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60 開戦を告げる轟音





燦燦と輝く太陽が真上へと到達しようとしているハヴァロン平原。





新勢力ガープとそれを邪悪と断ずる聖戦連合軍との決戦の火蓋が

切られようとしていた。




威容を誇るガープ侵略基地を睨みゼノス聖堂騎士団は紫地の突撃旗を掲げ

抜刀したロングソードの切先を揃え槍の穂先を並べる。


大アルガン帝国軍も隊列を動かし攻撃態勢を取り、ラッパ手が巨大な巻貝を

加工した進軍ラッパを口に当てた。


ポラ連邦軍ではマスケット銃に弾丸を装填し、クレギオン公国軍は精鋭の

魔法騎士が愛馬に騎乗する。


そしてロガー獣人族連合軍の将兵が全員兜を被った。毛皮で蒸れるので獣人族

の戦士は不規則戦闘以外の時は決戦直前に兜を被るのが慣わしだ。


兎獣人のペピート将軍も長い耳を出す形状の専用兜を被り日時計に目を向ける。




同じ頃、日時計を気にかけている者たちが後方の秘匿陣地に待機していた。


「間もなく正午だ。勇気のポーションについてどうするか決めたか?」


最高レベルパーティー『君臨者』の斥候ニトゥがリーダーのエルドに問う。

『鑑識』の呪文でポーションを調べていたエルドはそっと息を吐き、


「物凄く高価な素材が使われた高級品です。いささか勿体無いですがこれは

飲むべきでしょう。流石に作戦の成否に関ります。」


効果を調べる『魔法鑑定』は学者系の魔術師が使うものでエルドは

不得意であった。また魔法鑑定は使われている術式を解析する物で

出た結果を分析し研究せねば正確な情報は得られない。


それよりエルドが得意とする鑑識呪文、つまり物品の詳細や価値を調べる魔法で

勇気のポーションに使われている原材料を調べたのだ。


結果、毒物などは無く希少で高価な素材をふんだんに使われた高級品である事が

判明し、服用するかガメて資産として懐に入れるか迷っていたのである。


「これを飲み勝利に邁進しましょう。成功すれば使い切れない富と栄光が

我らの手中に入ります。」


エルドは高価な葡萄酒のように勇気のポーションを掲げ一息に飲む。

周りの者達も乾杯するように一斉に飲んだ時、日時計が正午を指し示した。


各軍の本陣に設置された日時計も同時に戦いの時を刻む。




神聖ゼノス教会の大神官コロシアが在する天幕の前に聖旗が揚がり

聖戦連合軍と新勢力ガープの戦いの火蓋が切って落とされた。





まず動いたのは大アルガン帝国である。メルタボリー皇女が手を振る。


受けてゴーレム部隊を管理する魔道士官アンドロンがアイアンゴーレムを

起動させた。



全高3メートルの全身鎧の姿の鉄の塊。帝国のゴーレムは右手の掌は無く

手首から先が大剣となっている。左手首はスパイク付きの大盾だ。


身体は鉄で出来ているが大剣と大盾は鋼になっている。頭部である兜には

帝国軍騎士と同じツノ飾りが付いて悪魔のような印象を受ける4トンの巨体。


その1千体の鉄の悪魔達は指揮官の名を取ってアンドロン軍団と呼ばれ

最先頭に整列していた。そこに起動の魔法術式が発動されゴーレムの

頭部、兜の目が光り全アイアンゴーレムが起動した事を示す。



起動したアイアンゴーレムは重い地響きを立て一斉に前進を開始した。



ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!!

ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!!



