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第一話

 あれから三日経ったけど、オルテガったら、私の事をまるで手放そうとしない。

 奴隷商人に売るんじゃなかったのかしら?



 「頭ァ! 商人の旦那怒って帰っちまいましたぜ?」

 「帰らせとけ!

  俺はァ……この子を育てる」



 「か……頭?」

 「町に行って真っ当な職に就く!」



 「ハハ、なに言ってんですかお頭ァ!?

  俺達が真っ当な仕事なんて出来るわけねーでしょう?」

 「あたま下げりゃなんとかなる!

  隅っこの方でも雨風しのげりゃ上等だろ。

  有事の際には俺が体張ってやるし、どんな仕事でも引き受けてやるつもりだ!」



 素敵な言葉!

 私の為にそこまでしてくれるなんて!

 将来はこの人のお嫁さんになりたい!

 でもこのままだと私、この人の事お父さんって呼ばなきゃいけないわね。

 親と息子の禁断の愛……

 それも、新しい愛の形かもしれないわ……



 「頭ァ……そんなお嬢ちゃん一人の為に、俺達の事見捨てて行くっていうんですかい?」



 あら?

 仲間割れね。

 手下の人……武器を持ってるわ。

 ここで私の新しい人生終わっちゃうのかしら?



 「馬鹿野郎!

  俺がお前達の事見捨てて置いて行くわけねえだろ!」

 「頭ァ! 俺達が真っ当な仕事して生きていけるわけねえじゃねえですか!

  それに……親の顔も知らねえ俺達が子育てなんて……出来るわけがねえ!」



 「負け犬根性は俺が叩きなおしてやる!

  不満のある奴は声を上げろォ!」

 「頭ァァー!」



 優しく私を抱いたままオルテガはホセの顔を思い切り殴りつけた。

 こういう男臭いコミュニケーションってホント素敵!

 良いもの見せてもらったわ。



 ◇



 その日から数日に渡って、オルテガは私をホセに預け、何処かへ出かけている。

 きっと町の人に頭を下げているのね。

 顔に傷を作って帰って来る日もあった。

 言葉はまだ喋れないけど、私にはエールを送る事くらいしかできない……

 ばぶーしか喋れないけど、頑張って!

 精一杯私は顔を見上げてそう口にした。



 「よーしよしよしよし。

  バブでちゅかァ? バブでちゅよォー」



 オルテガに反対していたホセもいつの間にか私にメロメロにね。

 ホント私ったら罪な女。

 女といえば、私、男の子じゃなかったのよね。

 女の子になっちゃった!

 でも、やっぱりアレが無いと寂しいわ。



 ホセが回りをキョロキョロと見回してる……

 怪しいわ、もしかして悪い事でも(たくら)んでるのかしら?



 「バブちゃん。

  俺が、パパでしゅよぉ」



 あら!

 頭目のオルテガがいないのを良い事に私を寝取ろうと言うのね!

 でも駄目よ。

 私はあの人のものなんだから!



 「アッ! 頭ァ!

  どうでした?」

 「はぁ、やっと折れてくれた。

  いいかァ? 野郎共ォ!

  これから俺達は真っ当な仕事に就く!

  根を上げんじゃねえぞ!」



 「オオォォ!」っと勇ましい雄叫びを上げる男達! 好きだわぁ!


 

 ◇



 町に移り住んでから五年。

 お父さんは私を育てる為に汚れ仕事でもなんでもして来てくれた。



 お父さんって言うのは勿論オルテガの事。

 手下の人達も一言も根を上げずに一生懸命汗を流してお仕事をしてくれている。

 町の人達からは煙たがられているけど、私はこの人達の努力を五年間ずっと見て来た。



 私も町の子供達から仲間外れにされちゃってるけど、何も悲しい事なんて無い!

 だってこの人達の事を本当に(ほこ)りに思ってるから!



 「今日もいい子にしてたか、アイラ?」

 「うん! お父さんの娘なんだからいい子に決まってるわ!

