閑話 勇者ゼファー
次回の投稿は9月26日になります。
次回以降は完結まで毎日投稿する予定になっています。
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7つの大きな風車が並ぶ丘の麓。初夏の風に乗って子供達の
喧騒が聞こえてくる。
『女顔が取り得のお前に負けられねえなぁ!』
『訂正しろ。僕の取り得は女顔じゃない!両手利きだ。』
女顔じゃない。その部分だけ語気を強めコバルトブルーの髪の
少年はバンダナを巻いた大柄な少年へと啖呵をきる。
木剣を持って向かい合った少年達。コバルトブルーの髪の少年は確かに
優しげな顔立ちだが声変わりを済ませバンダナの少年ほどではないにせよ
しっかりと筋肉も付き始めた彼を女性と思う者はいまい。
両手に木剣を持ち二刀流の構えの青髪の少年、その名はゼファー。
2人は年齢に達したこの年から自警団に入る。ド田舎とはいえ大帝国の
辺境。この7つの風車の村エルバあたりでは強力な魔物は出現しないが
農作物ドロボウなどは出る。領都の帝国軍駐屯地や護民官へ知らせる
よりも自分たちで対処出来るなら手間は無い。と言う訳でここでは若者を
中心に自警団が結成されているのだ。
武術を指導し訓練を監督してくれるのは身体を壊して引退した
元冒険者のゼファーの父。年長の少年少女も自主参加する者が
多かった。
そして今日、稽古と称して自警団入りするバンダナの少年が
『先生』の息子ゼファーに対戦を挑んだのだった。
審判役の少年が道端の岩に小石を落とす。コツーンと乾いた音を
合図に試合は開始された。
カツン!! カツン!! カツン!! ゴツッ……
(ちぇっ!安い挑発じゃゼファーの冷静さを崩せないか…)
直接先生から指導を受けられるゼファーを少し羨んでいたがそれ以上に
ゼファーの実力を認めていた彼。ゼファーが的確に防御し無理なく小さい
攻撃を当て優勢を保つ戦い方に腕に憶えのある彼はゼファーが手加減して
いる事に気が付いていた。そこで彼はゼファーを本気にさせ、なおかつ
隙を生じさせる為に新たな手段に出る。
『おいゼファー!!もしお前が勝ったらレアちゃんの……』
『おい!!!レアをどうするつもりだぁぁ?!』
妹レアの名が出た途端ゼファーは激昂した。
ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!
ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!
『ちょっ?!待っ!!』
ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!
ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!ガツッ!
ガッキイィィィィン!!!!
『ぐぇぇぇ?!』
ゼファーの息も付かせぬ猛攻にバンダナ少年は撃沈しあっさり勝負がついた。
勝負有りと掛け声と同時に目を回し倒れる少年に皆が駆け寄った……
『だ・か・ら!!俺が負けたらレアちゃんの代わりに水汲みしてやるって
言いたかったんだよ!あんな小さな子が病気の母ちゃんの代わりに水汲み
行ってて大変そうだったから!!』
『…知らなかった。明日からは水汲みも僕がやろう。』
『お前は畑に井戸掘りにと大忙しだろう!!内緒にしてたレアちゃんの
気持ちも考えろ!!とにかく負けた俺が水汲みに行ってやる!』
『……………………………………もしかしてランボー、君はレアの事を
狙っているのか?』
『ふざけっ!!この兄バカがあぁぁ!』
自警団長の弟でガキ大将だったバンダナの少年ランボーはタンコブだらけに
なりながら文句をつける。ちょうどその時、夕刻を知らせる鐘楼の鐘が鳴り
子供達はみな家路について帰宅。傾いた日が風車にかかり美しい夕焼けが
空を茜色に彩った。
(これは…あの時の夢か……この15歳の日を僕は生涯忘れない………)
ああ…嫌だ、この続きは見たくない。ゼファーのそんな願いも
虚しく悲しい記憶の追体験は続く。
その日の夜。家族団らんで夕食の時間。楽しいはずだが理路整然とした
ゼファーの追求とお説教に父母と妹は目を回している。
『水汲みの事、兄ちゃまにバレちゃったぁ。』
『レア、やっぱり内緒にするのは無理だったな。』
『ごめんね。私が体調を崩したばかりに……』
『なぜ僕に隠すんだ?そのぐらい僕がやる!』
『兄ちゃまは全部1人で抱え過ぎ!父ちゃまと一緒に新しい井戸を掘って
父ちゃまと一緒に牛と羊の世話をして。それから1人で畑の世話して果樹の
世話して自警団になる訓練して!!気が付いたら家の掃除までしてる!!』
『レアはまだ小さい!僕が家で一番動けるから僕がやって当然なんだ。』
同じ髪色で面影も良く似ている妹レアはぶーっと風船のようにほっぺを
膨らませて、
『私はもう7歳よ!家の事もちゃんと出来るんだから!!』
何でもない日常。当たり前の幸せ。そんな平和な時間は突如として終わる。
ゴオォォ……………オオオォォ……オオオオオオオン……… …
その時、世界が鳴動した。異変はまず轟音のような鳥達の鳴き声と
羽ばたく音。村周辺の、いや全世界の鳥が一斉に飛び立ち全ての
動物や魔物、家畜がパニックを起こし激しく暴れる。精霊たちは
恐怖に取り乱し嵐のように大気が鳴った。
そして強い魔力を持つ者たちは次々と倒れある者は嘔吐し最悪の場合は
気絶してしまった。世界規模の魔力変動の発生である。
次々と家から飛び出すエルバ村の人々。3つの月が煌々と照らしていた
夜空は黒い雲のような何かが覆い人々を不安がらせた。
遠い魔術師ギルドや妖精国ミーツヘイムでは戦慄をもってこの事態を
捉えていた。新たなる魔王の現出である。
後の時代、ガープがこの世界に転移して来た時は一切の魔力変動が無く
魔術師ギルドを驚愕させたがこの時は過去最大の魔力変動がギルドを
畏怖させた。
一体、どれほど強力な魔王が現れたのだ?
