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61 古代魔法帝国の超兵器

遅れましてすみません。


先日、胃腸風邪を患いまして体調を崩しました。更に突然の発熱だったので

別の病気を疑われ仕事を一日潰して病院で色々と検査。抗原検査での結果は

陰性で一安心。


同居する親族からユリの花を鼻に押し付けられ匂いがわかるかとか言われ

てんやわんやしましたが何とか復調いたしました。後はズレたペースを戻さないと…




光沢ある黒い金属で出来た、まるで暗黒の要塞のような

ガープ前進基地中央の巨大建造物の直上に出現した輝く

巨大な魔方陣。





「これは…まさに神話のような戦いが始まろうとしているのか…」



最前線より少し後方の陣で手勢と共に見ていたバーマ共同軍の

アッディーン公子は呟いた。勇者と魔王が争う伝説の時代に自身

が生きている事を実感しつつ未知の戦いへと突入する事への畏怖

を感じていた。


(オトメス殿下ならどう判断されるのか…)



隣に陣を張るクー・アメル朝軍を率いるオトメス妃に助言を

聞きに行きたくなる衝動に駆られたアッディーン。



斜陽の国家、いや普通ならとっくに滅亡していても可笑しくなかった

クー・アメル朝を国王ハヌビス三世に替わって陣頭指揮を取り、国を

蘇らせた立役者のオトメス妃は一世の軍事の天才として知られる。その

手腕は卓越した軍事指揮能力に政略的な知見をも備えクー・アメル朝を

昔のように栄える一等国に押し上げるだろうと目されていた。




アッディーン公子は連合内の地位として近い位置にある彼女に何度か

質問した事があった。


『何故、大軍議の時に発言されなかったのですか?』


『ペピート将軍閣下の作戦案もその後に出た修正案も見事でした。私は

ロガー獣人族連合に彼が居る限り何があっても決して敵対しないでしょう。』


『私などはガープ侵略基地を完全包囲して一斉攻撃に出るべきだと思った

のですが…』


『まず、これは和睦などありえぬ聖戦。完全包囲して武威を示し開城を迫る

交渉などありえません。また敵基地は死角や隙の無い全方位対応が可能な

城塞で一斉攻撃すれば戦力の低い我ら小国が次々と脱落し包囲網に穴が開き

戦闘が長期化する恐れがあります。重点集中は理に適っていますわ。』



その後の配置要請にて戦略予備とされたバーマ共同軍とクー・アメル朝軍。

楽観的な気分になったアッディーンに比べオトメス妃は厳しい表情をしていた。


『如何なされました?』


『…場合によっては我等は死地に立つ覚悟をせねばなりませぬ。』


『死地?!明らかな後方配置ですが?』


『もしガープの本拠地から敵の援軍が来襲してきた時は我等が対応せねば

なりません。味方が方向転換し来襲する新手に戦いを挑むまで時間を稼ぐ。

その相手は20万の軍勢と戦える戦力を準備しているに違いありませぬ。』


『ああぁ…』


『私の方で幾つか対応策を講じようと思います。その際は御協力をお願い

出来ますか?』


『むろんです。よろしくお願いします。』


その後、いよいよ開戦間際となり互いに自軍陣地に赴くのだがその最後の

会話でオトメス妃は意味深な言葉を告げていたのがアッディーン公子の心に

引っ掛かっていた…


『我が国で狼藉を働いていた自称ガープ軍は無秩序で魔王軍の斥候隊と

変わらぬ存在でした。彼等と今対峙している新勢力ガープとではあまりに

行動原理やドグマが違い過ぎます。いま現在の戦いには直接関係は無い

ですが今後を考える上で留意する必要があるでしょう。』




(あんまりそこ留意したら…我々がこの戦場に居る事自体が間違いじゃ…)




物思いに耽るアッディーンの姿が突然のフラッシュ閃光に包まれた。

彼だけでなくこの戦場全てが閃光と轟音に包まれる。



ドオオオオオオオオオオオオン!!!



ついに古代魔法兵器の攻撃が開始されたのだ。




天空の古代兵器の魔方陣から紫電が走り広大なガープの城塞全てを

包む無数のサンダーボルトが降り注いだ。其れはまさに雷神の断罪

とも言うべき圧倒的な雷撃であった。



ドオオオン!! ドオオオン!! ドオオオン!! ドオオオン!!


