第二十話
物事を面倒くさいと捉えて逃避するのは簡単だ。
そんな事は誰にだってできるし、その道は確実に途中で途切れてしまうだろう。
そう、そんな考えと行動の先に大成はないのだ。
とまぁ、この世界でも元の世界同様大成する予定の俺は、こんな事程度で目を背けてはいけないと、マオ妹に向き直る。
「襲う覚悟が出来たんですか?」
すると、ひょこりと首を傾げてすぐさまとんでもない発言をしてくるマオ妹。
確かに俺は狐っ娘が大好きではあるが、襲って何かをしたいなどという変態さんな思想は持ちあわせて居ない。
「ガクガクブルブル」
なんだかすごいわざとくさい。
口で振るえている擬音を発しているし……だがここは、取りあえず自己紹介から入った方がいいだろう――ったく、マオもせめて自己紹介するまでは傍に居るなり、事前にこのマオ妹になんか伝えておけよな。
「別に襲う気はないし、その覚悟もする気はないよ。俺はお前のお姉さんから、お前の世話を頼まれたんだ」
「世話……狐っ娘を捕まえて、いきなりペットプレイ宣言とはお兄さん、中々に鬼畜ですね」
「そんな宣言しとらんわ!」
「!」
俺が大声を上げると、耳と尻尾をピンっと伸ばしてプルプル震えだすマオ妹。
まずい、つい大声を上げてしまった。
というか、こんな盛大にツッコミを入れたのは産まれて初めてかもしれない。
完全にこいつに飲まれている――こんな事ではダメだ、早急に自分のペースを取り戻さなければ話が進まない。
「よし、大声出して悪かった。まずは自己紹介からしよう、俺の名前は……」
「鬼畜お兄さんですよね、もう理解しました。もっとうは狐っ娘に罵声を吐きかけ、プルプルと震える姿に興奮する……自分はもう理解していますから、そういうのは大丈夫です」
「…………」
し、静まれ俺。
落ち着くんだ、冷静になるんだ。
こんなガキに本気で怒ったら、それこそ一生の恥だ。
「俺の名前は――」
「自分の名前はリンです、お兄さん」
と、俺が自己紹介をしようとしているのを散々潰してくれたあげく、最終的に自分だけ勝手に自己紹介をしてきたマオ妹――リンは続ける。
「マオ姉さんと違ってまだまだ至らないところばかりですが、よろしくお願いします」
「お、おう……よろしく」
なんだか急に丁寧になったな。
まさかさっきのとんでもない言動は、仕事初日である俺の緊張を紛らわせるためにわざとやっていてくれたのだろうか。
もしそうだとするならば、このリンというロリ狐はかなり性格が――
「ところでお兄さん」
「ん?」
「結局お兄さんは自分を襲う気ですか?」
ダメだこいつ。
人の話を聞いているのかいないのか、まるでわからない。おまけにこのままでは話がループしてしまう気がする。
そうなったらもう負の連鎖は止まらないだろう。
――よし。
俺は今日ここで、負の連鎖を断ち切る決意を固めたのだった。