目端の利く人々はいち早く事態を察知し、憂慮しつつも自分達に出来る
準備を始めた。このマールート世界で繰り返されてきた勇者と魔王の
戦いが再び始まったと知って。
『な、何事だ?!』
父と母、そして妹までが家から飛び出して外の異変を見に行った中、
ゼファーだけは独り座ったまま頭を抱えている。
外から見るとただ少年が座っているだけに見えるが内部は
とんでもない事になっていた。まるで魂の奥底から巨大噴火の
ように膨大なエネルギーが湧き上がりゼファーが元来持っていた
魔力を爆増させ精神と肉体に強大な力とスキルが宿っていく。
そして何より世界の自我無き意思がゼファーの意識を覚醒させた。
自我無き意思は命ずる。世界を蝕む邪悪を倒せと。
自我無き意思は願う。邪悪がもたらす滅びから世界を救って欲しいと。
『僕が……勇者か!倒すべき大敵、その名はクィラ!!!!』
………見つけた………
『?!』
その覚醒した直後、ゼファーは何者かに見られたような気がして
周囲を見回す。
『…気のせいか?』
周囲の様子を覗う内に自分の視覚や聴覚、いや感覚全てが鋭敏になっている事に
気が付くゼファー。灯明の周りを飛ぶ羽虫の羽音さえ集中すれば聞き取れる。
『妙な感じがしたのは…このせいか?』
首をかしげながら自分の能力を確認しているとゼファーは悪寒のような
気配を感じ、次に外から村人の悲鳴が上がった。反射的に木剣を掴んで
ゼファーは外に飛び出す。
暗闇のエルバ村。だが異変を確認するため大勢の人たちが松明など
灯明を持って出ており見通す事は出来る。
見通す事は出来る。だがそれは何の安心材料にもならなかった。
『なにあれ?!』
『怖いよう!』
村のあちらこちらで奇怪な怪物共が蠢いていた。腐臭を放つ怪物は
人間の死骸を幾つも繋ぎ合せた異様な姿で蠢き生者に明確な悪意を
向けていた。
ある怪物は二つの下半身が一つの上半身に繋がり、その上半身には
10本の腕と10個の目と耳が付いた頭部が生えていた。そんなふうに
人体でデタラメに形作られた怪物は1体として同じ形状をしていない。
そんな怪物が次々と虚空から出現する。数人分の死体の悪趣味な
合成体は体格としても大きく、人では持ち上げられない大きな
丸太や岩などを手にしながら村人に襲いかかり始めた。
ズダダダアアアアァンン!!
惨劇が始まると思った瞬間、青髪の少年ゼファーが疾風のように
駆け寄ると怪物の1体をぶっ飛ばした!
『兄ちゃま?!』
妹レアの驚く声を尻目に2体目、3体目と怪物を倒していく。
殆どの怪物はゼファーの一撃で戦闘不能となり4体目など
当たり所が決まったのか接合場所が破れバラバラになったほどだ。
『凄ええ!!ゼファーすげえな!』
バンダナを巻いたランボーが木剣を持ち、槍を持ったゼファーの隣家の旦那で
自警団のキョーシャンと共に1体の怪物と戦いながら感嘆の声を上げた。
ゼファーは応えるより先に助太刀に入り怪物を地に沈める。
『ここらの怪物は片付いたな。だが川向こうの地区と村の中心が
大騒ぎになっているぞ!』
『すぐに行こう!』
3人がすぐに駆け出そうとすると後ろから声が掛かる。
『俺も一緒に行こう。』
それはゼファーの父だった。それに対して応えたのは槍の自警団員の
キョーシャンだ。
『無謀だ。いくら剣の腕が立ってもアンタの足じゃあ走れない。』
『父さんは家に残って母さんとレアを守っていて。戸締りを厳重にお願い。』
2人で説得し父を納得させると周囲の村人にも家に立て篭もるよう告げ
3人は怪物が群れている場所へと駆け出した。
そこは正に戦場であった。夥しい数の怪物が村全域を襲撃しており既に犠牲者が
出始めている。自警団も必死に抵抗しているが元々は野菜ドロボウに対抗する
力しかない人々だ。劣勢から壊滅するのは時間の問題だと思われた。
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
一気に加速し駆けるゼファーに目を見張るランボー。
『うわっ馬より速ええ!』
勢いのまま体当たり気味の一撃で1体を倒すと嵐のようにゼファーが
怪物の群れに突入し斬って斬って斬り捲くる。その強さに村人達は
希望を持ち歓声が上がり始める。だがゼファーは内心で焦りが募っていた。
(ちくしょう、ちくしょう!武技が使えない!!村が!皆が!これ以上は
犠牲を出したくないのに!僕が力を使いこなせないと!)
勇者に目覚めた瞬間に様々な力を得た。スキルを発動する根源的魔力も
武技を発動する能動的魔力も膨大にあるし手足を動かすように使い方も
教わらなくとも分っている。
だが使えない。理由は明白だ。修練が足らず使えるレベルに達していないからだ。
いくら内面で爆裂進化を遂げても肉体と精神を水準までレベルアップしなければ
どうにもならないのだ。
人々を救う事で頭がいっぱいのゼファーには力が使えない事が
たまらなく悔しく焦燥に駆られる。
(何としても!!)
『あああああああっ!!!!!』
全てを搾り出す渾身の一撃、青い閃光が奔りゼファーの手から
木剣が鳴ったとは思えない轟音が響くとゼファーの前方の怪物が
一度に十数体もが消し飛んだ。
『?!』
無我夢中で放ったのは最も初歩的な勇者の剣技『序の聖撃』だった。
ゼファーは知るまいが歴史上で覚醒直後に勇者の技を使えたのは
彼だけだった。そのままゼファーは剣技を振るい村中心付近の怪物は
だいぶ片付いてきた。だがここで新たな敵が出現する。
ボオォォと直径1メートルほどの青白い火球が現れたのだ。火球の中に
頭蓋骨のような物が見える。ウィルオー・ウィスプを改造して産み出された
古代魔法帝国の戦闘用魔法生物イビル・ウィスプだ。
死体の怪物の増援と共に現れたウィスプ共は村人や家屋を無差別に
焼き始めた。
『やめろおおお!』
激昂したゼファーは新手を勇者の剣技で次々と屠っていく。
自らの疲労や体力など一顧だにしない。この理不尽な襲撃に
対する怒りと悲しみでゼファーの心は塗り潰されていた。
一時的に敵は村の大半から消えたが次々と虚空から出現する。
『くそっ!きりが無いな。皆よく聞け!生き残った村人を1箇所に集め
ゼファー君と共に守護する!』
ランボーの兄の自警団長はそう叫ぶとゼファーの方を向き直り
『若い君に頼って情け無い限りだが敵に対抗出来るのはゼファー、
君だけだ。軍の駐屯地に知らせの者を走らせている、援軍が来るまで
何とか持たせてくれ。』
力強く頷いて応えるゼファー。その時に誰かの叫びが上がった。
『丘の麓地区から火の手が上がってるぞ!』
『!!』
丘の麓地区、それはゼファーの家のある地区だった!!
『助けに行けゼファー!村の中心や他の地区はいま敵の数が減っている。
我々だけで何とか持ちこたえる間に助けに行き、ついでに地区の村人を
護って連れて来てくれ。ここで皆を守る!』
自警団長の言葉に振り向くと団長やランボー、キョーシャが武器を掲げ
ゼファーを促した。
『早く行ってレアちゃん達を連れて来い!』
『すぐ戻る!!』
全力で駆け出したゼファー。疾風の勢いで辿り着いた家のある地区で
待っていたのは絶望の光景だった。
怪物の数は十数体に増えているばかりか中心には死体10体分はある
大型の怪物が大岩を持ち上げ次々と家を潰しウィスプが火を放っていた。
『!!!!』
声にならない叫びと共にゼファーは怪物共の群れに飛び掛る。
序の聖撃で雑魚怪物やウィスプを叩き潰しながら大型怪物に
斬りかかった。
大怪物が叩き付けて来る岩を怪物の腕ごと序の聖撃で両断すると
怒涛の全力攻撃をぶち込んでいく。
ガガン!! ガガン!!
