第9話 冒険者からのお願い
どうしましょう。まずはお茶を。
と思ったけど、うちにはそんなにカップがない!
販売用スープの竹筒じゃあ大き過ぎるよね。
相手は四人、カップは三つ。
私のは無しとして、もう一人は……。
歯磨き用に使っているカップじゃダメだよね。でも分からないよね。ま、いいか。いいよね。
よ~く洗って、それぞれのカップにハーブティーを入れた。
「どうぞ……」
恐るおそるカップを置いて、テーブル周りに集まるように誘導した。
テーブルは作業用も兼ねているから広さはあるけど、椅子は一脚しか出していない。
ドア近くで立ち止まっていた冒険者さんが、テーブルのまわりに立ってカップを眺めている。
「どうぞ」
毒なんか入ってないから。
「ああ、ありがとう。まあ、飲もうか」
リーダーさんが声をかけた。
あっ、飲んだ。
なんでだろう? いたたまれない雰囲気の時みんなで一緒に飲むと、首の角度まで一緒になるのは?
さあ、この後どうしたらいい? って思った瞬間、耳が音でいっぱいになった!
「今日は弁当を買いに来たんだが、休みって本当なのか。今日は……」
「一つ聞いてもいいかな。あのスープのの固め方についてなんだが」
「っていうか、この部屋の匂い何? すっごくおいしそうな匂いがしているんだけど! 初めて嗅ぐ匂いよ。どんな……」
「だめ。この子、困ってる」
うわ~! 何なのこの人たち! カップを置くタイミングも話し始める瞬間も一緒! なのに言ってることはバラバラなの何?
私があわあわとふためいていると、一番小さい女の子が私の目の前に庇うように立って言ってくれた。
「この子、怖がってる。ボクに……似てるから、わかる」
たどたどしく言った言葉に私はコクコクと頷いた。
そして、他の三人は黙った。
「そうか」
「だね」
「確かにそんな感じですね」
なんか通じている! ありがとう! カップ歯磨き用を出したけどごめんね!
ああ、こんな時私の対人スキルの低さが恨めしい。
「気にしちゃ、だめ」
この子とお友達になりたい! ああ、心だけの友よ。私の中では親友だからね。
おかげでなんだかほっとできた。
「ボクがこの子を守る。じゃあ、順番決めるね」
「どうしたの、シルル? いつもと違って積極的じゃない」
「この子、ボクに似てる。しかも年下」
「ああ。同病相憐れむね」
「失礼な。ヴィラは黙って。バゥイ、あなたから説明して。お弁当が必要な理由」
「ああ。分かった」
聖職者の着るような立派なローブを纏った男の人が私に礼をした。
あわわわ! どうしたらいいの!
「店主殿。お騒がせをして申し訳ない。我々はBクラスの冒険者パーティ『鋼鉄の剣』。昨日こちらから買った弁当に感激をし、まずは挨拶とお礼を申し上げたい」
「は……はあ」
「実に、実に素晴らしい弁当でした。そもそも保存の魔法がかかっている弁当というものは……」
「長い。話がそれてる」
あ、ツッコまれた。
「ゴホン。あ~まずは挨拶から。メンバーを紹介させてくれ。彼がリーダーのボルク」
「やあ、昨日も名乗ったけど改めて。ボルクだ」
「は、はい」
近い近い近い! 手ださないで~! 握手難易度高いの!
「ああ、手が汚れていたか。ごめんな」
そうじゃないけど……、引っ込んだからよし。
「彼女は弓使いのヴィラ。ああみえて面倒見がいい」
「はいはい、こう見えて面倒見がいいヴィラよ。あなたのお弁当のファンだから! 最高だったわよ」
「あ、ありがとうございます」
圧がっ! 圧が強いよ~!