巨大な魔方陣から途切れる事無く雷撃の奔流が降り注ぐ。


攻撃呪文でも雷撃は強力でよく知られ使われる属性だが古代魔法兵器

『トニトル・エグゼキュラ』によって発動し撃ち放たれる落雷攻撃は

空前の規模で個人の呪文のソレとは桁違いの大雷撃であった。


ミスリルドラゴンの電光ブレスを凌駕するエネルギーの稲妻が同時に百発以上が

途切れる事無く撃ち込まれ続けガープ侵略基地を攻め立てる。響き続ける轟音は

先の大爆発に引けをとらずフラッシュする落雷の閃光はまるで墜落した太陽の

ごとき有様だ。


「クハハハハハハ!!見たか魔力無き蛮族共よ!魔力障壁すら満足に張れない

貴様等はそのように直接わが神雷の猛襲に打ちのめされるしかないのだ!!

トニトル・エグゼキュラの雷撃は魔力で生み出されはするが雷自体は自然と

変わらんぞ?魔力の影響を受けぬ貴様等とて逃れられぬわガープ共め!!!」



緑玉の賢人パオロはトニトル・エグゼキュラを操作しながらガープを嘲笑し

その凄まじい光景を見た聖戦連合軍から喚声が上がる。だが、この状況を

冷静な視点で見る者達からは別の捉え方をされていた…


クー・アメル朝軍陣地


異国情緒漂う佇まいに控えめな香油の香りを放つ端正な女性、クー・アメル軍を

率いるオトメス妃は前方を見つめたまま傍らの武人に下命する。


「ラー将軍。今後の行動計画を全面的に変更いたします。『大鷲の鉤爪』から

『雌鹿の俊足』へ移行して下さい。」


「何ですと?!」


実用的な鎧を着た実直そうな武人、ラー将軍が聞き返す。もちろん暗号が

分からないのではなく内容に驚愕してである。


「トンズラする準備を早急に。周囲の友軍に不審を持たれないよう攻勢に

備え陣地の配置転換を行うと他軍に伝令を出して置いてください。」


言葉を取り繕わないオトメス妃にラー将軍は素直に指示を実行していく。

命令伝達に一段落が付いてから将軍は妃に尋ねた。



「妃殿下、いかなる理由での判断か教示して頂けますか?私の目には

敗色が不明に思われますが……」


「あれを見て敗色不明?よく御覧なされませ。五大賢者の猛攻はガープ基地に

何の痛打も与えていません。ゼノス聖堂騎士団に対するガープの攻撃も継続

しています。敵に動揺は見られない……。おそらく先の大爆発の罠が不発に

終わる事も折込済みなのでしょう。間違い無くここからが本物・・のガープの

本番です。ここに残っても勝算を立てるのが困難を極める上に旨味が少ない。」


「そ、それでは奴等は本気ではなかったと?」


「もし本気だったら目と鼻の先にある交易都市メザークに連合軍が集結した

段階で先制攻撃を加えて来た事でしょう。とにかくこの場は生き残る。その後に

水面下でガープと関係の深いラースラン王国を通じて彼等と接触を図りますわ。

ラー将軍、確か貴方はラースランのアガット将軍と旧知の仲でしたわね?」


「は、はあぁ……」


言われてよく見れば確かに凄まじいサンダーボルトの猛連射を受けなら

ガープ基地は何も損傷を受けず悠然と屹立していた。ラー将軍の背筋に

冷たいものが流れる。やはり今まで通りオトメス妃の指示を忠実にこな

して行こう心に決めたのだった。






一方のガープ前進基地司令部


外部との行き来きがし易い迎賓館を兼ねたタワー最上部の展望司令室

ではなく、実戦時に開設される地下壕司令室『狼の巣穴』の中央に

座す闇大将軍が各種報告を受けながら呟いた。



「凄えエネルギー量だな。よくあれだけ電撃が放てるもんだなぁ。

先進国の首都圏を賄える電力供給力を超えてねえか?」


「真上の魔方陣から放たれる稲妻は10億ボルト級で数は100発前後。

それが毎秒17回ずつ継続して我が基地を雷撃しています。機器計測で

既に40220回の落雷を観測。現在進行形で増加しています。」


「んで、被害は?」


「過負荷と思われる原因で避雷針3本が破損。避雷針のリカバーから外れた

落雷により堡塁の15箇所に損傷。うち3発が銃撃陣地のコンクリート天蓋を

貫いて陣地を破壊し50ミリ自動擲弾銃2基と12.7ミリ重機関銃1基が破壊

されました。」


「思ったより威力あるな。堡塁のコンクリートは厚さ3000ミリ、陣地の

天蓋も500ミリはあったはずだが…」


流石に闇大将軍は中央のメイン・ガープタワーについての損害は聞かない。

もし落雷があったとしても宇宙や亜空間を飛ぶ時空戦闘機ハイドルの装甲と

同じ製法で作られ電磁フィールドで守っている中央タワー部が普通の落雷で

損傷を受ける事は無いと知っているからである。



「3基破損って事は稼動してる避雷針は後125本か。どうだ持ちそうか?」


「問題ありません。避雷針でのリカバー範囲への影響は5%前後。あと雷サージ

対策も正常に稼動しており現状程度の自然落雷なら長時間持ち堪える事は可能。」


「ま、そうなるわな。魔力を含まないとはいえ普通の落雷を数を集中しても

中世建築ならともかく災害対策バッチリの最新建築を陥落させるのは無理って

もんさ。それより緑賢者パオロのロックオンは済んでいるな?」


「はい。狙撃致しますか?」


「まだだ。奴だけ仕留めても赤や黄色に逃げられる可能性がある。一度

姿を現して古代兵器を使った以上、戦果も無しに逃げればその権威は

地に落ちる。落ち着いてこの地にいる賢者全員が姿を出すまで待て。」


その時、基地上空の巨大魔方陣が一際強く輝いたかと思うと全ての雷が集束した

ような巨大稲妻が中央へと撃ち放たれる。


カッ!! ドドドオオオオオオォォォンンン!!