最初に耐え切れなくなったの木剣であった。次の聖撃を放つ
と同時に左手に持った木剣が粉々に粉砕し、右手の木剣も
刀身の中ほどでボッキリ折れてしまった。それでもゼファーの
心は折れない。折れた剣で攻めまくり左手で殴れるだけ殴りまくる。
遂には大型怪物を撃破するとゼファーは傷だらけのまま
潰され燃え上がる自宅の前に行った。
『レア!!母さん父さん!!!』
泣きながら呼びかけるとまだ火が燃え移っていない隣の半壊した
家畜小屋からか細い声が聞こえた。
『兄ちゃま……』
『レア!!無事だったか!』
『……兄ちゃま、あのね、あのね…』
気丈に怪物から隠れていたレアは兄に縋り付くと安心したのか
静かに泣き始め
『家が潰されそうになった時、父ちゃまが私を窓から外へ。その時
家畜小屋が潰れて羊が逃げ出して…お化けが羊を追いかけた隙に
隠れて…』
何か言いたくない事があるのかレアは泣きながら何事があったかを
必死に説明する。
『………母さんと父さんは?』
『う、うわああああああああん…』
堪えきれなくなって号泣するレア。
『…ごめん。』
ゼファーは妹をしっかりと抱きしめて謝る。
レアが泣き止むまでそうしたかったが状況がそれを許さない。
やさしくレアに移動を告げる事にした。この場は危険である。
他にも生き残った人がいないか確認した後で速やかに移動するべきだった。
スッ
だがレアはゼファーが言葉をかける前に立ち上がり、涙を拭って姿勢を
正すと神妙な表情で燃える家を見つめる。そして小さく頷き祈りを行った。
ハッとしたゼファーもそれに習って祈ると『霊媒』の特殊スキルを持つ
妹レアに尋ねた。
『母さんと父さんは何て言ってた?』
『…もうこの地区には他に生き残ってる人は居ないって。急いで逃げろって。
でね、私と兄ちゃまが生き残った事を見届け安心して召される事が出来るって
言ってた。』
『そうか。』
『あと、兄ちゃまの聖なる使命の成就を神様の元で祈っていてくれるって。
それと………悪意ある虚言に注意して欲しいって言ってた。都合の良過ぎる
話や力に決して頼ったらいけないって。』
『…分かった。肝に銘じておくよ。それじゃあのアンデッドみたいな
怪物が来る前に自警団の人達と合流しよう。走れるかい?』
『走れる。……ねえ、あのお化けってアンデッドなのかな?霊魂とか
全く感じ無かったけど。』
『そうなのか?とにかく急いで…しまった!!』
ゼファー兄妹の周囲に2体の怪物が出現してしまった。
『くそっ!倒すか、それともレアを背負って走り抜けるか……ああ?!』
そうしてゼファーは自警団が居る村中央方面に目を向け火の手が
上がってる様子が目に飛び込んだ。
(まずい!早く行かないと皆が危ない!)
僅かな逡巡の後に迫って来る2体を倒すと決断したゼファー。疲労が
蓄積し怪我だらけではあったが折れた木剣1つで怪物2体を打倒し
ゼファーはレアを背負って走り始める。
『降ろして兄ちゃま。私は自分で走れるから!!』
『分ってる。でもこの方が早いんだ。』
『でもヘロヘロお兄ちゃまになってるよ!』
『大丈夫だから。』
話しながら全力疾走するゼファー。ふと前方から人影が向かって来る
事に気が付いた。声をかけようとしたゼファーは絶句し立ち止まる。
『……くっ。』
ゼファーは妹を降ろし無言の手振りで下がるよう促した。
(村の中心から……ちくしょう!)
迫って来るのは怪物の群れ。そしてその先頭には3体もの大型怪物が
ゼファー兄妹に向けて走ってくる。
ブゥゥゥン!!
その内の1体がズタズタの肉塊のような物を投げつけてきた。
明らかに何か生き物だったと思われる肉塊を避けるゼファー。
ゼファーの構えが崩れた瞬間にドッと一斉に怪物共が攻めかかって来た。
ゼファーは……そのズタズタの死体を見つめて微動だにしない。
正確には死体の頭部らしい所に巻かれていたバンダナを見つめて。
その間も敵が迫る。肉薄した怪物共の攻撃が当たる寸前、声の割れた野獣の
咆哮の様な怒りの叫びを上げゼファーは序の聖撃を放った!!
『貴様らあああ!!許さああああん!!』
ズバシュ!!!!!!
10体ものザコ怪物がバラバラになってぶっ飛ばされ大型の
1体にも大ダメージが入る。そのままゼファーは一気に間合い
をつめて攻めに転じた。最初の標的は友の死体を投げつけてきた
大型怪物だ。
ゼエ、ハア、と荒い呼吸を続けながらゼファーは折れた木剣に
左腕に足での蹴りと全身で猛攻撃を加え疲労のピークを超えた
身体に鞭打って序の聖撃を至近で放ち大型1体を倒す。
だが次の1体が目前に迫り、あろう事かもう1体の大型怪物がゼファーの
後ろのレアに狙いを定め不気味な動きで迫る!
『逃げろレアぁぁぁ!!』
叫びながらレアを助けに向かう。背中に攻撃を受けたのか激しい衝撃と
痛みがあったがかまわずゼファーは走り続けた!
間に合うかどうか刹那の瞬間に奇跡が起こる。
ズシャアアアアアア!