歩調を合わせて前進するアイアンゴーレムは無類の威圧感を持って

ガープ侵略基地に迫ってゆく。








「正面の敵、前進を開始しました。生命反応無し。材質から鉄で出来た

ゴーレムと思われます。」


「おお、ファンタジーしてるな。」


「どうやら上手く罠を察知してくれましたな。一安心ですわ。」


複数のモニターが外部の映像を映し様々な情報を統合する

ガープ前進基地の管制ルーム。


闇大将軍が動き出したアイアンゴーレム隊の規模と動きを注視し

思惑通りに推移し始めた戦況に安堵していた。


「予定通りドでかい罠を派手に空振り・・・するぞ。アレを目の当たりに

したらマトモな指揮官なら慎重に動くはずだ。通常戦力には少し

下がってもらって五大賢者との直接対決に持ち込みたい所だが…」


「その五大賢者の所在がまだ掴めません。赤賢者ラーテ、緑賢者パオロと黄賢者

シスがこの戦いに介在しているのは確実なのですが…」


「公式には大神官の天幕に居る事になっとりますが、その天幕には大神官を含め

生命反応は無し。もぬけの殻ですわ。」


「なーに、例の超魔法文明の兵器を使う時に現れるさ。政治的な理由でな。」



余裕の表情を引き締め闇大将軍は何度目かの確認を行った。


「それより空振りする罠と連合軍の位置関係は計算通りか?もし罠が向こうに

当ってしまったら洒落にならんぞ?脅しが虐殺になったら本末転倒だ。」


「大丈夫かと。連合軍は用心深く距離を取っており罠の設置も計算通りですので

破壊力の95%は真上に向け放たれる予定です。」


「重畳、重畳。そのまま最後まで大人しくしていて欲しいが…」


「烈風参謀さんなら甘いと言うですやろな。」


「俺自身も甘い方針だと思うさ。けどな、技術的優位があり人命を救えるなら

救うべきだ。俺達はもう世界征服を企む暗黒結社じゃねえんだからさ。」


言いつつ闇大将軍は表情を締め、


「戦いである以上やるべき事はやる。敗北や失敗を甘受するつもりは無い。

…烈風参謀なら失敗の可能性を最初から摘むだろう。アイツは感情を押し殺して

真面目に容赦無くやる。例外無くやるんだ。その結果、敵にも自分にも余裕が

無くなる事を承知の上で。尊敬すべき頼れる参謀だよ。」


「やっぱりこの防衛作戦は…」


「俺が単独で立案した。まあ、ヘマしたら俺が身体を張って挽回するさ。」




その時オペレーター戦闘員からの報告が上がった。



「連合軍のゴーレム隊列、トラップラインに入りました!!」


「よおし、作戦開始!!分かりやすく合図・・してから窒素爆弾(N2爆弾)を

全弾起爆せよ!!それをもって作戦行動を開始、全部隊速やかに任務を

遂行せよ。」






ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!!

ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!! ズズン!!



鉄の巨兵の進軍を後方から見守る聖戦連合軍。固唾を呑んで見守っていた

彼等に動揺が走りどよめきが起こる。


「おおおっ!あれを見ろ!!」


「赤く光ってるぞ!!身を伏せろ!!」


ガープ基地の中枢にある全金属製の建造物にあるガープの紋章が眩いばかりに

赤く光り輝いた!それを受け連合軍の指揮官たちは部隊に防御体制を取らせる。




次の瞬間、全ての音が消えた。



一拍置いてアイアンゴーレム隊の足元の大地が爆ぜ飛び圧倒的な閃光と

強烈な衝撃波が周囲を襲う。



そして想像を絶する轟音を響かせこの世界の者では誰も見た事の無い超大爆発が

巻き起こった!!!



ゴゴゴゴガガガガガアアアアアアアアンンンン!!!




窒素爆弾(N2爆弾)