ガープ中央タワーに最大雷撃を加えた後に巨大な魔方陣は幻影のように

揺らいで消滅した。


「打ち止めか。魔法でも無尽蔵にエネルギーを生み出せはしないんだな。

古代魔法文明とやらでも永久機関とかは夢っぽいらしい。」


「そんなもん存在しとったら回りくどい事せんで連中は世界を簡単に

掌中へ収めてますがな。」


闇大将軍の揶揄に亀のような姿の怪人カノンタートルが応えた。

その間もオペレーター戦闘員から続々と報告が上がる。


「最後の大電撃により避雷針が2本過負荷でやられました。ですが

それ以外には被害の確認は取れません。」



だが、その後で緊迫の度合いが違う報告が上がり始め司令部では

一気に緊張の度合いが増す。



「!!!!レーダーに特大反応出現!!魔法的な手段による転移と

思われます!!」


「各種センサー反応でも確認!!幻影ではありません!!」


「あらゆる手段で対象の情報収集継続!!得たデータはガープ要塞の

量子スーパーコンピューターへ即転送だ。出せるなら映像を出せ。」


闇大将軍の指令で正面に映された対象の映像。それに飲まれ一瞬の

沈黙に包まれた司令部に不敵な笑みを浮かべる闇大将軍の声が響いた。


「どうやら俺達の出番のようだぜ。カノンタートル。」




ガープ前進基地から1100メートル地点の上空300メートル付近に

ソレは浮いていた。


一辺が100メートルある正四角錐、つまりピラミッド形の巨大構造物だ。

その正ピラミッドは無色透明の水晶のような素材で出来ているがこれほど

巨大である為に光を乱反射し透き通っては見えない。


 キーン……  キーン……


  キーン……  キーン……


透明ピラミッドはゆっくり右回転しながら硬質な音を規則正しく

発している。澄んだ鐘のような、しかしどこか深遠を感じさせる

恐ろしさを秘めた音色だ。


その正体とは何か。それはそのピラミッドの内部にいる者の哄笑を聞く事が

出来れば知る事が出来よう。


正ピラミッド構造体の中心部。直径5メートル縦8メートル程の円筒形の

空間。これほど巨大な構造物の中で人間が入れるスペースはこれだけだ。

定員1名。円筒の真上と真下には信じられないほど複雑な魔法陣が明滅し

円筒の中央に1人の人物が浮かんでいた。


五大賢者の一人、黄玉の賢人シスである。


「クククッ。もはや貴様らは終わりだぞ新勢力ガープ。この魔法帝国

グレイゼンベールの究極兵器『ニル・ピラムス』の起動に成功した以上

もはや我等に敗北は無いわ!!」


右手を差し出し見えない鍵盤を演奏するかのよう指を動かす賢人シス。

すると7色に輝く光点が規則正しく並び指が触れるたびに色が固定され

て行く。シスは少し表情を引き締め、


「だがまあ、超魔法文明の魔力ジェネレーターが使えん以上、魔力エネルギーの

再充填は出来ん。ガープの本拠地攻略、そしてゼノス教会が我等を裏切った時の

切り札として魔力エネルギーは温存せねば。ここで使えるのは精々2発といった

所だな。まあ後は地上の下人共に戦わせればいい。」



超魔法文明を支えた魔力ジェネレーター施設は現在は1つも残っていない。

現在の魔力充填の主流は魔石だが最高級の魔石でも魔力ジェネレーターと

比べれば乾電池と発電所くらいの違いがある。シスとしてもエネルギーの

使い方には慎重にならざる負えない。



どうやら言い終わると同時に右手の操作も終わったらしく、最後の指印を振ると

光点が全て紫色に統一された。



上空で回転を止めたピラミッド、究極兵器ニル・ピラムスの下部、4つの角が