突如、戦斧を振るう屈強の戦士が現れレアに迫る大怪物を一刀両断にした。
『遅れてすまない。救世の勇者よ。』
同じタイミングでゼファーの周囲に5人の謎の人物が虚空より現れる。
不思議な文様のローブを身に纏い宝玉を嵌めた仮面の者達。
田舎の少年でも伝聞でその姿と名声は聞いていた。
『まさか…五大賢者?!』
『その通りだ勇者よ。そして彼が斧戦士ルスタン、英雄と呼ばれる
者達の1人だ。』
赤いガーネットの賢人がそう言って怪物共を次々と撃破する戦斧の戦士を
指し示した。そして聞いた事も無い言葉で何かを唱え神秘の技を行使すると
空を飛ぶイビル・ウイスプを全て消し去った。
『迎えに来るのが出遅れた。心から謝罪し犠牲になった人々に哀悼の意を
捧げさせてくれ。まさか魔王軍がこれほど早く処刑部隊を送り込んで来る
とは思わなかった。』
『魔王軍?!』
『そうだ。英雄神によって選ばれし勇者よ、新たに出現した魔王は卑劣な事に
覚醒したばかりの勇者、つまり君を真っ先に狙ってきた。すでに魔王軍との
戦いは始まったのだ。我らは全力で力添えをしよう。共に世界を救い希望を
もたらすのだ。』
『…それじゃ僕のせいでこんな事に……』
震える声で応えるゼファーに今度は青い宝玉の賢者が語りかけた。
『奮起せよ勇者。このままでは世界の全てがこうなってしまう。魔王軍を
阻止出来るのは勇者である君だけだ。』
ゼファーは繰り返し聞かされてきた勇者の伝説を思い出す。
邪悪な魔王に勇者が挑み五大賢者の助勢と英雄神ゼノスの
加護を受けて邪悪を退け世界を救ってきた歴史と伝説。
(まさか僕がそんな使命を引き継ぐなんて…でもやらなきゃ駄目だ。
このままじゃ本当に世界がこの村みたいに悲惨な事になって滅んでしまう…)
こうして会話している間に襲ってきた怪物はルスタンと賢者があっさりと始末し
戦闘は終わっていた。あとは廃墟となった村が燃える音だけが残っている。
ゼファーは燃える村と友の亡骸に悲しみの瞳を向けると決心した表情で
賢者達に決意を伝えた。
『わかりました。僕は勇者として世界を救う為に全力で戦います。
…こんな事を許しちゃだめだから。』
『君の使命は本当に大切だ。世界に平和が戻るその日まで我らは
全力で支援させてもらう。』
賢者達は揃った動作でゼファーに頭を下げた。
『最初の支援としてこれを。受け取ってくれ。』
そう言って赤い宝玉の賢者は恭しい態度で英雄神ゼノスの聖印が
刻まれた黒い小箱を取り出した。
『聖都ロルクの最奥から新たなる勇者に授けるため最高大神官から直々に
送られた切り札だ。』
(歴代の勇者達が持つという英雄神の神具か…)
ゼファーの目の前で開かれた小箱。
開いた瞬間、奇妙な気配と存在感を放つ。その中に
納まっていたのは一つの指輪だった。
ゼノスの聖印に似た黒い口の意匠が象られている、
微妙にリアルで口が少し開き蛇行する舌が描かれ
強い印象を放つ指輪。
『これこそ英雄神と直接繋がるゼノス・アーティファクトだ。
魔王と直接対決するまで肌身離さず持ち決して手放してはならん。
対決の時に魔王に確実に勝利する絶対の切り札なのだから。』
『あれ?幼い頃に聞いた前の勇者スプーチの話だと彼が持っていた
英雄神の神具は腕輪だったはずですが?』
『ふふっ、歴代勇者が身につけるゼノス・アーティファクトは
それぞれ形状が違うのだよ。ある勇者はメダル、別の勇者は頭環
といった具合に。ある時期からより確実に力を発揮するように
利き手に付ける物になったのだ。という訳で早速その折れた
木剣を捨て利き手を出してくれないかな?勇者よ。』
僕は両手利きですよ、そう言おうとしたゼファーの目に
気を失った妹レアが緑の宝玉の賢者に抱かかえられて
いるのが映る。
『レア?!』
『妹どのかな?どうやらあのアンデッドモンスターが
至近で両断されたのを見て失神したようだ。大丈夫、
どこにも怪我は無い。』
『………………アンデッドモンスター?』
『そうだ。魔王の死霊術によって不浄な死体に悪霊を宿らせた存在だ。
すでに転移で攻めて来るアンデッドの対策は我々が施している。もう
敵の増援は無いだろう。』
(……。)
ゼファーは心に湧いた小さな疑念を表さず無言で木剣を投げ捨てると
右手を差し出した。
『『『『英雄神よ、勇者に勝利を与えたまえ。』』』』
賢者達が唱和しながらゼファーの右手の人差し指にゼノスの指輪を
嵌める。その瞬間に指輪からゼファーの脳内に声が届いた。
(故郷ヲ失イ愛スル者ヲ奪ワレタ少年ヨ。哀シミヲ乗リ越エ
世界ヲ救ワントスル英雄タル少年ヨ。我ガ名ハ『ゼノス』)
『ゼノス?!本当に英雄神なのか?』
(然リ。我コソ世界ヲ救オウトスル英雄ト共ニ歩ム者ダ。
世界ノ命運ヲ背負ウ重圧ヲ共ニ支エル者デアリ、世界ノ
破滅ヲ阻止スル勇者ニ勝利ヲモタラス者デアル。ソウ、
我コソガ英雄神デアル。)
『本当に英雄神の加護が……』
(ソウダ。勇者ヨ、魔ノ王ハ強大デアリ圧倒的ナ力ヲ持ツダロウ。
ダガ絶望スル事ハ無イ。我ガ助力デ確実ニ勝利デキルダロウ。)
『確実に勝利?それがあれば必ず勝てる?』
(ソウダ。最終決戦ノ時ニ君ガ我ヲ『降臨』サセテクレレバ我
英雄神ガ魔ノ王ヲ直接滅ボシテミセル。)
『神を降臨?!僕にそんな事が可能なのですか??』
(勇者ナレバ可能ナリ。君ガ自ラ身体ト精神ト魂ヲ我ニ捧ゲルト祈リ、
発声ヲモッテ了承スルダケダ。ソレデ世界ニ平和ガ訪レル。)
『……精神や魂を捧げる?』
(恐レル必要ハ無イ。君ノ魂ハ天界ニ召サレ神ノ戦士トシテ永遠ニ
存在シ、イツカ愛スル人々ノ魂ト邂逅スルダロウ。ダガ君ガ負ケ
魔王ガ世界ヲ制シタラ全テ終ワリダ。世界ハ破滅シ人々ハ苦シミノ
果テニ死ヌ。……ソコデ眠ッテイル可愛イ妹モナ。勇者ヨ、ドウカ
人々ヲ救ウ英雄トナッテホシイ。)
神聖ゼノス教会の説法の通りの内容だが英雄神本人が断言すると流石に
重みが違う。ゼファーは納得したように頷いて応えた。
それを持って英雄神ゼノスとの交信が終わったようで心に響いていた
声は途絶えたが右手には強力なパワーを放ち続ける指輪が残っており
確かな切り札を手に入れたとの実感が湧き上がる。
(…けど、これを使えば必ず魔王に勝てる切り札って……都合が良過ぎないか?)
