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かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。  作者: 相生蒼尉
第3章 辺境都市編

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第68話:女神が誉めてくれた場合

連続更新継続中。

自分でもまさかの十話連続更新です。

よろしかったら、知り合いにすすめてもらえたら嬉しいです。



 男爵令嬢キュウエンの勘違いを正せないまま、おれとクレアはキュウエンを神殿から追い出した。

 キュウエンは、貧民区への施しに協力させてほしい、と言って、帰っていった。

 娘の勘違いが、親の勘違いにつながらなきゃいいんだけれど。

 その後は、五人の怪我人の治療をした後、門を出て、山地の森へ入る。

 もちろん、実体化した高学年セントラエスの指示の下、薬草採集である。今回は、解熱剤を作る材料を集めるつもりのようだ。

 途中、ばったり出会って襲いかかってきた、かなり大きな猪を一頭、しとめた。その場で血抜きをしかけて、芋づるロープで木に吊り下げておいた。

「猪の肝が、薬の材料になりますね。貧血を抑える薬も用意しましょう」

 おそらくスクリーンがあるらしい空間を確認しながら、そんなことを言う高学年セントラエスのギャップにため息が出る。

 まあ、女神だからしょうがないか。たまたま高学年に見えるだけ。中身は別に成人・・・成神?

 おれは薬草を十分に集めたあと、スクリーンで鳥瞰図を出して、猪を範囲探索し、おれとクレアでさらに二頭ずつ、猪を狩った。

 血抜きで猪を吊り下げておいて、明日、フィナスンに手伝わせて運ぶことにしよう。


 そして、翌日。

 フィナスンは、自分の予定があるだろうに、おれの頼みを優先し、おれたちと一緒に三人の手下を連れて、山地の森へ入った。

「・・・いくら兄貴とはいえ、さすがに嘘だろうと思ったっすよ」

 フィナスンは吊り下げられた大きな猪を見て、呆れている。「しかも、この前足の付け根にある傷、確か麦畑を荒らすことで有名なこのへんのボス猪っすよ、こいつ」

「ああ、それで。ボスね。どうりで、でかいと思った」

「・・・こいつをでかいってだけで済ませちまうっすか・・・」

「まだ、他にも四頭、吊るしてるから、頼むな」

「・・・いっそ、誰かに嘘だと言ってほしいっすね」

 ぶつくさ言いながらも、手下に指示して、猪を運ばせていくのは、さすがはフィナスン。辺境都市の顔役だけのことはある。まだ町に残っている手下も森に来るように伝えていた。聞けば、フィナスンたちだけでは、山地の森に入るようなことはないらしい。危険すぎるから、という。まあ、隊商の主であるフィナスンがレベル5止まりでは、難しいのも当然かもしれない。

「助かるよ、フィナスン」

「いいっす。分け前はいただいても?」

「ああ。一頭、まるごとでいいか?」

「・・・兄貴は太っ腹っすよ。普通、多くてもその半分ってところじゃないかと」

「クレアと二人では五頭も食べ切れないしな。でも、貧民区に施すのはちょうどいいかと思ってさ」

「なんでまた猪を?」

「猪の肝が薬の材料になるんだ」

「・・・肝だけのためにやられちまった猪は、しっかり食ってやらにゃならんっすね・・・」

「貧民区に施すとして、四頭で足りるかな?」

「・・・一頭で足りますって。余りそうな二、三頭は、こっちで隊商を出しますから、カスタに持ち込んでなんかと交換しといちゃどうっすか?」

「ありがたいな、それ。何と交換できそうかな?」

「まあ、干し魚、焼き魚、干した貝類なんかは海だからもちろん、意外と高いのは塩っすかね。アルフィじゃ、手に入りにくいっす。たまに、どでかい魚が捕れた時なんかは、珍しくていいんすけどね」