紫色に光ったかと思うとその紫の光弾が真下に集束するように放たれた。


4つの紫光弾はちょうどピラミッドの頂点と同じ高さ分ほど下の位置で合体し

巨大な光弾と化してガープ基地中央の黒く輝く中央タワーへと撃ち放たれる。


何の音もしない。風圧も気配も無い幻想のような紫の光……


だがそれが命中した途端、音も無くガープ中央タワーの上部、約三分の二が

一瞬で消滅した!!


赤く輝くガープアイで聖戦連合軍を威圧していた漆黒の巨塔が一撃で消えたのだ。

それを認識し始めた兵士達の喚声は潮の如き勢いで上がる。


連合軍の希望に満ちた視線が集まる中、更に紫光弾が放たれ、連合軍から見て

正面右側、主攻撃軸と副攻撃軸の両方に射撃を加える位置の堡塁が根元を残して

消滅した。これで基地正面はガラ空きとなる。勢いに乗る聖戦連合軍。だが彼等

の足を止める存在が現れる。


いつの間にか基地の城門が開いており未知の武器を構え整列する黒衣の戦闘員と

先頭に立つ亀のような姿の凶悪な怪人が立ち塞がっていた。



「いっちょブチかますで。覚悟しいや。」


亀怪人カノンタートルは最大出力でプロトンビーム、反陽子砲の発射体制を取る。


突撃する寸前で動きを止めた聖戦連合軍の将兵が見守る中、カノンタートルが

青白く輝く極太のプロトンビームを究極兵器ニル・ピラムスに向け発射した!!


「愚か者め。」


黄玉の賢人シスは薄ら笑いを浮かべると軽く手を振りニル・ピラムスの機能を

立ち上げる。


防衛の機能を発現させた究極兵器ニル・ピラムスの正面に縦に並ぶ

二つの虹の輪が出現した。輪の内側は空間に開いた穴だ。


上の輪に吸い込まれるプロトンビーム。間髪を入れず下の輪から

プロトンビームが飛び出して来た!!よく見れば下の輪の向こう

の風景はニル・ピラミスの方角から見たこの場の光景だ。


「空間歪曲陣。いかなる攻撃でも外からニル・ピラムスを破壊する事は

叶わぬと知れ。人智を超えし超魔法文明に逆らった愚を噛み締めながら

消え去るがいい!!」


シスの叫びと殺意を上乗せしたかのような勢いで必殺のプロトンビームが

カノンタートルに向け真っ直ぐに戻って来た。


「あ、アカン!!」


撃ち出したビームを止める事はカノンタートル自身でも出来ない。

思わず叫び声を上げたカノンタートルと戦闘員部隊に迫る危機。


しかし彼等にプロトンビームが着弾する事は無かった。


強力なプロトンビームを遥かに凌駕する超強力なエネルギー渦動が

青白いビームを包み込み一瞬で握り潰し消滅させたのだ。



それを成して助けてくれた者に礼を言うカノンタートル。


「…助かりましたわ。闇大将軍はん……」


「助ける事が出来る者が助ける。当たり前の事だぜ。」


いつの間にかカノンタートルの隣に戦闘形態の闇大将軍が立っていた。


赤い一つ目に4本角、青黒く巨大な体躯に6本の触椀を翼のように背中から

生やした強力な怪物のような姿で右手を突き出し何か強大な技を使ったらしい

闇大将軍という存在に聖戦連合軍、そして五大賢者が注目する。あああ……、

奴だ。奴こそ新勢力ガープの支配者なのだと強く認識するのだった。


そんな視線なぞ意に介さず不敵な笑みを浮かべ究極兵器ニル・ピラムスを

見上げる闇大将軍。



「大魔王や勇者を相手する前にリハビリといくか。超魔法文明の兵器が

流石にリハビリ相手として不足って事は無いよな?」


突き出した腕を戻しながら闇大将軍は大胆不敵に言い放つのだった。






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