『神との交信は終わったかね?』
『……ええ。』
ゼファーの返事を受けて赤玉の賢者は高らかに出発を宣言するのだった。
『では征こう!魔王を征伐する勇者の旅路へ!!』
これが魔の王クィラを倒す勇者の戦いの始まりだった……
○ ○ ○ ○ ○
異界から来襲した魔の王クィラはその圧倒的な力から大魔王と称され
出現から急速な勢いと日数で大国である聖王国ヤーンを攻め滅ぼそうと
していた。
大魔王の存在を危険視し聖王国の救援を決定した大アルガン帝国や
ラースラン王国、勝利後に領土割譲を狙ったポラ連邦が援軍を送る
準備を開始。
だが大アルガン帝国で皇帝ミットラーが暗殺されポラ連邦でも
発表では未遂とされた総統暗殺があり出征は中止。実はラースラン
王国でも飛行型魔物の群れのスタンピート発生と国王暗殺が同時に
起きていた。
だが飛行型魔物を空中艦隊と魔術師ギルドが押さえ込み、国王暗殺を
狙った暗殺者部隊は国王レムロス6世自身が斬り倒し返り討ちにして
見事に撃退してのけていた。
という訳で、
ラースラン王国だけが援軍として6万余の兵力を出撃させようとしていた。
空中艦隊を率いるのはネータン王太女、地上軍の司令官はアニーサス第一王子
で副官にアガット将軍が補佐をする万全の態勢であった。
聖王国の領土の半分が魔王軍の支配地となり聖王都アスカニア攻防戦が
始まっている。時間が無いラースラン王国軍はハヴァロン平原を直進する
最短の進撃路を選択し出撃を開始しようとしていた。
援軍出撃の報を聞き、また大魔王と戦うという勇者ゼファーの救援を信じて
聖王国軍は戦っていたが魔王軍が繰り出した超巨大魔獣が城壁を打ち破り
圧倒的な破壊と殺戮で聖王都を蹂躙し始めた。もはや誰の目にも陥落は
免れない事は明白となる。外周の城壁を失った今、堅牢な内周の城壁を
突破されたら全て終わりだ。
聖王ルハン三世は決断を下した。
『聖王都と……余を放棄する。』
『は?』
ルハン三世は王国軍大本営となっている王宮防衛司令部に集う
廷臣と将軍たち、そして王族の主要メンバーに宣言した。
『もはや聖王都に拘っていては滅亡は免れぬ。王太子カリオス、そして
我が子達は騎士団と共に落ち延びよ。』
『へ、陛下?!』
『むろん、皆もだ。救えるだけの民も脱出させ国の再建に備えるのだ。
そして余は残る。ふふっ、王が残れば魔王軍も即座に皆を追うまい。
理想の殿という訳だ。余は王宮の城壁にある『77の守護者』を用いて
可能な限り抗戦する。余の死をもってカリオスが王に即位し軍をまとめ
勇者ゼファーや援軍と共に魔王軍を駆逐し祖国ヤーンを奪還せよ。』
妖精国ミーツヘイムと並んで大陸で最も古い歴史を持つ聖王国ヤーン。
秩序と権威を重んじる古き大国では聖王の決定は誰にも覆す事は出来ない。
たとえ聖王自身を犠牲にする決定であろうとも即座に執行され
王を残して人々は大急ぎで準備すると次々と落ち延び始める。
追手がかかる事を想定し、それぞれ分散して聖都アスカニアを離脱。
まず王太子カリオスが騎士団精鋭と聖王国の主戦力である魔法戦士隊を
引き連れて城塞都市バルサーへと向かう。本来は聖都より先にバルサーが
魔王軍主力の攻撃を受けると想定されており規模の大きい守備隊が配置
されている。王太子はその戦力と合流するつもりだ。
聖都の残る兵力を率いるのは将軍を務めるクラリッサ第一王女。
彼女は一流の魔法戦士でもあり指揮官としても優秀な能力を
持っている。いささか背が小さく年齢よりだいぶ幼く見られる
という本人のささやかなコンプレックス以外は欠点の見当たらない
完璧人間だ。
クラリッサ王女の指揮する軍は様々な策と戦術をもって民間人を守りながら
王都を離脱。目指すはサカムビッテ辺境伯領である。魔王軍の侵攻方向の
真逆の方角で穀倉地帯であり、魔物の被害が発生する土地柄か冒険者ギルド
には多数の高ランク冒険者が在籍しており魔物との戦いに強い土地であった。
そして王妃と幼い第二王子と第三王女を中心に王族達と王国の重臣達などの
人々は転移門で国外に脱出。大アルガン帝国で保護される手筈になっていた。
そして聖王国ヤーンの精神的支柱であり国を支え国民から愛されて
国王より尊崇される『聖女』第二王女アスアは親友である『炎髪の
魔女』ラニアと共に東部国境の砦ガルナスへと向かった。予定通り
なら援軍のラースラン王国軍を迎える予定の地だ。
彼女だけが別行動なのは聖女まで国外脱出してしまっては国民が
絶望してしまうからである。アスア達はギリギリまで王都に残り
皆の脱出を支援し聖王の徹底抗戦の準備を手伝う。
炎髪の魔女、後に炎髪姫と呼ばれるラニアは高い魔法の素養と
空前の規模の魔力量を持ち、若輩ながら千年に1人の天才魔術師
と呼ばれていた。この魔術師ギルドに加入していない中では
最強といわれる魔術師の転移で聖女アスアが去ると王宮には
聖王ルハン三世だけが残された。
『さて、後は余が時間を稼げるだけ稼ぐのみだな。』
スッ
手に持った王笏を高く掲げ王族のみ口伝される秘密の聖句を
唱えるルハン三世。
それに呼応するように壮麗な装飾が施された王宮の外壁にて
はめ込まれる様に並び立つ魔水晶で造られた77体の巨像が
動き出す。
巨人のような77体のクリスタルゴーレム『77の守護者』が
出揃うと左手に王笏、右手に剣を持った聖王ルハン三世は
王宮のバルコニーに現れて迫る魔王軍に対する戦いを始めた。
他に誰もいない。聖王ただ1人。
諌める者も居ない今、変装して城下町に遊びに行っていた少年時代
以来の啖呵を切る聖王。
『聖王国ナメてんじゃねえぞ!!ゴルアァァ!!手前ら全員
ブチ殺してやらあぁぁぁ!!!』
………こうして古い歴史を誇る聖王都最後の戦いの火蓋は切って落とされた。
……
…
東部国境の砦ガルナス
聖女アスアと共に転移で大地に降り立った天才魔術師ラニア。
ここはガルナス砦の正面である。
予め魔道通信で予告しておいたので正門は開かれていた。
『……?』
『どうかしたのアスア?』
2人だけの時は砕けた態度で接している彼女達。歳も近く
性格もよく分っているラニアが聖女が足を止め落ち着かない
様子でキョロキョロする事に違和感を覚え訊いたのだった。
『ええ、何か妙な感じが……直感以上の確信未満な感じで胸騒ぎが…』
『相変わらず例えが独特ね。でも無視できない感じか。ちょっと飛行魔法で
周囲を確認して見ようかな?』
『其処まで大袈裟にしなくても宜しくてよ?』
『そう?けど…ああもう!バーサーン婆の嫌味が聞こえてきそう!』
実力ある魔術師が集う魔術協会の会合などで顔を合わせる度に
派手な魔法ばかり追求しないで探知系や情報伝達系の呪文を修める
よう魔術師ギルドの最高導師バーサーンからアドバイスされしまい、
いつも最後はギルドへの加盟の誘いを呼びかけられていた。
『こんな時に探知系の呪文が使えたら良かった……』
『そういえば何故ラニアは魔術師ギルドに参加しないの?』
『あそこは自分の研究にしか興味無い奇人変人の巣窟だからよ。あそこを
纏めるのにバーサーン婆らの数少ない真面目な幹部が規約を作り一生懸命に
統率している。ギルドを維持するのに規約が必要な事は私も認めてるの。
じゃなきゃギルドは間違いなくバラッバラになるわ。でもその規約がある限り
私は加入しない。私は私の魔法を世の役に立てたいのよ。』
そんな事を話しながらラニアは防御シールドの呪文を唱え
自身とアスアを防護する。
『とりあえず割りと強力な防御シールド張ったから。まあ味方の砦に
入るのに大袈裟かもしれないけどね。さて、ここに立っていても話は
進まないわ。行きましょう。』
『そうですね。多分むこうでは歓迎式典の用意をされているでしょうし
急いだ方が宜しいでしょう。』
伝統と典礼こそが聖王国の有り様だ。王族であるアスアが訪れるよりだいぶ早く、
聖王の決定が下った直後に魔道通信が送られたのは法に定められた歓迎式典を
行わせる為であった。
むろん非常事態なので簡略した式典で良い事は通達している。
2人は意を決してガルナス砦に入った。正門を抜けると其処は主郭を守る
曲輪となっており天幕を張って多数の兵を駐屯させるため広い面積が
取られている。そこには主郭へと続く連絡路に沿って騎士達が整列していた。
だが他に式典らしい準備が出来ていない。
訝しく思っていると主郭の方から2名の騎士を伴った隊長が
小走りでやって来て二人に最敬礼し、アスアが何か尋ねる前に
報告を始めた。その姿に何故か再び違和感を感じるアスア。
だが報告の内容はそれどころではなかった。
『非常事態です。王太子カリオス殿下の軍が待ち伏せからの奇襲を受け
壊滅いたしました。混戦の中でカリオス殿下の首級が上げられたとの
不確定情報が届いています。』
『な、なな、何ですって?!』
『次にクラリッサ殿下が率いる軍と民衆がやはり待ち伏せされ毒沼の罠により
壊滅。毒沼に捕らわれた民衆を救うために毒沼に入ったクラリッサ殿下は
現在消息不明です。』
『?!!』
表情も変えず淡々と報告する隊長にラニアは鋭い目を向ける。
『そして王妃殿下達が使用する転移門への工作が成功し王族や廷臣は
大アルガン帝国ではなく魔王軍の拠点にある処刑場へ直送されました。次に……』
シュバンンンン!!!
