-Episode39-
「――というわけなんだけど、出来るかな?」
僕の提案に、怜は少し思案顔になって、額に指を当てて考える。
「……出来ないことはないと思う。それにしても、そんなことを思いつくなんて、朔君って頭いいよね。なんかの才能かな?」
怜に褒められ、少し照れながらも気を取り直し、今度は迅の方へ向き直って指示を出す。
「ちょっとだけ離れてくれないかな? ……丁度この辺りまで」
僕は足で空き地の地面に線を引き、そこに来てくれるよう迅に頼んだ。迅は僕が何をしようとしているのかよく分かっていない表情をしていたが、僕の指示には従ってくれた。
「よし、じゃあ……いくよっ!」
僕はその掛け声と同時に、瓶を地面に叩き付ける。ガラスの瓶は割れ、中身の透明な液体が宙に浮く。魔法は頭の中でイメージをすればそれが具現化するものだと、以前怜に教えてもらった。今回イメージするのは氷の円盤。僕ら三人が乗ってもびくともしないくらい、大きな円盤。そのイメージが形になった所で、宙に浮いていた液体が、急速に形を変えていった。体積が膨張し、僕がイメージした通りの円盤が出現する。
「よし、乗るよ!」
僕は迅と怜に言ってから、氷の円盤に飛び乗る。その際に少し滑って転びそうになったが、何とか持ちこたえて円盤の上に立つ。その頃には迅と怜も円盤の上に立っていた。
「よし、怜、お願い!」
そうして僕は、あらかじめ怜に話していたことをやってくれるようお願いする。怜は頷いて、目を閉じた。次の瞬間、氷の円盤が――浮いた。
「う、うおぉ!?」
迅は驚いて足を滑らせる。しかし彼は運動神経がいいのか、足を開いたり重心を移動させたりして転ぶことはなかった。その一方で僕が氷の円盤に手をついていたことは内緒にしておこう。ちょうど町全体が見渡せる位置に来たとき、僕はまた言う。
「そろそろいいかもしれない。怜、次のをお願い」
怜はまた頷く。その瞬間、浮いていた氷の円盤がまるで浮力を失ったかのように落下し始めようとしていた。……が、ほんの数十センチ落ちた所で、落下は止まる。
「――よし、とりあえずはこれでなんとかなるかな」
僕はそっと氷の円盤から立ち上がり、下を見る。氷の円盤の下には、怜に作ってもらった氷の柱があり、円盤を支えている。それだけじゃなく、時間が経って作られた円盤が消えても、柱が足場の代わりも果たしてくれる。
「あいつらは高い所までは追って来ないはずだから、これで一安心だよね」
僕がそう言ったとき、ちょうど円盤が消え、下の柱に落ちる。とは言っても十数センチの落下だ。それで足を滑らせまた手を付いた僕がいるけど。
「そ、そうなのか……? それにしても、すごいなこれ」
あいつらが高い所まで追って来ないというのは憶測でしかないが、おそらく当たっているだろう。初めてあの黒を見たとき――なぜか僕は、彼らがどこかに縛られているような印象を受けたのだ。
「まぁ、僕一人の力じゃないけど。そうだ、怜」
一つ思い出して、怜に尋ねる。
「この氷の柱も無から作ったものだよね? だから時間が経ったら消えちゃうのかな?」
僕の質問に、怜は首を振って、
「私が氷の柱をイメージし続けている限り、それはないよ。というか、朔君って私と会うまでは魔法のことすら知らなかったんだよね?」
怜の質問に僕は頷く。すると怜は感心したように溜息を吐いて、
「それにしては、随分と少ない情報でここまでの芸当ができるよね……。魔法が同時に『操る』ことと『作る』ことができないことを見抜いた上で、朔君が『作った』魔法を私が『操って』、その作った魔法が解ける前に、私が操る魔法を解いて、新しく氷柱を『作る』なんてアイデア、私だったら絶対に思いつかないよ?」
えらくベタ褒めだった。……ただ、今までの会話に、どうしてか違和感を感じるのは僕だけか。
「ここで夜明けまで待つのか……まぁあんな奴らの餌食になるよりはマシだけどなぁ」
迅はちょっと不満そうに腰を下ろす。柱は外側に壁があるおかげで、滑り落ちる心配はない。僕が作った魔法と比べて、怜の魔法はよく考えられて作られている。その辺は経験の違いか、才能の違いか。
「別にここから帰れる方法が見つかるなら帰っていいんじゃないかな。暫くはここで安全だと思うし、じっくり考えられるよ」
僕は迅の一言にフォローを入れる。……ふと、怜が寂しそうに空を見上げていた。真っ暗な空のどこに、見上げる必要があるのだろう。僕がどうしたの、と尋ねると、
「な、なんでもないよ。ちょっと星空が綺麗だったなって」
その言葉に納得しかけて、僕は思いとどまる。迅はまだしも、怜には星空が見えてないはずだ。
「怜……どうしたの? あ」
そのとき、僕は今日の帰りでの出来事を思い出した。そういえば、元々はそのことで言いたいことがあったんだ。僕は怜の目をじっと見る。怜はちょっと戸惑っていた。――僕はそのまま、頭を下げて、
「ごめん」
一言、自分の気持ちを告げた。