「どでかい魚?」

「小さい奴でも、三メートルくらいはあるらしいっす。魚なのに、肉に近い味がしてうまいっすよ」

 クジラだろうか。可能性は高いな。

「そんじゃ、頼む。ああ、何か、対価がいるよな?」

「こいつを一頭まるごと頂くお礼っす。兄貴についてくと、もうかるのはありがたいっす」

 にやり、とフィナスンが笑う。おお、悪者っぽくない悪者笑いだ。

 ふと、キュウエンのことが頭をよぎった。

「ああ、そういえば、男爵令嬢が神殿に来た」

「姫さんが? まあ、それくらいのことはやりかねないっすね」

「姫さん? ああ、確かに、姫さんって立場だな・・・。それがさ、おれたちのこと、密偵だとか、巡察使とか、外務官とか、勝手に王都の者だと決めつけてくるんだ。違うって言っても聞きやしない」

「・・・ああ、そんな感じっすか。なんだか分かる気がしますねえ。でも、本当に違うので?」

「おれたちは、ただの流れ者だよ」

「・・・ただの、強過ぎる流れ者、っすね。その時点で、ただ者ではないっすけど」

 そう言うと、フィナスンはおれから目を離し、手下を呼び集めた。

 テキパキと運搬の指示を出している。

 結局、猪の運搬は半日仕事になった。

 ピザ売りの仕事ができずにフィナスンの手下が不服そうだったので、最初のピザに使った肉は猪だぞ、と教えたら、途端に狂喜乱舞を始めた。

 あまりにも嬉しそうなので、明日は猪肉入りのピザが振る舞われることになった。


 翌日、フィナスンから二つの大鍋タイプの土器を借りて、猪肉と山菜、きのこで、なべ料理を作った。悩んだけれど、トマトは保留。好きと嫌いが分かれ過ぎている。ピザだといい感じなのに、どうしてだろうか。

 炊き出し場所は、もちろん、貧民区で、だ。料理も貧民区で、見えるように実施。ついでに、この前置いたままにしていた平石は回収した。かまどの石はそのまま、今回の炊き出しに利用した。

 今回は焼き出しではなく、まさに炊き出しである。

 大鍋の安定感や火の回りがとてもいい。土器職人にも、高い技術がうかがえる。セイハが負けているとは思わないが、こっちの土器をいくつか持ち帰ったら、いろいろと試して、もっといい物を作ってくれるだろうと思う。

 さて、前回の薄パンのこともあり、子どもたちはすぐに近づいてきた。大鍋をのぞき込んだり、においをかいだりしながら、うろうろとしつつ、待っている。後ろには、大人たちも見える。

 前回、麻服が文句を言ってきたら、いつの間にか誰もいなくなっていたけれど、それでも食べ物にありつけたという、よい印象が残っているらしい。

 できあがったことをクレアが告げて、配り始める。今回は、子どもたちも奪い合おうとすることなく、並んで器を受け取った。おかげでクレアの拳の出番がなかった。

 それと、約束通り、男爵令嬢キュウエンも手伝ってくれた。確かに、貧民区に平気でやってくるとは、ちょっと変わったタイプなのかもしれない。

 そういや、フィナスンは姫さんと呼んでいたな。

 この辺境都市には、男爵以外の爵位持ちはいないので、そういう支配階層はきわめて珍しい存在だと考えられる。男爵令嬢というより、辺境都市という城のお姫様という方が実態に合っているのだろう。都市国家だと考えれば、領主である男爵は王に例えられてもおかしくないもんな。

 そういう考えでいると、この貧民区にやってきて、炊き出しを手伝うお姫様ってのは、ある意味では変人なのだろうが、おれからしてみると、好ましい人物とも言える。まあ、妄想癖はひどいし、こっちの話は聞かないけれどね。ただ、妄想で口走っていることは、争いを避けようとしているように思えるので、悪い子じゃない、というのは分かる。

 今日は、フィナスンはいないが、その手下が三人、手伝ってくれている。実に従順で助かる。

 姫様とフィナスンの手下がいるおかげか、それとも前回痛い思いをしたからか、遠巻きにしている麻服たちは、苦々しそうな顔をしているが、手出しも口出しもしてこない。ただ、じっとこっちを見ている。睨んでいる、というほどでもないけれど。

