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Lonely Liar  作者: Laugh
-Episodeβ-
234/344

-Chapter32-

「町に随分近い山だったんだな」

 俺は町の地面に降りる。

「――そう、ですね。神社の近くなので……」

 神社――ああ、夏休みの終わりごろに神社で祭りをやるんだったな。その近くに山なんてあったのか……。あまり神社の奥には行ったことがないから、よく分からないな。

「奥に何か祠みたいなのがあるのは知ってるが……その奥に山があるのか?」

 俺が弥奈さんに聞くと、

「はい……修行僧、のような方が、山を登り、心身を鍛えた――そうです」

 彼女は過去にあった文献からその例を話してくれた。おそらく、図書室で得た知識なのだろう。俺が素直にその知識の豊富さに尊敬の意を示していると、

「いえ、私なんて、そんな……」

 顔を伏せてそんなことを言った。先ほどのように落ち込んで顔を伏せている訳ではなさそうなのでほっとする。……ふと、俺の携帯電話に誰かからコールがかかってくる。

「えぇと……うわ、俺たちがあの裏通りに来てから、一日とちょっと経ってるじゃないか。……よくこの携帯の電池が持ったな……ついでに誰からも連絡がこなかったし……」

 まぁ、杣以外は俺が満に連れ去られたぐらいの情報しか知らないだろうし、杣が俺を山に置いてけぼりにしたことを話すことは無いだろう。俺が残り電池の少ない電話を手に取って通話に出ると、

「もしもしー、迅ー?」

 怜の声が聞こえてきた。俺がちょっと前まで山の上にいたことなど知る由もない彼女は、とても気楽そうに話しかけてくる。

「明日山に登るんだけどさ、どうする? 登る?」

 山、か……俺はさっきまで山にいたんだがな……まぁ、いいか。

「分かった。じゃあどの山に登るのか教えてくれれば……」

 俺がそう言うと、彼女はちょっとだけ電話の向こうで考えるような声を出してから、

「神社の奥、祠みたいなのがあるんだけど……その奥に、山道があるのね? 明後日あたりその山に登りたいんだけど……」

 ……まじか。俺がさっきまでいた山に再び登らなければならないのか。

「え、えーと、俺は……」

 あまり気が進まないので、俺はやんわりと断ろうとする。……が、彼女は、

「あーうん、登るのは前提で、どうやって登るかって話なんだけど」

 俺の意見は全く通らなかった。――正直、それなら最初から登るかどうするか聞かないでほしい。……まぁ、聞かなかったらそれはそれで俺の不満は出てくるわけだが。悩ましいところだ。

「普通に登っていいんじゃないか? 一回上ったことはあるけど、上に行ってもそこまでひどい気候じゃないし……まぁ、天気はころころ変わるけど」

 俺が電話越しにそう答えると、

「あ、そう? じゃあ軽い荷物でおっけーな感じ? おっけおっけー」

 随分軽い応答をされ、そのまま電話を切られた。……とりあえず、明日準備をしないと……ん?

「あの、普通は、危ない、です……」

 弥奈さんが俺の服を引っ張って言った。

「え?」

 普通は危ない……普通の恰好では駄目なのか? 山の上はそこまでひどい状態じゃないので、大丈夫だと思うのだが……。

「山道……すごく、急、です……。滑ると、危ない、です」

 そう言うと、彼女は手のひらからシャボン玉を取り出した。すると、そのシャボン玉から一冊の本がゆっくりと出てくる。物質の転移も出来るのか。

「この……二百九ページ……この図です」

 彼女はそう言って、あるページを指差してきた。――そこには丁度神社の絵と山の断面図があり、その山の斜面の急さがよく分かった。……確かに、これを普通の恰好で登ったら色々と危険そうだな……正直、彼女のアドバイスのおかげで俺の悲惨な結果は避けられたようだ。

「ありがとう、弥奈さん」

 俺はそう言いながら無意識に弥奈さんの頭を撫でていた。……なんだろう、この感覚、どこか懐かしいような感じだ。

「あ、え、えと……その……」

 弥奈さんは先ほどよりも深く頷いてしまった。……そのせいでさらに頭を撫でやすくなってしまい、ついさらに撫でてしまう。

「――なんだろうな、この感覚」

 俺はさっき思ったことと同じことを呟いていた。心の声がそっと外側に漏れたのか……。

「え? 感覚、ですか?」

 弥奈さんが不思議そうな顔をして上を向く。その際、俺は彼女の顔が朱色になっているのが見えた。……照れているのか? 俺と弥奈さんの目が合うと、彼女は顔を逸らしてしまう。俺はどうしたものかと片手で頭を抱える。

「そうだ、弥奈さんも一緒に登山にいってみる?」

 俺は話題を切り替えてみることにした。すると彼女は、

「え、い、いいんです、か?」

 途切れ途切れにそんなことを言った。

「ああ、構わないよ。それに、人数は多い方が楽しいし」

 俺は彼女に微笑みかけながら言う。すると彼女は、

「あ、はい……よろしくお願いします」

 フードを被りながら、同行を決めてくれた。

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