介入(前編)
遅れて申し訳ございませんでしたァ!
産め!円高の子を!
以上
ヨシムネとキャロラインは買い物を済ませると、自分達の屋敷へ帰った。
しかし使用人達や商会の人間の様子が慌ただしい。
「ヨシムネ様…もしかして料理のつまみ食いがバレたのですしょうか…」
「それはさすがに違うと思うよキャロライン…」
屋敷の広間には客を待たせたり、メイド達が休憩する為のスペースがある。
皆そこに集まって、魔導水晶板で映し出された映像を食い入るように見ていた。
(そういえばこの魔導水晶板はイェン王国で開発・生産された物で、世界各地に輸出されているとメイドから聞いた事が…)
「ヨシムネ様!お帰りでしたか!」
商会の使い番がヨシムネに近づいてくる。
「何かあったんですか?」
「これから国王ブラックフィールド15世が来期からの経済・金融政策に関して会見を行うとの事です…!」
「あのやり手って噂の?」
「ええ!ここ数年は公式でのコメントは差し控えて来たブラックフィールド15世がいきなりの公式会見ですからね…」
「ウチの商売にも確実に影響しますよコレは…!」
「商会の事業は貿易と卸売りとインフラ事業がメインだからね…」
「最近は海外産魔道具の取り扱いも増えてきてるんです。影響は必至ですよ…」
商会の使い番は不安げな表情で魔導水晶板を見る。
「…あっ!そろそろですよヨシムネ様!」
商会の使い番に促されてヨシムネは水晶板の方を見る。
『えーブラックフィールド15世の滞在先であるシクマの政庁で会見が開かれるようです』
『中継のナナシさん!現地の様子はどうですか?』
『えーこちら中継のナナシです。会見場は王国各地からだけでは無く外国の特派員や駐在員も集まってきてます』
『会場にはある種の期待感と、不安感と緊張感が入り混じった独特の雰囲気が漂っております』
『あっ!今侍従長と財務卿と護衛の近衛兵がやってきました!それに続いてブラックフィールド15世が会場入りしました!』
魔導写真機のシャッターが切られまくる。
『ブラックフィールド15世だ。本日は集まってくれた皆に感謝の意を表する』
『単刀直入に述べよう。我が国は通貨安に対して大規模な為替介入を行う』
会場がザワつく。
『そしてユン首長国との間で一部品目において低率の関税協定を結ぶ事で合意した』
会場が更にザワつく。
侍従長がそれに続いて口を開く。
『答えられる範囲でならば、質問を受け付けます』
記者や特派員達が一斉に挙手する。
『はい、そこの方どうぞ』
『イサカ・デイリーの者です。首長国との間で一部品目において低率の関税協定を結ぶとの事でしたが、
具体的にはどの品目になりますか?』
財務卿が回答しようとしたが、それをブラックフィールド15世が手で制した。
『私が直接お答えしよう』
『一部の魔道具と一部の鉱物、一部の『植物』や繊維製品になる』
『詳細は後日官報で発表する。これで良いか?』
『はい!ありがとうございました!陛下!』
『次、そこの白色の服の方どうぞ』
侍従長が指名する。
『セントダランポリス・タイムズのヴェルズです。大規模な為替介入を主要国の同意も無く行うに至った理由をお聞かせ下さい』
『我が国は自らの基軸通貨を流通させている国の一つだ。通常の金融政策において自ら通貨の価値をコントロールする事は当然の権利だと自認しているが、なにか問題が?』
『世界各地ではインフレが起きています。イェン王国の通貨に対して自国の通貨が安くなる事に反発している国も多いようですが』
ダラン出身の記者も負けじと反論したが、国王から更に返って来る。
『反発している国とは何処だ?それに世界各地と貴方は言ったが、それはダラン帝国の影響下にある国々での話では無いのか?』
『近年の一部地域におけるインフレは同盟諸国と帝国が支援するプライベル共和国がルリアン連邦と事を構えている事が影響していると私は考えて居る』
『高率のインフレを止めたいのなら、どんな条件だろうが直ちに停戦すべきだというのが私の見解だ』
『特にはぐれ冒険者達や大規模な傭兵軍による経済・流通インフラの破壊を憂慮している』
『大規模魔導の誤った使用も大いに危惧している。特に連邦軍が抱えている世界一の天文魔導部隊とダランの特殊魔導傭兵や特級冒険者達が、戦う事の無いように祈っている』
『あそこでの戦争は地理的に離れている為、我が国では影響が薄いが、首長国では少しずつ影響が出始めている』
『今回は不安を抱える首長国側の要請に応じて協議を開き、新たな関税協定を締結したのだ』
『これで良いか?次』
侍従長が次の人物を指定する。
『魔法都市スピーカーの者です。今回の声明で、恐らく世界各地の投資家達が魔導電光板と高速魔導ネットワークを駆使して頻繁に取引を行うようになると思うのですが、貴国と関係国の間に築かれた光魔導インフラはそれに耐えきれる程の強化が行われているのでしょうか?差し支えなければご説明をお願いします。』
するとブラックフィールド15世は一転して笑顔になり、口を開いた。
『魔法都市出身者らしい質問で、魔導技術好きな自分には嬉しいね。騎士団国や首長国、魔法都市の魔導技術者達と協議しながら、7年に渡り魔導インフラの冗長性や耐タンパ性の強化を行っているよ』
『特に魔導インターフェイスの調整には苦労した。最初期は応答性に難があったが、今は反応速度も高い基準を満たしている』
『で、質問に対する答えだが、回答はイエスだ。何度もテストを行ってきたし、インフラの防護や保守には専門の人員を当てている。心配しなくて良い』
『回答ありがとうございました。魔導情報工学の進歩は魔法都市としても嬉しい所です』
『以上で会見を終わる。また近いうちに会おう』
魔導写真機のシャッターの光に包まれながら、ブラックフィールド15世とその側近達は会場を後にした。
「これは商会の上層部が大慌てになるな…ブツブツ」
使い番はブツブツと何事か呟いていた。
「キャロライン。色々あるけどまず夕飯を食べよう。それから父さんや母さんと話さないといけない。準備頼めるかな」
「はい!とっておきの材料を使った美味しい料理をお楽しみくださいませ!ヨシムネ様!』