労働解放奴隷
中編程度を予定しています。
かなり気楽にやります。
俺は日間無 健一郎。
ブラック会社に勤める哀れな社畜リーマンだ。
今日は昼休みを利用して、食費を下ろそうと早足で銀行に向かっている。
何故なら昼休みが20分しかないからだ。入社時の募集要項に書いてあった『休憩1時間』はどうやら嘘だったらしい。
労基法を産道にでも置いてきたのかウチの経営陣は。
前に50分程休みを取ったが、上司が鬼の様な顔をして怒鳴り込んで来た。
どうやら銀行が会社の近くにあるだけで恵まれているらしい。
先輩曰く、「早めに転職しておけば良かった。もう年齢的に遅いからどうしようもねーわ!ははっ」との事。
今年43になる先輩の目は死んでいた。
(早く信号青になれ…待てんわ!)
健一郎はダッシュで横断歩道を渡る。
渡りきった直後、大型のトラックが上着の裾を掠める。
(おーアブねー…危うく異世界転生される所だったわ)
彼は銀行に駆け込み、チャラ男を押しのけ、ATMのパネルを連打する。
(暇人が何事か喚いているが無視だ無視)
「来た来たキター!5まんえんー!!」
金を財布に入れて、銀行を出ようとした所だった。
散弾銃を構えた覆面の男がズカズカと入り込んでくる。
「金を出せ!この袋に金を詰めろ!さもないとここにいる人間全員の命は無いぞ!」
(白昼夢かな?昨日2時間しか寝てないからそのせいかな?)
普通に銀行を出ようとした時、背後で銃声が鳴る。
「そこの行員はブザーを押そうとした!だから撃った!」
カウンターに血が飛び散っている。
(オイオイオイマジだったのかよ)
「そこの男!出るな!戻れ!さもないと撃つぞ!」
上司の怒鳴り声より小さい声で、健一郎は呼び止められた。
「申し訳ございませんが、あと10分で会社に戻らないと上司に怒鳴られるんですけど…」
「知るか!戻れ!」
「はい」
健一郎はすごすごと行内に戻っていく。
(クビ確定だな…ま良っか。失業保険の手続きしてくれんのかなあの会社)
それから金を詰め、用が済んだ強盗が外に出ようとした時、既に銀行は警察に包囲されていた。
(仕事が遅すぎるんだ。ウチの会社なら10回はキレられてた)
「ピリリリ…」
(ん?)
「誰だ!携帯使った奴は!」
強盗が激高し始める。強盗も含めて皆パニックだ。健一郎を除いて。
「あ。俺だ」
「お前か!?」
「代りますか?多分上司なんで。個人的には代って欲しいんですけど」
「貴様警察と連絡を取ってるな!?」
「そう思うならスピーカーモードにするんで聞いても良いですよ」
彼はスマホを強盗に渡す。
強盗はスマホの受話器マークを押して、スピーカーモードにする。
まずいな、もう20分どころか30分過ぎてる…。
『日間無ィィ!!貴様ァ!!!!どこをほっつき歩いている!!!!!』
うわ。これはかなりご立腹だぞ。
強盗が引いてるじゃねーか。
「すいません。人質になりました」
『なりましたー、じゃねぇよ!!!』
『何とかして戻ってこい!!!!』
「どうにも出来ません」
『お前!!!クビにするぞ!!!!』
「じゃあもうそれで良いよ」
『$’$$’$#)#($%&’”:@;@!!!!!』
上司がプッツンしすぎて言葉にならない叫びを上げる。
そして次の瞬間、撃たれていた。
どうやら強盗は動揺して引き金を弾いてしまったらしい。
「そっ、そんなつもりじゃ…」
強盗が怯えている。
健一郎はその場に倒れ、血を吐き出した。
「最後までロクなもんじゃ無かったなぁ…俺の人生」
意識が飛んでいく。どうやらお迎えが来たようだ。
(やっと休める…)
(すぅ…)
「…起きなさい…」
「起きなさい……健一郎…」
「起きなさいったら!!!」
「わっ。今何時だ?」
「…コホン。ココは天界です」
「貴方は死んでここに天界ウーバーで天使に運ばれて来ました」
なんてこった。天使は社会保障のアテも無い個人事業主だったのか。
「すいません。貴方誰ですか?外国の方?それなら受付の方でアポを…」
「ココはて・ん・か・いです!!」
「そんな怒らなくても…」
「ていうかアンタ誰?」
「あっ、あ…アンタって…女神に対して…!!」
「すぅーはぁー、すぅーはぁー…」
女神(?)とやらは深呼吸をし始める。
「貴方は本来トラックに轢かれて死ぬはずが、強盗に撃たれて死亡しました」
「ああー…俺死んだのか…これでやっと労働から解放される…」
「話聞いてる?」
「聞いてます」
「はぁ~…私の名前は女神エンドル・ユーロペソ」
「下界や天使達の間では女神エンドルって呼ばれているわ」
「投資ユーチューバーみたいな名前だな」
「ほっときなさい!!」
「貴方は天界管理局に起因するミスにより、『補償』を受けられる事となりました」
「補償?」
「ええ。貴方にはスキルを生まれつき与えられて転生出来る権利が与えられました」
「やったぜ」
「まだやってない!」
「はい」
「もういいわ…天使ルブル、あの箱を持ってきて」
しかし待てども暮らせども天使ルブルとやらはやってこない。
「どこ行ったの彼女は!!?」
死んだ目をした天使が答える。
「彼女は今日から神の一柱になりました」
「どういう事!?聞いてないんだけど????」
「あのトロくて生意気で反抗的なパシリが私と同じ立場なんて有り得ないわ!!!!」
「『人員編制の都合で、彼女は別の領域で神やって欲しい』と大黒天様が」
『%&$+*@#$%&’$#)#($%&’”:@;@!!!!!!』
「死ぬ直前に聞いた上司の叫び声よりスゲェな…」
「ハァーッ!ハァーッ!」
「あのー女神様?」
「何!!」
「スキル下さいよ」
「ああもう!!何でもくれてやるわ!!さっさと望みを言いなさい!!!」
「投資の才能下さい」
「はいはい分かったわ!投資スキルと銘柄選定スキル!!おまけで鑑定スキルをくれてやるわ!!」
「後でまた様子を見て連絡するから!常に注意しておく事!!」
「はいはい」
「はいは1回!!」
健一郎はその場で微睡むようにして意識を失っていった。