「そこの魔法使いがシルル」
「よろしく……」
「よ、よろしく」
うん、目の合わせなさ具合、私と一緒。
「そしてわたくしが賢者のバゥイだ。よろしく店主さん」
「よ、よろしく……お願い……しま、す」
「名前は? なんて呼べばいいのでしょうか?」
「あ、あの、店主さんで……いいで、す」
「店主さん?」
「あれ、昨日はルツィナでいいってってなかった?」
言ったっけ? あれ? でも名前呼びもなんか無理。
「店主さんか、お弁当屋さんで、お願い、し、ます」
「……分かった。とりあえず今は店主さんって呼ぼう」
なんか、不満そうにリーダーさんがぼやいているよ。かっこいい女の人も、ルツィって可愛いのにとか言ってる。やめて~、なんかゾワゾワするよ~。
「店主さん。今のダンジョンの状況は分かっていますよね。一年に一度の内部変動が起こったことです」
「は……い」
一応、私も冒険者カード持っているからね。ダンジョンには入らないけど。
野草や薬草、魚や罠をかけるのは、冒険者資格がないと出来ないから。
最低のFじゃなくて、Dまで上がったんだから。
「俺たちは、ここの地図を作るため、それと自分たちのレベルを50まで上げるために来た。だから、かなりの泊まり込みをしないといけない。分かるだろう?」
そうね。下に潜れば潜るほどダンジョンって広くなるし、難易度も上がるよね。
転移ポイントは10階ずつにしかないし、地図があっても、20階層クリアするのには一日半以上かかるから。地図無しでは泊まり込みしても何日かかるものやら。
「わかっていますか?」
「あ、いえ、その……」
ああ、脳内思考が早すぎて上手く答えられない。
「だから、とりあえず全員の弁当を三日分欲しいのです。店主さんのせいで、干し芋やジャーキーでは耐えられない口になってしまったんですよ、わたくしたちは」
は? どういうことでしょう?
「ダンジョンで、あれだけのクオリティーの高い食べ物が食べられる幸せが分からないのか!」
「そうよ、そうよ」
……分かりません! いつも売れ残っているんですよ。
「まずは、我々のために弁当を作ってください。今日の昼食から四日後の朝食まで。12食を4人分つまり、48食分ですね」
は? え? 何を言っているの? 48食? 12種類?
「今日の分には保存の魔法はいりません。1日くらい傷まないですよね。 同じように保存の魔法が切れても1日くらい持つはずです」
「はあ、まあ、熱い場所でなければ」
「ダンジョンの中は、大体は薄暗くて涼しい。よほど変な階でなければな」
まあ、そうですよね。たまに灼熱の階とかあるらしいけど。
「それから、あなたの弁当は安すぎます。せめて一食2000ギルは取るように」
は? 2000ギル?
「価格が安いのはありがたいですが、保存の魔法が三日もかかっている弁当が500ギルとかで取引されるのは、今後新しい店ができる時におかしなことになります。保存の魔法がかかっている以上、最低1000ギルは上乗せされなければいけないのですよ。それが相場というものです。その上で味も加味すれば最低2000ギル、3000ギルでも安いぐらいだ」
たっかい! 高いです。買う人いなくなります!
「今は少量で、町の同業者には影響がないでしょうが、冒険者以外の人々が安さにつられ買いに来始めたら偉い騒ぎになりますよ。商業ギルドに登録しているのでしょうか?」
「して……いません」
だって、お父さん、獣人の血が私より濃いから。商業ギルドには入れてもらえなかったから。
「訳ありか。ギルドに入る気はないのですか?」
「あ……りま、す。で……も……」
「あるなら結構です。わたくしたちが推薦しておきましょう。そうですね、今日の探索は諦めますから、明日の朝までに弁当50個を作ってください」
は? お弁当50個ですと?
「今日はお昼までに10個を作ってください。4個はわたくしたちの分です。残りは商業ギルドと冒険者ギルドのギルドマスターを説得するためです。よろしいですね」
え~! 何でいきなりそんなことに?
私は「は……い」と頷く以外の道筋が見えなかった。
商業ギルド……怖いです。