 まさか、食べたいのだろうか。

 そう思って、器を持っていくと、ふん、と言って一斉にどこかへ行ってしまった。

 まあ、おれには敵対する意思はないよ、という感じを示せたから、それでいいか。

 クレアと姫様は、子どもたちのところで、にこにこと食べる姿を見守っていた。

 この前の薄パン、今回の猪鍋で、姿を見せた貧民区の人たちは、だいたい150人から200人くらいだろうか。毎年、10人くらい、口減らしで売られてくるとしたら、20年分の大草原の人たちがここにいることになる。まあ、大草原の人たちと表現はするが、実際には辺境都市に近い三つの氏族からの口減らしが中心らしいが。

 この状態をリイムやエイムが見たら、どう思うだろうか。

 同じ大草原出身の者として怒りを感じるか、口減らしをしなければならない氏族の者としてふがいなさを感じるか、それとも、大森林で暮らす自分たちの幸運を感じるか。または、その全てか。

 しかし、意外なのは、もっと、こう、残酷な奴隷の状態を勝手にイメージしていたものだから、鎖でつながれたり、鞭で打たれたりとか、してるんじゃないかって、考えていたんだけれど。

 どちらかというと、売買されて連れて来られてはいるが、権利を大幅に制限された市民、というような感じがする。もちろん、貧困状態には追いやられてはいるのだが。

 中には、貧民区を脱し、麻服を着て、牧場経営をしている解放奴隷みたいな奴もいるらしいし。キュウエンに聞くと、領主に自分を買い取るだけの麦を支払えばいいとのこと。フィナスンが取引している羊牧場の主がそうやって自立したらしい。他にも数人はいるという。どこにでも、優秀な者は含まれているということか。

 貧民区の人たちも、複雑な思いがいろいろとあるだろう。自分たちを見捨てて売った氏族への苦い思いや、低賃金でこき使う辺境都市の麻服たちへの反骨心、何よりやるせない貧しさへの思い。でも、ひょっとすると、何も考えずに、腹が減ったとだけ、思っているのかもしれない。

 おれはクレアと姫様のところへ近づいた。

「クレア、おれたちも食べよう。姫様も、一緒にどうだ?」

「えっ? 私は・・・」

「オーバ。お姫様がこんなの食べたりしないわ」

 お前も竜の姫だけどな。

 心の中で毒づいてみる。

「・・・何か言った?」

「いや、別に」

 どうして気づく?

 竜眼か?

「あの、私にも、頂けますか?」

「姫様、食べなくてもいいんですよ?」

 クレアがキュウエンに問い返す。

「いえ、子どもたちが美味しそうに食べているので、私も食べてみたいのです」

 子どもたちが美味しそうに食べているのは、日頃はろくなものを食べていないからだと考えられるのだけれどね・・・。

 先に食べていたフィナスンの手下たちが、自分の器を置いて、慌てて姫様であるキュウエンの分の猪なべを用意する。手下たちは姫様であるキュウエンが食べるとは思ってなかったらしい。

 ま、こんなところも、予想外の姫様なんだろうな。

 おれも、自分の分とクレアの分を用意して、クレアに手渡す。

 手下から受け取った姫様が、何の迷いもなく、口をつける。

「・・・美味しい」

「もう二、三日、肉を寝かせたら、もっと美味いらしいな」

 そういうのまでは、よく分からないが、肉はもっと熟成させた方がうまいらしい。

「この肉はどうしたんですか?」

「森で、しとめた」

「・・・」

 なんか、変なものを見る目で見られているのは気のせいだろか?

「そういえば、門衛からそんな報告があったと聞いた気がします。何かの間違いだと思ってましたが、お二人ならそれくらいは、できるんですね・・・」

 また何か、妄想の世界に入ったらしい。

 もういいや、放っておこう。


 次の日、貧民区の代表だという三人の男たちが、神殿に来た。

 何のお礼もできないが、何かの時には、必ず協力する、必ず恩を返す、と言っていた。

「そんなことは気にしなくていい。また、何か手に入ったらもってくよ」

 おれはそう言って、何度も礼を述べる三人に手を振った。

 三人が帰った後、セントラエスがため息をついた。

「ふぅ・・・あの方たちも、もう少し遅く生まれていたら、アコンの村で暮らせたかもしれないのですね。リイムや、エイムたちのように」

「アコンの村の方が幸せだとも限らないぞ」

「まさか? 圧倒的に、安心できる暮らしができています。スグルはもっと自信をもっていいのですよ?」

「この前の、薄パンを焼いて渡した時に、一切れのパンを分け合う姿を見てさ、うちの村で食べられて幸せだって言ってる子たちより、よっぽど強く、誰かとつながっていられるんじゃないかって、思ったんだよな」

