-Episode02-
少し予定より遅れてしまったが、僕たちは病院に向けて出かけ始めた。これから三十分程歩くと思うと、気が滅入る。ただでさえ気温の暑さにダウンしてしまいそうなのに、
「ねぇ朔君、さっき通った所の家、ちょっと面白い形してたよね? 他の家は三角屋根だったけど、あれだけ丸い屋根だったよ? あの丸さにはなにがあるんだろうね? ところで朔君、私朔君の家に向かう途中工事中で通れない所を見つけたんだけどさ、そのせいで朔君の家に向かうのが三分遅れたんだよ? これはもう損害賠償を求めてもいいレベルだよね? あ、それと――」
と、まぁ、こんな感じの会話を延々と聞かされている。正直全く興味ない。そのせいで気だるさが倍化しているような気さえしてしまう。
「あの、怜さん、少し静かに――」
僕が怜に静かにしてもらえないか頼み込んでみようとしたとき、
「むー! 朔君、私のことは怜って呼び捨てにしなさい! それでも朔君は私の彼女なの!?」
とよく分からない理由で怒られてしまった。別に彼女云々は怜の自称であるような気がするのだが……。
「あ、ついでに敬語も使わなくていいよ。付き合ってるのに丁寧語とかちょっと不自然な気がするし」
怜は人差し指で僕の方を指差しながら言った。確かに彼女には敬語を使うべきかどうか迷ってはいたので、いい機会ではあるのだろう。
「じゃあ怜、少し静かにしてもらえない、かな?」
とは言っても敬語をすぐ略そうとすると少しばかり意識してしまって、言葉が数瞬だけ詰まってしまう。
「えー、朔君、こういう暇つぶしって言うのは、一見意味が無いように見えて、実は重要なフラグ的な何かにつながっている、っていうパターンが多いんだよ? こうして私が話している中にも、朔君は私の好感度を上げるための選択肢を選び損ねているかもしれないのに、それでも話すのを止めてほしい?」
もしこの世界がゲームか漫画のような世界なら思いっきりメタ発言と取れる言葉で不満をあらわにしていた。
「うん、少なくとも家の屋根の話と道路が工事中だったって話はどう転んでも怜の好感度が上がるフラグにはつながらないと思うよ」
僕はあえてメタ発言で返す。怜はちょっとだけ意外そうな顔をし、拗ねた表情になってそっぽを向く。どうやら静かにはなってくれたようだ。そう思って僕が歩き始めたとき、後頭部に衝撃が走った。
「ぱごぁ!?」
思わず変な声を上げ、後ろをずっと付いて来ていた優奈が、思わず僕の方に駆け寄って来た。
「な、何が起きたんだ……?」
あの硬さからして、こぶし大の大きさの石か何かが当たったはずなんだけど、周囲にそんなものがある気配がない。そう思っていると、今度は腕に先ほどと同様の衝撃が襲ってきた。
「べふっ!?」
誰かから襲撃されている? いや、僕はそんなことされるようなした覚えがないのだけれど。周囲を見渡してもやはり僕にぶつかってきたと思われるものは見つからず、頭の中に疑問符だけが浮かんでいた。――と、僕は腹に向かって飛んで来た何かを避ける。
「ふっ、何度も食らうとおもうべぁ!」
僕がちょっと格好つけたばっかりに、僕の脛に何かが当たる。その痛みに僕は座り込み、悶絶する。一瞬だけ、腹に飛んでくるものを見た時、透明な色をしていたのだけは覚えている。
「ぜぇ、ぜぇ……」
なんとか脛の痛みをこらえ、僕は立ち上がる。透明な個体……すぐイメージできるのは氷なのだが……こんな真夏にこぶし大の氷なんて――
「おぉっと危ない!」
今度はつま先に向けて飛ばされたものを、ジャンプして避ける。そのときにはっきりと見えたのは、本当にこぶし大の氷塊――
「あべしっ!」
今度は僕の顔面に氷塊が激突する。鼻に当たってたら間違いなく鼻血を噴出していただろう。一体誰がこんなものを投げたんだ。そう思って地面に落ちたはずの氷塊を見ようとしたとき、そこに氷の塊など微塵もないことに気が付いた。
「き、消えた?」
僕は近くに氷塊がないか探す。少しの間探していると、どこからともなく氷塊が飛んでくるので、それを交わそうとして別の氷塊と激突する。そんなやりとりを何度か繰り返しているうち、運よく飛んでくる氷塊を間近で目撃することが出来た。それは、僕の目の前で急に雲散霧消し、消えた。
「な、何これ!?」
僕はその消える氷塊に大きく驚き、次はその氷塊を受け止めようとして、全力で氷塊にぶつかりに行った。背中から飛んできたせいで結果として受け止めることさえ出来なかったけれど。
「ねぇお兄ちゃん、これって多分、魔法だよね」
ふと、口をはさむタイミングを探していた優奈が、ちょっと痛いことを言った。
「魔法? 優奈、何言ってるんだよ。魔法っていうのは、ファンタジーの世界にしかないものなんでぅっ!?」
僕が説明をしている間にも氷塊が飛んでくる。隣では怜がニヤニヤしながらこちらを見ていることに気が付いた。……犯人は怜か。