その瞬間、ラニアの指先から烈光が迸り隊長に命中し貫いた!
ラニアの放った光属性の攻撃呪文ブレイズ・ジャベリンを受け
隊長の姿はおぞましい死霊騎士アンデッドナイトに変わる。
姿が変わっても死霊騎士は隊長姿と同じ姿勢で報告を続けた。
『聖都アスカニアでは意外と聖王は持ち堪えていますが風前の灯。
あとは最後の王族の生き残りであるアスア姫、貴女の首級を挙げれば
大魔王陛下の勝利となるのです。』
言った瞬間、隊長だったアンデッドナイトは消滅した。聖女アスアが
浄化の力を使ったからだ。周囲の騎士のうちアンデッドナイトが化けて
いる奴も同時に消滅したが変身モンスターのドッペル・ミュータントが
化けている大多数の騎士は正体を現し浄化に倒れる事無く咆哮を上げて
攻撃態勢を取った。
応戦する構えのアスアとラニアの背後から枯れ果てた男性の声がする。
『目前の相手が正体を現すまでアンデッドと気が付かない聖女。そして
緊急避難でありながら歓迎式典の為に事前情報を垂れ流す軍部。これほど
戦う事に堕落した軟弱国家が大国だと?片腹が痛いとはこの事だ。』
驚いて振り向く二人。そこに居たのは背後の出口を塞ぐように立っている
漆黒の鎧の男。強烈なオーラは死と破壊の意思に満ち、魔獣を模した
兜の下に果てしなく年老いた男の顔が見て取れた。
男が現れた瞬間から砦全域に転移阻害がかけられたと悟るラニア。
(それほど上等な転移阻害じゃない。力ずくで転移は可能…でも無詠唱じゃ
流石に無理かぁ。戦いつつ隙を覗わないと…)
『俺は魔王軍四天王の武を司る『武闘公』インプルスコーニ。貴様達が
この世で見る最後の男だ。』
武闘公インプルスコーニはヌラッと長剣を抜いた。その長剣は刃身も
鍔も柄も全て黒く血管のような赤黒い網目模様が走っている。何より
異様なのは抜いた瞬間から刃身から無数の黒い稲妻が迸っている事だった。
『俺は堕落した戦いはしない。どんな相手でも全力で行く。ましてや
聖女ともなればこの『闇剣ヴァイイ』を使い確実に葬る必要があるだろう。』
(魔王軍四天王!!これは…転移の呪文詠唱をする隙を見つけるのは無理ね…)
そう考えながらラニアは戦う姿勢で身構える。圧倒的な攻撃魔法の達人で
ソロで多くの魔物を倒して来た自信があり前衛無しでも目前の敵に対抗出来る
…………と、その瞬間までラニアは考えていた。
ヒュッ……
『え?』
一瞬でインプルスコーニが目前に現れ、ラニアの認識が追いついた時はその首に
風の速さで横薙ぎに振られた闇剣が当たる直前だった!!
ガキイィィィン!
ラニアに迫った死の運命を刹那の差で割り込んだ青い光が受け止めた。
ほぼ真上、太陽を背に神速で降下した者が光り輝く剣で武闘公の闇剣を
食い止めたのだ。もし一瞬でも遅れていたらラニアと隣に並んでいた
アスア王女は同時に首を失っていただろう。
武闘公インプルスコーニの攻撃を光の剣で止めたコバルトブルーの髪の
若者に後方からの警告が届いた。
『気を付けよゼファー!!そ奴は魔王軍の大幹部、四天王の1人
インプルスコーニじゃ!』
叫んだのは直前までゼファーを乗せていたミスリルドラゴンだ。
ドラゴンは一瞬でアダマンタイトの鎧を装備した少女に変わり
ラニアとアスアを背後から襲おうとしていたドッペルミュータントを
飛び蹴りで吹き飛ばす。
その言葉を聞き、ゼファーと武闘公インプルスコーニは同時に相手へと
向き直り恐ろしい殺気を放って剣を構えた。
前髪の一房だけが水色なコバルトブルーの髪、不退転の決意で剣を構える
ゼファーは荒削りだが隙は無い。それを見て取ったインプルスコーニが
弱い生物ならそれだけで絶命しかねない殺気を放ちつつ問いかけた。
『ゼファー…なるほど、確かに只の小僧では無い……貴様が勇者ゼファーか。』
『大魔王の走狗め!貴様と交わす言葉は無い!』
ゼファーは真正面からインプルスコーニを睨んだかと思うと
躊躇無く大技『勇の聖撃』を撃ち放つ!!
『ぬるいわ小僧!!武技、瞬斬七閃!!』
後から、それも武技名を発しながらゼファーと同等以上の速さで
技を繰り出すインプルスコーニ。どちらも高威力の多段攻撃で
聖光剣ディンギルと闇剣ヴァイイが激突するたびに爆発のような
衝撃と轟音が発せられ周囲を圧倒した。
(これは…超常の戦いだわ……)
自身も天才魔術師と呼ばれ一人で高ランクの魔物を倒して来たラニアですら
初めて目にするレベルの戦い。神速で繰り出される即死級攻撃の応酬。
アスアとラニアが息を呑んで見守る事しか出来ないというのに
あろう事かゼファーに発破をかける者がいた。
『出し惜しみするでないぞゼファー!奥義を放てぃ!!』
少女のような姿になったミスリルドラゴンのルコアだった。
その声はゼファーに届いているようだがその表情に僅かな逡巡が
見て取れた。そこにルコアの叱咤が飛ぶ。
『ワシと共に聖光剣を獲得出来たお前じゃ!ぶっつけ本番でもやれる!
ここで四天王を倒せぬでは大魔王征伐なぞ夢のまた夢よ!!』
ゼファーの瞳に一瞬だけ決意の光が宿り、そのまま裂帛の気合いを上げた!
