59話 メアリー・スペルビア
あまり良い案が浮かばなかった……
「っ‼……ここは……」
気がつくと自分の部屋にいた。
「お、気がついたみたいだな」
「あんたがここにいるってことは……私は負けたのね」
「そうなるな」
どうやら最後のよく分からない攻撃によって魔力防壁はなくなりその衝撃によって気絶していたらしい。
でもこれで決心もついた、黒服ごときに負けるなんて……誰も見ていなかったとはいえ家の恥だ……それに例の大会が終われば私の価値は子を残すためだけになる。
私はスペルビア家に生まれた、スペルビア家は代々、魔導の鎧と呼ばれる魔力さえあればありとあらゆる魔法を行使できるものを受け継いできた、しかし先代のお祖父様がなくなり、跡継ぎを決めることになったのだが、ほんらい本来受け継ぐべき先代の息子である私のお父様は病で倒れ、その役目は私に回ってきたのだが……
私には適性がなかった……というよりその力を制御出来なかった、そうして行われる事が決まった魔法の大会、これに優勝したものが魔導の鎧を手にすることができる。
大会には男性しか参加できない、理由は簡単、私が女で跡継ぎが必要だからだ、私は鎧を制御出来なかったがある程度の魔導師ではあるため、スペルビア家としては、さらに強き血を手にいれることにも繋がりメリットしか存在しない。
子どもの頃は幸せな家庭を考えたこともあったが、制御することの出来なかった自分がいた悪い……どんな男が優勝したとしても受け入れるつもりだ……
「勝手に先生に聞いちゃったんだけどさ」
「え……」
「君の家……」
一体先生から何を聞いたって言うんだろうか、聞かれて困るような事はないと思うけど……
「こっから結構遠いんでしょ?」
「は?」
「この部屋を渡したら実家に帰るって言ってたけど、歩いて一時間は流石にきつくない?」
さっきからこいつは何の話をしているんだろうか、理解が追い付いてこない。
「そ、それがどうしたって言うの?」
「あくまでも提案だし嫌ならいいんだけど、一緒に住むっててのはどうかな?思ったよりここの僚、広いし勝手に覗いたのは謝るけど空いてる部屋もあるみたいだしね」
「な、なにいってるの、嫌に決まってるでしょ‼しかもあんたとなんて」
「え~でも負けたら言うこと聞いてくれるんだよね?」
「は、はぁ?じゃあ……あんたは負けたんだから一緒に住めって言うわけ?」
「まあ、そうなるかな」
いやらしい命令だったらどうしようとか心の中で考えていたのに意味の分からない条件だ。
いや……一緒に住むことで何時でも行動に移せるという考えか……
「それは無理よ……」
「え、何で?あ、やっぱり俺と暮らすのは無理か……」
「そ、それもあるけど、私はもうこの学園をやめるから」
努力を続ければいつか鎧を制御出来るようになるかなと思って毎日頑張って来たけど……今日に至るまで制御できたことはないし、大会も近づいてきている……そろそろかなと思ってはいたけど……
「え……まさか……俺に負けたからって……」
「え、ち、違うわよ‼まあ……それも理由のひとつだけど」
私は自分の家の事情を簡単に話した。
「なるほど」
「分かった?だからあんたが嫌だとかの前に無理なのよ」
「じゃあ……俺がその大会で優勝すればOKってこと?」
「は?」
こいつは何を馬鹿げたことをさらっといっていの?
「え、違うの?」
「違うとかじゃなくて、そんな事無理に決まってるでしょ‼」
今回の大会で優勝するような魔導師はおそらく魔導の鎧も制御することができる、よって人生は安泰……もちろん私が目当てのゲスい奴等もいると思うけどそれでも最強の魔導師達がそろう、そんな中で黒服のこいつが勝てる訳がない。
「やってみないと分からないでしょ、取り敢えず大会までは相部屋って事で」
「えぇ……」
部屋を出ていくとは言ったもののすぐに荷物を出せるわけもなく、いきなり実家に帰るのもあれだし、やっぱり部屋を壊しちゃったのも何だかんだで申し訳なくて、半分強制的に黒服との同居生活が始まってしまった。