「・・・そのつながりは、苦しいから、生まれたのでしょう?」

「苦しい中で、自分以外の誰かを思うってことが、人間の醜さを乗り越えて生きている気がするんだよなあ」

「スグルも、アコンの村のみんなのために生きてきましたし、今も、いろいろとスグル以外の人族のために尽くしています。スグルはとても素晴らしいと。私は守護神として、誇りに思います」

 そう言って真剣に見つめられて、おれは思わずセントラエスから目を反らした。




 フィナスンが荷車を五台出して、カスタの町への隊商を組んだ。そのうち荷車一台分は猪肉だ。あとは麦粉がメインで、珍しいものとしては薬つぼがある。最近、辺境都市アルフィで評判の傷薬だ。寝る前にぬると翌朝には傷がきれいに治るらしい。いや、らしいって、それ、おれとクレアがセントラエスの指導の下、作らされているんだけれど、おれたちは自分に使うことがないから、効果には責任がもてないんだよな。

 麦粉のほとんどは、ピザ売りで入手したらしい。どんだけ売ったんだか。

 実は女神の祝福がかかった霊薬なのだが、それは誰にも言わないようにしている。というか、言ってはいけない。絶対に。責任は持てないが、効果は間違いない。上級神の祝福・・・。

 セントラエスは、ちょっと、やりすぎかも。

 フィナスンの隊商に、おれとクレアは、護衛という名目で同行している。

 まあ、歩かずに、荷台に乗っているけれど。

 そんなおれとクレアに、歩きながら話しかけてくるのがフィナスンだ。

「兄貴、猪の肉は、何と交換するか、決めたっすか?」

「ああ、できるだけ、たくさんの塩と、干し魚だな。あとは、珍しいものがあれば、交換してもいいかもな」

「交渉は、こっちに任せていただけるので?」

「・・・任せるけど、どんな感じで交渉するのか、見せてもらってもいいか?」

「はあ、そりゃ、別に」

 フィナスンは首をかしげている。「見ても、何もないっすよ? 兄貴に対して、上前をはねるようなマネはできないっす」

「・・・ああ、フィナスンが信じられないんじゃなくて、おれが交渉ってもんを見て学びたいんだ。分かるか?」

「兄貴には、そんなもん、いらねえ気がするんすけどねえ・・・」

 それは、買いかぶりというものだろう。

 いろいろとスキルがあるから、交渉がうまくいく、というのはあるかもしれないけれど。


 途中、護衛らしいことといえば、赤犬の群れの撃退だけだった。

 三日目の夜に、隊商が取り囲まれていた。

 十二匹。

 それはおれがスクリーンの鳥瞰図で判断できただけで、他の、フィナスンの手下たちは、かなり怖がっていた。そもそも、おれには接近してきていることが見えていたので、怖れようがなかった。

 レベルは3から5。

 フィナスンたちからすると、群れに襲われるのはかなり厳しい。

 赤い目が、特徴で、夜の闇に光る。

 確かに、不気味だ。動くと、赤い光が流れていく。

 結局、フィナスンと手下たちは灯り係。たいまつで周囲を照らしていた。

 おれが七匹、クレアが五匹。とどめを刺したのは合計五匹で、残りは逃げた。逃げた赤犬たちも無傷ではないけれど。

 そのまま、血抜き。

 とにかく、肉は食う。

 はっきりいって、おれとクレアにしてみれば、肉屋が自分から肉を差し出してくれたようなもの。

 犬肉が、意外と美味しくて、驚いた。でも、内臓はなんとなく食べずに済ませた。

 内臓に挑んだフィナスンの手下が、セントラエスの胃腸薬と解熱剤の世話になっていたので、うまく危険を回避できたのだろう。

 赤犬を食べた、その次の日。

 おれたちは久しぶりにカスタの町の門を抜けた。




海沿いの町カスタ、再訪問。

もちろん、あの人が次回は登場します。



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完結済み「賢王の絵師」も読んでみてください。

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