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
とてつもない力の高まりと可能性を信じる勇気を振り絞り、ゼファーは
全ての邪悪に対し必ず先手を取り撃滅するという奥義『福音の聖撃』を
見事に発動させてインプルスコーニへと放った!
音も無く走る青い閃光!その剣閃は例えようも無く美しく速い。だが……
『笑止。』
!!!キーン!!!
澄んだ音が一つ。その後にインプルスコーニの気合が轟いた。
『絶技!!闇刻一閃!!』
武闘公たる者が奥義を使われるのを指を咥えて見ている筈が無い。
奥義には奥義。インプルスコーニは切り札の大技『闇刻一閃』を
同時に放ったのだ!!
激突する二つの奥義。
『必ず先手を取れる』技と『0時間で攻撃を終える先の先』な技が
同時ならどうなるか?答えは……
バッキイィィィィィン!!!
どちらも上回れず正面からぶつかり、邪悪を撃滅する力に耐え切れず
闇剣ヴァイイが真っ二つに切断された。
『うぬっ!』
『ぐああああ?!』
軍配は聖光剣に上がったが聖光剣ディンギルは暴走したように
猛烈に光り輝き始め奥義を放って疲れ始めたゼファーから更に
活力を奪って行く。
奥義の衝突は闇剣を折ったが聖光剣もまた無事では済まされなかったのだ。
聖光剣ディンギルは力の制御を失った。抜いている時は常に全力フルパワーで
『手加減無用』状態となってしまった。使いこなすには更なる修練と能力向上が
必要だろう。
疲労困憊になりながら立ち上がったゼファー。その鉄の意志に反応し
刃身が見えにくいほど輝き始めた聖光剣を構える。
だがインプルスコーニは大きく飛び退いて距離を取り、折れた闇剣と
老いて枯れ木のようになっている自分の手を交互に見て呟いた。
『剣もまともに扱えず失う失態。もはやこの老い衰えた肉体は限界だな……』
『?!逃げるつもりかインプルスコーニ!』
『ああ、そうさせてもらう。勝ち目の薄い勝負に固執するのも堕落した戦い方
だからな。勇者よ、次に会う時には必ずその命を貰い受ける。覚悟しておけ。』
『待て!』
ゼファーが疲労で重い身体を押して追い討ちをかけるも
武闘公インプルスコーニは悠然と虚空に消えた。
『くっ!!』
悔しさを滲ませながら虚空を見つめるゼファー。
もはやその場に何も無い。
小さく頭を振り聖光剣を鞘に納め脱力する彼に意を決した声が問いかける。
『あの……貴方が勇者ゼファーで間違いないのですか?』
横から声を掛けられゼファーが振り向くと聖女アスアが
瞳に涙をたたえて尋ねかけてきた。
『はい。間違いなく僕がゼ……』
バキイィィィ!!!!
言いかけた瞬間、ゼファーの顔面にアスア渾身の右ストレートが
炸裂する。
『何故ですの?』
すかさずアスアは左フックを叩き込む。しっかり腰の入った
ハンマーフックだ。
『何故アスカニアに助けに来てくれなかったの?何故陛下を
救ってくれなかったの?何故王妃殿下を救ってくれなかったの?
何故兄殿下を救ってくれなかったの?何故姉殿下を救ってくれ
なかったの?何故弟を救ってくれなかったの?何故妹を救って
くれなかったの?何故聖王家を救ってくれなかったの?何故
臣民を救ってくれなかったの?何故騎士達を救ってくれなかったの?』
取り乱したように泣き叫びながらアスアは的確に
カミソリのようなワンツーパンチをゼファーに
叩き込んでいく。ボコボコにされるゼファー、だが
彼は一切の抗弁と抵抗を行わなかった。
『何故!どうして聖王国を救ってくれなかったの?貴方が!!勇者が!!
最初から大魔王の侵略に立ち向かってくれたら皆皆死ぬ事は無かった!!
聖王国ヤーンは滅亡しなかったああああ!!』
『簡単な話じゃ。ワシがゼファーを止めていた。』
パシッ!
ザコ敵を全て片付け終えたミスリルドラゴンの少女がアスアの拳を
掌で止め、噛んで含めるように語った。
『ゼファーの騎竜をしておるルコアじゃ。あのなヤーンの聖女よ、
ゼファーが聖光剣を獲得したのは半日前で奥義を失敗せず発動した
のは此度が初めてじゃ。それでも魔王軍四天王と引き分けるのが
せいぜい。今でさえ大魔王クィラと戦えば100パーセント負ける。』
『……っ…』
『もし最初からゼファーが強力な配下を抱えた大魔王に挑んだら
あっさりとゼファーは死に世界から希望の灯火は消えたじゃろう。
じゃからワシが止めた。憎むならワシじゃ。』
俯いて押し黙るアスア。重い沈黙を破ったのは炎髪の魔女ラニアだ。
『ねえアスア、まだ聖王国も聖王家も滅んでいないわ。…貴女がいるじゃない。
今なすべきは過去を嘆く事じゃない。大魔王を滅ぼし聖王国ヤーンを再興して
未来を勝ち取る事よ。』
そう言ってアスアに微笑みかけるとラニアはゼファーとルコアに
問いかける。
『聖光剣を獲得し奥義を会得した……後は大魔王の配下に対抗出来る
強い仲間が得られれば反撃開始って事で間違ってない?』
『うむ、反撃の足掛かりは得た。ここから更に力を付け仲間を求めつつ
戦いを進めていくつもりじゃ。』
『それじゃ私達はどう?』
その言葉に俯いていたアスアが驚いて顔を上げた。そして自分も含めて
何を勝手に仲間になろうとしているのかと問おうとする。だが先に口を
開いたのはラニアの方だった。
『人任せにして祖国が取り戻されるまで待つなんてナンセンスよ?少なくとも
私は勇者が大魔王を倒し平和を取り戻すまで祈って待つなんて責任の押し付け
はしたくない。アスア、私達には人より優れた力があるわ。それを今使わないで
何時使うつもりなの?』
『………。』
それはアスアも分っている事だ。何も言い返せずにいるとゼファーが2人の
前に来る。明らかに武闘公から受けたのとは違うボコボコの顔面に真摯な
表情を浮かべたゼファーは深く頭を下げ、
『命の保証なんて出来ない危険な旅です。ですがそれでも心変わりが無いなら
どうか大魔王打倒に御二人の力を貸して下さい。お願いします。』
『ん、話はまとまったわね。私は魔術師のラニアよ。勇者ゼファー、魔王軍を
滅ぼすまで共に戦いましょう。よろしくね。』
『…………全面的に協力します。どうぞよしなに。』
勇者の要請にラニアが明朗に快諾し、アスアもバツの悪そうな表情ながらも
承諾して二人揃って頭を下げる。まだ頭を上げていないゼファーと3人で
お辞儀したまんまの所にふんぞり返ったミスリルドラゴンのルコアが締めた。
『これで決まりじゃな!3人とも力があろうとまだまだ未熟。戦いながら
精進を重ねていかねばならんぞ?まずはインプルスコーニら四天王の首を
取る事が目標じゃ!!』
