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出来が悪いとかそんなの関係無いから

やればなんとかなるって言うのは簡単

実際にはしんどいんだ


その方法しか無かったという事もある

他にあったとしてもその時は思いつかないんだよなぁ




アマネはヨシムネに向かってボールを投げ、ヨシムネは上手くそれをキャッチした。


「ヨシムネは何歳なの?」


「5歳だよ」


「…スゴい。わたしはあなたより2歳上だけど、そんな振舞いは出来そうにもないわ…」


「おかあさんはあなたみたいな人が、自分の子供だったら喜んだんだろうなって」


「…」


「わたしはね、おかあさんにまるで期待されてないの」


「なぜそう思うの?」


「…わたしお勉強とかこういうパーティーとか人付き合いもニガテで、独りで体を動かしたり武器をいじっている方がたのしいの」


「おかあさんはそれが気にいらないみたい。なんでかはわからないけど…」


ヨシムネはボールをバウンドさせる。


「…アマネは自分のやりたいコトをやり通した方が、イイと思うよ」


ヨシムネの回答にアマネが驚く。


「誰かの言う通りにして、向いても居ない道を歩き続けるのはきっと苦痛だろうから…」


ヨシムネはボールを投げ返した。


アマネはボールを受け取ると、ボールを見つめる。


「やりたい、コト…」


「…僕はある人(・・・)から聞いた事があるんだ」


「?」


アマネは首を傾げる。


「人の意見に流された結果、自分の望まない道を歩かされて死んでしまった人のハナシ」


「…アマネにはそうなって欲しくないんだ」


ヨシムネの表情が僅かに暗くなったのをキャロラインは見逃さなかった。


暫くの沈黙の後、アマネが口を開いた。


「…ありがと。ヨシムネに会えて良かったわ」


「なんか気分がスッキリしたの」


「だから、今度あなたの家へあそびに行ってもいいかしら?」


「!?」


キャロラインの表情が驚きの色に染まった。


「いいけど、アマネはどこに住んでいるんだい…?」


「今は王都のホテルに泊まっているけど、おかあさんはしばらくここで仕事をする予定だって」


「だからよろしくね!」


アマネはヨシムネに駆け寄り、手を差し出す。


ヨシムネが手を差し出すと、アマネは彼の両手を握った。


「ヨシムネの手はあったかいわね」


アマネが二ヒヒと笑う。


(女の子に手をこうして握られるなんて、久々だな…)


「ヨシムネ様。そろそろ奥様の所へと戻りましょう」


キャロラインがアマネに対して、僅かに威圧を掛けながら待ったをかけた。


「あっ、ごめんなさい。メイド(・・・)さん」


アマネも負けじとやり返す。


キャロラインの顔が引き攣る。


(どうしたらいいんだろうかコレ)


ヨシムネは挟まれてデッドロック状態になってしまった。


(…もうこれしかないかなぁ)


ヨシムネはアマネの手とキャロラインの手を掴み、深呼吸をした後キャロラインに向かって言う。


「これで良いだろ?キャロ?」


「…はい」


彼女はアマネから目を逸らした。


「アマネも良いかい?」


「…わかったわ」


アマネもキャロラインから目を逸らした。


(…よし!丸く収まったな!)


ヨシムネはある種の不安から目を逸らした。


問題が一旦解決しそうになったその時、アマネの母親であるミサキがこちらにやって来た。


ヨシムネとキャロラインは軽く礼をした。


そしてミサキはアマネには目もくれず、真っ先にヨシムネへ向かって話し掛ける。


「私はミサキ・ウィンターフィールド。そこに居るアマネの母よ」


「…貴方がヨシムネ・アリサカ君?」


「はい。その通りです。でも何故僕の事を…?」


「…先程貴方のお父様とお母様にお会いしたの。だから貴方にも会っておこうと思って」


「見た目の年齢より、遥かにしっかりしているわね。貴方の家庭教師はどんな人?」


「ロイユブルグの商家で生まれ、魔導都市エクサルミディオンで色んな分野の学問を修めた人だと聞いています」


「博識で、観察力と行動力があり、教え方がじょうずな人だと思います」


「学問は面白い?」


「はい。フィールドワークで色んなモノの標本を集めるのも面白いですけど、魔導数学も面白いです」


「へぇ~…。魔導数学のドコが面白いのかな?」


「応用性の高さです。魔導数学で学んだ物の考え方は色んな場面で応用が効くんです」


「ウチは商家なので、数字の扱いがいきる場面も多いかなって」


「…もう仕事をやっているの?」


「簡単な手伝い程度ですけど…」


「貴方本当に5歳?」


「…はい」


(なんだこの人。何が目的なんだろうか…)


