終章
「これでよし……!」
肩で息をしながらも、魂魄妖夢は二振りの刀を鞘にしまって力強く宣言した。
(お申し付けの件、見事に成し遂げてみせましたよ幽々子様)
妖夢は満足げに頷くと、自身の力作を悠々と見渡した。
「あらあら~、なかなかの出来じゃない妖夢」
と、万感の思いで作品を一望していた妖夢に、背後から声が掛った。
その間延びした声の主は、妖夢の知る限り一人しかいない。
「これは幽々子様! わざわざいらしてくださったのですか?」
妖夢が振り返ると案の定、そこには西行寺幽々子が朗らかな笑顔を浮かべて立っていた。
「ええ。そろそろ頃合いと思って様子を見に来たのよ」
妖夢はたちまち顔を綻ばせた。
「それはありがとうございます! どうぞご覧になって下さい!」
妖夢が促すと、幽々子はふらふらと庭先を移動しながらその景色を眺め始めた。
やがて、妖夢にとっては待ちに待っていた、感嘆の溜め息が彼女の口から漏れた。
「本当に、見事なまでに〝枯山水〟に仕上がって……」
次いで零れたのは忍び笑いだろうか?
しかし妖夢はそれには一切気に掛けずに、日頃よりも大いに饒舌になってこの作品の説明を始めた。
彼女が腕に縒りをかけて一晩で作り上げた、この『紅魔館』の広大な敷地を飾る大規模な『枯山水』の庭園についての説明を。
「最初に紫様からお話を聞いた時は、不可能かと思われましたが――」
話しながら、『紅魔館』の主も随分と思い切った決断をしたものだと妖夢は思った。
それまで見事に管理されていた西洋風の庭園を、その面影を全く残すことなく完全伐採。
そして更地となったところに、館の様式とは全くもって似合わない『枯山水』の庭を整備するなど、何やら余程の心境の変化があったと見える。
幽々子は妖夢の説明に一つ一つ耳を傾けながら、時折堪え切れなくなったように吹き出すような場面もあった。
「これは、紫に手伝ってもらった甲斐があったわぁ」
「はい。紫様が必要な分の砂利を届けてくださったお陰です。後日、何かお礼の品をお持ちすると致しましょう」
妖夢のその発言に、幽々子はより一層意味あり気な笑みを深くして、
「その必要はないわ妖夢。紫は善意で融資してくれたのよ? 彼女もこの庭を見れば、きっと満足してくれるはずだわ」
「左様ですか」
妖夢は幽々子のその言葉を、彼女がこの庭の出来栄えの素晴らしさを強調してくれているのだと受け止めて、身の引き締まる思いがした。
同時に自分も一人の庭師として、これほど嬉しいことは無いと、胸を熱くなった。
「それじゃあ妖夢、帰りましょうか。レミリアの話では、あなたが門番を請け負うのは一晩だけの予定だったのでしょう?」
「はい。確かにもう日も昇りましたし、仕事の方も完了していることですから、お暇させて頂くとしましょう」
妖夢が答えると、幽々子はひっそりとした声で言った。
「今回は私の一人勝ちね……」
「何か申されましたか幽々子様?」
「何でもないわ」
妖夢は首を傾げながらも、なにも追求することもあるまいと思ってそれ以上は何も訊かなかった。
その後、館に戻ってきた面々がどのような反応を示したかを、八雲紫がさも楽しげに幽々子に話している様子を妖夢が目撃したのは、それから僅か数時間後のことだった。
と言う訳で、『My Little Master』完結です。
楽しんで頂けたでしょうか?
もっとも、今回が初投稿ということもあり、今作はほとんど〝捻り〟の無い作品に仕上げております。
今作の第一から第四までの各章が、それぞれ『起承転結』の形式になぞらえて書かれていることからも、この作品が如何に基本に忠実な作品であるかを物語っていますね。
中には、オチはとっくに読めていたという方もいらっしゃるでしょう。
そんな方の為(?)に、次回作もまた近い内に投稿する予定です。
次はしっかりと〝捻った〟作品を提供させて頂こうと思いますので、どうぞご期待ください。
それでは、この拙作の為に貴重な時間を割いて頂き、どうもありがとうございました。
宜しければ、いづれまた。