それは核兵器以上の爆発エネルギーを持つ科学爆弾である。

高濃縮ポリ窒素を主体とした爆弾なのだが破格の破壊力を

手にするのに破格のコストと維持管理が必須。つまり極めて

取り回しのよろしくない兵器なのだ。


まずガープの科学技術においてすらポリ窒素を安定した状態で

維持するのが大変でそれを数百倍に高濃縮した状態を保つには

稼動する亜空間制御システムを組み込む必要があった。


結果、維持管理にコストがかかり投射兵器に使うには信頼性に

リスクを抱える窒素爆弾は標準装備としては不合格となった。


メリットであるアホみたいに強烈な爆発力と放射能を出さない

クリーンさを生かす機会も考慮し少量生産は行われていた。



今回は規格で一番小型の窒素爆弾を3発、横一列に基地正面の平原に

埋設していた。爆弾は作業員が手作業で設置できる大きさなので手間

を取ったのは爆風の方向を上に向け連合軍に向かないよう地盤工事の

要領で掘った穴を加工して設置する方だった。


威力を発揮させる空中ではなく威力を削減する埋設で爆風のコントロール

工事を行う。埋めた小型窒素爆弾の威力は合計40キロトンに達し、あの

原子爆弾ファットマンの2倍に達する威力、つまり戦略核に匹敵する爆発を

コントロールする為の工事であった。



その大爆発に巻き込まれアイアンゴーレムは瞬時に塵となって消えた。

強烈な爆風の直撃は受けなかったが衝撃波だけで連合軍兵士の隊列は

吹き散らされ閃光で目を轟音で鼓膜を損傷する者が続出し治癒術士は

戦端が開かれて1分で大忙しである。


窒素爆弾の轟音と地響きは8.9km離れた交易都市メザークでも観測された。

地響きのエネルギーはマグニチュード1.9に達していたのだ。


爆発の規模に比して損害は軽微であった。だが聖戦連合側の心理に与えた

衝撃は決して小さくない。



「こ、これは…もし侵略基地正面から全軍で力攻めを敢行していたら

一撃で全滅させられていたのか。何という恐ろしい罠を仕掛けていた

というのだ新勢力ガープ……」


爆煙と舞い上がった土埃が薄らぎガープアイを光らせた巨大建造物が

姿を現すとそれを睨みながらポラ連邦軍のボロザーキン将軍は呻く。


だが衝撃を受け動けない彼を尻目にナグルガスキー大佐と彼が指揮する

親衛第7旅団は進撃体制を整え動こうとするのに驚愕した。


「あれを見て直ぐ動くだと?!奴め思った以上にイノシシ武者だったか?」


同様の事は大アルガン帝国軍陣営でも起こっていた。


凄まじい大爆発にあのザン・クオーク選帝侯の貌から笑顔が消えていた。

その選帝侯の耳にメルタボリー皇女の号令が聞こえる。


「皆、出陣の時じゃ。あれほどの罠が幾つも用意されているなどありえんわ!!

