 「あら~、そんなことがあったの~、でもアイシャちゃんが無事でよかったわ~」


 「奥様、お嬢は気孔を使えるのです。心配など必要ありませんよ」


 ランクが口を出すがそれでも、まだ心配といいそうな顔で話を続ける。


 「気孔は魔力や能力値の代わりに体内のカロリーや新陳代謝の活性化が促されるのでしょう~?それなら、十分な食事に含まれるカロリーが足りないと、効果も薄いって聞いたことがあるわ~、たまたま今回は前日に揚げ物や炒め物とかのカロリーが多い食事をしていたから~運良くできたんじゃないの~?」


 「アイシャの行動には敬意を表すが、ジェシーの意見は正しい、気孔は自身のカロリーを大幅に削る。ダイエットに使える、などといえば聞こえはいいが、その分栄養を使っているということだ。

 使い過ぎると栄養失調で体に障る事に変わりはない、だから、よく内には賞味期限がぎりぎりの食品が送られたりするだろう?それを食いいつでも気孔を使えるようにしている。

 アイシャは…まぁ、気孔を使えるが、まだ、身体強化しか使えないだろう、レベルも上がれば他の気孔術も使えるだろうがな」


 「うぅ、何も言い返せないし、正論ですぅ」

 

 実際、最初に飛び出したのは美奈だから、あそこで一緒に飛び出していたら、不意打ちもできなかったとはいえ、素直に援軍を待った方がよかったとも思うんだよね。


 「そういえば、何か引っかかるな」


 ランクがそう呟く。


 「誘拐犯のグループがいるからといって、わざわざ、城の中まで行く必要はあるでしょうか?人質として子供を攫うのもありますが、そこまでのリスクを背負ってまで、そこまではしないでしょう?実際、誘拐されかけたのはあのギルドマスターの娘、大騒ぎになってギルド関係者が血眼になって探すでしょう」


 確かに、そうだ。実際、あの二人が痛い目にあったのがそれを物語っている。


 あの二人のうち一人は馬鹿っぽかったけどもう一人は目的をスムーズに行う司令塔みたいな感じだった。


 そのような冷静沈着な人物が、わざわざ高いリスクを冒してまで、そんな冒険をするものなのか?それとも、そのグループが何かあるのだろうか?


 「とにかく、私にとって初めての実践だったってわけ、一応、御礼も後日、望むものなら用意しますって、言われたんだよね」


 そういうとガルドやジェシカがそれぞれに言い始める。


 「それなら、大型の冷蔵庫などどうだ?入りきらない食事を入れるのに丁度いいような」


 「いえいえ、クローゼットがいいわ~それも一個や二個ではなく最低でも10個のね~」


 「いや、あなた方の手柄ではないので、お嬢が選ぶべきでしょう」


 ランクの一言で一瞬期待に満ちた目をしたが、他人のふりをしてご飯に集中する。


 View Change 美奈

 「んっ、ん~~~、はぁっ」


 家に帰ってから、思いっきり背伸びをして着替える。


 今日はびっくりしたな、あんなことが起きるなんて、自分でも何であんな行動を起こしたのか自分でも分からないし、何かに突き動かされた感じなんだよな。


 なんて言うか、自分の力を無意識に過信したというか、いつの間にか自信に満ち溢れてしまったというか、自分でも本当に意味不明だ。終わった後、慣れないことをしたからか、どっと疲れたし。


 そういえば、あの時、周りの音が聞こえなくなったような…緊迫感で耳が遠くなっていたのかな?


 「お嬢様、お夜食にドライフルーツでもどうですか?」


 「あっ、ありがとう、サリアちゃん。せっかくだし、一緒に食べよう」


 そう振り向いた時、顔を見たサリアちゃんは少し驚いたような顔をした。


 「?どうしたの?」


 「あっすいません。今、お嬢様の瞳が紅く見えたので、見間違いでした。髪と同じ綺麗な栗色ですよ」


 「そう」


 (髪と同じ栗色…か)


 ふとこの前見た夢の内容を思い出す。淡い紅色の髪の妖精、夢にしては五感もあったし、妙にリアリティがある夢だった。


 妖精は存在自体が不明だったし、もし捕まえた人がいたら、その人は一攫千金、一生遊んで暮らせるような値が張ると言われている。


 なんで、そんなことをするのか分からないけれど、そんな存在自体が曖昧な生物を狙って、一攫千金狙うより、額に汗を流して建設的にお金を稼いだ方がよっぽどいいと思うけれどね。


 「んんぅ…ふわぁ~、むにゃむにゃ」


 「お嬢様、もう、寝ますか?」


 「んー、そうしようかな、慣れない魔法を使っちゃったからか、いつもより、少し、疲れちゃった…かも」


 手に持っていたドライフルーツをお皿に戻し、ふらふらと、半ば眠りながらベットにうつぶせに倒れ、ゆっくりと舟をこぎ始める。


 そして、その夜、また夢を見た。夢だと自覚している。意識がはっきりとしている、頬に水が伝う、空を見上げると灰色かかった雲が段々と暗くなっていき、大粒の雨が体を濡らす。


 夢の中だというのにその水はとても冷たく、肌に当たる感触が気持ち悪い。


 急いで、雨の中を走り、どこか雨宿りできる場所を探すが、辺りに建物はあるがどこも、扉が閉まっていたり、雨宿り出来るような屋根ではなかったり、それでも、走り回りあてもなく、彷徨う。


 雨宿りできる場所を探していると急に雨が止む、その時空を見上げると、今、自分がたっている場所に日が差した。その日はあっという間に地面を乾かし、その日の中にこの前見た淡い赤色の髪を持った妖精がいた。


 「君は、誰なの?」


 言葉をかけるがそれは何も答えない。


 自分の周りを飛んで、何かを伝えたいような、ただ単に浮かんでいるだけなのか、それを理解できるすべはなかった。


 明らかに異質なものだと、理解していても、なんとなくそれを見て、懐かしいような、離れたいような、なんとも形容しがたい気持ちになる。


 この夢は一体何を意味するものなのか、いや、そもそも、今見ている夢は意味があるものなのだろうか、普段、考えもしない事、それが、今、この夢の中では不思議なくらい出てくる。


 「何か、してほしいことがあるの?」


 そう尋ねると、ふわふわ浮いているだけの妖精はクルクルと勢い良く、辺りを回り始めたかと思うと自分の胸に飛び込んできたと思うとまるで、吸い込まれるように自分の中に入っていった。


 その後、自身の身体に違和感を覚える。自分の姿をどこかで確認できないか、鏡のようなものを探ろうと辺りを見渡す。


 そこで、先ほどまで降っていた雨で出来た水たまりをのぞき込むと、紅い眼と紅い髪の自分自身が写っていた。


 そこで、目が覚める。


 起きるとすぐに顔を触り、感触を確かめ、鏡を見る。


 そこには今の自分、千燐 美奈としての自分が写っていた。

次回8月末予定

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