第3話 16歳の誕生日①(今の私は内気な少女です)
まだ薄暗い中、いつも通り目を覚ました。
それが私ルツィナが、十六年前に誕生した記念の日でも変わりがないのです。
やることはいつもと同じ。誕生日だからと言って祝ってくれる人もいないのは、半年前にお父さんがなくなったから。
そもそも、私の誕生日を知っている人など、もうこの世に存在しない。
母の記憶はぼんやりとしかない。私が小さい頃に亡くなったから。
お父さんは特に病気も怪我もしていなかったけど、ベッドの中で冷たくなっていた。
寿命、といえばいいのかな。仕方がないけど。
お父さんは獣人と人間とのワンエイス(1/8)だった。ワンエイスとは八分の一混血している人のこと。私のおじいさんはがクオーター(4/1)、その上の曾祖父がハーフ(2/1)。その前の女性、高祖母が純粋な兎の獣人だったらしい。
相手は全て人間。だからお父さんには獣人の血が八分の一、私には十六分の一だけ混じっている。
お父さんも私も見た目はほとんど人間と変わりない。茶色の髪に白い毛が混じっているのと、耳の形がほんの少し長いくらいの違いしかない。私が人間と結婚して子供が生まれたら、その子供には獣人の特徴はまったく出なくなるらしい。耳も髪も普通の人間の色と形。
この場所では獣人は嫌がられる。たとえ血が薄くなっていても。
だから、父は少しだけ受け継いだ獣人の能力を生かしながら、ひっそりと隠れるようにダンジョンの手前でお弁当を売っていた。
兎の獣人は、『食物保存』の能力を持っているらしい。冬場、冬眠しないウサギは、食べ物を保存するためにその能力を得たから。
オリジナルは約二ヶ月の保存能力を持つが、ハーフで一ヶ月、クオーターは半月、能力は半減していく。お父さんは七日間保存の魔法を使えた。
父がいた時、長期にわたるダンジョン探索をする冒険者は、お弁当を買っていってくれた。
ダンジョン探索では、いつも乾きものの保存食しか食べることができない。お父さんのお弁当は冒険者が、新鮮な野菜やジューシーなお肉をダンジョンの中で食べることのできる、唯一の食事らしい食事。
獣人のみが使えるギフト・「保存」をかけた、安心安全のお弁当。
でも、お父さんが亡くなり私がお弁当を売るようになったんだけど、保存期間がさらに半減したからか、ギフトの効果が血が薄くなって減ってしまったのだ。
私ができるのは、三日間の品質保持期間。
すぐに悪くなるわけでもないから、まあ四日目でも食べられるけど……。お父さんの時より不便なお弁当しか売ることができない。
売れ行きは半分以下だ。常連さんも、引退したり亡くなったりして減っていった。
それでもここでお弁当を売ることしかできない。
聞いた話によると、王都のようなたくさんの種族が集まるところでは、獣人もクオーター以下なら人間扱いされるみたいだけど。
だから、遠くからダンジョンに来た冒険者さんは少しだけ優しい。
すぐにいなくなるけど。
さあ、今日もお弁当を作って売らないと。
私は着替えて、顔を洗った。誕生日だから、お酒飲めるようになったんだ。夜にワインを少しだけ飲んでみてもいいよね。
白々と明るくなった空から差し込む光を受けて、思いっきり背伸びをした。
◇
どうせそんなに売れないし、昨日と一昨日の売れ残りもあるから、今日は五つ作ればいいや。昨日煮込んだニンジンと大根それにタヌキの肉を鍋から取り出し、水気を切るためにざるに並べた。
水気を取る間に、パンをスライスする。オリーブオイルを塗って塩をパラパラとかけると、ちょっとしたご馳走になる。
パンを一口サイズに切り、小さく纏めて笹の葉で包む。荷物は小さい方がいいから。
水気をきった野菜と肉は、ていねいに布巾で表面の水分を拭き取る。
肉も野菜も、ごろっとした方が受けがいい。ブロック状に切り分ける。
大きさを揃え、隙のないように並べ朴の木の葉で包んだ。
鍋の中に残ったゆで汁に牛乳を混ぜる。コンロの火を点け、人肌に温め塩で味を調整する。
バターがあればもっと美味しく出来るんだけど。今は使い果たして無いのが残念。
味が決まったら、成型するために切り取って残った野菜をすりつぶし、スライムの粉と一緒に鍋に入れる。
魔物の肉でもダンジョンでドロップするレアで高級品。
ダンジョン以外で取れる魔物の肉は、ドロップしたかたまり肉ではなく、血を抜き皮を剥ぎ、丁寧に捌かなくてはいけない。
毒もあるため純粋な人間は上手く捌くことはできない。
ダンジョン以外の魔物の肉を安全に食べられるようにできるのは、獣人の能力を使って毒抜きしなければいけないから。
人間には真似のできない獣人ならではの能力。魔物浄化という魔法。
だから、一部の人間には『獣人は汚い魔物食い』と嫌われているんだけど、解毒されていると理解して受け入れてくれる人もいるからお弁当屋さんを続けていける。
そうそう。魔物と言えば、スライムの粉は便利だ。ほんのりと甘みもつくし、水分をプルプルとした塊にもできる。
温かいうちに竹の水筒に入れ蓋をする。
温めると液体に戻るので、お弁当と一緒にスープとして飲んでもいいし、取っておいて、いざという時の水代わりにしてもいい。
冷たい塊のまま食べても、体温で液体に戻るから、スープだけ追加で買っていく冒険者もいるんだ。
笹で包んだパンと、朴の葉で包んだおかずを蕗の葉で包み、縦横十文字に紐で括ればお弁当の完成です。紐の間に竹ぐしを差し、五つ並べて魔法をかけた。
ふわっとした柔らかな光を放ち、お弁当と水筒に保存の魔法がかかった。
これでよし。
私は一息つき、鍋に残った温かいスープを朝食代わりに頂いた。
さあ、鍋を洗おう。
今日こそ完売できますように。