つまり敵の切り札の1つが消えたのじゃ!!今こそ攻め時ぞ!」



ニマアァァ…


笑顔を取り戻したザン・クオーク選帝侯が囁き声で賛辞を送る。


「流石は皇女殿下。実に見事な勇気にございます。」



全長500メートル弱、幅100メートル余りで深さは最深部で10メートル

未満。浅い位置に埋設されていた窒素爆弾が作ったクレーターである。


クレーター内部の勾配は緩く踏破に支障は無い。



衝撃から間髪入れず立ち直った主攻撃軸の主力隊は攻城戦を開始した。

先頭を行くのは全力突撃するゼノス聖堂騎士団5万5千。


大アルガン帝国軍がやや遅れて続き、いささか分裂気味のポラ連邦軍も

追随する。義勇軍や高レベル戦士たちは困惑したように隊列を維持して

いたが主力部隊に遅れながらノロノロと前進を開始した。






「思った以上に肝が据わった連中だな……何か妙な感じがする。」


「宗教戦争の側面があるからやないですか?」


「…そうかもな。しかし連中相手の前哨戦か。引き際の見極めが出来る指揮官が

居てほしいな。モーキンじゃねえが犠牲は少ない方がいい。」



厳しい表情のままカノンタートルとモニターを眺めていた闇大将軍は前進基地

各部の状況を示すディスプレイに目を向ける。それぞれの堡塁の防衛システム

は全てオールグリーン、戦闘態勢は整っていた。



実は堡塁には人員は配置していない。


各堡塁にある射撃陣地群にはそれぞれ12.7㎜重機関銃が36門と50ミリ

自動擲弾銃が24門、全て自動化されベルト給弾で無限に弾丸を装填され

ながらAI制御で自律射撃するべく設置されていた。


50ミリ自動擲弾銃とは1発が手榴弾なみの威力を持つグレネード弾を

機関銃のように連続発射で撃ちまくる兵器であり対歩兵火力は絶大である。


そして主郭には250㎜多連装ロケット弾が垂直発射式セル80基に収納され

何時でも発射可能な状態で待機している。このロケット弾も発射後すぐ再装填

される機構となっていた。


これらは全て簡易AIで制御され自律的に攻撃を行い戦闘員が引き金を引く

必要を無くして心理的負担を減らす仕組みを取っていた。


簡易AIにはデッドラインを設定しそれを超えて来た敵を攻撃しラインから後退

した敵への攻撃を停止するようプログラムされており特に後退する敵への追撃を

禁止し降伏の意思を示した相手への攻撃も即時停止するよう厳重に条件付けが

成されている。




そのガープ基地射撃陣地群と最初の戦火を交える事になったのは聖戦連合軍の

主力隊の先頭を走るゼノス聖堂騎士団であった。


「「「英雄神の栄光を!!!」」」


クレーターを乗り越え吼え声のような喚声を上げながら猛進する聖堂騎士団。

それは迅速な目標到達を企図したのではなく蛮勇による猪突猛進である事は

一目瞭然だった。


ガープ側の定めたデッドラインは基地から約500メートル付近にあり

ポラ連邦の甘い想定より前方であった。


デッドラインを踏み越えたゼノス聖堂騎士団に向けガープの自動射撃陣地から

即座に攻撃が開始された。機関銃弾とグレネード弾が雨あられと叩きつけられ

騎士団は攻撃衝力を失い急停止する。



ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!!


ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

ドガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!


ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!!

ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!! ドゥ!!!!


猛烈な射撃をもろに浴びて聖堂騎士団の隊列に鮮血の花が咲き乱れ

爆裂音が死の舞曲を奏で騎士たちをズタズタの肉片へと変えてゆく。


鋼鉄の鎧や盾は撃ち抜かれ騎馬突撃は馬ごと集中砲火の餌食となり

粉砕される。更に主郭から撃ち放たれた250㎜ロケット弾が大量の

クラスター爆弾を騎士団の頭上にばら撒き聖堂騎士団は爆炎に包まれた。


騎士たちが声の限り叫んでいる様子だが圧倒的な銃声や爆裂弾の音に

掻き消されその声が他者に届く事すらない地獄絵図。



流石に動きを止めはしたが損害を顧みずその場に踏み止まり物理防御の

魔力障壁を展開して難局を乗り切ろうと意図している聖堂騎士団。


凄まじい戦意だがその悲惨な姿に他の主攻撃軸の軍勢も動きを止めてしまう。

だが後退はしない。彼等の心の支えとして希望をもたらすと信じている相手、

それは……


「五大賢者の一人、緑賢人パオロが現れました!!」


ガープ側で発見した緑玉の賢人パオロはゼノス聖堂騎士団の右後方で

ぎりぎりガープの射程外の位置に出現した。


パオロは手に持っていた透明度の高い水晶のような物で作られた円盤を

盾のように翳し手を離す。


水晶の円盤は落下せず空中に留まり、パオロが韻を踏んで唱える古代語の

呪言に合わせて不気味な光を放ち始める。


「☆☆$$$★★$$$☆☆」


緑玉の賢人パオロは大きな身振りで手を振り払うと裂帛の気合で叫んだ。


「発動せよ!!トニトル・エグゼキュラ!!!」


パオロの言葉に同調して水晶の円盤の前方空間に直径2メートルの

光る魔方陣が出現する。


「おおおおおっ!!」


そして聖戦連合軍が見上げるガープ基地の上空に同じ模様の直径200メートル

ある巨大な魔方陣が下を向きガープ基地を指向する形で出現した!!




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