第三話 クリスとエリのコンビ結成? 第五部 静かな朝の訪れ
前話の事件以来、絵里とクリスはすっかり友達になっていた。そんな中、絵里はある事件に巻き込まれる。クリスの助けを借りて、絵里は事件を解決できるのだろうか?
翌朝、ケイタを学校へ送り出したあと、絵里は朝刊の見出しに目が留まった。
そこには「名古屋市内の強盗犯が自首」と書かれていた。
記事には、一昨夜の事件の概要と、昨日犯人が自首したことが簡単に記されているだけだった。
絵里は「今夜も遅くなるかもしれないから外食するように」と書き置きを残し、いつものように出勤した。
店では、SNSで知ったという何人かのお客さんから事件のことを尋ねられたが、絵里も新聞以上のことは知らなかったし、それ以上の情報も本当に入っていなかった。
SNSでは興味本位の詮索で盛り上がっていたらしいが、店はすっかり平常に戻っていた。
夕方、ケイタに「今日は定時に帰れそうだから、外食しなくても大丈夫」という絵里からのラインが届いた。
ケイタが帰宅すると、絵里は夕食の用意をして待っていた。
貴志も一緒だったが、「一昨日絵里が巻き込まれた事件は、犯人の自首によりあっさり決着した」と少し話題になっただけで、それ以上の詮索はなかった。
事件も解決し、一昨日の出来事は過去のものになり、上条家にもいつもの日常が戻っていた。
その翌日から数日間、中日放送のワイドショーでは、その事件が面白おかしく取り上げられていた。
• 犯人はその店の元店長だった
• 元店長は一年前に店を辞めて独立したが、諸物価の高騰に加え、開店以来協力してくれていた従業員に店の金を持ち逃げされ、一気に資金難に陥った
• そんな折、川崎市で起きた同様の手口の事件をニュースで知り、自分も同じ方法で犯行を思いついた
• お店の個人情報に触れるためテレビ局による推測だが、奪われた金額は約80万円だった
• 奪った金は使えず、気の小ささからたった数日で自首した
という内容だった。
ご当地芸人のモコボンは、
「せっかく強盗したのに、気が小さくてそのお金を使えなかったなんて、本当にバカな男よねえ」
「でも川崎の700万円に比べたらショボイわよね? 名古屋って景気悪いのかしら?」
と、いつもの調子で茶化していた。
司会の小川アナが、
「北区の大型飲食店の一日の売り上げにしては少ない印象ですが、キャッシュレス化が進んでいるので、実際の売り上げはもっと多いと思われます」
と言うと、
モコボンは、
「そうよね、リスクを冒して奪ったカバンを開けてみたら、中のお金はこれぽっちだったなんて、犯人もがっかりよね〜」
と、また茶化した。
お母さんはそんな報道には興味がないようで、何を聞いても
「ふ〜ん、そうなの」
としか答えなかった。
クリスに聞いてみても、
「事件発生の夜以来、絵里とは会っていません」
とだけ言われた。
何が起きたのか、何が起きなかったのか――よくわからない。
でも、僕もそれ以上の詮索はしないことにした。
絵里だけは、心の奥で静かに自問し続けていた。
「川崎の事件がなかったら……岸田さんは、あんなことを考えたりしたのだろうか」
「そして、あの日の私は……正しかったのだろうか」
答えは出ない。
出たところで、もうどうにもならない。
執行猶予がついたとしても、店の立て直しは簡単ではないだろう。
それでも――岸田さんなら、きっと乗り越えられる。
そう思いたかった。
しばらくのあいだ、胸の奥に小さな棘のようなものが残っていた。
名古屋城の桜の開花がニュースになるころには、その事件は社会からとっくに忘れ去られ、みんな新しい季節の訪れに浮かれているようだった。
今日もいつものような、静かな朝が訪れていた。