  私、大人になったらお父さんのお嫁さんになるわね!」



 「アイラは俺の事が大好きなんだなぁ! 俺もアイラの事が大好きだぞぉ!」

 「だぁめ! ちゃんと愛してるって言って!」



 「ああ、愛してる! 何があっても俺はアイラの事、手放さないからな! ガッハッハ!」



 ◇



 あれから更に月日は経ち、私は十歳になった。

 私の容姿は、町で噂になるくらい目立つ様になり、それが原因でお父さんとの血縁関係を町の人に疑われちゃったけど、お父さんは自分の娘だと言い張って押し通し続けていた。

 私もそんなお父さんの事を慕い続けている。



 お父さん達が仕事をしている間。

 空いた時間は近くの小川で一人で遊んでいた。



 ここに来るといつも思うのよね……

 小魚とか蟹とか捕まえておかずに出来ないかしら?

 川の底を眺めていると、村の子供達が私に向かって小石を投げつけてきた。



 痛いわねぇ。

 でも、やんちゃな子も嫌いじゃないわ!

 だから小石をぶつけられたくらいじゃ怒ったりはしない。



 「何ニヤニヤしてるんだ、こいつ! 町から出て行けよ!」

 「くせーくせー! お前等が町に住み付いてから水が臭いんだよ!」

 「町にいさせてあげてるんだから! もっと()(へつら)いなさいよ!」



 あらあら。

 元気な子達ね。

 女の子は町の偉い人の娘さんだったかしら?

 お父さんの為にも、機嫌は損ねない方がいいわね。



 私はその場で膝を地面につけて頭を下げる。



 「町に住まわしてくれてありがとう。 町の人達にも、貴方達にも感謝しているわ。 本当にありがとう」

 「なんだぁ! お前!」



 子供達は私の背中をポカポカと叩いて来る。

 全然痛く無いけど、教育って大事だと思うのよね。

 でも、私が逆らったりしたらお父さん達に迷惑かかっちゃうし、子供達を叱ってくれる大人の人はいないのかしら?



 「コラ! 君達何をしている!」

 「誰か来た!

  逃げろー」



 子供達は去っていってしまったわ。

 助けてくれたのは……見かけない人ね……

 誰かしら?

 それにしても、すっごい美男子!

 王子様だって言われたらそのまま信じちゃうわ。



 「君、大丈夫かい? 怪我もしている……ちょっと待っててね」



 この王子様みたいな人は丘の上にある馬車で来たのね。

 本当に貴族の人なのかしら?

 とてもいい人そうだけど……

 あら?

 透明な液体を振りかけられただけで、傷が治っていくわ。


 

 「凄いわ! ありがとう!」

 「どういたしまして! 君ってそんな風に笑うんだね。 酷い事をされて辛くないの?」



 「やんちゃな子達よね。 子供はそれくらいの方が将来有望だわ! 教育は親の責任だし、あの子達は何も悪くないのよ」

 「まだ小さいのに凄く考え方が大人だね。 君の両親はさぞ立派な人格者なのかな?」



 「うん! お父さんはすっごく格好良くて、とってもいい人なの! お母さんはいないんだけど、私がちゃんとお母さんの代わりをしているから気を使う必要はないわ! お料理だって沢山出来る様になったのよ!」

 「ああ……そうか。 アハハ、本当に君はしっかりした子だね。 ん? そのネックレスは……お父さんから貰ったものなのかい?」



 私はその場でクルリと回り、ネックレスが良く見える様にして見せてあげる。

 このネックレスは私もお気に入りで、お父さんがくれた大切なネックレス!

 褒めて貰えると嬉しくなっちゃうわ!



 「綺麗なネックレスでしょ! お父さんがね、いざと言う時に守ってくれる様にって、お守りにくれたのよ!」

 「うん、とても似合っているよ。 それじゃあ……僕はもう行くけど、また怪我をしない様にね」



 王子様みたいな人はいっちゃったわね。

 それにしても本当に凄い美形。

 貴族なんだとしたらこの町に何か用事でもあるのかしら?

 


 ◇



 夕暮れになってみんなのご飯をせっせと作っている。

 男達の笑い声が扉を開けて家の中に入って来る!



