キス
朝、教室に入ってきたとき、男子の険悪な雰囲気にちょっと驚いた。
「どうしたの?」私は近くの女子に話しかける。
その女子は円ファンクラブ会員番号0023番である。
彼女は赤面してどもりながら答えた。
「そ、それが、ジャックさんを諫めようと男子が・・・・。」
「え?」
「いい加減に円さんに迷惑かけるのをよせと、男子のファンクラブの子が言って、でも聞き耳持たなくて。」
「・・・・。」相変わらずだなあ。あいつは。
「杉村君と勝負して負けたら、おとなしくするとか。」すぐ隣の女子が言った。
「え?」
唐突にかつての自分の名前が出たことになんで?って顔に出たかも知れない。
でも『杉村準』に『水沢円』のために戦う義理なんてない。
『雛崎志保』のためなら戦う義理があるだろうけど。
「分かった。」
自分でも意外なことに準が立ち上がった。
本当、我ながら意外だ。
単なる級友の関係でしかないはず。
ジャックは動きやすいように夏制服のシャツを脱ぐ。
・・・案の定、勝負は一方的なものだ。
ジャックの奴はここでも一応海兵隊式の訓練をやっていたらしい。
比べてかつての俺は素人だ。
勝負にならない。
「平和憲法で平和ボケした今のキミなら何度やってもボクが勝つよ。」
「なんの話だ?」準は殴られたほおを抑えて立ち上がった。
「キミは思い出してないだけだと思うんだけどね。未来じゃボクとキミは親友で有り戦友だったんだよ。
・・・そしてどうしても勝てないライバルだった。・・・・でもキミは対馬海戦で死んだ・・・・・・。」
ジャックは準を見下ろして言った。
「だから準、一刻も早くあの戦争に備えるべきだ。」
「訳の分からんこというな!!。」準はジャックに殴りかかるがひょいと躱して倒した。
「無理だよ。鬼中佐と呼ばれたキミならともかく。」
「そこまでだ!!ジャック!!」私は思わず叫んだ。
志保や他の女子もビックリしたようにこちらを見る。
「マドカ?」
「米海兵隊特殊部隊ピース副隊長ジャック・エレメス・ナカノ少佐。素人相手にやり過ぎだ。」
ジャックは顔色を変える。
本名と米軍におけるジャックの身分を正確に言い当てたからだ。
「今のそいつは何もしらねーぞ。なぜならお前が言うジュンスギムラ中佐の記憶や技術を引き継いでるのは、この、俺だからだ!」
・・・・・・・・・教室で言っちゃった。
てへ。
「・・・日系人ってこと?」志保は言う。
「ああ。こいつのひいじいさんが日本人だったらしい。第2次大戦じゃ日系人部隊としてヨーロッパで戦ったという話だ。」
私はジャックを見ながら志保の問いに答える。
「なんで・・・・マドカが・・・?」ジャックは真っ青になりながら言った。
「さあ。・・・・それこそ神の意志なのだろうな。」私は言った。
ジャックは視界から消えた。
「!!」
飛んできた拳をいなし、足を払い中に浮かせバランスを崩させる。
ハタから見れば男子生徒が女子生徒に殴りかかってるところだが、当事者の私は自然に笑みをこぼしていた。
「貴様も完全に引き継いでいないようだな。少佐。」
ジャックが倒れたところでとどめに腹に膝うちを馳走してやった。
「うがあ!!」ジャックはうめき声をあげる。
無慈悲なようだが、騒がせた制裁だ。
効いたらしくジャックはのたうち回っている。
「立て。女の力じゃそんなに効いているはずはあるまい?それともまだ、あのレベルまで鍛え上げてないのか?」
もっとも急所狙ったからしばらく立ち上がれないはずだが。
ちょっとスカートがゴミにまみれたので祓いながら言う。
「・・・・・・・・・鬼だな・・・。マドカ・・・・。」ジャックは涙目でニヤリと笑った。
「でもうれしいよ。あの記憶は本物だったんだな。」
「・・・・説明責任・・・・お前に取ってもらうぞ。」
ギャラリーを見回して、私はジャックを起こそうと手をさしのべる。
それが大きな間違いだった。
ジャックは急に私を引き寄せて、唇にキスしやがったのだ。
「ぬっ!?むっ!?」
しかもこいつ!!舌入れて来やがった!!
目覚めた存在に俺は気が付く。
彼女は俺で有り、俺は彼女だ。
「ジャックの事気に入ったのかい。円。」
「・・・・。」
「・・・そうか。その時が来たら俺の分身のキミにすべてを返そう。」
何か大事な事を一瞬考えてたが、私はジャックを引っぱたいていた。
なぜかポロポロと涙が溢れる。
「ジャ~~~~ック、貴様~~~~~!!」
自分でもすさまじい殺気がほとばしってるのを自覚した。
教室内は女子生徒の黄色い歓声と男子生徒(一部の女子生徒)の怨嗟でカオス化している。
でも・・・・・ああ、何てこった。『ワタシ』は嬉しいと思ってるのだ。