人間形態での外見は一番幼く見えるルコアが腕組みしたまま言い放つ。
同時に頭を上げた3人は決意の表情でルコアに頷くのだった。
(それから……僕達は鍛錬しながら戦い続け、闘魔将共を倒し四天王と幾度も
相まみえながら彼らの邪悪な計画を潰し打ち倒そうとする奮闘の日々…だが……)
あれだけ苦戦した難敵インプルスコーニと聖王都を焼き尽くしたという超巨大魔獣
ゼルーガを撃破した存在の事を耳にした。その名は新勢力ガープ。インプルス
コーニと配下の魔王軍がガープによって容易く捻り潰されたと聞かされ驚愕した。
聞いた直後に遭遇したガープ戦闘部隊を率いる大幹部の闇大将軍の圧倒的実力を
実感し、時間の流れの異なる閉鎖空間『悠久の間』での修行をゼファーは決意
したのだった。
(そうだった…僕は……修行の………)
あやふやで、夢の中のように微睡んでいたゼファーの意識が徐々に覚醒し始める…
○ ○ ○ ○ ○
「ん……」
「気が付きましたね。身体に異常はありませんかゼファー?」
気を失っていたゼファーが目を覚ますと巫女姫と呼ばれるようになった
アスアが優しく微笑みかけてくる。
「…僕らも随分と馴染んだものだね。」
「はい?」
「いや、ちょうど初めて出会った頃の事を思い出してね。」
「ああ、なるほど。けれど馴染むのも当たり前ではありませんか?これまで
共に死線を掻い潜りずっと魔王軍と戦って来たのです。信頼関係を築かないと
とても生き残って来れません。」
「確かにね。…ありがとう、もう大丈夫だから。」
ゼファー上を見上げて応えた。頭上にかざされたゼファーの上半身くらいある
アスアの巨大な掌とその向こうの巨大な笑顔へと。
治癒の力を行使していた大きなアスアの掌が下がった。実はアスアが巨大化
した訳ではなくゼファーが魔法薬を飲んで小人のように小さくなっているのだ。
小さくなって体力や生命力を貧弱化させただけではない。ゼファーには更に
『疲労倍化』や『重力2倍』などのマイナスのバフがかけられている。その上で
手加減無しの実戦形式の鍛錬を続けているのだった。
むろん装備もオリハルコン・ドラゴンの鱗を使ったドラゴン・スケイルアーマー
ではなく簡素な布の服で武器も聖光剣ではなく小さな木剣だ。
最弱装備。だが英雄神ゼノスの指輪だけは装備のままだった。魔法薬で
ゼファーの身体だけが縮小したのに指輪は同比率で小さくなりゼファーの
指に残り続けたのだ。極小となっても放つ力の波動の大きさは変わっていない。
しがみ付くような指輪をチラッと見てからゼファーは立ち上がりアスアに訊いた。
「僕はどのくらい気絶していたのかな?」
「ほんの僅か。たぶん10数える程も無かったわ。」
傍らで見守っていた炎髪姫と呼ばれるようになっていたラニアが応える。
「それだけ?随分と長い夢を見ていた気がする。」
ラニアが空間収蔵から出した冷えた果実水を小さなゼファーが受け取って
いると弱弱しい抗議の声が届いた。
「かすり傷のゼファーを癒すより先にワシを助けんかい!!もう死にそうじゃ…」
ボロボロのミスリルドラゴン姿のルコアである。ツノは折れ翼もズタボロで
全身怪我だらけで前脚など曲がっては駄目な方に曲がり彼女は虫の息だった。
第三者が見れば信じられないであろう。強大なドラゴンを小人になった少年が
半殺しにしたのである。
ドラゴン姿のルコアと現在のゼファーの体格差は圧倒的。その上に様々な
ハンデを負い技とスキルだけを駆使して戦うしかないゼファーとの実戦式
の修練。修行開始の頃はゼファーが半殺しになっていたが最近ではルコアの
連戦連敗である。
ゼファーは強くなった。殺すつもりで戦っているルコアの技も磨きがかかり
ラニアとアスアも真面目に修行に取り組んでいる。『悠久の間』空間に入った
当初に比べ実力は爆上げしたが彼らは時間が許す限り続けるつもりだった。
なにせゼファー達はあの闇大将軍という存在を見たのだから。
ふいに、
全員が顔を上げ何かに気が付く。
「?!空間の歪み?」
「落ち着くのじゃラニア。今日がちょうど定期連絡の日じゃろう?」
そう、今日は5日に1度、中の空間では五ヶ月に1度の定期連絡の日である。
当初は勇者不在が原因での危機的状況発生を危惧し『悠久の間』での修行を
躊躇っていたゼファー。新勢力ガープの出現で方針転換したが外の情勢を
定時連絡で知る事が出来るようにしていた。重大な事態に対応する為に。
そして重大な事態がやって来た。
「新勢力ガープと闇大将軍が魔王軍と激突し破れたじゃと?!」
空間内を訪れた神聖ゼノス教会から派遣されたタイカ神官が
挨拶もそこそこに報告した情勢に目をむいて応えるルコア。
「まさか魔王軍は無傷で勝利したなどとは言うまいな?」
「まさか。ガープ侵攻部隊の攻撃は熾烈を極め魔王軍は壊滅寸前の
大損害を蒙り、魔王の領域の重要拠点の多くが文字通り消滅した模様。」
「……ううむ。」
「大魔王クィラは親衛軍ら最後に残った魔王軍精鋭を編成し、ガープ残存戦力と
それに結託する魔術師ギルドとの決戦のため進軍を開始、現在はギルド本部
のあるラースラン王国で大魔王率いる魔王軍とガープ残存戦力との決戦が
行われている状況との事。」
「大魔王自身が出陣しているのか?!」
「然り。ガープ残存戦力の反撃もまた凄まじく四天王らも次々と倒れ
大魔王はろくな護衛も無く最前線に立っている。勇者ゼファーよ、
今こそ大魔王クィラと直接対決する千載一遇の好機なり!」
その時、タイカ神官に聖女アスアが問いかける。
「大損害と言われましたが魔王の領域と呼ばれている我が祖国ヤーンは
どうなっているのでしょうか?まさかガープの攻撃で一面の廃墟に……」
「案ずる事は無い聖女よ。幸いな事に冷酷なガープは魔王軍部隊が集中する
戦略地を合理的に集中攻撃し、ほぼ魔王軍だけが甚大な被害を蒙った。そして
密かに活動していた聖王国騎士団の生き残りが武装蜂起し弱体化した魔王軍
留守居部隊を相手に祖国奪還の戦いを開始したのだ。」
「まあ!まあ!!それでは私達が大魔王と魔王軍主力を倒せば……」
「世界平和が達成されると同時に聖王国ヤーンは再興するであろう。」
アスアは勢いよく振り向いてゼファーに熱い瞳を向ける。それにゼファーは
力強く頷いて応えて、
「行こう。大魔王クィラを討って世界に安寧をもたらす為に。」
その瞬間
ゼファーの指に嵌った小さな指輪が一瞬だけ怪しく輝いたが
誰にも気付かれる事は無かった……
次回の投稿は9月26日になります。
次回以降は完結まで毎日投稿する予定になっています。