 「お帰りなさい!」

 「ただいま、アイラ! 今日もいい子にしてたかぁ?」



 「うん! お父さん抱っこして!」

 「ハッハッハ! よーし、こっちにおいで!」



 「お父さんだーい好き! ずっとずっと一緒だからね!」

 「あー! アイラ。 愛してるじゃなかったのかぁー?」



 「んもぅ! 愛してるわ!」

 「俺もアイラの事、愛してるぞぉ!」



 二人で子供みたいに大きな声で笑い声をあげると、周りにいる皆も大きな声で笑ってくれた。

 


 ◇



 王子様みたいな人と会ってから三日目の朝。

 とても……信じられない様な事が起こっていた……

 なんなのよ……この人達……

 お父さん達の建てた家を、鉄の鎧を着た兵士達が囲んでいた。



 「お父さん?」

 「アイラ……すまない。 お前との生活も……終わりだ」



 そんな……何がどうなって、こうなったのよ!

 認めないわ!

 だって私の人生まだまだこれからなのよ!



 嫌よ、こんな風に別れるなんて!

 お父さんだって……泣き出しそうな顔してるじゃない!



 「お父さん……お父さん!

  私を連れてって!」



 精神的なものかしら? なんだがすごく疲れているわ。

 それでも私はお父さんの胸にしがみ付きギュッとお父さんの胸を引き寄せる!

 お父さんと手下の人達が「うおおおおお!」っと猛々しい雄たけびをあげ、兵士達に突っ込んでいく!



 手下の人達が兵士達の相手をしているその隙を突いて私を抱えたお父さんが一心不乱(いっしんふらん)に駆け抜けていく!

 早いはやーい!



 全速力で駆け抜けるお父さんに、重い鎧を着た兵士達は誰も付いて来る事が出来ない!

 本当に……凄く早い!

 鍛冶場の馬鹿力って奴だわ!



 このまま逃げて新しい生活をお父さんと一緒に過ごすのよ!

 盗賊でもいいわ!

 私はお父さんの事、愛してるんだから!

 


 「止まれ!」



 お父さんの足が止まり、私も振り返るとそこには鎧を着た兵士が待ち構えていた。



 「ハァ……ハァ……お父さんは必ずお前を見つけてやる。 だから、お前は逃げろ!」



 お父さんが兵士に向かって素手なのに殴りかかっている!

 ここで私がモタモタしてたら絶対に駄目!



 私は走り出した!

 町の外になんて出た事ないけど、微かな記憶を頼りに盗賊だったお父さん達のアジトを目指した。

 でも……子供の足じゃ全然前に進まない。

 上半身も仰け反って、もっと早く走りたいのに足が空回ってるみたい……



 誰かが追って来ている。

 逃げなきゃ!

 もっと(はや)く、もっと(はや)く……

 前のめりになり、足がもつれそうになりながらも必死に山の中を、溺れてるみたいに手で空を掻きながら前へまえへと体を押し出していく。



 子供の足でいくら足掻いた所で大人の足には敵わない。

 私は後ろから(せま)って来た誰かに抱き上げられてしまった。



 「離して!

  私はお父さん達と一緒の所へ行くの!」

 「暴れないで。 僕だよ、安心して」



 そっと下ろしてくれたので振り返って見上げると、あの時の王子様……


 

 「あのね! お父さん達が兵士に襲われてるの! 助けてあげて! お願い!」

 「落ち着いて聞いて欲しい。 君はね……バーンアストライド公爵の一人娘。 高貴なる方の御令嬢。 つまり君は……お姫様なんだよ」



 全部理解した。

 このネックレス……きっとこれが王家と関わりのあるネックレスだったのよ!

 私は首に下げたネックレスを引きちぎり、王子様っぽい人に投げつけた!



 「私はお父さんの子なのよ! お姫様なんて知らない!」

 


 お父さんの元へ向かおうとしたけど、私はすぐに捕まり、無理やり馬車に乗せられてお城へと連れていかれてしまった。



 さようなら、お父さん。

 でも、いつか必ず出会えると信じてるわ。

お願い。




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