ヨシムネもとい健一郎はこの女性に警戒感を抱いた。


「あー…警戒しなくても大丈夫よ?他意は無いの。どうしても好奇心が勝っちゃって…」


ミサキはニコリと微笑みかける。


「…商家の人にしてはめずらしい人ですね」


「気づいたの?本当に優秀ね…」


「なんていうか…僕の家庭教師であるアナト先生に割と雰囲気が近いな、って思ったんです」


(性格は全然違いそうだけど)


「!…アナト女史なら知っているわ」


「知っていらっしゃるんですか!?」


「彼女の論文を魔導論文ネットワークで読んだ事あるもの。毎回斬新な視点で攻めてくる新進気鋭の学者ね」


「彼女人気なのよ?帝国の研究所や大商会からもスカウトが掛かっていたハズだわ」


「…本人はそういう事をおくびにも出しませんでしたが…僕が雇い主の子だからですかね?」


「ふふふ。そういう事では無いと思うわ。多分ココが居心地良いのよ」


「…?」


「学者にとって一番重要なのは、如何に自分の研究に打ち込める環境が揃っているか」


「そして、如何に優秀な教え子が居るかどうか」


「貴方も知っていると思うけど、学者は常に成果を求められる。帝国では特に(・・)ね」


「だから、研究と教育だけに打ち込めるってのは相当幸せな事よ」



「帝国ではそこまで競争が激しいのですか…!?」


ヨシムネはミサキに質問した。


「ええ。あの国は強烈な階層社会ではあるけど、同時に世界中から色んな種族・人種が成功を求めてやってくる」


「だから、繁栄に与れなかった一部のエルフによる、移民排斥運動まで起きているわ」


「今は皇帝の強権と強力な軍隊で抑え込めているけどね」


「私も大変な目(・・・・)に遭ったわ。戦争中は特に(・・)



「戦争…ですか?僕は伝え聞いただけなんですが…」


「ええ。中立国との貿易や経済関係を巡る王国と帝国の対立が、行く所まで行ったのが原因ね」


「まあそれ以前から色んなレベルで対立はあったから…単純に王国や王国人が嫌いなだけかも」


キャロラインの表情が今までに見た事の無い程、強張っていた。


目は何処を見ても居ない。


「キャロ…?どうしたの…?」


彼女はヨシムネの声にハッとして首を横に振る。


「い、いえ!なんでもありません…!」


ミサキの口元が僅かに歪む。アマネはそれ(・・)を見逃さなかった。


()のお嬢様は何かご意見おありで…?」


「…!」


キャロラインはミサキから視線を逸らし、スカートの裾を掴みながら下を向いた。


「キャロ…?」


ヨシムネが彼女の顔を心配そうに覗き込む。


「だっ、大丈夫です…!ヨシムネ様。な、何でもありませんから…!」


彼女は汗をかき、明らかに動揺している。


(…そういう事か!)


ヨシムネは彼女が置かれている状況に気付いた。


(従者を守るのは主人の務めだ!)


「ミサキさん」


ヨシムネはミサキを正面から見据え、話し掛ける。


「なあに?ヨシムネ君」


「キャロラインをイジメるのは止めて貰えますか?」


「…ふふふ。イジメてなどいませんよ。彼女が勝手に思い詰めているだけですから」


「ね?元兵隊(・・・)さん?」


「……はい…」


キャロラインは力なく返事をした。


「一体どうしたって言うんだ!キャロ!」


ヨシムネは彼女の身体を一生懸命揺さぶろうとしたが、微動だにしなかった。


「…どうしようも無かった…でも、私達が悪かったんです…」


キャロラインはひたすら地面を見つめている。


ミサキは満足気な笑みを浮かべると、即座に氷のように冷たい表情へ変わった。


「アマネ?何をボーッとしているの?置いて行くわよ?」


「はっ、はい…」


ミサキは睨むヨシムネに一礼をすると、そのまま会場を去って行った。







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